2013.02.14

イタリアの空の下で蕩かす(カライビケ:ヴェストリ)

 スパゲッティをたぐりながら思った。イタリアにバレンタインデーは無い。
 辞書を見ると、聖バレンタインは三世紀にローマで殉教したとあるので、どの国よりも、バレンタインデーと関係が深そうだ。けれども、チョコレートが似つかわしくない。地中海性気候にチョコレートが合わない。青く広がり、白を刷いた空気に、チョコレートが合わない。
 ブーツ型のイタリア国。足の入り口のところは似合いそうな地域と接しているので、似合うかもしれない。けれども、イタリアでひとくくりにすると、やっぱり似合わない。
 それに、2月14日にはにかむ、というのも似合わない。イタリアの人の愛情表現というと、真っ先にパンツェッタ・ジローラモ氏が思い浮かぶ。彼に年に一度のそわそわは似合わない。
「チャオー。チョッコラータ、デスネー。アモーレー」
 と、一年中受け入れ体勢も差し上げ体勢も整っていそうだ。バレンタインデーである意味が無い。
 最後の一本のスパゲッティを飲み込んで、思った。あえてそこで、チョコレートを出してみたらどうなるのだろうか。いっそのこと、パッケージは青にする。軽みのある青。

ヴェストリ・カライビケ外箱
 涼しげな箱と深紅のリボンの組み合わせ

 なかなか、好ましい。ジローラモ氏のように、素直にアモーレと言い出せる軽さだ。もちろん外の紙袋も青くしている。相手の腰に手を回しながら、もう片方の手でふたを開ける。イタリアっぽい良い感じになってきた。

ヴェストリ・カライビケ 4個入り
 「カライビケ」はカリブをイメージしたアソートです

 そして、耳元に吐息をかけながら、なにごとかささやいている。こちらには聞こえないが、甘美なことばを並べているのであろう。その連なる甘さは耳に心地よく、のどをくすぐり、頭をくらませている。奥底にほんの少しだけちくりと紅い刺激を持たせることも忘れていない。心をほぐすイチゴとミルクの甘さ。

ヴェストリ・カライビケ フラーゴラ&ココローコ
 イチゴミルクの「フラーゴラ」と、ココナツの「ココローコ」

 スパゲッティが盛られていたお皿をどかして、エスプレッソを一口飲む。
 そうして、油断させたところで、重い一撃を舌先に載せるのだろうな。ただ甘いだけじゃないところを見せるのだろう。柔らかくて浮き立つような甘さから、とっしりと押さえつけるような甘さへと引き込む。シャリシャリとしたココナツの引っかかりは、重みのある香りとしっかりと濃い空気と強い日差しを押し詰めた甘さを見せる。それは、さっきのイチゴミルクの甘さからはすぐに移らない。重く、詰まった甘さを、強めの苦みでくるんでいる。「あれ? 苦いのかな?」と思わせておいて、角度を変えた甘さを頭にしみこませていく。じんわりと、しびれるようにそれは進む。洋酒の力を借りながら。褐色の笑みを浮かべながらそれは進む。もう、逃げられない。

ヴェストリ・カライビケ フラーゴラ&ココローコ断面
 表情と内心です

 二杯目のエスプレッソ、最後の一口を飲み干す。苦い。しかし、また、彼は、甘い穏やかな攻めへと移る。
 ココナツの香りはする。けれども、瞬間前のような、苦みや刺激は無い。クリームのように絡みつく甘さは最初のひとことよりも強い。ココナツの重みのある香りにとろりと醸されたようなパイナップルの甘み。既に酔いは回っている。ここに一途な甘さを繰り出していく。勝負はもうついているのに、手を緩めない。
 いけない。それ以上、彼のペースに乗ってはいけない。それは分かっているが、手遅れなのは誰の目から見ても明らかだ。しかしながら、彼は、最後の仕上げに取りかかる。
 冷たい直角二等辺三角形のティラミス。これはたらふくでもするりと入る。九十度のところにフォークを立てながら、僕は続きを見届ける。
 ミルクチョコレートはするりと受け入れられ、抵抗感の無い苦みと、緩急はあったが、最初から途切れることなく続いた甘さを、体の深奥に流れ込ませていく。ココナツの段階でとっくに勝負は付いているのに。もう、止したまえ、と言おうとしたとこで、情熱的なひとことを口にした。
 きゅっ、と目をつむってしまうほどの、鮮やかで鋭いパッションフルーツ。この刺激で全てが終わった。

ヴェストリ・カライビケ フルット・デッラ・パッシオーネ
 フルット・デッラ・パッシオーネのインパクトは心地よく苦しい

 チョコレート、ミルク、ココナツ、太陽、海、柔らかく、優しく、少しだけ痛く。それらが、クリームの緩やかさで、のどと胸に押し寄せてくる。口当たりが良いから、つい受け入れてしまう。警戒感なんてとうの昔に無くなっている。南洋の夕暮れ。止められた時間の甘さが支配している。
 だから、バレンタインデーはイタリアには無い。常にこのようなテクニックを隠し持ち、すぐに取り出す用意はできている。爽やかな青さの中には、イタリアの情熱が足を組んで座っている。危ない甘さだ。
 空いたティラミスのお皿を見ながら、三杯目のエスプレッソを飲み終えた。さて、これくらいにして、そろそろ出るとしようか。
 そう、ここはサイゼリア。

 (本文中一部敬称を省略しました。ご了承下さい)


◎店舗・商品データ
・商品データ
 商品名:カライビケ(CARAIBICHE) フラーゴラ、ココローコ、ピニャコラーダ、フルット・デッラ・パッシオーネ
 価格:\1050

・店舗データ
 購入店
 店舗名:名古屋三越栄店催事「サロン・デュ・ショコラ」
 住所:名古屋市中区栄3-5-1 7階催事場
 営業時間:10:00-20:00
 定休日:催事期間中無休
 アクセス:名古屋市営地下鉄・栄駅からサカエチカ直結。16番出入口すぐ。
 公式サイト:http://nagoya.mitsukoshi.co.jp/
 ※サロン・デュ・ショコラは2013年2月5日まで。2013年2月6日から2013年2月14日まで「2013三越スウィーツマルシェ」開催。

・製造元
 会社名:VESTRI(ヴェストリ)
 公式サイト:http://www.vestri.jp/

 国内主要販売店
 店舗名:FIAT Caffe'
 住所:東京都港区北青山1-4-5
 営業時間:11:30-19:00
 アクセス:東京メトロ外苑前駅4番出入口から青山通りに沿って北東に約300mの左手。
 公式サイト:http://fiatcaffe.jp/

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2013.02.06

青く熟れた五番街の風(生チョコレート・メロン:フィフスアヴェニューチョコラティア)

 もともと、「菓子」はくだものを指していた、ということは良く知られています。それを承けて、「お菓子をあげるよ」と言われ、心弾ませ、手を差したところ、そこにザクロが一個載せられたらどうなるでしょう。ふんわり甘いスポンジと生クリームの組み合わせを思い浮かべていたら。あるいは、もちもちのお米にバーガンディの小豆の組み合わせを思い浮かべていたら。そこに、九割方が酸っぱさで構成されている、小さいつぶつぶがみっしりと内側に詰まっていて、それをぷちぷちと取りだして口に入れると、さらに小さいぷちぷちの種を避けるようにして、味わってください、と手に載せられるのです。
 わき起こるのは、落胆でしょうか。憤怒でしょうか。
 ザクロが悪いわけではありません。菓子とくだものという二つのことばの関係が問題をこじらせてしまったのです。そのような問題を発生させないために、くだものを「水菓子」と呼んだりします。一品ずつ順番にお料理が出てくる和食のお店では、お品書きの一番左端に「水菓子」が書かれています。
 生々流転。この水菓子のところに、シャーベットや、ゼリーや、ババロアなどが出張ってきていることもあります。彼らはまごう事なきお菓子です。しかし、水菓子ではありません。
 混乱の極みです。
 私は見たことがありませんが、もし、水菓子でさつまいものふかしたのが出てきたら、どうなるでしょうか。植物で、狭義の果実では無いけれども可食部で、甘い。しかし、水菓子として出てきたら、
「ここは、おぬしの出る幕ではない!」
 と、腕を胸元から外側に向けて振り払う力を以て、はね飛ばされるやもしれません(さつまいものふかしたのが悪いわけではありません)。
 様々なパターンを呈示しましたので、まとめてみましょう。
1.くだものっぽいくだもの。
2.くだものっぽくないくだもの。
3.くだものっぽいくだものじゃないもの。
4.くだものっぽくないくだものじゃないもの。
 の、四つのパターンがあると考えられます。1は、容易に思い浮かべることができます。桃とか、蜜柑とかです。「もぎる」果実はだいたい1に当てはまるでしょう。2は、果実だけれども、お菓子の雰囲気とはちょっと違うかも、と思うものたちです。栗(くりきんとんにはなります)がその代表的な存在です。3は、狭義では果物ではないけれども、広義にはくだものとして差し支えないものです。イチゴ、西瓜などは、果実では無いですが、果物と捉えられることが多く、水菓子の肩書きで出てきても、許されると思われます。4は、1から3以外のものです。鰹のたたきなどが当てはまります。まとめてみましょう、と書いてみましたが、ちっともまとまったように見えませんので、皆様各自でベン図を書いて、整理していただければと思います。
 注目したいのは3です。3が水菓子で出てくれば、八方円満におさまりそうです。
 メロンです。
 ウリ科の一年生果菜。木になる果実ではありません。蔓に生ります。狭義のくだものではありませんが、広義のくだものです。しかし、狭義のくだものの上に立つ程の威を持って、くだもの界に君臨しています。初セリがニュースになる数少ないくだものです。木の箱に入っている数少ないくだものです。
 お食事が終わって、最後の水菓子でメロンが出てきたら、「狭義のくだものではないけれども、れっきとした水菓子であると見なす。よって、いただきます」となるはずです。2ではありますが、くだものとも、菓子とも、水菓子とも名乗れる存在なのです。
 ここで、4の分野から、異論が出てきます。その声は、今や菓子と言えばお砂糖や小麦粉や玉子などで作ったものであり、私たちの中にいるそれらをないがしろにするのはいかがなものであろうか、ということのようです。その意見はもっともで、それならば「くだものっぽくないくだものじゃないもの」も、お菓子として迎え入れましょう、となります。連立です。そうすると、曖昧で、元の木阿弥のようですが、後につなげるために、そうします。

