味わいつくそー、「鮎菓子たべよー博 2019」
鮎菓子に対する思いを篤くしている人がこれほどまでにいるのか。会場前の行列を見て驚きました。既に開場から一時間以上が経過しています。入場規制の列です。これほどまでに鮎菓子に対しヒートアップしている人がいらっしゃるとは……、一か月前からうっすらと感じてはいました。このイベントの一企画のチケットが取れなかったからです。当該チケットは先着順という告知が為されていました。私はそれでも油断していました。
「500円で『鮎菓子食べ放題』のチケット、僕は魅力を感じるけれども、世間一般はさほどでもないだろう」
と高を括っていたのです。結果、発売開始日の夕方にチケット販売サイトを見ると、購入手続きボタンがグレーになっており押すことができませんでした。全くの出遅れです。調べてみるとどうやら即完売だったようです。クロールで泳ぐ人々を相手に古式泳法横泳ぎで挑んだようなものです(毎週『いだてん』を観ています)。
「鮎菓子たべよー博 2019」は岐阜商工会議所の実行委員会が主催で、県下の和菓子店が一堂に集い、鮎菓子に次ぐ鮎菓子、東西南北上下どこを向いても鮎菓子に彩られた年に一度の鮎菓子の祭典、博です。私はこの博を昨年の博の日に知りました。テレビニュースで流れたのを見て、「行こう」と思ったものの、すでに博は後半の時間。電車に飛び乗って博の会場に行っても鮎菓子は泳いでいった後、ということが明確に分かる出遅れでした。昨年のこの悔しさを繰り返すまいと、桜のつぼみが色付く頃から「鮎菓子たべよー博」の動向を注視していました。それなのに、再びの出遅れを喫し、チケットを取り損ねたのですから、うっかりにもほどがあります。
うっかりでがっかりですが、「もう起き上がりたくない!」と枕を涙で濡らすほどではありませんでした。そりゃあ、ワンコイン500円で40分間鮎菓子を食べ放題できるチケットはうらやましいですよ。でも、私の主たる目的は、一堂に会して販売促進にいそしむ岐阜の銘和菓子店からちょっとずつ色んな鮎菓子を手に入れることでしたから、立ち直りは早かったです。気持ちの切り替えが早いのは心がすくすく成長している証しでしょう。
話しを冒頭に戻します。即完売するほどの人気を有す食べ放題に行列ができるのはまだ分かります。それとは別のフロアに設けられた和菓子店の即売会場の入り口にまで入場規制が掛かっていたのが驚きでした。岐阜の人たちはこんなにも鮎菓子を心に留めていたのか。
行列に並んでいる間に、「鮎菓子たべよー博 2019」を復習しておきましょう。今年で4回目のこのイベントは、岐阜商工会議所の「もっと鮎菓子のことを知ってもらおう。東濃にはくりきんとんがある。水都大垣には水まんじゅうがある。清流長良川の岐阜には鮎菓子がある!」という思いで運営されています(そう明言はされてません。なんとなくの雰囲気です)。岐阜県内の他の和菓子だけではなく、やや離れたところの、強力なライバルにも目が向けられています。京都です。鮎菓子もしくは別名の「若鮎」は京都の銘菓という一面も持っています。もしかしたら、全国的に見れば京都の方がメジャーな感じがあるかもしれません。それでも岐阜の鮎菓子販売に携わる方々は、「相手にとって不足はない。我々の鮎菓子もたいそう美味しいのである」という意気込みが、壁の向こうから待機行列の私のところまでひしと伝わってきました。この博は岐阜の気概なのです。
「買おー」(鮎菓子の販売)、「食べよー」(鮎菓子食べ放題)、「作ろー」(オリジナル鮎菓子作り)、「楽しもー」(工作教室など)、盛りだくさん。
規制が解除され、岐阜商工会議所の大会議室にようやく立ち入りました、ここは普段は商工の方々が会議をなさっているのでしょうが、この日は至るところに鮎菓子。つぶらな瞳をした鮎菓子が、ケースに、棚に、テーブルに何匹も、何十匹も、何百匹も。
東西南北天地全体鮎菓子状態
お店で鮎菓子を見るといつもほのかな戸惑いを覚えます。鮎菓子の助数詞は「個」なのか「匹」なのか。私はできるだけお店の表示に従うようにしているのですが、「個」のお店もあれば「匹」のお店もあります。鮎菓子と様態を近似せしめているお菓子に「鯛焼き」があります。これへの対処はさほど難しくはありません。お店の人に「こんにちは。鯛焼き黒あん二つください」でいいのです。「つ」です。でも、鮎菓子に「つ」は相応しくないような気がしてなりません。「個」あるいは「匹」の助数詞のどちらかに絞るべし、という魂魄が鮎菓子の灼けた身中から、求肥の粘りのようにじわりじわりと伝わってくるのです。鮎菓子の個性を尊重すべきか、鮎の見立てを重んじて匹と呼ぶべきか。難問を頭の中だけで回しても鮎菓子が手に入るわけではありません。中庸の立場を変えず、素直にお店の表示に従うことにしました。あるお店では「二匹ください」、またあるお店では「抹茶味を一個、プレーンを二個ください」というように、状況になびきました。今回の目的は色々なお店の鮎菓子を一ぺんに手に入れられる機会を楽しむことなのですから。助数詞についてはこの度は棚に上げて、今後、思いついたときに下ろして、生涯を通して考えていきたいと思います。
看板の周囲を彩っている鮎菓子は市内小学生の手によるものだそうです。
