2019.06.30

味わいつくそー、「鮎菓子たべよー博 2019」

 鮎菓子に対する思いを篤くしている人がこれほどまでにいるのか。会場前の行列を見て驚きました。既に開場から一時間以上が経過しています。入場規制の列です。これほどまでに鮎菓子に対しヒートアップしている人がいらっしゃるとは……、一か月前からうっすらと感じてはいました。このイベントの一企画のチケットが取れなかったからです。当該チケットは先着順という告知が為されていました。私はそれでも油断していました。
「500円で『鮎菓子食べ放題』のチケット、僕は魅力を感じるけれども、世間一般はさほどでもないだろう」
 と高を括っていたのです。結果、発売開始日の夕方にチケット販売サイトを見ると、購入手続きボタンがグレーになっており押すことができませんでした。全くの出遅れです。調べてみるとどうやら即完売だったようです。クロールで泳ぐ人々を相手に古式泳法横泳ぎで挑んだようなものです(毎週『いだてん』を観ています)。
 「鮎菓子たべよー博 2019」は岐阜商工会議所の実行委員会が主催で、県下の和菓子店が一堂に集い、鮎菓子に次ぐ鮎菓子、東西南北上下どこを向いても鮎菓子に彩られた年に一度の鮎菓子の祭典、博です。私はこの博を昨年の博の日に知りました。テレビニュースで流れたのを見て、「行こう」と思ったものの、すでに博は後半の時間。電車に飛び乗って博の会場に行っても鮎菓子は泳いでいった後、ということが明確に分かる出遅れでした。昨年のこの悔しさを繰り返すまいと、桜のつぼみが色付く頃から「鮎菓子たべよー博」の動向を注視していました。それなのに、再びの出遅れを喫し、チケットを取り損ねたのですから、うっかりにもほどがあります。
 うっかりでがっかりですが、「もう起き上がりたくない!」と枕を涙で濡らすほどではありませんでした。そりゃあ、ワンコイン500円で40分間鮎菓子を食べ放題できるチケットはうらやましいですよ。でも、私の主たる目的は、一堂に会して販売促進にいそしむ岐阜の銘和菓子店からちょっとずつ色んな鮎菓子を手に入れることでしたから、立ち直りは早かったです。気持ちの切り替えが早いのは心がすくすく成長している証しでしょう。
 話しを冒頭に戻します。即完売するほどの人気を有す食べ放題に行列ができるのはまだ分かります。それとは別のフロアに設けられた和菓子店の即売会場の入り口にまで入場規制が掛かっていたのが驚きでした。岐阜の人たちはこんなにも鮎菓子を心に留めていたのか。
 行列に並んでいる間に、「鮎菓子たべよー博 2019」を復習しておきましょう。今年で4回目のこのイベントは、岐阜商工会議所の「もっと鮎菓子のことを知ってもらおう。東濃にはくりきんとんがある。水都大垣には水まんじゅうがある。清流長良川の岐阜には鮎菓子がある!」という思いで運営されています(そう明言はされてません。なんとなくの雰囲気です)。岐阜県内の他の和菓子だけではなく、やや離れたところの、強力なライバルにも目が向けられています。京都です。鮎菓子もしくは別名の「若鮎」は京都の銘菓という一面も持っています。もしかしたら、全国的に見れば京都の方がメジャーな感じがあるかもしれません。それでも岐阜の鮎菓子販売に携わる方々は、「相手にとって不足はない。我々の鮎菓子もたいそう美味しいのである」という意気込みが、壁の向こうから待機行列の私のところまでひしと伝わってきました。この博は岐阜の気概なのです。

「買おー」の幕
 「買おー」(鮎菓子の販売)、「食べよー」(鮎菓子食べ放題)、「作ろー」(オリジナル鮎菓子作り)、「楽しもー」(工作教室など)、盛りだくさん。

 規制が解除され、岐阜商工会議所の大会議室にようやく立ち入りました、ここは普段は商工の方々が会議をなさっているのでしょうが、この日は至るところに鮎菓子。つぶらな瞳をした鮎菓子が、ケースに、棚に、テーブルに何匹も、何十匹も、何百匹も。

鮎菓子沢山直販会議室
 東西南北天地全体鮎菓子状態

 お店で鮎菓子を見るといつもほのかな戸惑いを覚えます。鮎菓子の助数詞は「個」なのか「匹」なのか。私はできるだけお店の表示に従うようにしているのですが、「個」のお店もあれば「匹」のお店もあります。鮎菓子と様態を近似せしめているお菓子に「鯛焼き」があります。これへの対処はさほど難しくはありません。お店の人に「こんにちは。鯛焼き黒あん二つください」でいいのです。「つ」です。でも、鮎菓子に「つ」は相応しくないような気がしてなりません。「個」あるいは「匹」の助数詞のどちらかに絞るべし、という魂魄が鮎菓子の灼けた身中から、求肥の粘りのようにじわりじわりと伝わってくるのです。鮎菓子の個性を尊重すべきか、鮎の見立てを重んじて匹と呼ぶべきか。難問を頭の中だけで回しても鮎菓子が手に入るわけではありません。中庸の立場を変えず、素直にお店の表示に従うことにしました。あるお店では「二匹ください」、またあるお店では「抹茶味を一個、プレーンを二個ください」というように、状況になびきました。今回の目的は色々なお店の鮎菓子を一ぺんに手に入れられる機会を楽しむことなのですから。助数詞についてはこの度は棚に上げて、今後、思いついたときに下ろして、生涯を通して考えていきたいと思います。

鮎菓子たべよー博の看板
 看板の周囲を彩っている鮎菓子は市内小学生の手によるものだそうです。

 メイン会場のフロアに展開している和菓子店の販売ブースでは、定番の鮎菓子だったり、限定の鮎菓子だったりを四分割したほどの大きさで試食ができるようになっていました。食べ放題は逃してしまいましたが、それぞれのお店で一切れずつ試食をいただいたら、結構な案配でお腹が満たされていきました。「なんだ、食べ放題無くてもいいじゃないですか」と瞬く間に上機嫌になっていきます。複数のお店で試食を勧められたのが「スイカ味の鮎菓子」でした。新鮮な鮎はスイカの香りがする、と言われています。それはあくまで「スイカっぽい香り」を言っているのでしょうが、和菓子屋さんは真剣にスイカと格闘なさったのです。その成果が「スイカ味の鮎菓子」なのです。すっきりとした甘みで美味しかったです。あと、「鮎ですから、スイカの味で作ったのですよ!」というお店の方のキラキラした笑顔が印象的でした。
 鮎菓子の販売会場には、鮎菓子の着ぐるみキャラクターや、テレビに出演なさっているハンサムもいらっしゃっていて、「鮎菓子が好き」の方々だけではなく、「鮎菓子も好き」という方々でも楽しめるように趣向が凝らされていて、老若男女、鮎菓子を好きになってほしいという主催者側の意気込みがこれまたひしひしと伝わってきます。

ひやゆ丸
  岐阜のPRキャラクター「ひあゆ丸」はお子たちにつつかれていました。大人気。

 試食を堪能し、目当ての鮎菓子を手に入れ、ゲストの方々も見て、満足満足。……となったところで、会場の端の方で「鮎菓子グッズ」が販売されているのを見つけました。よくできています。鮎菓子をモチーフにして、木製、革製の小物がありました。確かに木の色、皮革の色と鮎菓子の焼き色は似通っています。なるほど。よく考えたものです。これらが会場に入ってすぐに目に飛び込んでいたら手を出していたかもしれません。予算が足りなくなったときに気付いたのが極めて残念です。鮎菓子型のバターナイフ、良かったなあ……。
 メイン会場を後にすると、鮎菓子作りの実演コーナーがありました。これが実に良かったのです。職人さんが透明の仕切りで作られたブースの内で、黙々と鮎菓子を作っていきます。お子様は透明の仕切りに顔を近づけ、大人は透明の仕切りに顔を近づけたいのを我慢してお子様の頭の上を越して職人さんの手元に目を遣ります。
 鉄板に生地を流します。
 15枚の丸い生地を焼きます。
 しばらく待ちます。
 直方体の求肥を焼けつつある生地に乗せます。
 しばらく待ちます。
 おもむろに鉄板に手を伸ばし、求肥の乗った生地を取り上げ、くるりと巻いて、生地の片端だけをきゅっとつまみます。
 次々に、くるっ、きゅっ、として、出来上がり箱(正式名称が分からない箱。10cmくらいの高さで、体の幅の1.5倍くらいある箱。横にお店の名前が印刷されている箱)に乗せていきます。
 全ての鮎菓子の原型が出来上がり箱に乗ったことを確認します。
 火に掛けておいた焼き印を箱の中の鮎菓子原型にぽんぽんとはたくように押していきます。

鮎菓子実演1
 並べて焼いた生地に求肥を乗せて……

鮎菓子実演2
 手で丸めて……

鮎菓子実演3
 尻尾をつまんで、ケースに入れて……

鮎菓子実演4
 焼き印をぽんぽん押して出来上がり

 次々と現れる鮎菓子の完成品。ブースを取り巻いていた人たちからは嘆息がもれます。職人芸というものは、いつどのようなものであっても、なめらかに、余剰が無く、正確なのだと改めて思いました。こうして、ひとつひとつが速やかに作られるから、求肥と生地というシンプルな澄みやかさを持った味わいになるのかもしれません。
 会場にはこの他にも、工作教室や記念写真撮影スペースなどがありました。工作は開始時間が決められていておりそれに合わずに断念しましたが(予算の都合もありました)、記念写真スペースは無料で空いていたので、入ってみました。この記念写真は、
「鮎菓子になれる」
 ものです。鮎菓子を模した人体大のビニールシートがありまして、片面に鮎菓子の焼き印の絵がプリントされています。これにくるまって、寝転べば、鮎菓子になった(正確には鮎菓子の中からはみ出た求肥になって)写真が撮れるのです。私が見た中ではこの博一番の良企画だと思いました。鮎菓子を一通り食べて、見て回って、すっかり鮎菓子に心を寄せたところで、自らが鮎菓子になれるというのですから。鮎菓子シートは大人向け、子供向けそれぞれの大きさのものが用意されており、背景もきちんと鮎菓子が焼けている感じに作り込まれています。また、ご家族が一緒に撮れるように係りの方も常駐なさっており、撮影をお願いすることもできます。係りの方の雰囲気は明るく、被写体の鮎菓子人間の表情をほぐして下さり、見事な撮影技術を以ってベストのアングルで撮影してしてくださいました。

