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2013.02.14

イタリアの空の下で蕩かす(カライビケ:ヴェストリ)

 スパゲッティをたぐりながら思った。イタリアにバレンタインデーは無い。
 辞書を見ると、聖バレンタインは三世紀にローマで殉教したとあるので、どの国よりも、バレンタインデーと関係が深そうだ。けれども、チョコレートが似つかわしくない。地中海性気候にチョコレートが合わない。青く広がり、白を刷いた空気に、チョコレートが合わない。
 ブーツ型のイタリア国。足の入り口のところは似合いそうな地域と接しているので、似合うかもしれない。けれども、イタリアでひとくくりにすると、やっぱり似合わない。
 それに、2月14日にはにかむ、というのも似合わない。イタリアの人の愛情表現というと、真っ先にパンツェッタ・ジローラモ氏が思い浮かぶ。彼に年に一度のそわそわは似合わない。
「チャオー。チョッコラータ、デスネー。アモーレー」
 と、一年中受け入れ体勢も差し上げ体勢も整っていそうだ。バレンタインデーである意味が無い。
 最後の一本のスパゲッティを飲み込んで、思った。あえてそこで、チョコレートを出してみたらどうなるのだろうか。いっそのこと、パッケージは青にする。軽みのある青。

ヴェストリ・カライビケ外箱
 涼しげな箱と深紅のリボンの組み合わせ

 なかなか、好ましい。ジローラモ氏のように、素直にアモーレと言い出せる軽さだ。もちろん外の紙袋も青くしている。相手の腰に手を回しながら、もう片方の手でふたを開ける。イタリアっぽい良い感じになってきた。

ヴェストリ・カライビケ 4個入り
 「カライビケ」はカリブをイメージしたアソートです

 そして、耳元に吐息をかけながら、なにごとかささやいている。こちらには聞こえないが、甘美なことばを並べているのであろう。その連なる甘さは耳に心地よく、のどをくすぐり、頭をくらませている。奥底にほんの少しだけちくりと紅い刺激を持たせることも忘れていない。心をほぐすイチゴとミルクの甘さ。

ヴェストリ・カライビケ フラーゴラ&ココローコ
 イチゴミルクの「フラーゴラ」と、ココナツの「ココローコ」

 スパゲッティが盛られていたお皿をどかして、エスプレッソを一口飲む。
 そうして、油断させたところで、重い一撃を舌先に載せるのだろうな。ただ甘いだけじゃないところを見せるのだろう。柔らかくて浮き立つような甘さから、とっしりと押さえつけるような甘さへと引き込む。シャリシャリとしたココナツの引っかかりは、重みのある香りとしっかりと濃い空気と強い日差しを押し詰めた甘さを見せる。それは、さっきのイチゴミルクの甘さからはすぐに移らない。重く、詰まった甘さを、強めの苦みでくるんでいる。「あれ? 苦いのかな?」と思わせておいて、角度を変えた甘さを頭にしみこませていく。じんわりと、しびれるようにそれは進む。洋酒の力を借りながら。褐色の笑みを浮かべながらそれは進む。もう、逃げられない。

ヴェストリ・カライビケ フラーゴラ&ココローコ断面
 表情と内心です

 二杯目のエスプレッソ、最後の一口を飲み干す。苦い。しかし、また、彼は、甘い穏やかな攻めへと移る。
 ココナツの香りはする。けれども、瞬間前のような、苦みや刺激は無い。クリームのように絡みつく甘さは最初のひとことよりも強い。ココナツの重みのある香りにとろりと醸されたようなパイナップルの甘み。既に酔いは回っている。ここに一途な甘さを繰り出していく。勝負はもうついているのに、手を緩めない。
 いけない。それ以上、彼のペースに乗ってはいけない。それは分かっているが、手遅れなのは誰の目から見ても明らかだ。しかしながら、彼は、最後の仕上げに取りかかる。
 冷たい直角二等辺三角形のティラミス。これはたらふくでもするりと入る。九十度のところにフォークを立てながら、僕は続きを見届ける。
 ミルクチョコレートはするりと受け入れられ、抵抗感の無い苦みと、緩急はあったが、最初から途切れることなく続いた甘さを、体の深奥に流れ込ませていく。ココナツの段階でとっくに勝負は付いているのに。もう、止したまえ、と言おうとしたとこで、情熱的なひとことを口にした。
 きゅっ、と目をつむってしまうほどの、鮮やかで鋭いパッションフルーツ。この刺激で全てが終わった。

ヴェストリ・カライビケ フルット・デッラ・パッシオーネ
 フルット・デッラ・パッシオーネのインパクトは心地よく苦しい

 チョコレート、ミルク、ココナツ、太陽、海、柔らかく、優しく、少しだけ痛く。それらが、クリームの緩やかさで、のどと胸に押し寄せてくる。口当たりが良いから、つい受け入れてしまう。警戒感なんてとうの昔に無くなっている。南洋の夕暮れ。止められた時間の甘さが支配している。
 だから、バレンタインデーはイタリアには無い。常にこのようなテクニックを隠し持ち、すぐに取り出す用意はできている。爽やかな青さの中には、イタリアの情熱が足を組んで座っている。危ない甘さだ。
 空いたティラミスのお皿を見ながら、三杯目のエスプレッソを飲み終えた。さて、これくらいにして、そろそろ出るとしようか。
 そう、ここはサイゼリア。