メイン会場のフロアに展開している和菓子店の販売ブースでは、定番の鮎菓子だったり、限定の鮎菓子だったりを四分割したほどの大きさで試食ができるようになっていました。食べ放題は逃してしまいましたが、それぞれのお店で一切れずつ試食をいただいたら、結構な案配でお腹が満たされていきました。「なんだ、食べ放題無くてもいいじゃないですか」と瞬く間に上機嫌になっていきます。複数のお店で試食を勧められたのが「スイカ味の鮎菓子」でした。新鮮な鮎はスイカの香りがする、と言われています。それはあくまで「スイカっぽい香り」を言っているのでしょうが、和菓子屋さんは真剣にスイカと格闘なさったのです。その成果が「スイカ味の鮎菓子」なのです。すっきりとした甘みで美味しかったです。あと、「鮎ですから、スイカの味で作ったのですよ!」というお店の方のキラキラした笑顔が印象的でした。
鮎菓子の販売会場には、鮎菓子の着ぐるみキャラクターや、テレビに出演なさっているハンサムもいらっしゃっていて、「鮎菓子が好き」の方々だけではなく、「鮎菓子も好き」という方々でも楽しめるように趣向が凝らされていて、老若男女、鮎菓子を好きになってほしいという主催者側の意気込みがこれまたひしひしと伝わってきます。
岐阜のPRキャラクター「ひあゆ丸」はお子たちにつつかれていました。大人気。
試食を堪能し、目当ての鮎菓子を手に入れ、ゲストの方々も見て、満足満足。……となったところで、会場の端の方で「鮎菓子グッズ」が販売されているのを見つけました。よくできています。鮎菓子をモチーフにして、木製、革製の小物がありました。確かに木の色、皮革の色と鮎菓子の焼き色は似通っています。なるほど。よく考えたものです。これらが会場に入ってすぐに目に飛び込んでいたら手を出していたかもしれません。予算が足りなくなったときに気付いたのが極めて残念です。鮎菓子型のバターナイフ、良かったなあ……。
メイン会場を後にすると、鮎菓子作りの実演コーナーがありました。これが実に良かったのです。職人さんが透明の仕切りで作られたブースの内で、黙々と鮎菓子を作っていきます。お子様は透明の仕切りに顔を近づけ、大人は透明の仕切りに顔を近づけたいのを我慢してお子様の頭の上を越して職人さんの手元に目を遣ります。
鉄板に生地を流します。
15枚の丸い生地を焼きます。
しばらく待ちます。
直方体の求肥を焼けつつある生地に乗せます。
しばらく待ちます。
おもむろに鉄板に手を伸ばし、求肥の乗った生地を取り上げ、くるりと巻いて、生地の片端だけをきゅっとつまみます。
次々に、くるっ、きゅっ、として、出来上がり箱(正式名称が分からない箱。10cmくらいの高さで、体の幅の1.5倍くらいある箱。横にお店の名前が印刷されている箱)に乗せていきます。
全ての鮎菓子の原型が出来上がり箱に乗ったことを確認します。
火に掛けておいた焼き印を箱の中の鮎菓子原型にぽんぽんとはたくように押していきます。
並べて焼いた生地に求肥を乗せて……
手で丸めて……
尻尾をつまんで、ケースに入れて……
焼き印をぽんぽん押して出来上がり
次々と現れる鮎菓子の完成品。ブースを取り巻いていた人たちからは嘆息がもれます。職人芸というものは、いつどのようなものであっても、なめらかに、余剰が無く、正確なのだと改めて思いました。こうして、ひとつひとつが速やかに作られるから、求肥と生地というシンプルな澄みやかさを持った味わいになるのかもしれません。
会場にはこの他にも、工作教室や記念写真撮影スペースなどがありました。工作は開始時間が決められていておりそれに合わずに断念しましたが(予算の都合もありました)、記念写真スペースは無料で空いていたので、入ってみました。この記念写真は、
「鮎菓子になれる」
ものです。鮎菓子を模した人体大のビニールシートがありまして、片面に鮎菓子の焼き印の絵がプリントされています。これにくるまって、寝転べば、鮎菓子になった(正確には鮎菓子の中からはみ出た求肥になって)写真が撮れるのです。私が見た中ではこの博一番の良企画だと思いました。鮎菓子を一通り食べて、見て回って、すっかり鮎菓子に心を寄せたところで、自らが鮎菓子になれるというのですから。鮎菓子シートは大人向け、子供向けそれぞれの大きさのものが用意されており、背景もきちんと鮎菓子が焼けている感じに作り込まれています。また、ご家族が一緒に撮れるように係りの方も常駐なさっており、撮影をお願いすることもできます。係りの方の雰囲気は明るく、被写体の鮎菓子人間の表情をほぐして下さり、見事な撮影技術を以ってベストのアングルで撮影してしてくださいました。
図解・鮎菓子になれるしくみ
初めの入場規制の時間を除くと、1時間強。ここまで鮎菓子を楽しめるとは思いませんでした。食べ放題のチケットが無くても、足を運ぶ価値は十分にありました。でも、来年こそは食べ放題チケットを……、とは申しません。今、岐阜駅前・柳ケ瀬周辺はまた徐々に活気を取り戻しつつあるように見えました。鮎菓子食べ放題の分を、街歩きと、カフェや洋食店などでのランチに充てるのが好もしいような気がします。
◎リンク
・岐阜商工会議所 https://www.gcci.or.jp/
・鮎菓子たべよー博(Facebook) https://www.facebook.com/ayugashi.tabeyohaku/
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