鮎菓子になれる図
 図解・鮎菓子になれるしくみ

 初めの入場規制の時間を除くと、1時間強。ここまで鮎菓子を楽しめるとは思いませんでした。食べ放題のチケットが無くても、足を運ぶ価値は十分にありました。でも、来年こそは食べ放題チケットを……、とは申しません。今、岐阜駅前・柳ケ瀬周辺はまた徐々に活気を取り戻しつつあるように見えました。鮎菓子食べ放題の分を、街歩きと、カフェや洋食店などでのランチに充てるのが好もしいような気がします。


 ◎リンク
 ・岐阜商工会議所 https://www.gcci.or.jp/
 ・鮎菓子たべよー博(Facebook) https://www.facebook.com/ayugashi.tabeyohaku/

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2019.02.11

琥珀の纏うショコラ(トロワフリュイ(オランジェット・シトロネット・パンプルムース):ドゥバイヨル)

 柑橘類の皮を食べることを忌んでいたのは何故か、きっかけは何だったか。遠い記憶なので掘り起こすことが難しいのですが、「みかんのたぐいの果物の皮は食べたくない」という気にさせた原因になるであろう出来事を二つ覚えています。
 順不同でそれらを挙げますと、まず一つは金柑。
「これは、実ではなく皮を食べるものだ。皮が美味しいものなのだ。だまされたと思って食べてみよ」
 と教えられ、その教えの通りに口に放り込んだら、
「うぐっ!」
 と、だまされました。
 もう一つはマーマレード。小学校入学から間もない頃、給食のパンに付属した状態で初対面しました。それまでジャムと言えばイチゴで赤くて甘いものでしたので、太陽色をしていてジャムとは呼ばれないジャムに興味と期待を抱きました。いただきますの号令の後、ビニールの小袋の端をちぎり、中のそれをずんぐりしたパンに擦りつけ、口にしました。
「うぐっ!」
 往々にして、子供は苦いものを嫌います。二つの出来事のどちらが先か、今となっては曖昧模糊としていますが、金柑もマーマレードもみかんの仲間で、甘さに紛らせ、その外皮を食べさせようとする一派がこの世の中には居るということが刷り込まれたのです。
 このような呪縛があり、長いこと柑橘類の皮を使った甘いものに積極的には手を出せずにいました。ところが数年前のチョコレート催事で大転換が起こったのです。「ご試食どうぞ」と出されたオレンジピールのチョコレート掛けを何の気なしに受け取り、口にしたところ、
「うわっ!」
 みかんの類の皮はこんなにも豊かな風味だったのか。苦味の向こうはうま味だったのか。美味しかったのか!
 長い間、遠ざけていたことが心底悔やまれました。

ドゥバイヨル・トロワフリュイ 2019年版ボックス
 毎年テーマに合わせて描かれています。

 ドゥバイヨルさんの「トロワフリュイ」は、オレンジピール、レモンピール、そしてグレープフルーツピールのチョコレート掛け3種が組み合わさったものです。オレンジピール、レモンピールまでならまだ分かりますが、グレープフルーツの皮にもチョコレートを掛けてしまうとは。グレープフルーツは包丁でもって胴体部分を横に断ち切り、露わになった房の内部を匙で奮闘して刳り抜き食すものではなかったのか。皮がもうちょっと物腰柔らかならば気楽に食べられるのにね、という感想を持たれる果実のはずです。それが「皮こそうま味」と為されるとは。

ドゥバイヨル・トロワフリュイ 2019年版ボックス・内部
 オランジェットとシトロネットは単体でも販売されています。

 まずは、比較的理解の得やすい「オランジェット」から味を見てみましょう。およそ半分の3.5cm部分をかじると、高さ1cmの移動の間に、覆いのチョコレートがパキッと割れ、その後ににっちりとした感触が伝わってきます。この中身がピール……、皮のはずなのですが、柑橘類のえぐみや引っ掛かりのようなものはまるでありません。オレンジ一玉全体を極限にまでぎゅっと押し詰めたかのようなつややかな味と香りが現れます。この柔らかなオレンジピールの味が徐々に大人しくなっていくと、ビターチョコレートの澄んだ苦みが働き始め、オレンジピールの味をまた引き戻します。ビターチョコレートが強めの苦味を担当することにより、対比される形でオレンジピールの「引っ掛かり」がほんのわずかに感じられるようになっています。この一連の流れで、甘くはあるが甘いだけではなく、苦味はあるが苦味ではない、というような幻惑がもたらされます。オレンジだから理解が得やすいだろうと取っ掛かりましたが、とんでもないことでした。

ドゥバイヨル・トロワフリュイ 並べて比べる
 一本ずつ形を楽しむこともできます。

 覚悟を持って「シトロネット」も味わってみます。オランジェットはオレンジピールでしたが、こちらはレモンピールです。教科書で育ってきた私たちはレモンと言われるとどうしても、絵具のチューブから出てくる冷たい紡錘形の爆弾が思い起こされましょう。その酸っぱさは口の中が破裂するかの如く。ことばだけで口中が湖沼と化します。その強い個性はシトロネットでどのようになっているか。
 おや、酸っぱくない。いや、酸っぱくはあるがさほど酸っぱくない。目を覚まさせるレモンの香りがぱっと放たれます。この広がりは爆弾というような強烈なものではなく、霧が吹かれた爽快さです。微睡みから瞬時にうつつへ引き戻してくれる酸味。目を覚めさせてくれた後、ほろとして苦さが出てきたかなと思うと同時にミルクチョコレートの甘みが交じり、なめらかにとろけていきます。レモンの皮もこんなに穏やかになれるなんて、と驚かされます。
 もう、柑橘類の皮だからと二の足を踏むことはありません。パンプルムースに手を伸ばします。素手では到底剥き得ないあの皮の強情さはありません。さらさらとした粉糖に出迎えられ、グレープフルーツの甘みが重く、優しく伝わります。ともすれば刺激とも言えるあの酸っぱさは影を潜め、深奥までしっかりと甘いグレープフルーツです。ミルクチョコレートの甘さとグレープフルーツの甘さが相互に働きかけ、長い間、甘さが留まり続けます。
 グレープフルーツ独特のくせがないわけではありません。むしろ「グレープフルーツの皮だな」という確かさがあり、3種類の中で「皮の味」の主張が一番強いのはこれのようにも思えます。ただ、チョコレート、ミルク、砂糖と手を組むことで、ここまで装いを変えられるのかという意外な思いも大きいのです。

ドゥバイヨル・オランジェット 断面
 琥珀のように輝くオレンジピール

 実のところ、この3種類のピールのチョコレート掛けを、ここ数年のこの季節、このように思いながら毎年食べていました。たいそう心惹かれたチョコレートについて、生半可な気持ちで書いてはならない、と腰引け逃げて、ひとりこっそりピールでたらふくになっていました。しかし、ようやく書き付けてみようという心持ちになりました。何故かは分かりません。太陽を包み込んだような3種類の果実の明るい力がようやく働き始めたのかもしれません。感じ取った明るさをそのまま書いてみればいい。己がくせをほんの少しだけ残しながら、と。
 そうそう、金柑はいまだに食べられません。


◎店舗・商品データ
・商品データ
 商品名:トロワ フリュイ(18個入)
 価格:2700円

・店舗データ
 購入店舗名:DEBAILLEUL(ドゥバイヨル)・松坂屋名古屋店催事「CHOCOLAT PROMENADE 2019」
 住所:愛知県名古屋市中区栄3-16-1 松坂屋名古屋店本館(2019年1月16日から2019年2月14日まで)(Googleマップ
 営業時間:松坂屋名古屋店に準じる
 定休日:松坂屋名古屋店に準じる
 公式サイト:https://www.kataoka.com/debailleul/
        https://www.facebook.com/debailleulproducts/(ブリュッセル本店公式facebookページ)
 アクセス:名古屋市営地下鉄・矢場町駅5番・6番出口直結

 2019年2月現在、日本国内では「丸の内オアゾ店」をはじめ4店舗が常設で営業しています。
 また名古屋地区は2019年2月14日まで、ジェイアール名古屋タカシマヤ「2019 Amour du Chocolat!」、三越名古屋栄店「SALON DU CHOCOLAT 2019」でも出店・販売される予定になっています。

 更新履歴
 2019/02/13
 店舗データにブリュッセル本店公式facebookページの情報を追加しました。
 日本国内の常設店舗の情報を追加しました。
 名古屋地区における催事情報を追加しました。

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2018.07.19

土用餅よ、はらわたのことは任せた(あんころ こしあん・つぶあん:仙太郎)

 私は夏に弱いです。一年がロールプレイングゲームだとしたら、栗きんとんが出回る時期がプレイ開始で、ゴールデンウイークが中ボスラッシュ、梅雨のジメジメがラスボスです。そして、梅雨明け、厳暑がエンドコンテンツの裏ラスボス。削りに削れ、わずかに残った体力、気力をこそぎ落とすのが、私にとっての夏です。勝てるわけがありません。
 各種の力がこそぎ落とされるのは、動かしがたい天の働きだけに依ってはいません。いや、私の行動にかなりの要因があります。少し暑さを感じると、アイスコーヒーをごくごくごくごく飲んだり、リットルアイス(スーパーマーケットの冷凍ケースの端っこで1リットル、2リットルの武骨な容器に入り鎮座している業務用みたいなアイスクリームを私はこう呼んでいます)をもりもり食べてしまうのです。結果は火を見るよりも明らか。お腹が弱ります。まともな食事ができなくなります。夏に負けます。
 ですが、今年の私は少し違います。ここ数年の行動を猛省し、白湯での水分の補給を徹底し、塩をなめ、リットルアイスを食べる時期をかなり遅らせました。今、私のお腹の働きはそこそこです。