 2007年に5thアヴェニューさんの「シャンパン生チョコ」をご紹介しております。シャンパン生チョコは依然として高い人気を持っています。オリジナルの生チョコレートと、シャンパン味は、定番でこの毎年この季節に百貨店の催事に出場していますが、それ以外の味も、期間限定として出品されています。今年は、「生チョコレート・メロン」が登場です。
 5thアヴェニューさんのチョコレートの美味しさは、前に書いているし、改めて書くこともないでしょう、と思いつつ、微笑みを絶やさない店員さんに渡されたひとかけの試食を口にしたところ、涅槃に誘われているかのような多幸感に包まれました。催事会場の喧噪と熱気が一瞬にして消え去りました。無辺の草原に横たわり、冷たい光を総身に浴びているように感じた次の瞬間、片手に紫の紙袋を提げて、部屋に立っている自分がありました。下見のつもりだったのに。
 後悔は後にして、もう一度あの感覚を、とがさがさと包装紙を払うと、見覚えのあるあの木箱が出てきます。シャンパンの時には無かったシールが、この中身がメロン味であることを瞭然とさせています。

5th Avenue Chocolatiere 生チョコレート・メロン1
 5th Avenue Chocolatiereさんと言えば木箱、メロンと言えば木箱

 シールを切って、木箱のふたを開けると、雨上がりの朝のような潤いを持った香りが立ち上ります。すっ、と、さっ、と、数時間前の涅槃が甦ります。しゃらりとしたココアパウダーを指先に感じ、半分のところに歯を立てて、いや、それは性急すぎる、と、三分の一のところに立て直します。すると、かすかな抵抗のみで、するり、とチョコレートに沈んでいきます。
 その途端に、風格を見せるメロンの風味。さらに濃く香り、さらに潤う。摘んだばかりの玉をその場で半分に割ったのではないか、と思わせるほどの、密度の高さ。
 口中を転がる三分の一の欠片は、ころころと舞踏を始めます。柔らかいのに、どこかにしがみつくような感じはありません。全てが軽やかに、涼やかに進んでいくのです。しっとりとした甘味を振りまきながら、少しずつ欠片は小さくなっていきます。
 メロンの味わいが、やや薄れたか、と思わせた時に、チョコレートの芳ばしさと、かしりと堅い甘さが出てきます。これより早くとも遅くともいけない時に、チョコレートが来ます。

5th Avenue Chocolatiere 生チョコレート・メロン2
 見た目は、シャンパンと変わりはありません。

 メロンが舞い、踊った線を、静かに、それでいてしっかりとなぞっていきます。メロンで満たされていた感覚にチョコレートが追いついてきます。メロンがチョコレートにオーバーライトされるのではなく、メロンとチョコレートがマージされるのです。
 本来は、味のはっきりした両者です。混交すると、打ち消しあってしまうように思われますが、ここではそうはなりません。きちんとお互いを尊重し、引き立てあっています。なんというバランスの良さでしょう。
 溶けきってしまうと、まずは、チョコレートから退場します。甘さを落として、ほのかな渋みを残し、それも消し、あとはメロンに任せます。あとを託されたメロンは、青い甘さをとろりと出し、水気の多い果実が持つ、しゃくり、とした食感を思い出させる後味を残します。「青さ」と「熟れ」という、本来は相容れない味わいを、この一粒で感じることができるのです。さすがはあのシャンパン生チョコレートの香りを作った職人技、とうなることしきりです。
 残りの三分の二かけも溶かし終わり、さて、もう一個、となります。気分はそうなるのですが、指先が動きません。もう一個を取りあげることができません。一粒の生チョコレートを食べただけなのに、おなかは、ひとりでメロン一玉を平らげたような豪奢なたらふく感なのです。人差し指と親指の二本指を生チョコレートの上でかざしたまま、しばらくじっとしていると、体の中、どこからともなく、水源間もない清流のように、青い甘さと熟れた芳ばしさが通っていきます。まだ、一粒目が終わっていなかったのです。

5th Avenue Chocolatiere 生チョコレート・メロン3
 心なしか、エメラルド色に輝き始めているように見えます

 水菓子に、この生チョコレート・メロンが出てきたらどうなるでしょうか。目にした途端、怪訝な顔をするでしょう。しかし、のどを通ったとき、それは納得へと変わるでしょう。くだものっぽくないくだものじゃないものとくだものっぽいくだものよりもくだものっぽいくだもののようなくだものっぽいくだものじゃないものが、数センチ四辺に封じ込められているのです。さらに、「菓子」と「くだもの」という呼び名問題も解決させています。こういうことを、一挙両得、というのかもしれません。
 水菓子、すなわちデザートの役は、生チョコレート・メロンに担ってもらいましょう。では、その前のメインディッシュの役は……、言うまでもなく、シャンパン生チョコレートです。


◎店舗・商品データ
・商品データ
 商品名:生チョコレート・メロン(6個入り)
 価格:\1995

・店舗データ
 購入店
 店舗名:ジェイアール名古屋タカシマヤ催事「アムール・デュ・ショコラ」
 住所:名古屋市中村区名駅1-1-4 10階催事場
 営業時間:10:00-20:00
 定休日:催事期間中無休
 アクセス:JR名古屋駅直結
 公式サイト:http://www.jr-takashimaya.co.jp/
 ※アムール・デュ・ショコラは、2013年2月14日まで。最終日は19:00閉場

・製造元
 店舗名:5th Avenue Chocolatiere(フィフスアヴェニューチョコラティア)
 公式サイト:http://www.5thavenuechocolatiere.com/(米国公式サイト)
 ※2013年2月現在、日本には、直営店・常設店は無い模様です。
 以前は、松屋銀座さんに常設店がありましたが、昨年退店したようです。
 参考:松屋銀座ブログ「GINZAのおいしいスタッフ日記―バレンタイン2013 vol.3 "幸福のブタチョコレート"」(2013年1月25日付)
 http://www.matsuya.com/m_ginza/blog/food/2013/01/20130125_1501002013_vol3.html

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2012.02.12

芯の強さが思い出させる(生チョコ:シェ・シバタ)

 心に残るもの、には、忘れられないものと、思い出すものがあるようです。
 相も変わらず、試食をして、美味しいな、と思って、小箱を一つ購入して、帰る途中で我慢できずに箱を開け、一つ口に入れ、美味しいな、と思って、二つめを口に入れ、を繰り返すと、小箱なので、あっという間に無くなりました。
「ああ、美味しかったなあ、たらふくたらふく」
 と思って、途中だった帰り道を継続させました。このあとはあれに寄らないと、明日はあれをしないと、この前のあれをするのを忘れていたな、冷蔵庫のあれはまだ大丈夫のはず、などの多種多様の雑多な日常のあれが頭に浮かんでは消えていきました。
 その継続中に、猛々しいまでに思い出されたのです。先ほど空けてしまったチョコレートの味。
「わあ、美味しかった! あれは、美味しかった! もう無い! 美味しかった。食べたい! どうしよう!」
 この思い出し力は、帰り道を行き道に変化させるほどの力を持っていました。あれに寄らないと、を放擲して、きびすを返しました。

