イタリアの空の下で蕩かす(カライビケ:ヴェストリ)
スパゲッティをたぐりながら思った。イタリアにバレンタインデーは無い。
辞書を見ると、聖バレンタインは三世紀にローマで殉教したとあるので、どの国よりも、バレンタインデーと関係が深そうだ。けれども、チョコレートが似つかわしくない。地中海性気候にチョコレートが合わない。青く広がり、白を刷いた空気に、チョコレートが合わない。
ブーツ型のイタリア国。足の入り口のところは似合いそうな地域と接しているので、似合うかもしれない。けれども、イタリアでひとくくりにすると、やっぱり似合わない。
それに、2月14日にはにかむ、というのも似合わない。イタリアの人の愛情表現というと、真っ先にパンツェッタ・ジローラモ氏が思い浮かぶ。彼に年に一度のそわそわは似合わない。
「チャオー。チョッコラータ、デスネー。アモーレー」
と、一年中受け入れ体勢も差し上げ体勢も整っていそうだ。バレンタインデーである意味が無い。
最後の一本のスパゲッティを飲み込んで、思った。あえてそこで、チョコレートを出してみたらどうなるのだろうか。いっそのこと、パッケージは青にする。軽みのある青。
涼しげな箱と深紅のリボンの組み合わせ
なかなか、好ましい。ジローラモ氏のように、素直にアモーレと言い出せる軽さだ。もちろん外の紙袋も青くしている。相手の腰に手を回しながら、もう片方の手でふたを開ける。イタリアっぽい良い感じになってきた。
「カライビケ」はカリブをイメージしたアソートです
そして、耳元に吐息をかけながら、なにごとかささやいている。こちらには聞こえないが、甘美なことばを並べているのであろう。その連なる甘さは耳に心地よく、のどをくすぐり、頭をくらませている。奥底にほんの少しだけちくりと紅い刺激を持たせることも忘れていない。心をほぐすイチゴとミルクの甘さ。
イチゴミルクの「フラーゴラ」と、ココナツの「ココローコ」
スパゲッティが盛られていたお皿をどかして、エスプレッソを一口飲む。
そうして、油断させたところで、重い一撃を舌先に載せるのだろうな。ただ甘いだけじゃないところを見せるのだろう。柔らかくて浮き立つような甘さから、とっしりと押さえつけるような甘さへと引き込む。シャリシャリとしたココナツの引っかかりは、重みのある香りとしっかりと濃い空気と強い日差しを押し詰めた甘さを見せる。それは、さっきのイチゴミルクの甘さからはすぐに移らない。重く、詰まった甘さを、強めの苦みでくるんでいる。「あれ? 苦いのかな?」と思わせておいて、角度を変えた甘さを頭にしみこませていく。じんわりと、しびれるようにそれは進む。洋酒の力を借りながら。褐色の笑みを浮かべながらそれは進む。もう、逃げられない。
表情と内心です
二杯目のエスプレッソ、最後の一口を飲み干す。苦い。しかし、また、彼は、甘い穏やかな攻めへと移る。
ココナツの香りはする。けれども、瞬間前のような、苦みや刺激は無い。クリームのように絡みつく甘さは最初のひとことよりも強い。ココナツの重みのある香りにとろりと醸されたようなパイナップルの甘み。既に酔いは回っている。ここに一途な甘さを繰り出していく。勝負はもうついているのに、手を緩めない。
いけない。それ以上、彼のペースに乗ってはいけない。それは分かっているが、手遅れなのは誰の目から見ても明らかだ。しかしながら、彼は、最後の仕上げに取りかかる。
冷たい直角二等辺三角形のティラミス。これはたらふくでもするりと入る。九十度のところにフォークを立てながら、僕は続きを見届ける。
ミルクチョコレートはするりと受け入れられ、抵抗感の無い苦みと、緩急はあったが、最初から途切れることなく続いた甘さを、体の深奥に流れ込ませていく。ココナツの段階でとっくに勝負は付いているのに。もう、止したまえ、と言おうとしたとこで、情熱的なひとことを口にした。
きゅっ、と目をつむってしまうほどの、鮮やかで鋭いパッションフルーツ。この刺激で全てが終わった。
フルット・デッラ・パッシオーネのインパクトは心地よく苦しい
チョコレート、ミルク、ココナツ、太陽、海、柔らかく、優しく、少しだけ痛く。それらが、クリームの緩やかさで、のどと胸に押し寄せてくる。口当たりが良いから、つい受け入れてしまう。警戒感なんてとうの昔に無くなっている。南洋の夕暮れ。止められた時間の甘さが支配している。
だから、バレンタインデーはイタリアには無い。常にこのようなテクニックを隠し持ち、すぐに取り出す用意はできている。爽やかな青さの中には、イタリアの情熱が足を組んで座っている。危ない甘さだ。
空いたティラミスのお皿を見ながら、三杯目のエスプレッソを飲み終えた。さて、これくらいにして、そろそろ出るとしようか。
そう、ここはサイゼリア。
(本文中一部敬称を省略しました。ご了承下さい)
◎店舗・商品データ
・商品データ
商品名:カライビケ(CARAIBICHE) フラーゴラ、ココローコ、ピニャコラーダ、フルット・デッラ・パッシオーネ
価格:\1050
・店舗データ
購入店
店舗名:名古屋三越栄店催事「サロン・デュ・ショコラ」
住所:名古屋市中区栄3-5-1 7階催事場
営業時間:10:00-20:00
定休日:催事期間中無休
アクセス:名古屋市営地下鉄・栄駅からサカエチカ直結。16番出入口すぐ。
公式サイト:http://nagoya.mitsukoshi.co.jp/
※サロン・デュ・ショコラは2013年2月5日まで。2013年2月6日から2013年2月14日まで「2013三越スウィーツマルシェ」開催。
・製造元
会社名:VESTRI(ヴェストリ)
公式サイト:http://www.vestri.jp/
国内主要販売店
店舗名:FIAT Caffe'
住所:東京都港区北青山1-4-5
営業時間:11:30-19:00
アクセス:東京メトロ外苑前駅4番出入口から青山通りに沿って北東に約300mの左手。
公式サイト:http://fiatcaffe.jp/
更新履歴
2018/05/19
リンク切れを修正しました。
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