リットルアイス
 リットルアイス

 さらには、日々、エメラルドのようなゴーヤーと、むちむちの豚肉を沖縄の叡智であるチャンプルーにしてたらふく食し、結構、元気さー。ただ、苦みにちょっと飽きたさー。脂にも飽きたさー。
 飽きたからと言って、シロップを入れてアイスコーヒーを湯水のごとく飲んだり、リットルアイスを数百ミリリットル食べてしまったら元も子もありません。そういうことを避けて、冷やかさと甘みを嗜まねばなりません。
 はてさてどうしたものやらと悩みつつ本を繰っておりますと、
「暑さに負けないよう、エネルギー源となる甘いものを摂取するという生活の知恵でもあろう」(『事典 和菓子の世界 増補改訂版』)
 という一文に出会いました。その頼もしいお菓子こそ「土用餅」。夏の土用の入りに食べることで夏をたくましく乗り越えられる餅。夏の餅。
 お餅はお正月だけではありません。お餅はいつでも私たちを見守ってくれているのです。その手があったかとはたと膝を打ち、土用餅探索に出かけました。
 土用餅に決まったスタイルはありません。一応、お餅を小豆あんで包む、というのがスタンダードのようですが、地方ごと、お店ごとに姿は変わるようです。短時間の探索でも、こしあん、つぶあん、お汁粉風、あんで包む、掛ける、といろいろありました。
 なんと楽しい悩ましさでしょうか。あんことお餅だけでもこれだけ選べるのです。選択の時点でエネルギーに満ちています。

あんころこと土用餅
 あんころこと土用餅

 数店舗巡った果てに選んだのは、仙太郎さんの「あんころ」です。あんころという商品名で売り出されていましたが、店頭の墨書には「土用ノ入 あんころ」とあり、ただのあんころではないことがうかがい知れました。あとは、私の
「土用餅ありますか?」
 という問いかけに、
「はいっ、こちらです! こしあん、つぶあんございますようっ!」
 と、お答えくださった店員さんの力強さ、頼もしさが決め手となりました。土用餅のエネルギーは声の張りにまで影響を与えるものなのかと嘆息しました。
 両方あるとどちらかを選びきれないのが私の良さであり、良くなさでもあります。

あんころ こしあん・つぶあん
 こしあんとつぶあんを共に

 食後まで軽く冷蔵庫で冷やしておいて、「こし」と「つぶ」を並べました。いずれも深い赤色をまとっているものの、しっとりなよよかなこしあんと、とっしりときらめくつぶあん。どちらを先に食べるのが正解か。それは解かれることの無い永遠の問い。気の向いた方から食べます。こしあんから行きましょう。
 直径約4.5cm、高さ約3cm。おはぎよりもやや小ぶりでしょうか。他のお店の土用餅も心なしか小ぶりなものが多かったように思います。それも特徴なのでしょう。小ぶりなものを複数個食べる。これまたエネルギーに繋がるような気がします。
 こしあんのさらりとした舌ざわりに、はっきりした甘み。近頃は控えめな甘さが好まれる向きもありますが、この土用餅は明確な甘みを持っています。夏の暑さに対するにはこれくらいの甘さがよいです。たっぷりとまとわれたこしあんを楽しむと、内から餅が強く弾みました。ここしばらく、あんこを食べたくなったらおはぎを選んでいたので、忘れかけていました。お餅はこの強さだったと。密なる口当たり。舌の上で舞う力強い甘さと弾みは一噛みごとに全身に染みていきます。小豆のあんともち米のシンプルな組み合わせなのに、これだけの高揚感が得られるなんて。
 じゃ、次はつぶあんね、と安易な気持ちで暑気を払おうとしたら、その安易さははね除けられます。こしあんに比べて甘さが抑えられているような気がしたのです。しっかりした甘さはあります。でも、口いっぱいに舞う感じではありません。小豆の皮がとんとんと跳ねているようで、その一足ごとに甘さの緩急が感じられます。同じお店の同じ小豆、同じあんころという名前でも振る舞いの違いを楽しめたのですから、どちらかを選びきれず、こしとつぶの両方引き受けた選択は、私の性格が良い方面に働いたと言えます。優柔不断でもいいのです。

あんころ つぶあん断面
 力が満ち満ちているお餅

 中のお餅は、みっしりとよく搗かれていることが分かります。お米の力がぎゅっと詰まっていて、大地が凝縮されたようなふくよかさです。あんとの組み合わせは素朴そのものではありますが、それゆえに存在の確かさが感じられます。
 二つのあんころを食べ終え、ぬるい緑茶を二口三口。一息つくと、体の最中から、じんわりと力が広がっていきます。土用餅の別名は「はらわたもち」。『広辞苑』によれば、「佐渡ではヨモギを入れて食べ、はらわたになるという」のだそうです。このお餅はお腹が元気になるように内臓に働きかけるのではなく、お餅がはらわたそのものになるのです。なんと力強い。
 赤色は邪気を払うと言われます。土用餅は、形で、口当たりで、甘みで内から力を与えてくれるとともに、色味によって外からやってくる困難を撥ね返してくれるのでしょう。土用の暑気対策にはいろいろありますが、気軽に手にでき、それでいて総身で助力をもらえるあんころのさらなる活躍を願わずにはいられません。
 今回の土用餅探索には、たまたま近くで用事があった友人が同行してくれました。その時、これから土用餅を見ていきたいと思うのだけれども、見て回って良いかな、美味しそうなのがあるらしいのだが、と尋ねたら、
「土用餅ってあれでしょ。要は赤福だよね」
 そうだけれども、違うのだ。


◎店舗・商品データ
・商品データ
 商品名:あんころ こしあん・つぶあん
 価格:各216円

・店舗データ
 店舗名:仙太郎 松坂屋名古屋店
 住所:愛知県名古屋市中区栄3-16-1 松坂屋名古屋店本館 地下1階(Googleマップ
 営業時間:松坂屋名古屋店に準じる
 定休日:松坂屋名古屋店に準じる
 公式サイト:https://www.sentaro.co.jp/
 アクセス:名古屋市営地下鉄・矢場町駅5番・6番出口直結

◎参考文献等
 『事典 和菓子の世界 増補改訂版』 中山圭子 著 岩波書店 2018年3月28日
 『和菓子歳時記』「土用ノ入あんころ」 直中護 著 株式会社仙太郎(配布用リーフレット) 1992年7月

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2013.02.14

イタリアの空の下で蕩かす(カライビケ:ヴェストリ)

 スパゲッティをたぐりながら思った。イタリアにバレンタインデーは無い。
 辞書を見ると、聖バレンタインは三世紀にローマで殉教したとあるので、どの国よりも、バレンタインデーと関係が深そうだ。けれども、チョコレートが似つかわしくない。地中海性気候にチョコレートが合わない。青く広がり、白を刷いた空気に、チョコレートが合わない。
 ブーツ型のイタリア国。足の入り口のところは似合いそうな地域と接しているので、似合うかもしれない。けれども、イタリアでひとくくりにすると、やっぱり似合わない。
 それに、2月14日にはにかむ、というのも似合わない。イタリアの人の愛情表現というと、真っ先にパンツェッタ・ジローラモ氏が思い浮かぶ。彼に年に一度のそわそわは似合わない。
「チャオー。チョッコラータ、デスネー。アモーレー」
 と、一年中受け入れ体勢も差し上げ体勢も整っていそうだ。バレンタインデーである意味が無い。
 最後の一本のスパゲッティを飲み込んで、思った。あえてそこで、チョコレートを出してみたらどうなるのだろうか。いっそのこと、パッケージは青にする。軽みのある青。

ヴェストリ・カライビケ外箱
 涼しげな箱と深紅のリボンの組み合わせ

 なかなか、好ましい。ジローラモ氏のように、素直にアモーレと言い出せる軽さだ。もちろん外の紙袋も青くしている。相手の腰に手を回しながら、もう片方の手でふたを開ける。イタリアっぽい良い感じになってきた。

ヴェストリ・カライビケ 4個入り
 「カライビケ」はカリブをイメージしたアソートです

 そして、耳元に吐息をかけながら、なにごとかささやいている。こちらには聞こえないが、甘美なことばを並べているのであろう。その連なる甘さは耳に心地よく、のどをくすぐり、頭をくらませている。奥底にほんの少しだけちくりと紅い刺激を持たせることも忘れていない。心をほぐすイチゴとミルクの甘さ。

ヴェストリ・カライビケ フラーゴラ&ココローコ
 イチゴミルクの「フラーゴラ」と、ココナツの「ココローコ」

 スパゲッティが盛られていたお皿をどかして、エスプレッソを一口飲む。
 そうして、油断させたところで、重い一撃を舌先に載せるのだろうな。ただ甘いだけじゃないところを見せるのだろう。柔らかくて浮き立つような甘さから、とっしりと押さえつけるような甘さへと引き込む。シャリシャリとしたココナツの引っかかりは、重みのある香りとしっかりと濃い空気と強い日差しを押し詰めた甘さを見せる。それは、さっきのイチゴミルクの甘さからはすぐに移らない。重く、詰まった甘さを、強めの苦みでくるんでいる。「あれ? 苦いのかな?」と思わせておいて、角度を変えた甘さを頭にしみこませていく。じんわりと、しびれるようにそれは進む。洋酒の力を借りながら。褐色の笑みを浮かべながらそれは進む。もう、逃げられない。

ヴェストリ・カライビケ フラーゴラ&ココローコ断面
 表情と内心です

 二杯目のエスプレッソ、最後の一口を飲み干す。苦い。しかし、また、彼は、甘い穏やかな攻めへと移る。
 ココナツの香りはする。けれども、瞬間前のような、苦みや刺激は無い。クリームのように絡みつく甘さは最初のひとことよりも強い。ココナツの重みのある香りにとろりと醸されたようなパイナップルの甘み。既に酔いは回っている。ここに一途な甘さを繰り出していく。勝負はもうついているのに、手を緩めない。
 いけない。それ以上、彼のペースに乗ってはいけない。それは分かっているが、手遅れなのは誰の目から見ても明らかだ。しかしながら、彼は、最後の仕上げに取りかかる。
 冷たい直角二等辺三角形のティラミス。これはたらふくでもするりと入る。九十度のところにフォークを立てながら、僕は続きを見届ける。
 ミルクチョコレートはするりと受け入れられ、抵抗感の無い苦みと、緩急はあったが、最初から途切れることなく続いた甘さを、体の深奥に流れ込ませていく。ココナツの段階でとっくに勝負は付いているのに。もう、止したまえ、と言おうとしたとこで、情熱的なひとことを口にした。
 きゅっ、と目をつむってしまうほどの、鮮やかで鋭いパッションフルーツ。この刺激で全てが終わった。