シェ・シバタ 生チョコ 外箱
 ピンク+型押し+銀のリボン

 そして、二箱目のこれです。
 生チョコレートは、彼らの柔らかさそのもののように、最近は人々の中にとけ込んでいます。シェ・シバタさんのこれも生チョコです。商品名は「生チョコ」。なんと飾り気の無い、と思われるかもしれません。しかし、奇をてらわない真摯さ、と思うこともできるのではないでしょうか。
 真摯さは強いです。
 その強さは、ひとたびは心の片隅に退いて、姿をひそめていても、失せてしまうことはありません。
 3cm四方を取り上げると、生チョコです。くちびるに近づけます。その1cm手前。軽く開けた口から鼻へと、鼻からのどへと、香りが動きます。甘みと苦みがすっきりとしなやかに通っていきます。

シェ・シバタ 生チョコ 3個入
 ココアパウダーが柚子味で粉砂糖がアールグレイ味です

 歯触りは、ねっとりと絡みつくよう。先だっての香りにしては重い、と感じながら、もくもくと溶かしていると、絡んだ食感は潔くほどけます。
 歯から舌へ。ぽってりとした重さ。生クリームの重さ。重さは口から胸へと下りていきます。甘みもあります。しっかりしたカカオの香り。そこに柚子のわずかな酸味とクセが徐々に強まっていきます。
 甘み、苦み、酸味、柑橘のクセ。これらは芯の太い風味です。でも、次の一個へ移るまでの短い時間のうちに、快く去っていきます。
 アールグレイ味の方が、いくらか甘みが強く感じられました。同じく、歯にねっとりと絡みつき、舌に移り、とろける。その頃に来る味は、華やか、絢爛。瑞な風が口を満たします。
 甘さと茶葉の香りが渾然となります。ミルクティーに似ているようで、それには如かず。温和に、鮮やかに後から後からアールグレイが連なってきます。でも、それも、形が無くなり、少しの間までです。にこやかに涼やかに風合いは去っていきます。
 自らの重みをさしでがましくなく感じさせ、頃合いを逃さず、密度を一気に低くし消えていきます。

シェ・シバタ 生チョコ 柚子&アールグレイ
 自然な形の内にある強さと潔さ

 重くて、消える。これが、この生チョコの持ち味です。
 そして、しばらく、また、しばらくと、時間を置いたときに、彼の力が発揮されます。
 拡散した風味が一気に集まります。ぎゅっ、と密度が高くなり、そこにあるかのような重さがよみがえります。
 そうなると、居ても立ってもいられません。「思い出す」のです。一度、心に浮かび上がると、抑えられないほどの衝動の強さです。
 それで、もう一箱、となりました。今また、思い出しています。居ても立ってもいられない思いで、書いています。
 この生チョコに籠められたであろう念の強さと、味わいを思い返しますと、陶然となり、目が潤みそうです。
 これだけ「強い」チョコレートですが、季節のお品としてはお手頃な価格です。ぜひ多くの方々に味わっていただきたいと思うのですが、残念ながら、岐阜県・多治見市か、名古屋市の店舗、もしくは、名古屋の催事会場でしか、入手できないということでした。
 忘れられない味。頭の中で現せるのですから、素晴らしいです。
 思い出す味。すぐに手に入れ、味わうことができない場合は……、罪作りな味です。


 ◎店舗・商品データ
 ・商品データ
  商品名:生チョコ(3個入)
  価格:\580

 ・店舗データ
  購入店
  店舗名:ジェイアール名古屋タカシマヤ 催事「アムール・デュ・ショコラ」
  住所:名古屋市中村区名駅1-1-4 10階
  営業時間:10:00-20:00
  定休日:期間中無休
  アクセス:JR名古屋駅直結
  公式サイト:http://www.jr-takashimaya.co.jp/
  ※「アムール・デュ・ショコラ」は2012年2月14日まで。最終日は18:30閉場

  主要販売店
  店舗名:chez Shibata Nagoya(シェ・シバタ 名古屋)
  住所:名古屋市千種区山門町2-54
  営業時間:10:00-20:00
  定休日:火曜日
  アクセス:名古屋市営地下鉄・覚王山駅1番出入口から、栄方向(西方向)へ約40m、「覚王山」交差点を右折し、日泰寺参道に沿って約120mの右手。
  公式サイト:http://www.chez-shibata.com/

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2012.02.10

航海の波に寄せらるる甘美(ラジョラス・ジントニック:カカオサンパカ)

 板チョコ、は、まず名前で損をしていると思うのです。
 歴史はあります。スーパーマーケットでおなじみの各社板チョコのページをご覧ください。「~年から変わらず」「~年以来」「~年に初めて」などのことばが躍っています。色々なチョコレート菓子がありますが、全ては板チョコから始まっているのです。
 始祖としての確固たる地位を築いている板チョコですが、その地位ゆえに容易に姿を変じることが叶いませんでした。初代校長の肖像のように、厳格さを保たねばなりませんでした。
 その間、初代のもとから様々な師弟が羽ばたきました。あるものは中に果実を抱き、玄き珠となりました。またあるものは大気をまとい、天弓を越えるほど軽くあろうとしました。そしてまたあるものは、その柔らかき資性をもって、姿態を変え、きのこやたけのこや船舶など、万物の形象を現そうとしています。
 その間、初代校長も装いを変えておりました。しかし、人々は、彼のものを見てことばを交わします。
「あれ、この板チョコ、外側のデザイン変わったよね?」
「そうかな? 前からこういうのじゃなかった? いつから変わったっけ?」
 あんまりです。でも、初代は度量が大きいので、気にしないふりをして、威厳を保ち続けます。
 板、というのも、あんまりです。師弟は「ボール」「バー」「フレーク」「チップ」「山」「里」など、その風体に合わせて、人々に親しんでもらえるようにと、二つ名をもらい受けています。
 板。
 抗いようが無い断定です。しかし、
「あなたは板ですか?」
「いかにも私は板であります」
 彼のものは、問われれば荘厳さをもってそう答えるはずです。その有り様を誇りとしているからです。
 登山者の背嚢の中には、今でも板チョコが入っているのでしょうか? 彼のものはただ実用的であろうとしました。
 手作りチョコレート。市井にカカオマスから作る方がどれほどいらっしゃるでしょうか。
「『贈られるならば? ガナッシュ、ジャンドゥーヤとか……、ボンボンも……、ジュレが入っているのも……。でも、板チョコが案外いいですね』というアンケート結果も!」
 もう、これ以上は止めておきます。これ以上、彼のものの威厳を傷つけるに及びません。

ラジョラス・ジントニック 外箱
 お洒落ですが、平たい

 これは、ラジョラス、です。長方形で平たいチョコレートです。
 カカオサンパカさんの、板チョコレートは、ラジョラス、という名前です。スペインでは、この称号を以て国王陛下に謁見しているのです。広き海洋を渡りし頃の威厳は、チョコレートに於いても健在です。

ラジョラス・ジントニック 外箱側面
 隠れたところに情熱的色味

 バルセロナの本店では、ラジョラスのホワイトチョコレート「ロサス・イ・フレサス」が一番人気とのこと。このシーズンの各地の催事でも、ロサス・イ・フレサスがやはり一番人気とお聞きしました。カカオサンパカさんは、出店されている催事会場ごとに品揃えを若干変えていても、ロサス・イ・フレサスは外すことなくお取り扱いされているようです。
 そのため、試食でロサス・イ・フレサスをいただけます。
 薄いピンクの中に、細かくローズピンクの粒子。桜絨毯の中に紅梅が散っているような趣き。地中海、バルセロナというよりも、春の和の雰囲気を湛えているように思われます。
 ひとかけら、手のひらで受け取り、味見をします。
 すると、和の雰囲気はどこへやら、一気に欧州の華やかな庭園へと誘われます。バラの花弁を口にしたらこのような味なのだろうな、という貴く聖らかな香りに充ちます。華華の女王と呼ぶに相応しい香り。気品と烈しさを併せ持ちながらも、押しつけられるような、圧迫感は覚えません。
 君臨するバラの香りから弾け出るイチゴのすっぱさは、爽やかに明るく。
 両者のきらびやかさを、ホワイトチョコレートが雄大に柔らかく甘く受け止めています。
 ほんのひとかけらでこれだけの印象を与えるのですから、一番人気もむべなるかな、です。
 今回の試食の前に、これは分かっていました。既に、試食したことがあったからです(今回、カカオサンパカさんは名古屋初出店です。以前は、別のところでいただきました)。試食ばかりなのを心より申し訳なく思っております。以前の試食で迷いました。迷った挙げ句に、購入を見送りました。後日、惜しいことをした、と思いました。今回、名古屋初出店の情報をかぎつけました。駆けつけました。試食しました。また、迷いました。
 他にも、魅力的なラジョラスが並んでいるのです。私が優柔かつ不断に迷っているのを見て取られた店員さんが、ご親切に試食分をお出ししてくださいました。本当に試食ばかりで申し訳なく思っております。