ヴェストリ・カライビケ フルット・デッラ・パッシオーネ
 フルット・デッラ・パッシオーネのインパクトは心地よく苦しい

 チョコレート、ミルク、ココナツ、太陽、海、柔らかく、優しく、少しだけ痛く。それらが、クリームの緩やかさで、のどと胸に押し寄せてくる。口当たりが良いから、つい受け入れてしまう。警戒感なんてとうの昔に無くなっている。南洋の夕暮れ。止められた時間の甘さが支配している。
 だから、バレンタインデーはイタリアには無い。常にこのようなテクニックを隠し持ち、すぐに取り出す用意はできている。爽やかな青さの中には、イタリアの情熱が足を組んで座っている。危ない甘さだ。
 空いたティラミスのお皿を見ながら、三杯目のエスプレッソを飲み終えた。さて、これくらいにして、そろそろ出るとしようか。
 そう、ここはサイゼリア。

 (本文中一部敬称を省略しました。ご了承下さい)


◎店舗・商品データ
・商品データ
 商品名:カライビケ(CARAIBICHE) フラーゴラ、ココローコ、ピニャコラーダ、フルット・デッラ・パッシオーネ
 価格:\1050

・店舗データ
 購入店
 店舗名:名古屋三越栄店催事「サロン・デュ・ショコラ」
 住所:名古屋市中区栄3-5-1 7階催事場
 営業時間:10:00-20:00
 定休日:催事期間中無休
 アクセス:名古屋市営地下鉄・栄駅からサカエチカ直結。16番出入口すぐ。
 公式サイト:http://nagoya.mitsukoshi.co.jp/
 ※サロン・デュ・ショコラは2013年2月5日まで。2013年2月6日から2013年2月14日まで「2013三越スウィーツマルシェ」開催。

・製造元
 会社名:VESTRI(ヴェストリ)
 公式サイト:http://www.vestri.jp/

 国内主要販売店
 店舗名:FIAT Caffe'
 住所:東京都港区北青山1-4-5
 営業時間:11:30-19:00
 アクセス:東京メトロ外苑前駅4番出入口から青山通りに沿って北東に約300mの左手。
 公式サイト:http://fiatcaffe.jp/

 更新履歴
 2018/05/19
 リンク切れを修正しました。

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2013.02.06

青く熟れた五番街の風(生チョコレート・メロン:フィフスアヴェニューチョコラティア)

 もともと、「菓子」はくだものを指していた、ということは良く知られています。それを承けて、「お菓子をあげるよ」と言われ、心弾ませ、手を差したところ、そこにザクロが一個載せられたらどうなるでしょう。ふんわり甘いスポンジと生クリームの組み合わせを思い浮かべていたら。あるいは、もちもちのお米にバーガンディの小豆の組み合わせを思い浮かべていたら。そこに、九割方が酸っぱさで構成されている、小さいつぶつぶがみっしりと内側に詰まっていて、それをぷちぷちと取りだして口に入れると、さらに小さいぷちぷちの種を避けるようにして、味わってください、と手に載せられるのです。
 わき起こるのは、落胆でしょうか。憤怒でしょうか。
 ザクロが悪いわけではありません。菓子とくだものという二つのことばの関係が問題をこじらせてしまったのです。そのような問題を発生させないために、くだものを「水菓子」と呼んだりします。一品ずつ順番にお料理が出てくる和食のお店では、お品書きの一番左端に「水菓子」が書かれています。
 生々流転。この水菓子のところに、シャーベットや、ゼリーや、ババロアなどが出張ってきていることもあります。彼らはまごう事なきお菓子です。しかし、水菓子ではありません。
 混乱の極みです。
 私は見たことがありませんが、もし、水菓子でさつまいものふかしたのが出てきたら、どうなるでしょうか。植物で、狭義の果実では無いけれども可食部で、甘い。しかし、水菓子として出てきたら、
「ここは、おぬしの出る幕ではない!」
 と、腕を胸元から外側に向けて振り払う力を以て、はね飛ばされるやもしれません(さつまいものふかしたのが悪いわけではありません)。
 様々なパターンを呈示しましたので、まとめてみましょう。
1.くだものっぽいくだもの。
2.くだものっぽくないくだもの。
3.くだものっぽいくだものじゃないもの。
4.くだものっぽくないくだものじゃないもの。
 の、四つのパターンがあると考えられます。1は、容易に思い浮かべることができます。桃とか、蜜柑とかです。「もぎる」果実はだいたい1に当てはまるでしょう。2は、果実だけれども、お菓子の雰囲気とはちょっと違うかも、と思うものたちです。栗(くりきんとんにはなります)がその代表的な存在です。3は、狭義では果物ではないけれども、広義にはくだものとして差し支えないものです。イチゴ、西瓜などは、果実では無いですが、果物と捉えられることが多く、水菓子の肩書きで出てきても、許されると思われます。4は、1から3以外のものです。鰹のたたきなどが当てはまります。まとめてみましょう、と書いてみましたが、ちっともまとまったように見えませんので、皆様各自でベン図を書いて、整理していただければと思います。
 注目したいのは3です。3が水菓子で出てくれば、八方円満におさまりそうです。
 メロンです。
 ウリ科の一年生果菜。木になる果実ではありません。蔓に生ります。狭義のくだものではありませんが、広義のくだものです。しかし、狭義のくだものの上に立つ程の威を持って、くだもの界に君臨しています。初セリがニュースになる数少ないくだものです。木の箱に入っている数少ないくだものです。
 お食事が終わって、最後の水菓子でメロンが出てきたら、「狭義のくだものではないけれども、れっきとした水菓子であると見なす。よって、いただきます」となるはずです。2ではありますが、くだものとも、菓子とも、水菓子とも名乗れる存在なのです。
 ここで、4の分野から、異論が出てきます。その声は、今や菓子と言えばお砂糖や小麦粉や玉子などで作ったものであり、私たちの中にいるそれらをないがしろにするのはいかがなものであろうか、ということのようです。その意見はもっともで、それならば「くだものっぽくないくだものじゃないもの」も、お菓子として迎え入れましょう、となります。連立です。そうすると、曖昧で、元の木阿弥のようですが、後につなげるために、そうします。

 2007年に5thアヴェニューさんの「シャンパン生チョコ」をご紹介しております。シャンパン生チョコは依然として高い人気を持っています。オリジナルの生チョコレートと、シャンパン味は、定番でこの毎年この季節に百貨店の催事に出場していますが、それ以外の味も、期間限定として出品されています。今年は、「生チョコレート・メロン」が登場です。
 5thアヴェニューさんのチョコレートの美味しさは、前に書いているし、改めて書くこともないでしょう、と思いつつ、微笑みを絶やさない店員さんに渡されたひとかけの試食を口にしたところ、涅槃に誘われているかのような多幸感に包まれました。催事会場の喧噪と熱気が一瞬にして消え去りました。無辺の草原に横たわり、冷たい光を総身に浴びているように感じた次の瞬間、片手に紫の紙袋を提げて、部屋に立っている自分がありました。下見のつもりだったのに。
 後悔は後にして、もう一度あの感覚を、とがさがさと包装紙を払うと、見覚えのあるあの木箱が出てきます。シャンパンの時には無かったシールが、この中身がメロン味であることを瞭然とさせています。

5th Avenue Chocolatiere 生チョコレート・メロン1
 5th Avenue Chocolatiereさんと言えば木箱、メロンと言えば木箱

 シールを切って、木箱のふたを開けると、雨上がりの朝のような潤いを持った香りが立ち上ります。すっ、と、さっ、と、数時間前の涅槃が甦ります。しゃらりとしたココアパウダーを指先に感じ、半分のところに歯を立てて、いや、それは性急すぎる、と、三分の一のところに立て直します。すると、かすかな抵抗のみで、するり、とチョコレートに沈んでいきます。
 その途端に、風格を見せるメロンの風味。さらに濃く香り、さらに潤う。摘んだばかりの玉をその場で半分に割ったのではないか、と思わせるほどの、密度の高さ。
 口中を転がる三分の一の欠片は、ころころと舞踏を始めます。柔らかいのに、どこかにしがみつくような感じはありません。全てが軽やかに、涼やかに進んでいくのです。しっとりとした甘味を振りまきながら、少しずつ欠片は小さくなっていきます。
 メロンの味わいが、やや薄れたか、と思わせた時に、チョコレートの芳ばしさと、かしりと堅い甘さが出てきます。これより早くとも遅くともいけない時に、チョコレートが来ます。

5th Avenue Chocolatiere 生チョコレート・メロン2
 見た目は、シャンパンと変わりはありません。

 メロンが舞い、踊った線を、静かに、それでいてしっかりとなぞっていきます。メロンで満たされていた感覚にチョコレートが追いついてきます。メロンがチョコレートにオーバーライトされるのではなく、メロンとチョコレートがマージされるのです。
 本来は、味のはっきりした両者です。混交すると、打ち消しあってしまうように思われますが、ここではそうはなりません。きちんとお互いを尊重し、引き立てあっています。なんというバランスの良さでしょう。
 溶けきってしまうと、まずは、チョコレートから退場します。甘さを落として、ほのかな渋みを残し、それも消し、あとはメロンに任せます。あとを託されたメロンは、青い甘さをとろりと出し、水気の多い果実が持つ、しゃくり、とした食感を思い出させる後味を残します。「青さ」と「熟れ」という、本来は相容れない味わいを、この一粒で感じることができるのです。さすがはあのシャンパン生チョコレートの香りを作った職人技、とうなることしきりです。
 残りの三分の二かけも溶かし終わり、さて、もう一個、となります。気分はそうなるのですが、指先が動きません。もう一個を取りあげることができません。一粒の生チョコレートを食べただけなのに、おなかは、ひとりでメロン一玉を平らげたような豪奢なたらふく感なのです。人差し指と親指の二本指を生チョコレートの上でかざしたまま、しばらくじっとしていると、体の中、どこからともなく、水源間もない清流のように、青い甘さと熟れた芳ばしさが通っていきます。まだ、一粒目が終わっていなかったのです。

5th Avenue Chocolatiere 生チョコレート・メロン3
 心なしか、エメラルド色に輝き始めているように見えます

 水菓子に、この生チョコレート・メロンが出てきたらどうなるでしょうか。目にした途端、怪訝な顔をするでしょう。しかし、のどを通ったとき、それは納得へと変わるでしょう。くだものっぽくないくだものじゃないものとくだものっぽいくだものよりもくだものっぽいくだもののようなくだものっぽいくだものじゃないものが、数センチ四辺に封じ込められているのです。さらに、「菓子」と「くだもの」という呼び名問題も解決させています。こういうことを、一挙両得、というのかもしれません。
 水菓子、すなわちデザートの役は、生チョコレート・メロンに担ってもらいましょう。では、その前のメインディッシュの役は……、言うまでもなく、シャンパン生チョコレートです。


◎店舗・商品データ
・商品データ
 商品名:生チョコレート・メロン(6個入り)
 価格:\1995

・店舗データ
 購入店
 店舗名:ジェイアール名古屋タカシマヤ催事「アムール・デュ・ショコラ」
 住所:名古屋市中村区名駅1-1-4 10階催事場
 営業時間:10:00-20:00
 定休日:催事期間中無休
 アクセス:JR名古屋駅直結
 公式サイト:http://www.jr-takashimaya.co.jp/
 ※アムール・デュ・ショコラは、2013年2月14日まで。最終日は19:00閉場

・製造元
 店舗名:5th Avenue Chocolatiere(フィフスアヴェニューチョコラティア)
 公式サイト:http://www.5thavenuechocolatiere.com/(米国公式サイト)
 ※2013年2月現在、日本には、直営店・常設店は無い模様です。
 以前は、松屋銀座さんに常設店がありましたが、昨年退店したようです。
 参考:松屋銀座ブログ「GINZAのおいしいスタッフ日記―バレンタイン2013 vol.3 "幸福のブタチョコレート"」(2013年1月25日付)
 http://www.matsuya.com/m_ginza/blog/food/2013/01/20130125_1501002013_vol3.html

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 2018/05/19
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2012.02.12

芯の強さが思い出させる(生チョコ:シェ・シバタ)

 心に残るもの、には、忘れられないものと、思い出すものがあるようです。
 相も変わらず、試食をして、美味しいな、と思って、小箱を一つ購入して、帰る途中で我慢できずに箱を開け、一つ口に入れ、美味しいな、と思って、二つめを口に入れ、を繰り返すと、小箱なので、あっという間に無くなりました。
「ああ、美味しかったなあ、たらふくたらふく」
 と思って、途中だった帰り道を継続させました。このあとはあれに寄らないと、明日はあれをしないと、この前のあれをするのを忘れていたな、冷蔵庫のあれはまだ大丈夫のはず、などの多種多様の雑多な日常のあれが頭に浮かんでは消えていきました。
 その継続中に、猛々しいまでに思い出されたのです。先ほど空けてしまったチョコレートの味。
「わあ、美味しかった! あれは、美味しかった! もう無い! 美味しかった。食べたい! どうしよう!」
 この思い出し力は、帰り道を行き道に変化させるほどの力を持っていました。あれに寄らないと、を放擲して、きびすを返しました。

シェ・シバタ 生チョコ 外箱
 ピンク+型押し+銀のリボン

 そして、二箱目のこれです。
 生チョコレートは、彼らの柔らかさそのもののように、最近は人々の中にとけ込んでいます。シェ・シバタさんのこれも生チョコです。商品名は「生チョコ」。なんと飾り気の無い、と思われるかもしれません。しかし、奇をてらわない真摯さ、と思うこともできるのではないでしょうか。
 真摯さは強いです。
 その強さは、ひとたびは心の片隅に退いて、姿をひそめていても、失せてしまうことはありません。
 3cm四方を取り上げると、生チョコです。くちびるに近づけます。その1cm手前。軽く開けた口から鼻へと、鼻からのどへと、香りが動きます。甘みと苦みがすっきりとしなやかに通っていきます。

シェ・シバタ 生チョコ 3個入
 ココアパウダーが柚子味で粉砂糖がアールグレイ味です

 歯触りは、ねっとりと絡みつくよう。先だっての香りにしては重い、と感じながら、もくもくと溶かしていると、絡んだ食感は潔くほどけます。
 歯から舌へ。ぽってりとした重さ。生クリームの重さ。重さは口から胸へと下りていきます。甘みもあります。しっかりしたカカオの香り。そこに柚子のわずかな酸味とクセが徐々に強まっていきます。
 甘み、苦み、酸味、柑橘のクセ。これらは芯の太い風味です。でも、次の一個へ移るまでの短い時間のうちに、快く去っていきます。
 アールグレイ味の方が、いくらか甘みが強く感じられました。同じく、歯にねっとりと絡みつき、舌に移り、とろける。その頃に来る味は、華やか、絢爛。瑞な風が口を満たします。
 甘さと茶葉の香りが渾然となります。ミルクティーに似ているようで、それには如かず。温和に、鮮やかに後から後からアールグレイが連なってきます。でも、それも、形が無くなり、少しの間までです。にこやかに涼やかに風合いは去っていきます。
 自らの重みをさしでがましくなく感じさせ、頃合いを逃さず、密度を一気に低くし消えていきます。

シェ・シバタ 生チョコ 柚子&アールグレイ
 自然な形の内にある強さと潔さ

 重くて、消える。これが、この生チョコの持ち味です。
 そして、しばらく、また、しばらくと、時間を置いたときに、彼の力が発揮されます。
 拡散した風味が一気に集まります。ぎゅっ、と密度が高くなり、そこにあるかのような重さがよみがえります。
 そうなると、居ても立ってもいられません。「思い出す」のです。一度、心に浮かび上がると、抑えられないほどの衝動の強さです。
 それで、もう一箱、となりました。今また、思い出しています。居ても立ってもいられない思いで、書いています。
 この生チョコに籠められたであろう念の強さと、味わいを思い返しますと、陶然となり、目が潤みそうです。
 これだけ「強い」チョコレートですが、季節のお品としてはお手頃な価格です。ぜひ多くの方々に味わっていただきたいと思うのですが、残念ながら、岐阜県・多治見市か、名古屋市の店舗、もしくは、名古屋の催事会場でしか、入手できないということでした。
 忘れられない味。頭の中で現せるのですから、素晴らしいです。
 思い出す味。すぐに手に入れ、味わうことができない場合は……、罪作りな味です。


 ◎店舗・商品データ
 ・商品データ
  商品名:生チョコ(3個入)
  価格:\580

 ・店舗データ
  購入店
  店舗名:ジェイアール名古屋タカシマヤ 催事「アムール・デュ・ショコラ」
  住所:名古屋市中村区名駅1-1-4 10階
  営業時間:10:00-20:00
  定休日:期間中無休
  アクセス:JR名古屋駅直結
  公式サイト:http://www.jr-takashimaya.co.jp/
  ※「アムール・デュ・ショコラ」は2012年2月14日まで。最終日は18:30閉場

  主要販売店
  店舗名:chez Shibata Nagoya(シェ・シバタ 名古屋)
  住所:名古屋市千種区山門町2-54
  営業時間:10:00-20:00
  定休日:火曜日
  アクセス:名古屋市営地下鉄・覚王山駅1番出入口から、栄方向(西方向)へ約40m、「覚王山」交差点を右折し、日泰寺参道に沿って約120mの右手。
  公式サイト:http://www.chez-shibata.com/

 更新履歴
 2018/05/19
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2012.02.10

航海の波に寄せらるる甘美(ラジョラス・ジントニック:カカオサンパカ)

 板チョコ、は、まず名前で損をしていると思うのです。
 歴史はあります。スーパーマーケットでおなじみの各社板チョコのページをご覧ください。「~年から変わらず」「~年以来」「~年に初めて」などのことばが躍っています。色々なチョコレート菓子がありますが、全ては板チョコから始まっているのです。
 始祖としての確固たる地位を築いている板チョコですが、その地位ゆえに容易に姿を変じることが叶いませんでした。初代校長の肖像のように、厳格さを保たねばなりませんでした。
 その間、初代のもとから様々な師弟が羽ばたきました。あるものは中に果実を抱き、玄き珠となりました。またあるものは大気をまとい、天弓を越えるほど軽くあろうとしました。そしてまたあるものは、その柔らかき資性をもって、姿態を変え、きのこやたけのこや船舶など、万物の形象を現そうとしています。
 その間、初代校長も装いを変えておりました。しかし、人々は、彼のものを見てことばを交わします。
「あれ、この板チョコ、外側のデザイン変わったよね?」
「そうかな? 前からこういうのじゃなかった? いつから変わったっけ?」
 あんまりです。でも、初代は度量が大きいので、気にしないふりをして、威厳を保ち続けます。
 板、というのも、あんまりです。師弟は「ボール」「バー」「フレーク」「チップ」「山」「里」など、その風体に合わせて、人々に親しんでもらえるようにと、二つ名をもらい受けています。
 板。
 抗いようが無い断定です。しかし、
「あなたは板ですか?」
「いかにも私は板であります」
 彼のものは、問われれば荘厳さをもってそう答えるはずです。その有り様を誇りとしているからです。
 登山者の背嚢の中には、今でも板チョコが入っているのでしょうか? 彼のものはただ実用的であろうとしました。
 手作りチョコレート。市井にカカオマスから作る方がどれほどいらっしゃるでしょうか。
「『贈られるならば? ガナッシュ、ジャンドゥーヤとか……、ボンボンも……、ジュレが入っているのも……。でも、板チョコが案外いいですね』というアンケート結果も!」
 もう、これ以上は止めておきます。これ以上、彼のものの威厳を傷つけるに及びません。