ラジョラス・ジントニック 内部包装
 航海の果てにカカオにたどり着いた先人に敬意を表している、のだと思います

 ラジョラスの「ジントニック」を選びました。
 こちらは、少々無骨な雰囲気です。海で灼けた人々が、陽気にお酒をあおっている姿が浮かびます。

ラジョラス・ジントニック 全体
 これ以上ないくらいの板っぷり

 ジントニックのベースはミルクチョコレートです。ただ、ビターチョコ、ダークチョコほどではないにしても、甘さはやや抑えめです。一片を口に放ると、最初に、仄かはありますが、きっ、とジンの熱い刺激が伝わります。最初に目が開かされるこの印象は、味は大きく違っていても、ロサス・イ・フレサスと通底するようです。
 ジンの熱気が収まってきて、やや角の取れた頃、奥歯でかみしめると、しゃりっ、という音とともに、またもや別の切れの良い刺激が現れます。レモンの酸味です。イチゴの明るさとは別の風合いを持った明るさ、やや羽目を外したような、痺れにも似た強い酸味です。思わずまぶたを閉じ、眉間を寄せてしまうすっぱさ。寸前の熱気を払い、ミルクチョコレートの甘さを高く飛び越えてきます。

ラジョラス・ジントニック カカオサンパカロゴ
 強い意志をうかがわせる刻印

 熱気、元気、これらが口中を圧倒するのも、つかの間。前の時を落ち着かせて、寡黙なミルクチョコレートがじっくりゆっくり甘みを広げて五臓六腑へと移っていきます。
 五臓六腑です。お酒をたしなんだときの定番の文言です。おなかの中で、再び、ジンとレモン、そして寡黙だったはずのミルクチョコレートまでが、「たらふくになるのはまだまだ早いよ」とばかりに、しばし騒ぎ出すのです。
 二度楽しめるとは、このこと。
「もう一杯」
 が、お酒の定番となっている方は、思わず、そして、すぐさま、ラジョラスをもう一片割ってしまうことでしょう。
 贈り物には……、ロサス・イ・フレサスを一枚、ジントニックをもう一枚。ジントニックが取り扱われていなければ、試食をされてお気に召したものを。

ラジョラス・ジントニック 細分化
 ぱきっ、と硬め

 はじめに、板チョコの威厳、などと書いてしまいましたが、板チョコは親しみやすさもずっと持ち続けてきました。憧れの存在から身近な存在へ。板、という形状により、どなたでも気軽に手に取ることができるようになっています。顔は厳しくても、穏やかで好好な心中が見て取れます。
 なので、カカオサンパカさんのラジョラスもお気軽に。……と申し上げることができれば良いのですが、スーパーマーケットの板チョコ諸氏とラジョラスとの間には、ややお値段に開きがあります。それゆえ、贈り物でラジョラスの「二枚渡し(複数枚渡し)」は、お味はもとより、形状の親しみやすさと意外性が加わり、喜んでいただけるような気がいたします。
 そのようにラジョラスにいっとき移り気しても、板チョコ諸氏の威厳は揺るぎはしません。歴史が物語っています。
 あと、私は、板チョコ諸氏もラジョラスも、ガナッシュも、ジャンドゥーヤも、ボンボンも、ジュレ入りも、その他も、好きです。


 ◎店舗・商品データ
 ・商品データ
  商品名:Rajoles Gin tonic(ラジョラス・ジントニック)
  価格:\1260

 ・店舗データ
  購入店
  店舗名:名鉄百貨店・本店 催事「サロン・デュ・ショコラ」
  住所:名古屋市中村区名駅1-2-1 7階
  営業時間:10:00-20:00
  定休日:無休
  アクセス:名古屋鉄道・名古屋本線名鉄名古屋駅直結
  公式サイト:http://www.e-meitetsu.com/mds/index.html
  ※サロン・デュ・ショコラは、2012年2月14日まで。最終日は18時閉場。

  国内主要販売店
  店舗名:CACAO SAMPAKA(カカオサンパカ・丸の内本店)
  住所:東京都千代田区丸の内2-6-1 丸の内ブリックスクエア 1階
  営業時間:11:00-21:00(月~土)、11:00-20:00(日祝)
  休業日:元日
  アクセス:東京駅丸の内中央口から、都道402号線を南へ約300mの右手。丸の内ブリックスクエア内。
  公式サイト:http://www.cacaosampaka.jp/

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2012.02.08

いつまでも新しく在り続ける(ノボラスキュ:黒船)

 百貨店に入り、宝飾品売り場を通り抜け、化粧品売り場を通り抜け、下向きのエスカレーターに運ばれ、地下一階に着いたとき、はた、と気がつきます。
「洋菓子売り場に行けばいいのか、和菓子売り場に行けばいいのか……?」
 目的のお菓子について思います。あれは日本語では無い、はず。いや、売っているお店は漢字だった、はず。はて? To 和菓子売り場, or To 洋菓子売り場, That is the question.
 カステラが欲しいのです。
 「カステラ」と聞くと、長崎。長崎というと、西洋異国情緒。よって、カステラは西洋異国菓子。……とはなりません。カステラは和菓子らしいのです。カステラが主力となっているお店の名前をいくつか思い浮かべてみてください。漢字ばかりのはずです。
 実際、和菓子屋さんには、「かすていら」という墨書が張り出されています。カステラは和菓子です。
 「ラ」です。「ラ」が問題の元なのです。ひらがなの「ら」でも同じです。「la」もしくは「ra」の響きは、和菓子向きではありません。本来、日本語(和語)の語頭にはラ行音は存在しません。カステラの「ラ」は語頭ではない。はい、仰るとおり語尾です。でも、「ラ」が付いていると、「洋」っぽくありませんか? 「かすて」と「かすてら」を声に出して比べてみてください。後者の「洋」っぽさを実感いただけると思います。
 和菓子屋さんで売られているけれども、洋風で、けれどもやっぱり和菓子。
 和菓子の一つとして定着していますが、いつまでも最初期の若やぎを持ち続けています。ハイカラ、ということばが、よく似合うお菓子です。ずっと「新しさ」を自然にまとっています。
 その、新しくハイカラなカステラが、さらに新しくなったらどのような姿になると思われますか。

ノボラスキュ・外箱
 白と黒の円筒の中がラスクとは思い難いです

 ラスクになります。
 黒船さんの「ノボラスキュ」のつづりは「NOVO RASQ」。「NOVO」はポルトガル語で「新しい」の意味とのことです。英語の「NEW」、フランス語の「NOUVEAU」、イタリア語の「NUOVO」と形が似ているので、元が同じなのだろうな、と想像します。おそらく、ラテン語からなのでしょう。経験上、このような場合、ラテン語、と言っておけば、60%くらいの確率で正解となるようです。60点は、優良可の可なので良しとします。
 パンをスライスして、かりっかりにオーブンで焼かれたラスクの食感は、人々を引きつけて已みません。たとえ食後に、テーブル、膝の上、衣服に、乾いたパン粉が散らばるという事態が待ち受けようとも、それはラスクへの手を引き留めるにはあまりに弱すぎる力です。
 ノボラスキュは、カステラをラスクにしてしまいました。さらには、ミルクチョコレートまで染みこませています。
 普通のラスク、フランスパンをオーブンカリカリ焼成後はその形と食感がおおよそ分かります。
 カステラをラスク? あのふわふわしっとりをカリカリ焼成? いいのですか、そのようなことをして。
 危惧しました。
 円筒形の箱のふたを、卒業証書入れと同じ要領で開けます。あの春の日、教室に響いたのと同じ音がします。
 がさがさと円筒をを振ると、Qの字が目立つシックなデザインのスティックが数本出てきました。

ノボラスキュ・個包装
 ラスクでした

 一本を取り出し、針金入りの封をくるくると解くと、甘さたっぷりのチョコレートの香りが、ふう、と鼻先をかすめます。
 長さ9cm、幅2cm、厚さ1.3cm。ごつごつだけど、きっちりと面を保っています。一般的なラスクは厚さ1cmほどの楕円形ですが、ノボラスキュはカステラ形状の縮小化という手段により、由来を保持しています。
 指にはチョコレートの重さが伝わります。しかし、全体は、その触感に相応しない軽さです。親指と人差し指ではさんだダークブラウンの一本は、円筒の箱や、個包装、本体のたたずまいに反して、親しみやすさを覚えます。ついつい、ふるふる、と振ってしまいます。チョコレートの粉が少し散りました。

ノボラスキュ・本体
 満遍なくしっかりチョコレートでコーティングされています。

 もてあそぶのはほどほどにして、がじっ、と。すると、こくっ、と折れます。
 途端、ミルクチョコレートのなめらかさと香ばしい風合いが伝わります。開封時と同じ、しっかりとした甘さが印象的です。
 こくっ、と折れた一片を、奥歯で、ごつり、と砕き、「なるほど、これがノボラスキュの歯ごたえなのか」と頷き、思い切りがりがりごつごつを楽しもう、と思った矢先に、さくさく、ほろほろと崩れていきました。最後にわずかな、とろり、と、しっとり。
 あまりの、展開の早さに呆然とします。今度はしっかりと展開を確かめようと心を強くしっかりと立て直し、残った一片を、ごつり、とかみ砕きます。
 表面は、カステラ生地がミルクチョコレートを吸って固まり、ごつり寄りのかりかり食感です。この抵抗感がある間に、まろやかに甘く、ちょっと苦く。それらが強く広がります。この後です。チョコレートの表面は、ころころと崩れゆき、中のカステラが姿を見せます。

ノボラスキュ・断面
 中は、細かい空気を含み、優しい色合い

 実に当たり前の、パンのラスクとカステラのラスクは、口当たりが大きく違うなあ、という嘆息。
 カステラのしっとりがさらに焼成されると、きめの細かいあの生地そのままが、さらさら、ほろほろ、となります。そのほどけ具合に、玉子とお砂糖のあのまろやかさ、甘さが加わっていて、懐かしくて嬉しくて。
 チョコレートと、ほろほろのカステラが、混じり、それぞれが丸みのある香りと甘みを残しつつ、ゆらゆらとたゆたい、とろけてゆきます。
 ラスクの姿を取りながら、「ラスキュ」として生まれたカステラは、まさに「NOVO」を伝える黒船そのものです。ラスクの軽やかさを持ってはいますが、玉子やお砂糖、カカオがふんだんに使われているようで、しっかりどっしりと一本でたらふくに近くなります。だけど、後を引き、あともう一つ、と取り出して、がりがりとしてしまうのは、やっぱりラスクです。
 円筒箱を小脇に抱えて、一人、もくもくといただく、のはやはり寂しいので(でも、この円筒箱はついつい小脇に抱えたくなる大きさです)、仲間内で一本ずつ配って、「美味しいね」と談笑とお茶をお供にどうぞ。

 ◎店舗・商品データ
 ・商品データ
  商品名:NOVO RASQ(ノボラスキュ)7本入
  価格:\1365

 ・店舗データ
  購入店
  店舗名:名古屋三越栄店 催事「スイーツコレクション2012」
  住所:名古屋市中区栄3-5-1 7階
  営業時間:10:00-20:00
  定休日:期間中無休
  アクセス:名古屋市営地下鉄・栄駅からサカエチカ直結。16番出入口すぐ。
  公式サイト:http://nagoya.mitsukoshi.co.jp/
  ※「スイーツコレクション2012」は、2012年2月14日まで。最終日は18時閉場。

  製造・販売元
  店舗名:黒船 自由が丘本店
  住所:東京都目黒区自由が丘1-24-11
  営業時間:10:00-19:00
  定休日:月曜日(祝日の場合は翌日)
  アクセス:東京急行電鉄・自由が丘駅・正面口から東急東横線に沿って北へ約250m。自由通りとの交差点を左折(西へ)して約30mの右手(北側)。
  公式サイト:http://www.quolofune.com/

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2012.02.07

幻の雪降る石畳(パヴェ・ド・ジュネーブ:ステットラー)

 九州で生まれ育った、と言うと、
「それなら、冬も暖かいんでしょ。いいなあ」
 とお答えをいただくことがあります。しかし、日本各地の例に漏れず、夏は暑く、冬は寒く設定されており、四季を堪能できるようになっております。
 でも、雪が何十センチメートルも積もることはありません。まして、家屋の一階が埋まるほどの積雪も、一寸先は真っ白というほどの吹雪にも見舞われることはありません。ただ、「寒いなあ、寒いなあ。灯油はまだ残ってる?」と背を丸め、コタツに両手を潜らせながら、今晩は水炊きでたらふくになりたいなあ、などと、のんびりぼんやり頭を働かせる程度の寒さです。
 そんな、位の低い寒さを甘受している人々の上に、雪を降らせたらどうなるでしょう。それはそれは大騒ぎ。粉雪にもなれないほどの、微塵の雪しか降ってきませんので、交通機関の乱れ、休校などとは縁の遠い、雪とのじゃれ合いです。
 窓外に白い舞いが見えると、狂喜乱舞、欣喜雀躍、コタツの上に乗っかったリモコンを取るのもおっくうだったのに、電熱器であぶっていたその手を素早く抜きだし、窓を開け、飛び出し、手のひらを天に向けます。雪の粒は、右に左に逸れて、なかなか手の上に落ちてくれません。それで、手を動かして、右に左に雪の粒を捕らえようとしますが、軽いそれらは、右に左にくるくるとすり抜け、やはり手の上には来てくれません。もどかしく思いながら、手のひらをひらひらとさせていると、ぽつり、と雨とは違う水気を感じます。慌ててその一点を見ると、白みの強い半透明の粒が、わずかな冷たさと、小さな痛みを与えます。
「あ、雪だ」
 と、頭が判別する頃には、それは水の半球に変わっています。最初に覚えた冷たさと痛みが弱く残り、それが小さな水の球の前世が雪であったことの物語です。
 緩やかな寒さの冬を過ごす人にとっては、雪はこのような有りや無しや、目には見えても触れることの適わない朧気な存在です。
 スイスという国名を耳にすると、一万尺のアルプスと清澄な雪原が思い浮かびます。しかし、スイスの方々からしたらこのように声をかけられるのと同じことでしょう。
「スイス? あっ、それなら夏は涼しいんでしょ。いいなあ」
 スイスの気候情報を見ると、山間部は雪がしっかり積もるくらいの平均気温で、地中海側の平地はしっかり汗っかきになるくらいの平均気温のようです。
 それが分かっても、スイスと雪のイメージを離すことは難しいです。しんしんと降る雪が街を覆っていく、ような気がします。その雪は、核に塵は無く、純水のみで構成されている、ような気がします。

パヴェ・ド・ジュネーブ 外箱
 小ぶりで大人しい雰囲気

 ステットラー社は、スイス・ジュネーブのチョコレート店です。ジュネーブはスイス南部の標高の低い都市らしいので、夏はそれなりに暑く、冬は冬だと分かるくらいに寒い、のだと思います。雪は降る、はずです。以降、降る、を前提として書いていきます。
 このパヴェ・ド・ジュネーブは、日本語訳すれば「ジュネーブの石畳」、もっと日本語訳すれば「寿府の石畳」です。その名の通り、きっちり四角に切り取られています。一辺20mmの立方体。親指と人差し指で20mmの幅を作ってみてください。大きさの確認はよろしいでしょうか。
 箱に行儀良く並んだパヴェの一つを取り上げます。指に、静かな冷たさと堅牢さが伝わります。

パヴェ・ド・ジュネーブ 6個入
 手作りらしいシンプルさ

 20mmは、判断に迷う大きさです。半分だけかじるのが良いのか、まるまる口に放り込むのが良いのか。一旦、上下の前歯で、かしり、と挟みます。くっ、と力を入れて噛もう、としましたが、それをするには、やや小さく思われ、歯の力を緩め、ふっ、と息を吸うように、一個、まるごとを口に入れます。
 舌の上に座るパヴェ。取り上げたときと変わらず、冷たさと堅さが続いています。少し変だな、と思いました。普通だったら、熱でとろけていきそうなものなのに、それがありません。少し経っても、やや熱を含むものの、元からの堅さを保ち続けています。とろけないので、チョコレートの香りも甘さもそれほど感じられません。
 おかしいな、このままでは埒があかないな、と思われ、再び前歯の方へと転がしました。かしっ、と挟んで、くっ、と力を入れます。すると、
「ぽくっ」
 と口に響きました。煉瓦が割れるように、パヴェが割れます。
 すると、甘みが来ます。チョコレートの香りが立ちます。ああ、やっぱり、チョコレートだったんだ、とここでようやく確信が持てます。
 その確信が頭に浮かんだ瞬息、溶けていきました。いや、溶ける、ということばが合っているようにも思えません。消える、とも違います。あえて言うならば、清流のように、流れ去っていきました。チョコレートそのものは、春の雪解け水のように、離れていきます。後に残るのは、堅い中に在った香りと甘み。割れたときの残響が香りとなって、口の中でいつまでも廻ります。これほどまでに印象深く残るのに、一切の重量がありません。最初の石畳の堅牢さが嘘のようです。

パヴェ・ド・ジュネーブ アップ
 生クリームが入っていません。それゆえの軽さ

 甘いことが分かります。カカオの香ばしさと微々たる苦みが分かります。それがしばらく続きます。在ったことが分かります。けれども、その味と香りを追うことが難しいのです。手を伸ばせば届きそうなのですが、あと少しのところで、捉えきれない、たどり着けないもどかしさです。
 もどかしさ、は、悪い意味に思われるかもしれません。それでもそう言いたくなります。つい今し方の風味が分かるのに、それはほんの一瞬の事で、味わう、という間もなく、さらり、と流れていき、それでも幻になりきれず、ここにある、という、不思議な感覚です。
 最小限に、残すべきものが残るように作られています。
 流れゆく水、でも、吹き去る風、でも、どちらでも構いません。そのようなことがあった、という静かで冷たい熱さを覚えるチョコレートです。
 パヴェ・ド・ジュネーブは、厳しくない冬を迎える地で、たまに降る小さな雪が、手のひらに微細な痛みを残して消えるように振る舞います。雪から変わる水滴のように、小さな立方体には、甘い影をいつまでも残してくれるような強さが封じ込められています。