ラジョラス・ジントニック 外箱
 お洒落ですが、平たい

 これは、ラジョラス、です。長方形で平たいチョコレートです。
 カカオサンパカさんの、板チョコレートは、ラジョラス、という名前です。スペインでは、この称号を以て国王陛下に謁見しているのです。広き海洋を渡りし頃の威厳は、チョコレートに於いても健在です。

ラジョラス・ジントニック 外箱側面
 隠れたところに情熱的色味

 バルセロナの本店では、ラジョラスのホワイトチョコレート「ロサス・イ・フレサス」が一番人気とのこと。このシーズンの各地の催事でも、ロサス・イ・フレサスがやはり一番人気とお聞きしました。カカオサンパカさんは、出店されている催事会場ごとに品揃えを若干変えていても、ロサス・イ・フレサスは外すことなくお取り扱いされているようです。
 そのため、試食でロサス・イ・フレサスをいただけます。
 薄いピンクの中に、細かくローズピンクの粒子。桜絨毯の中に紅梅が散っているような趣き。地中海、バルセロナというよりも、春の和の雰囲気を湛えているように思われます。
 ひとかけら、手のひらで受け取り、味見をします。
 すると、和の雰囲気はどこへやら、一気に欧州の華やかな庭園へと誘われます。バラの花弁を口にしたらこのような味なのだろうな、という貴く聖らかな香りに充ちます。華華の女王と呼ぶに相応しい香り。気品と烈しさを併せ持ちながらも、押しつけられるような、圧迫感は覚えません。
 君臨するバラの香りから弾け出るイチゴのすっぱさは、爽やかに明るく。
 両者のきらびやかさを、ホワイトチョコレートが雄大に柔らかく甘く受け止めています。
 ほんのひとかけらでこれだけの印象を与えるのですから、一番人気もむべなるかな、です。
 今回の試食の前に、これは分かっていました。既に、試食したことがあったからです(今回、カカオサンパカさんは名古屋初出店です。以前は、別のところでいただきました)。試食ばかりなのを心より申し訳なく思っております。以前の試食で迷いました。迷った挙げ句に、購入を見送りました。後日、惜しいことをした、と思いました。今回、名古屋初出店の情報をかぎつけました。駆けつけました。試食しました。また、迷いました。
 他にも、魅力的なラジョラスが並んでいるのです。私が優柔かつ不断に迷っているのを見て取られた店員さんが、ご親切に試食分をお出ししてくださいました。本当に試食ばかりで申し訳なく思っております。

ラジョラス・ジントニック 内部包装
 航海の果てにカカオにたどり着いた先人に敬意を表している、のだと思います

 ラジョラスの「ジントニック」を選びました。
 こちらは、少々無骨な雰囲気です。海で灼けた人々が、陽気にお酒をあおっている姿が浮かびます。

ラジョラス・ジントニック 全体
 これ以上ないくらいの板っぷり

 ジントニックのベースはミルクチョコレートです。ただ、ビターチョコ、ダークチョコほどではないにしても、甘さはやや抑えめです。一片を口に放ると、最初に、仄かはありますが、きっ、とジンの熱い刺激が伝わります。最初に目が開かされるこの印象は、味は大きく違っていても、ロサス・イ・フレサスと通底するようです。
 ジンの熱気が収まってきて、やや角の取れた頃、奥歯でかみしめると、しゃりっ、という音とともに、またもや別の切れの良い刺激が現れます。レモンの酸味です。イチゴの明るさとは別の風合いを持った明るさ、やや羽目を外したような、痺れにも似た強い酸味です。思わずまぶたを閉じ、眉間を寄せてしまうすっぱさ。寸前の熱気を払い、ミルクチョコレートの甘さを高く飛び越えてきます。

ラジョラス・ジントニック カカオサンパカロゴ
 強い意志をうかがわせる刻印

 熱気、元気、これらが口中を圧倒するのも、つかの間。前の時を落ち着かせて、寡黙なミルクチョコレートがじっくりゆっくり甘みを広げて五臓六腑へと移っていきます。
 五臓六腑です。お酒をたしなんだときの定番の文言です。おなかの中で、再び、ジンとレモン、そして寡黙だったはずのミルクチョコレートまでが、「たらふくになるのはまだまだ早いよ」とばかりに、しばし騒ぎ出すのです。
 二度楽しめるとは、このこと。
「もう一杯」
 が、お酒の定番となっている方は、思わず、そして、すぐさま、ラジョラスをもう一片割ってしまうことでしょう。
 贈り物には……、ロサス・イ・フレサスを一枚、ジントニックをもう一枚。ジントニックが取り扱われていなければ、試食をされてお気に召したものを。

ラジョラス・ジントニック 細分化
 ぱきっ、と硬め

 はじめに、板チョコの威厳、などと書いてしまいましたが、板チョコは親しみやすさもずっと持ち続けてきました。憧れの存在から身近な存在へ。板、という形状により、どなたでも気軽に手に取ることができるようになっています。顔は厳しくても、穏やかで好好な心中が見て取れます。
 なので、カカオサンパカさんのラジョラスもお気軽に。……と申し上げることができれば良いのですが、スーパーマーケットの板チョコ諸氏とラジョラスとの間には、ややお値段に開きがあります。それゆえ、贈り物でラジョラスの「二枚渡し(複数枚渡し)」は、お味はもとより、形状の親しみやすさと意外性が加わり、喜んでいただけるような気がいたします。
 そのようにラジョラスにいっとき移り気しても、板チョコ諸氏の威厳は揺るぎはしません。歴史が物語っています。
 あと、私は、板チョコ諸氏もラジョラスも、ガナッシュも、ジャンドゥーヤも、ボンボンも、ジュレ入りも、その他も、好きです。


 ◎店舗・商品データ
 ・商品データ
  商品名:Rajoles Gin tonic(ラジョラス・ジントニック)
  価格:\1260

 ・店舗データ
  購入店
  店舗名:名鉄百貨店・本店 催事「サロン・デュ・ショコラ」
  住所:名古屋市中村区名駅1-2-1 7階
  営業時間:10:00-20:00
  定休日:無休
  アクセス:名古屋鉄道・名古屋本線名鉄名古屋駅直結
  公式サイト:http://www.e-meitetsu.com/mds/index.html
  ※サロン・デュ・ショコラは、2012年2月14日まで。最終日は18時閉場。

  国内主要販売店
  店舗名:CACAO SAMPAKA(カカオサンパカ・丸の内本店)
  住所:東京都千代田区丸の内2-6-1 丸の内ブリックスクエア 1階
  営業時間:11:00-21:00(月~土)、11:00-20:00(日祝)
  休業日:元日
  アクセス:東京駅丸の内中央口から、都道402号線を南へ約300mの右手。丸の内ブリックスクエア内。
  公式サイト:http://www.cacaosampaka.jp/

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 2018/05/19
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2012.02.08

いつまでも新しく在り続ける(ノボラスキュ:黒船)

 百貨店に入り、宝飾品売り場を通り抜け、化粧品売り場を通り抜け、下向きのエスカレーターに運ばれ、地下一階に着いたとき、はた、と気がつきます。
「洋菓子売り場に行けばいいのか、和菓子売り場に行けばいいのか……?」
 目的のお菓子について思います。あれは日本語では無い、はず。いや、売っているお店は漢字だった、はず。はて? To 和菓子売り場, or To 洋菓子売り場, That is the question.
 カステラが欲しいのです。
 「カステラ」と聞くと、長崎。長崎というと、西洋異国情緒。よって、カステラは西洋異国菓子。……とはなりません。カステラは和菓子らしいのです。カステラが主力となっているお店の名前をいくつか思い浮かべてみてください。漢字ばかりのはずです。
 実際、和菓子屋さんには、「かすていら」という墨書が張り出されています。カステラは和菓子です。
 「ラ」です。「ラ」が問題の元なのです。ひらがなの「ら」でも同じです。「la」もしくは「ra」の響きは、和菓子向きではありません。本来、日本語(和語)の語頭にはラ行音は存在しません。カステラの「ラ」は語頭ではない。はい、仰るとおり語尾です。でも、「ラ」が付いていると、「洋」っぽくありませんか? 「かすて」と「かすてら」を声に出して比べてみてください。後者の「洋」っぽさを実感いただけると思います。
 和菓子屋さんで売られているけれども、洋風で、けれどもやっぱり和菓子。
 和菓子の一つとして定着していますが、いつまでも最初期の若やぎを持ち続けています。ハイカラ、ということばが、よく似合うお菓子です。ずっと「新しさ」を自然にまとっています。
 その、新しくハイカラなカステラが、さらに新しくなったらどのような姿になると思われますか。

ノボラスキュ・外箱
 白と黒の円筒の中がラスクとは思い難いです

 ラスクになります。
 黒船さんの「ノボラスキュ」のつづりは「NOVO RASQ」。「NOVO」はポルトガル語で「新しい」の意味とのことです。英語の「NEW」、フランス語の「NOUVEAU」、イタリア語の「NUOVO」と形が似ているので、元が同じなのだろうな、と想像します。おそらく、ラテン語からなのでしょう。経験上、このような場合、ラテン語、と言っておけば、60%くらいの確率で正解となるようです。60点は、優良可の可なので良しとします。
 パンをスライスして、かりっかりにオーブンで焼かれたラスクの食感は、人々を引きつけて已みません。たとえ食後に、テーブル、膝の上、衣服に、乾いたパン粉が散らばるという事態が待ち受けようとも、それはラスクへの手を引き留めるにはあまりに弱すぎる力です。
 ノボラスキュは、カステラをラスクにしてしまいました。さらには、ミルクチョコレートまで染みこませています。
 普通のラスク、フランスパンをオーブンカリカリ焼成後はその形と食感がおおよそ分かります。
 カステラをラスク? あのふわふわしっとりをカリカリ焼成? いいのですか、そのようなことをして。
 危惧しました。
 円筒形の箱のふたを、卒業証書入れと同じ要領で開けます。あの春の日、教室に響いたのと同じ音がします。
 がさがさと円筒をを振ると、Qの字が目立つシックなデザインのスティックが数本出てきました。

ノボラスキュ・個包装
 ラスクでした

 一本を取り出し、針金入りの封をくるくると解くと、甘さたっぷりのチョコレートの香りが、ふう、と鼻先をかすめます。
 長さ9cm、幅2cm、厚さ1.3cm。ごつごつだけど、きっちりと面を保っています。一般的なラスクは厚さ1cmほどの楕円形ですが、ノボラスキュはカステラ形状の縮小化という手段により、由来を保持しています。
 指にはチョコレートの重さが伝わります。しかし、全体は、その触感に相応しない軽さです。親指と人差し指ではさんだダークブラウンの一本は、円筒の箱や、個包装、本体のたたずまいに反して、親しみやすさを覚えます。ついつい、ふるふる、と振ってしまいます。チョコレートの粉が少し散りました。

ノボラスキュ・本体
 満遍なくしっかりチョコレートでコーティングされています。

 もてあそぶのはほどほどにして、がじっ、と。すると、こくっ、と折れます。
 途端、ミルクチョコレートのなめらかさと香ばしい風合いが伝わります。開封時と同じ、しっかりとした甘さが印象的です。
 こくっ、と折れた一片を、奥歯で、ごつり、と砕き、「なるほど、これがノボラスキュの歯ごたえなのか」と頷き、思い切りがりがりごつごつを楽しもう、と思った矢先に、さくさく、ほろほろと崩れていきました。最後にわずかな、とろり、と、しっとり。
 あまりの、展開の早さに呆然とします。今度はしっかりと展開を確かめようと心を強くしっかりと立て直し、残った一片を、ごつり、とかみ砕きます。
 表面は、カステラ生地がミルクチョコレートを吸って固まり、ごつり寄りのかりかり食感です。この抵抗感がある間に、まろやかに甘く、ちょっと苦く。それらが強く広がります。この後です。チョコレートの表面は、ころころと崩れゆき、中のカステラが姿を見せます。

ノボラスキュ・断面
 中は、細かい空気を含み、優しい色合い

 実に当たり前の、パンのラスクとカステラのラスクは、口当たりが大きく違うなあ、という嘆息。
 カステラのしっとりがさらに焼成されると、きめの細かいあの生地そのままが、さらさら、ほろほろ、となります。そのほどけ具合に、玉子とお砂糖のあのまろやかさ、甘さが加わっていて、懐かしくて嬉しくて。
 チョコレートと、ほろほろのカステラが、混じり、それぞれが丸みのある香りと甘みを残しつつ、ゆらゆらとたゆたい、とろけてゆきます。
 ラスクの姿を取りながら、「ラスキュ」として生まれたカステラは、まさに「NOVO」を伝える黒船そのものです。ラスクの軽やかさを持ってはいますが、玉子やお砂糖、カカオがふんだんに使われているようで、しっかりどっしりと一本でたらふくに近くなります。だけど、後を引き、あともう一つ、と取り出して、がりがりとしてしまうのは、やっぱりラスクです。
 円筒箱を小脇に抱えて、一人、もくもくといただく、のはやはり寂しいので(でも、この円筒箱はついつい小脇に抱えたくなる大きさです)、仲間内で一本ずつ配って、「美味しいね」と談笑とお茶をお供にどうぞ。


 ◎店舗・商品データ
 ・商品データ
  商品名:NOVO RASQ(ノボラスキュ)7本入
  価格:\1365

 ・店舗データ
  購入店
  店舗名:名古屋三越栄店 催事「スイーツコレクション2012」
  住所:名古屋市中区栄3-5-1 7階
  営業時間:10:00-20:00
  定休日:期間中無休
  アクセス:名古屋市営地下鉄・栄駅からサカエチカ直結。16番出入口すぐ。
  公式サイト:http://nagoya.mitsukoshi.co.jp/
  ※「スイーツコレクション2012」は、2012年2月14日まで。最終日は18時閉場。

  製造・販売元
  店舗名:黒船 自由が丘本店
  住所:東京都目黒区自由が丘1-24-11
  営業時間:10:00-19:00
  定休日:月曜日(祝日の場合は翌日)
  アクセス:東京急行電鉄・自由が丘駅・正面口から東急東横線に沿って北へ約250m。自由通りとの交差点を左折(西へ)して約30mの右手(北側)。
  公式サイト:http://www.quolofune.com/

 更新履歴
 2018/05/19
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2012.02.07

幻の雪降る石畳(パヴェ・ド・ジュネーブ:ステットラー)

 九州で生まれ育った、と言うと、
「それなら、冬も暖かいんでしょ。いいなあ」
 とお答えをいただくことがあります。しかし、日本各地の例に漏れず、夏は暑く、冬は寒く設定されており、四季を堪能できるようになっております。
 でも、雪が何十センチメートルも積もることはありません。まして、家屋の一階が埋まるほどの積雪も、一寸先は真っ白というほどの吹雪にも見舞われることはありません。ただ、「寒いなあ、寒いなあ。灯油はまだ残ってる?」と背を丸め、コタツに両手を潜らせながら、今晩は水炊きでたらふくになりたいなあ、などと、のんびりぼんやり頭を働かせる程度の寒さです。
 そんな、位の低い寒さを甘受している人々の上に、雪を降らせたらどうなるでしょう。それはそれは大騒ぎ。粉雪にもなれないほどの、微塵の雪しか降ってきませんので、交通機関の乱れ、休校などとは縁の遠い、雪とのじゃれ合いです。
 窓外に白い舞いが見えると、狂喜乱舞、欣喜雀躍、コタツの上に乗っかったリモコンを取るのもおっくうだったのに、電熱器であぶっていたその手を素早く抜きだし、窓を開け、飛び出し、手のひらを天に向けます。雪の粒は、右に左に逸れて、なかなか手の上に落ちてくれません。それで、手を動かして、右に左に雪の粒を捕らえようとしますが、軽いそれらは、右に左にくるくるとすり抜け、やはり手の上には来てくれません。もどかしく思いながら、手のひらをひらひらとさせていると、ぽつり、と雨とは違う水気を感じます。慌ててその一点を見ると、白みの強い半透明の粒が、わずかな冷たさと、小さな痛みを与えます。
「あ、雪だ」
 と、頭が判別する頃には、それは水の半球に変わっています。最初に覚えた冷たさと痛みが弱く残り、それが小さな水の球の前世が雪であったことの物語です。
 緩やかな寒さの冬を過ごす人にとっては、雪はこのような有りや無しや、目には見えても触れることの適わない朧気な存在です。
 スイスという国名を耳にすると、一万尺のアルプスと清澄な雪原が思い浮かびます。しかし、スイスの方々からしたらこのように声をかけられるのと同じことでしょう。
「スイス? あっ、それなら夏は涼しいんでしょ。いいなあ」
 スイスの気候情報を見ると、山間部は雪がしっかり積もるくらいの平均気温で、地中海側の平地はしっかり汗っかきになるくらいの平均気温のようです。
 それが分かっても、スイスと雪のイメージを離すことは難しいです。しんしんと降る雪が街を覆っていく、ような気がします。その雪は、核に塵は無く、純水のみで構成されている、ような気がします。

パヴェ・ド・ジュネーブ 外箱
 小ぶりで大人しい雰囲気

 ステットラー社は、スイス・ジュネーブのチョコレート店です。ジュネーブはスイス南部の標高の低い都市らしいので、夏はそれなりに暑く、冬は冬だと分かるくらいに寒い、のだと思います。雪は降る、はずです。以降、降る、を前提として書いていきます。
 このパヴェ・ド・ジュネーブは、日本語訳すれば「ジュネーブの石畳」、もっと日本語訳すれば「寿府の石畳」です。その名の通り、きっちり四角に切り取られています。一辺20mmの立方体。親指と人差し指で20mmの幅を作ってみてください。大きさの確認はよろしいでしょうか。
 箱に行儀良く並んだパヴェの一つを取り上げます。指に、静かな冷たさと堅牢さが伝わります。

パヴェ・ド・ジュネーブ 6個入
 手作りらしいシンプルさ

 20mmは、判断に迷う大きさです。半分だけかじるのが良いのか、まるまる口に放り込むのが良いのか。一旦、上下の前歯で、かしり、と挟みます。くっ、と力を入れて噛もう、としましたが、それをするには、やや小さく思われ、歯の力を緩め、ふっ、と息を吸うように、一個、まるごとを口に入れます。
 舌の上に座るパヴェ。取り上げたときと変わらず、冷たさと堅さが続いています。少し変だな、と思いました。普通だったら、熱でとろけていきそうなものなのに、それがありません。少し経っても、やや熱を含むものの、元からの堅さを保ち続けています。とろけないので、チョコレートの香りも甘さもそれほど感じられません。
 おかしいな、このままでは埒があかないな、と思われ、再び前歯の方へと転がしました。かしっ、と挟んで、くっ、と力を入れます。すると、
「ぽくっ」
 と口に響きました。煉瓦が割れるように、パヴェが割れます。
 すると、甘みが来ます。チョコレートの香りが立ちます。ああ、やっぱり、チョコレートだったんだ、とここでようやく確信が持てます。
 その確信が頭に浮かんだ瞬息、溶けていきました。いや、溶ける、ということばが合っているようにも思えません。消える、とも違います。あえて言うならば、清流のように、流れ去っていきました。チョコレートそのものは、春の雪解け水のように、離れていきます。後に残るのは、堅い中に在った香りと甘み。割れたときの残響が香りとなって、口の中でいつまでも廻ります。これほどまでに印象深く残るのに、一切の重量がありません。最初の石畳の堅牢さが嘘のようです。

パヴェ・ド・ジュネーブ アップ
 生クリームが入っていません。それゆえの軽さ

 甘いことが分かります。カカオの香ばしさと微々たる苦みが分かります。それがしばらく続きます。在ったことが分かります。けれども、その味と香りを追うことが難しいのです。手を伸ばせば届きそうなのですが、あと少しのところで、捉えきれない、たどり着けないもどかしさです。
 もどかしさ、は、悪い意味に思われるかもしれません。それでもそう言いたくなります。つい今し方の風味が分かるのに、それはほんの一瞬の事で、味わう、という間もなく、さらり、と流れていき、それでも幻になりきれず、ここにある、という、不思議な感覚です。
 最小限に、残すべきものが残るように作られています。
 流れゆく水、でも、吹き去る風、でも、どちらでも構いません。そのようなことがあった、という静かで冷たい熱さを覚えるチョコレートです。
 パヴェ・ド・ジュネーブは、厳しくない冬を迎える地で、たまに降る小さな雪が、手のひらに微細な痛みを残して消えるように振る舞います。雪から変わる水滴のように、小さな立方体には、甘い影をいつまでも残してくれるような強さが封じ込められています。