ステットラー カード
 「チョコレートの情熱」ということばが具現化されています


 ◎店舗・商品データ
 ・商品データ
  商品名:Pavés de Genève(パヴェ・ド・ジュネーブ)6個入
  価格:\1785

 ・店舗データ
  購入店
  店舗名:名鉄百貨店・本店催事「サロン・デュ・ショコラ」
  住所:名古屋市中村区名駅1-2-1 7階
  営業時間:10:00-20:00
  定休日:期間中無休
  アクセス:名古屋鉄道・名古屋本線名鉄名古屋駅直結
  公式サイト:http://www.e-meitetsu.com/mds/index.html
  ※サロン・デュ・ショコラは、2012年2月14日まで。最終日は18時閉場。

  製造・販売元
  店舗名:Stettler(ステットラー)
  公式サイト:http://www.chocolaterie-stettler.ch/index.htm
  ※2012年2月現在、日本には、直営店・常設店はありません。

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2011.12.20

クリスマスケーキの予約を逃した方のために、デコレーションういろのご案内(4)

 クリスマスケーキの基礎は、スポンジケーキが一般的です。それを、富士の高嶺なる雪のような真白き生クリームで覆います。それが、テーブルに運ばれたとき、人々に清らかな歓びをもたらします。
 よって、


 伊勢虎屋ういろさんの「白」

 白ういろです。名古屋で白い和菓子といえば、白ういろです。しかも、


 白さに見惚れます

 今回は二本です。一本だけでもなかなか食べきれるものではないのですが、今回は二本です。贅の限りを尽くします。
 名古屋を中心とした中京地域では、たくさんの種類のういろが販売されていますが、今は「虎屋ういろ」さんの白ういろです。虎屋ういろさんのういろは一本ごと個別にパックされておらず、店頭で「二本くっつけて並べてください」という購入方法が取れるためです。ういろの味が良いのは言わずもがなです。
 ういろをそのままお皿に置いたのでは、やや寂しい感じがしましたので、笹の葉を敷きます。
 笹の葉は、濡らしたクッキングペーパーで表面を拭き、ハサミで切りました。文字型のちまちまでやや疲れていたのと、私に芸術的才能が無いため、ただの長方形です。


 10枚入りだったので8枚残っています

 お寿司の職人さんのばらん切りを見ると、感嘆の声が漏れてしまいます。まな板に置いたばらんを、さらしに巻いていたであろう包丁一本で華麗に切っていきます。濃緑の葉が七色に変じたかのように見える妙技は、その修得にさぞかしご苦労もおありだったであろうと、胸中涕泣いたします。
 ばらんの上に白ういろ二本をぴったりと並べ、その上に、長かった道のりを想いながら、あれこれを飾っていきましょう。


 美術的センスを強く欲します

 飾りの第一は、ちまちまの祝い言葉からにします。祝い言葉は「妙香園」さんのお抹茶で書きます。店員さんに、
「お菓子用にお抹茶を使いたいのですが」
 とお伺いしたところ、一番お手頃価格のお抹茶で十分美味しく綺麗にできますよ、ということでしたので、そのご助言を取り入れ、「宮の森」20gです。開けてみると、一番少ない20gで十分さ加減が分かりました。思う存分、文字を作ることができます。


 妙香園さんでお買い物をすると、お茶を振る舞っていただけます

 文字を切り抜いたトレーシングペーパーを白ういろ(二本)にぴったりと張り付かせ、その上から、茶こしで、とんとんと宮の森を降らせます。


 最高級のお抹茶の香りはどれだけ素晴らしいのでしょう…?

 こんなに緑色たくさんでいいのだろか、失敗は許されないのだけれども、と少し不安を覚えつつ薫り高い緑をさらに降らせます。十分に行き渡った後、トレーシングペーパーを、ちまちまと外すと、


 文字が出てきた

 文字が浮き出ていました。良かったです。あとは、肩の力を抜いて飾り付けられます。
 黒蜜を垂らします。
 粒を潰さないように、小豆を乗せます。
 小豆の上に、寒天をまとった金時人参を載せます。
 できました。


 ようやく完成

 クリスマスデコレーションういろです。
 白ういろを二本も使うという贅沢をして正解でした。
 「祝 御降誕」のお祝いの言葉。アップにしてみると、細かい部分が表現しきれていないことが露呈してしまいます。何卒、お許しいただきたく存じます。


 

 イチゴに見立てた金時人参、その土台となる粒あん、甘さを引き立てる黒蜜、の組み合わせです。黒蜜は、作ってから少し時間を置いてしまったので、固まった部分がありました。つぶつぶが悔しいです。再度湯煎して、漉して掛けるべきでしたが、気力に余裕がありませんでした。


 赤と緑のコントラスト

 では、白ういろ入刀。


 弾力が強い…

 ……ひっつきます。ケーキナイフよりも普通の包丁の方が良かったようです。それでも、できるだけ形を崩さないように、お皿へ。
 こうすると、白ういろに見えません。まだ、白ういろに見える方は、一旦眼鏡をお外しください。


 カット版・デコレーションういろ

 しばらくの鑑賞の後、いただきます。
 一口目は、ういろ、黒蜜少し、粒あん乗せ、お抹茶です。おお、あれだけ主張の強かった黒蜜が大人しくなっています。粒あんの甘さと、宮の森の香りの雅やかさが、長く長く、口からのどへと、ふうわり渦巻きます。白ういろは、甘さは彼自身のものを最低限保ちつつ、多くは他に任せましょう、という姿勢のようです。でも、もっちりねっちりの食感だけは誰にも譲れない、という気概が見て取れます。
 金時人参の甘露煮は、もう少しきび砂糖を入れて、甘さを強くして然るべきでした。金時人参そのものの味は良いですし、食感も白ういろとは違い、柔らかくとも、しゃっきりとしていています。ただ、私の腕不足により、お菓子としての役を十分に果たせなかったようです。金時人参に、ただただ叩頭するのみです。
 三分の一くらいいただいたところで、少し味に変化を付けてみることにしました。このようなものも作っていました。


 「蜜」です

 柚子蜜です。決してジャムではありません。蜜です。和風です。


 柚子に頑張ってもらいます

 柚子の皮をむき、細かく刻みます。私は、調味料柑橘類は、かぼすで育ちました。よって、柚子とはあまり付き合いがありません。でも、嫌ってはいません。むしろ、好ましく思っています。冬場、お猿さんが柚子湯に入っているニュースは、ほほえましく観ております。かぼすは、その鋭さから、目の覚めるような酸味を提供しますが、柚子はひんやりとした落ち着いた酸味だと思います。これからはお料理で使い分けたいと思います。
 皮と果汁とその他の部分(果汁をしぼった後のもの)に分けて、あとは、お砂糖を入れて、順繰りに煮ていけばいいのですが、これも少し下準備を。


 三つの部分に分けます

 皮は、何度か茹でる、湯切りを繰り返してえぐみを取ります。かぼすよりえぐみが無さそうなので、これが必要なのかな、と思いながら、ジャ……、蜜の作り方のレシピを見つつ茹でます。


 クセを取るために湯がきを三回繰り返しました

 次に、クッキングペーパーで包んだその他の部分をお湯で気が済むまで煮ます。ペクチンというのを出すためらしいです。今作っておりますのは、ジャムではありません。蜜です。
 ペクチンが出たのかどうか分かりませんが、その他の部分を上げてから、皮を入れて煮て、果汁を入れて煮て、温め効果を期待したショウガ(一かけ。刻みとすり下ろし汁を半々です)を入れて煮て、砂糖を入れて煮て、さらに煮て、煮詰まったら、蜜、できあがりです。


 今度は、柚子と生姜の風味で

 こうしてできたのを添えて、一口。
 ……確かに、クセがありますね。もう少し、皮を湯がいたら良かったかもしれません。お抹茶と合わせると、味がかち合うようです。白ういろには、別々に添えると良いと思います。

――――――――――

 白ういろ(二本)をいくつかの味でいただきました。二本なので、たらふくになるかと思いきや、少しの時間で、また、おなかが空きました。意外と腹持ち力を有さないのか、私が食いしん坊なのか。
 ぐー、とおなかの音を聞き、不器用に切られた笹の葉が残ったお皿を見つつ思いました。煮豆、甘露煮、柚子、お抹茶……。

「これは、おせちだ」


 緑バージョン・名古屋テレビ塔

 皆様、メリー・クリスマス。


 ◎主な店舗・商品データ
 ・商品データ
  商品名:白ういろ
  価格:¥315

 ・店舗データ
  店舗名:伊勢虎屋ういろ 名古屋三越栄店
  住所:名古屋市中区栄3-5-1 地下1階
  営業時間:名古屋三越・栄店に準じる
  定休日:名古屋三越・栄店に準じる
  アクセス:名古屋市営地下鉄・栄駅から、サカエチカ6番出入口直結
  公式サイト:http://www.torayauiro.co.jp/