ステットラー カード
 「チョコレートの情熱」ということばが具現化されています


 ◎店舗・商品データ
 ・商品データ
  商品名:Pavés de Genève(パヴェ・ド・ジュネーブ)6個入
  価格:\1785

 ・店舗データ
  購入店
  店舗名:名鉄百貨店・本店催事「サロン・デュ・ショコラ」
  住所:名古屋市中村区名駅1-2-1 7階
  営業時間:10:00-20:00
  定休日:期間中無休
  アクセス:名古屋鉄道・名古屋本線名鉄名古屋駅直結
  公式サイト:http://www.e-meitetsu.com/mds/index.html
  ※サロン・デュ・ショコラは、2012年2月14日まで。最終日は18時閉場。

  製造・販売元
  店舗名:Stettler(ステットラー)
  公式サイト:http://www.chocolaterie-stettler.ch/index.htm
  ※2012年2月現在、日本には、直営店・常設店はありません。

 更新履歴
 2018/05/19
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2012.01.31

ほろ苦い、または、苦い思いをするためのチョコレート(ソイラテのコーヒー豆チョコ:無印良品、コロンボス・コーヒービーンズチョコ:スリーハッツ)

 苦々しい体験は苦い記憶になりほろ苦い思い出へと緩和されるようです。ですが、甘い体験は甘い記憶として残り甘い思い出、もしくは甘い現状へと流れゆく場合も多々あるらしいので、できれば苦いのは避けたいです。
 しかし、苦い体験は外的要因から発生します。何も好きこのんで苦い思いは誰しもしたくはないはずです。
 甘い思いをしたい。
 それが、素直な願望だと思います。
 甘さを期待しつつ、苦さを迎え撃つ準備を整えるべし。そのためには、あらかじめ苦さに慣れておくべきだと判断しました。
 ただ、
「私は甘いものが苦手でして……」
 と、伏線を敷いておくのは、あまり気が利いているような感じがしません。どうせなら、
「甘いもの、そりゃ、食べたいさ。でも、これもいいのさっ」
 と振る舞うと、思い切りの良い雰囲気が醸し出され、結果的に、甘い思いができる予感がします。
 そこで、苦みを利かせつつ、甘いもの好きもアピールできるものを用意いたしました。

無印良品・ソイラテのコーヒー豆チョコ
 左上の印からも限定商品だと分かります

 無印良品さんの期間限定商品「ソイラテのコーヒー豆チョコ」は、コーヒー風味のチョコレート、という遠回りなお品ではなく、豆、そのものが封じ込められています。
 コーヒー豆まるごと一粒ずつに、ホワイトチョコレートがコーティングされています。

無印良品・ソイラテのコーヒー豆チョコ・中身
 コーヒー風味のホワイトチョコっぽいですが…

 一粒取って、口に入れると、ミルク味チョコレートにほのかなコーヒーの風味が、ほわりとただよいます。ころり、廻して、奥歯の位置に置き、がっ、と噛みしめると、パリパリと乾いた音が顎関節に響き、その揺れと共にコーヒーの味が飛び出します。
 当たり前ながら、コーヒー豆そのものなので、コーヒー味そのものです。抽出など遠回りせず、コーヒー、です。パリパリと豆を割っていくと、破砕された粒ひとかけらずつから、コーヒーが出てきます。にじみ出す、というようなものではありません。直コーヒーです。
 コーヒー、コーヒー、と書きましたが、その間にも、コーティングのホワイトチョコレートがしっとりととろけていきますので、苦いばかりではありません。名前の通り、カフェラテ、ミルクとお砂糖が出過ぎない、けれども、甘いまろやかなコーヒー味です。
 しばらくかみ続けると、少しの甘みを残しながら、ホワイトチョコレートが流れていき、煎られた豆の香りと苦みが、すっきりと消えていきます。

ソイラテのコーヒー豆チョコ・断面
 中は豆そのもの

 渋みや、クセの強さは感じられません。思わず、もう一粒と手が伸びてしまいます。苦みが恋しくなってきます。アーモンドのような湿度のある「カリッ」とした食感ではなく、もっとパリパリとしていて、この軽やかな歯触りも、もう一粒、の動機になります。
 ですが、もう一粒、もう一粒、と、一気にいくつも食べることは難しいでしょう。数えてみると、一袋に52粒入っていました。コーティングしている状態で1cm大、そのコーティングもコーヒー豆を最低限覆う程度なので、それなりに大きなコーヒー豆です。その大きさのコーヒー豆をパリパリと52粒、食べきるのは、困難を極めます。5粒ほど食べると、
「もう、これくらいにしておいた方がいいかな」
 という気になります。
 それでは、また今度、と封をしたいのですが、この袋は一過性開封型です。ハサミなどで口を開けた場合、残りが入った袋は輪ゴムなどで留めておかないといけません。来年の販売もあるのならば、ジップタイプの袋にしていただければ、と思います。
 パリパリと苦みと甘みを楽しんでおりますと、「コーヒー豆チョコレート」というのは、結構、種類があることが分かりました。その中でも、目を引いたのが、スリーハッツさんのコーヒー豆チョコレート2種類です。

コロンボス・コーヒーショッツ2種
 箱入りです。25粒入っていました

 こちらは、「ラテ」と「エスプレッソ」の二つの味があります。見た目では判別は難しいです。箱を開けると、ラテの方はわずかな甘みが感じられます。一方、エスプレッソは微動だにしないような、そら恐ろしい静けさがあります。

コロンボス・コーヒーショッツ・アップ
 エスプレッソの威圧感

 そこで、エスプレッソは手強いと判断し、ラテからいただいてみました。無印良品さんのコーヒー豆チョコよりも一回り大きく1.5cm弱で、丸みがはっきりとしています。
 今度も、ぽい、と口に放り込み、奥歯で、がしり、と噛み割ります。
 甘い。
 コーヒー豆の苦みを覚悟していたので、やや拍子抜けです。チョコレートが甘いのです。決してどしりと重い甘みではありません。ですが、甘みははっきり分かります。直球で、切れ味の良い甘さ。シンプルな甘さです。
 そこに、コーヒー豆の苦みが加わります。こちらのコーヒー豆は、やや小さめです。チョコレートの分量の方が多いです。コーヒー豆もチョコレートと同じく切れの良い苦み。豆の食感はやや弱いですが、苦みはしっかり分かります。
 チョコレートのシンプルな甘みと、コーヒー豆のシンプルな苦み。お互いが本来の持ち味を引き立て合っていて、チョコレートの味はそれとして、コーヒー豆の味もそれとして、明々白々たる「コーヒー豆チョコレート」となっていました。
 では、後回しだった「エスプレッソ」に取り掛かります。

コロンボス・コーヒーショッツ・アップ
 苦そう

 箱の蓋からこぼれ落ちる1.5cmの玉は「弾」のようにも見えます。迫力があります。
 一粒つまみ上げ、口に撃ち込みます。噛みます。
 苦い。……けど、そうでもない。
 意外や意外。苦いのですが、さくさく食べられます。無心に二つめ、三つめと食べてしまいます。ラテと同じくチョコレートの割合が多いですが、甘みはごくわずかなので、さらりとした舌触りです。小粒のコーヒー豆が、ぱしっ、と割れると、目が覚めるような眩しい苦みが弾け散ります。
 チョコレートとコーヒー豆、どちらも苦く、これはチョコレートの苦みなのか、コーヒー豆の苦みなのか、判然とし難く、苦みと苦みが苦みの嫌な部分を打ち消し合って苦みの良い部分だけが現前します。
 どちらかというと、ラテの方が「これはコーヒー豆の苦み」と分かりました。その分甘みがありますので、二粒三粒食べて、もうこれで小腹は満たされた、これ以上食べるとたらふくになって夕ごはんが食べられなくなる、とストップできます。しかし、エスプレッソは、そのストッパーが効きにくいです。頭とおなかが真空になったのではなかろうか、と思うくらいに、無心に食べてしまう畏れがあります。

コロンボス・コーヒーショッツ・断面
 チョコレートの方が多いです

 苦い思いをしても苦いと思わないように苦い(けれども甘い)ものを食べてみましたが、結局、苦くてもいいや、という気分で終わりました。
 苦いは苦いでも、「苦み走った」は良い意味です。辞書を見ると、いにしえより、それはモテモテ要素らしいです。コーヒー豆チョコレートをバッグに忍ばせて、いつでも苦み走ることができるように準備しておきます。


 ◎店舗・商品データ
 ・商品データ
  商品名:ソイラテのコーヒー豆チョコ
  価格:¥210

 ・店舗データ
  店舗名:無印良品・名古屋パルコ店
  住所:名古屋市中区栄3-29-1 名古屋パルコ西館地下1階
  営業時間:10:00-21:00
  定休日:名古屋パルコに準じる
  アクセス:名古屋市営地下鉄「矢場町駅」直結
  公式サイト:http://www.muji.net/


 ・商品データ
  商品名:threehats Columbo's CoffeeShots(スリーハッツ・コロンボス・コーヒーショッツ) espresso beans,latté beans
   ※箱裏面の日本語説明の商品名は「アシュモアーズ コロンボス コーヒービーンズチョコ エスプレッソ(ラテ)」となっています。
  価格:各¥210

 ・店舗データ
  店舗名:KITANO ACE・ラシック
  住所:名古屋市中区栄3-6-1 ラシック地下1階
  営業時間:11:00-21:00
  定休日:ラシックに準じる
  アクセス:名古屋市営地下鉄「栄駅」からサカエチカへ。16番出入口から南へ約100m。
  公式サイト(製造元):http://www.3hats.com.au/
  公式サイト(購入店):http://www.ace-group.co.jp/index.html
  ※輸入菓子を取り扱っているお店に置かれていることが多いようです。

 更新履歴
 2018/05/19
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