 ・商品データ
  商品名:宮の森 20g
  価格:¥500

 ・店舗データ
  店舗名:妙香園 サンロード
  住所:名古屋市中村区名駅4-7-25先
  営業時間:10:00-20:30
  アクセス:JR名古屋駅から、桜通口方面・地下街サンロードへ下り、ミッドランドスクエア方向へ。
  公式サイト:http://www.myokoen.com/


  その他の材料は、名古屋市内各百貨店、東急ハンズさん、成城石井さんなどで揃えました。

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クリスマスケーキの予約を逃した方のために、デコレーションういろのご案内(3)

 あんこと黒蜜で、和菓子としての甘味を演出することができるでしょう。
 しかし、いかんせん、派手さに欠けます。彼ら、彼女らに内包された甘味には華やか且つ押しの強さはありますが、外見は落ち着き払っています。
 ここで今一度、洋菓子のクリスマスケーキを、思い起こしてみましょう。スポンジを覆う生クリーム。その上に配された、イチゴと祝い言葉。
 ケーキをクリスマスケーキにしているのは、円いホールであること、そして、イチゴと祝い言葉なのです。それらを疎かにしていては、和風でいきます、と言っても、なかなか認められないでしょう。
 では、イチゴは和風に合うか?
 この疑問に対する答えの一つが、苺大福です。イチゴは和風になります。それならば、今回イチゴを乗せてみましょう、とは簡単には行きません。
 イチゴは英語で何と言うでしょうか。「ストロベリー」です。それでは、小豆は? 黒蜜は? 簡単に英語で言えるものは、今回はお引き取り願うことにしました。
 代わりに用意したものは、


 いつもより長い人参を使います

 ニンジンです。
 「キャロット」ではないか、と仰る方もいらっしゃるのではないかと推測します。これは「金時人参」です。和風です。大丈夫です。
 確認が取れたところで、下ごしらえをします。三センチ幅くらいに切り、面を取り、丸っこくします。


 丸くしていないのも煮ます。もったいない、もったいない

 金時人参とその半分の量のきび砂糖を鍋に入れ、水から弱火で煮ていきます。
 鍋の中の水がちりちりと温まって行くにつれ、水から変わったお湯が薄い橙色に染まっていき、それとともに、ほろほろと湯気が立ち上ります。この湯気は、金時人参ときび砂糖発祥ですので、優しく、甘く、だけど、背が伸びきりっとしていて、潔さを感じます。きび砂糖も良い方と出会うことができたようです。


 きび砂糖が金時人参と邂逅

 小豆にしても、黒蜜にしても、この金時人参にしても、その湯気を吸い込むと、いろいろな想いがわいてきて、楽しいです。料理は食べる楽しさがあるのはもちろんですが、作っている段階の「湯気の味」が大切だなあ、と思わされます。
 ある程度煮えたところで、みりんと塩を参加させます。塩の万能さは世界にとどろいていますが、みりんの巧みさも唸らせられます。これほど、お得な調味料はなかなかありません。大さじ一杯入れるだけで、甘みが生まれ、お酒が香り、つやが出ます。これほど、有能なのに、全面的に日の当たる場所に出ていないのが不思議です。後ろでてきぱきとそつなく働く存在です。当人がお酒出身なので、飲み友達なったら、たらふくになるまで快く付き合ってくれそうです。


 みりん、凄い

 多数の参加者により、味の複雑化を果たした金時人参は、色味に役立ってもらいます。クッキングペーパーで軽く水分を取り、バットに並べます。あら熱が取れたところで、刷毛を使って、お湯で溶かした寒天を表面に塗ります。これで、さらに金時人参に艶っぽさを出します。光を反射させた朱い珠からは、もうイチゴの代役なんて言わせません、という意気込みが伝わってきます。


 ゼラチンを使うと「洋」っぽいので寒天を

 クリスマスケーキ飾りのもう一つの柱「祝い言葉」を書きます。
 はて、書くにはどうしたらいいのやら、何で書いたらいいのやら、と思った後、書かずに型抜きすれば良いではないか、と結論に幸運にもすぐさま達しました。
 和風のデコレーションですから、言葉も和風です。パソコンで、祝い言葉を印刷して、

 祝い言葉はワープロソフトで作成

 トレーシングペーパーを重ねて、


 トレーシングペーパーの方が後ではがしやすそうな気がしました

 カッターで切り抜きます。これが、予想していたよりも、骨の折れることでした。細かい部分が切りにくいです。金時人参の面取りをするときも思いましたが、もう少し、自分の手先が器用だったらな、と無い物ねだりをしつつ、無いものをねだったら、二十五日には、クロース翁が贈ってくれるのかな、と期待しつつ、今回一番のちまちましたことを続けます。


 今回、一番細かいところです

 長いちまちまの時間が終わりました。準備完了です。やっと、飾り付けです。今のところ、イメージに近いです。緊張と嬉しさと、もう少し早くクリスマスケーキを予約していればこんなことには、という思いがない交ぜになっています。


 (4)につづきます

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クリスマスケーキの予約を逃した方のために、デコレーションういろのご案内(2)

 ケーキ屋さんで、「和風のケーキ」と名づけられていると(「~ジャポネ」「~ド・ベール」など)、抹茶や小豆が使われていることが多いようです。今回は、本職の方々のその方式に倣います。既に「素人+創作和風ケーキ」なので、これ以上、冒険するわけには参りません。
 頭の中には、もう、デコレーションが出来上がっています。それにいかに近づけるか、が勝負です。
 近づくように、各部分ごとにレシピを調べます。そして、「一番大変そう」なのは、小豆だと分かりました。「明日できることは今日しましょう」の格言とおりに、大変そうなのは、早めに仕上げることにします。
 小豆は、袋に、煮る方法が表記されていました。ありがたいことです。もう、クロース翁がプレゼントを贈ってくださったようなものです。
 それを見ますと……、


 袋の裏面に小豆煮詳細。煮ようとして、困る人が多いのでしょう

 仕上がりまでに、四時間以上掛かることが判明しました。心が折れきってしまう前に、小豆を洗います。


 小豆あらいにとりつかれたように洗います

 「小豆あらい」という妖怪がいます。小豆あらい伝説は全国に広がっていて、川に引き込んだり、福をもたらしたりと、様々なタイプがいるようです。このような多様性を見せているのは、小豆がそれだけ、古くから日本で親しまれた甘味だったからではないでしょうか。小豆の風味と甘味に魅せられる人がたくさん居て、小豆を大切にしていたからこそ、その味に感謝し、ばちがあたらないように、たとえ一粒でも心を込めて扱ったのではないかな、と思いつつ、洗った豆を鍋に移し、くつくつと煮える豆を見つめます。


 これくらいの火加減でじっくりと

 小豆が煮える間は、アクを取り、差し水をする、のくり返しです。大変です。和菓子屋さんに敬意を表します。


 アクを取って


 差し水。というのを10分おきくらいにひたすら

 煮汁から小豆が出ないように気をつけつつ、軟らかくなるなるまで煮ます。ひたすら煮ます。二時間ほどして、煮上がった小豆を味見してみますと、
「豆だ……」
 まだ、あんこにはなっていません。煮豆です。そこはかとない、つま先からゆっくりと温かくなるような甘さはありますが、豆です。味付けをしましょう。
 家に上白糖がありましたが、後ほど別のものに使用するために新規に導入した「きび砂糖」がありますので、こちらを使ってみます。小豆レシピの注意書きによると、砂糖を一気に入れると、小豆が固くなるので、三回くらいに分けて入れるように、とのこと。言われるがままに三回に分割しました。そもそも、こんなに大量のお砂糖を一気に入れる、度胸の良さはありません。そんな豪気を持ち合わせていたら、既に世界に羽ばたいているはずです。


 お菓子作りをすると、こんなに、大量の、お砂糖が、使われているのかと、見せつけられます

 弱火にして、くたくたと煮つつ、十数分ごとにきび砂糖を入れていきます。分割しましたが、それでも結構な量です。一回……、二回……、少々の塩を入れて、三回……、数十分過ぎた頃、胸が高鳴ってきました。徐々に強まるきび砂糖の甘い香り、小豆のふっくりとした匂い。勢い良く入っていく大量の褐色の結晶。
 危うさ、楽しさ。
 砂糖の魔力、でしょうか。宴の前に近い気分になっていきます。クロース翁の微笑みが見えます。


 やっと、煮詰まった!

 煮えました。小豆があんこになっています。香りも確かにあんこです。ちょっと味見を。

 我慢できずに、ほんの少しだけ

 このまま、お餅を入れて、おしるこでたらふくになってもいいかもしれない、という気分がわき起こります。私は九州出身なので、丸餅です。焼きません。
 丸餅衝動を抑えて、お鍋に蓋をして、数十分寝かせるように、という指示に従います。美味しくなるのならば、蓋くらい、二枚でも三枚でもかぶせます。
 ようやく小豆の下ごしらえができました。一番大変そうなのが終了したので、あとは楽ちん、のはずですが、いきあたりばったりがそれを阻む、という話しは有名です。
 次は、もう少し甘味を足そうと思います。
 夏場にお世話になった、あんみつや白玉を思い出します。それには、あれが付き従っていました。


 お砂糖二種類とお水

 とろりとした黒蜜とすっきりした冷菓。あの組み合わせは絶品です。しゅるり、と舌の上を舞うあんみつ、白玉を、黒蜜がとろりと引き留めます。ともすれば、のどへと急ぐ彼らを黒蜜は「まあまあ、あわてずに」と小さな分銅のような重みとともに甘みを与えてくれます。
 そんな、安心感のある黒蜜ですが、作り方は意外や、簡単。
 今回は、先程も用いたきび砂糖に登場願います。そこに黒糖を合わせ、水で溶かしつつ煮れば良いだけ。東大寺金剛力士像のようなあんこ作りの厳しさに比べたら、広隆寺弥勒菩薩半跏思惟像の如き穏やかなレシピです。
 さて、全部をお鍋に移して、と、思いましたが、その前に、それぞれのお砂糖の味見します。袋を開けた途端に立ち上った甘い香りに参ったためです。


 黒糖からきび砂糖へと

 黒糖ひとつまみを舌に乗せます。濃いけれども、烈しさはありません。じんわりと沁みる力強い優しさです。明るく素朴なはっきりとした表情が見えたかと思ったら、瞬間、消えていきます。黒糖の去り際の良さには、一種呆然とさせられます。華やかだけれども、遠い昔が見えて、たおやかで、どこか静かな泣き笑いのような悲しい甘さです。
 黒糖から、上白糖に行く途中が、彼女、きび砂糖。黒糖の風味が残っていますが、さらさら、すっきりしています。お料理にもお菓子にも合います。
 しかし、どうしても、「いいのか、それで君はいいのか」と問いたくなります。
 以前のような、深く沈み込んでいくような甘さはありません。黒糖よりも洗練されていて、馴染みやすい甘さです。これが、問わせる原因です。何かが、彼女に起こったような気がしてなりません。見えないところで何かをしている、誰かと付き合っているような感じです。「何かを知ってしまった」雰囲気です。
「お、おい! なんだ、その化粧は、その服はどうしたんだ!」
「別に、なんでもない」
「なんでもない訳ないだろ! 昔は……」
「いいから、ほっといて」
 ドアが、ばたん、と閉じる。
 というような、変化です。誰かに、何かに影響を受けてしまっています。悪い人にはだまされてほしくない、という気が働きます。
 不安を覚えつつ、鍋に、黒糖、きび砂糖、水をまとめて入れて、煮ます。焦がさないように、木べらで混ぜていると、黒糖が香り、きび砂糖がかたまり、丸まり、とろん、とした熱気が辺りをおおいます。


 こちらはすぐに煮えます

 こういうことだったのか。たぶん、水、みたいに無害そうな者が、何もかもを受け入れさせてしまう要注意の存在なのです。
 しばらくすると、どろどろの黒蜜っぽいものになりましたが、蜜と言うには粘りけがありすぎましたので、もう少し水を足します。どんどん、要注意存在を介入させます。こうして、深みにはまっていくのでしょう。
 蜜らしくなったら、目の細かい茶こしで漉して、できあがりです。


 黒い!

 もう、黒糖もきび砂糖もありません。黒蜜です。全てを知ってしまった黒蜜です。だからこそ、あんみつや白玉をあんなに美味しくできたのでしょう。
 いくら清楚に見えても、綺麗なもの、美味しいものには、裏が居ます。


 (3)につづきます

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クリスマスケーキの予約を逃した方のために、デコレーションういろのご案内(1)

 今年も、走って閉店間際の店舗に駆け込み誰かのために椅子を購入しそれを抱えて電車に乗り込みたい時期になりました。
 街の夜の下、灯りと人々がきらきらしています。ダウンコートのポッケに片手を入れて、マフラーをくるくるに巻いて、肩幅を狭めて背を丸くしていると、血流が悪くなって、肩こりしてきますが、街のたくさんのきらきらを見遣ると、寒い緊張も少し解けて、肩のこりもいくらか和らぎます。クリスマス前の楽しみ方は、そのようなちょっとずつの合わせ技でいいのではないでしょうか。


 イルミネーション点灯はケーキのお知らせです

 当日は、大きなケーキを囲んだり、大きなケーキに囲まれたりして、イチゴと生クリームを飛び交わせ、メリー、メリーと派手やかで楽しいたらふくのひとときを過ごせばいいのではないでしょうか。甘みは、肩のこりも胸のこわばりも解きほぐしてくれます。
 そうそう、だから、ケーキ、大きいのを予約しなくてはいけません。百貨店で。
「無い……」
 ありません。うかうかしていました。クリスマス以外の何やかやが年末にとんとん拍子に私を責め立ててくれましたので、ケーキを見に行く余裕がありませんでした。気がついたときには十二月。
 百貨店は、早いところでは、十月から予約が開始されます。まだカボチャの熱気立ちこめる時に、イチゴとクリームはウォームアップをしていたのです。よって、うかうかして十二月にそろそろケーキなどと言うのは、百貨店のケーキさん達からしたら、ちゃんちゃらおかしい、のです。
 それでも、まだ……、と淡い期待を抱きつつ、百貨店巡りをいたしました。


 ジェイアール名古屋タカシマヤさん

 こちらは、十二月の初めにうかがいましたが、カタログさえも無かったようです。「おせち承り中」があちらこちらに。


 三越栄店さん

 こちらも、カタログは早くも無くなっていました。


 名鉄百貨店本店さん

 こちらは、カタログはありましたが、いくつかのお店のケーキは完売です。


 松坂屋名古屋店さん

 こちらも同じく、完売マークがずらずらと。


 丸栄さん

 こちらは、まだ余裕がありました。しかし、今日が予約締め切り日です。品切れになったであろうと思います。

 つまりは、もう、手遅れです。改めて、手遅れを思い知らされて、とぼとぼと百貨店地下名店街をあてどもなく彷徨しました。ショーケースの中には白と朱のカットのショートケーキ。手を伸ばせば届くところにショートケーキ。しかしながら、クリスマスイブには(23日も25日もです)、大きなホールのあなたたちには触れることができない。実に寂しく、悲しいです。(附記:プチガトー、ピースのケーキも当日夜はかなりの行列ができるはずです)
 鬱々ととぼとぼと、さらに名店街を廻ると、和菓子コーナーに行き着きました。こちらもクリスマス版になっていますが、洋菓子コーナーほどの張り詰めた感じはありません。店員さんから、どこかしら、ゆったりした感じの「いかがですか?」のお声が掛かりました。
 ショーケースを見ます。あんこなどが居ます。もっちりしたのがあります。生クリームはありません。
 今年、私は、例年よりも和菓子をたくさんいただきました。お正月、初詣帰りにたまたま立ち寄った和菓子屋さんで煉りきりを購入し、そのたたずまいにすっかり惹かれました。
 あのとき、大福を。あのとき、ちまきを。あのとき、若鮎を。あのとき、水ようかんを。あのとき、くりきんとんを。今年の和菓子が走馬燈のように駆け抜けていきます。
 そうだ、これだけ、和菓子に心癒されたのだから、和菓子に感謝の念を捧げるべきだ。
 頭の中の走馬燈の明るさが増しました。
 なにも、洋菓子ケーキに拘泥することはない。和菓子でもクリスマスをお祝いできる。クロース翁も「おー、フィンランドにはないケークですネ」と仰ってくれるに違いない。
 和菓子を尊重しつつ、派手やかに、楽しく、デコレーションケーキを作ってみようではありませんか、と己に言い聞かせて、素材集めの気持ちに勢いよく切り替えました。


 洋菓子デコレーションケーキへの想いはありますが……

 ケーキですと、スポンジを作るのが結構厄介です。今は、出来合いのスポンジも販売されています。同じ要領で、和菓子版を調達です。あとは、デコレーションのいろいろを。
 困ったときは、こちら。


 ハンズさんの頼もしさにはいつも甘えてしまいます

 東急ハンズさんには、製菓材料もかなりの数が揃っています。あれに、これに、それ、とかごに入れていきます。
 うーん、それでも、足りないものが出てきますね。それならば、こちら。


 成城石井さんにも甘えてしまいます

 成城石井さんならば、食材はさらに豊富。あ、あった、あった。これで八割くらい揃いました。あとは、再び百貨店地下に潜り、生鮮品を買い足します。
 あとで分かりましたが、近くのスーパーではこの八割が揃いました。思いつきで行動すると、このようなことが多々起こります。下調べが大切です。ですが、私の八割が思いつきですので、食材集めはこれで良いのだと思います。
 残りは、その近所のスーパーで集めたり、家にあるものを使うことにします。


 これで、デコレーション……、してみます

 思い切り和風です。これならば、和風デコレーションケーキになりそうです。
 さて、行き当たりばったりお菓子作りを始めましょう。


 (2)へつづきます

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