 (本文中一部敬称を省略しました。ご了承下さい)


◎店舗・商品データ
・商品データ
 商品名:カライビケ(CARAIBICHE) フラーゴラ、ココローコ、ピニャコラーダ、フルット・デッラ・パッシオーネ
 価格:\1050

・店舗データ
 購入店
 店舗名:名古屋三越栄店催事「サロン・デュ・ショコラ」
 住所:名古屋市中区栄3-5-1 7階催事場
 営業時間:10:00-20:00
 定休日:催事期間中無休
 アクセス:名古屋市営地下鉄・栄駅からサカエチカ直結。16番出入口すぐ。
 公式サイト:http://nagoya.mitsukoshi.co.jp/
 ※サロン・デュ・ショコラは2013年2月5日まで。2013年2月6日から2013年2月14日まで「2013三越スウィーツマルシェ」開催。

・製造元
 会社名:VESTRI(ヴェストリ)
 公式サイト:http://www.vestri.jp/

 国内主要販売店
 店舗名:FIAT Caffe'
 住所:東京都港区北青山1-4-5
 営業時間:11:30-19:00
 アクセス:東京メトロ外苑前駅4番出入口から青山通りに沿って北東に約300mの左手。
 公式サイト:http://fiatcaffe.jp/

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2013.02.06

青く熟れた五番街の風(生チョコレート・メロン:フィフスアヴェニューチョコラティア)

 もともと、「菓子」はくだものを指していた、ということは良く知られています。それを承けて、「お菓子をあげるよ」と言われ、心弾ませ、手を差したところ、そこにザクロが一個載せられたらどうなるでしょう。ふんわり甘いスポンジと生クリームの組み合わせを思い浮かべていたら。あるいは、もちもちのお米にバーガンディの小豆の組み合わせを思い浮かべていたら。そこに、九割方が酸っぱさで構成されている、小さいつぶつぶがみっしりと内側に詰まっていて、それをぷちぷちと取りだして口に入れると、さらに小さいぷちぷちの種を避けるようにして、味わってください、と手に載せられるのです。
 わき起こるのは、落胆でしょうか。憤怒でしょうか。
 ザクロが悪いわけではありません。菓子とくだものという二つのことばの関係が問題をこじらせてしまったのです。そのような問題を発生させないために、くだものを「水菓子」と呼んだりします。一品ずつ順番にお料理が出てくる和食のお店では、お品書きの一番左端に「水菓子」が書かれています。
 生々流転。この水菓子のところに、シャーベットや、ゼリーや、ババロアなどが出張ってきていることもあります。彼らはまごう事なきお菓子です。しかし、水菓子ではありません。
 混乱の極みです。
 私は見たことがありませんが、もし、水菓子でさつまいものふかしたのが出てきたら、どうなるでしょうか。植物で、狭義の果実では無いけれども可食部で、甘い。しかし、水菓子として出てきたら、
「ここは、おぬしの出る幕ではない!」
 と、腕を胸元から外側に向けて振り払う力を以て、はね飛ばされるやもしれません(さつまいものふかしたのが悪いわけではありません)。
 様々なパターンを呈示しましたので、まとめてみましょう。
1.くだものっぽいくだもの。
2.くだものっぽくないくだもの。
3.くだものっぽいくだものじゃないもの。
4.くだものっぽくないくだものじゃないもの。
 の、四つのパターンがあると考えられます。1は、容易に思い浮かべることができます。桃とか、蜜柑とかです。「もぎる」果実はだいたい1に当てはまるでしょう。2は、果実だけれども、お菓子の雰囲気とはちょっと違うかも、と思うものたちです。栗(くりきんとんにはなります)がその代表的な存在です。3は、狭義では果物ではないけれども、広義にはくだものとして差し支えないものです。イチゴ、西瓜などは、果実では無いですが、果物と捉えられることが多く、水菓子の肩書きで出てきても、許されると思われます。4は、1から3以外のものです。鰹のたたきなどが当てはまります。まとめてみましょう、と書いてみましたが、ちっともまとまったように見えませんので、皆様各自でベン図を書いて、整理していただければと思います。
 注目したいのは3です。3が水菓子で出てくれば、八方円満におさまりそうです。
 メロンです。
 ウリ科の一年生果菜。木になる果実ではありません。蔓に生ります。狭義のくだものではありませんが、広義のくだものです。しかし、狭義のくだものの上に立つ程の威を持って、くだもの界に君臨しています。初セリがニュースになる数少ないくだものです。木の箱に入っている数少ないくだものです。
 お食事が終わって、最後の水菓子でメロンが出てきたら、「狭義のくだものではないけれども、れっきとした水菓子であると見なす。よって、いただきます」となるはずです。2ではありますが、くだものとも、菓子とも、水菓子とも名乗れる存在なのです。
 ここで、4の分野から、異論が出てきます。その声は、今や菓子と言えばお砂糖や小麦粉や玉子などで作ったものであり、私たちの中にいるそれらをないがしろにするのはいかがなものであろうか、ということのようです。その意見はもっともで、それならば「くだものっぽくないくだものじゃないもの」も、お菓子として迎え入れましょう、となります。連立です。そうすると、曖昧で、元の木阿弥のようですが、後につなげるために、そうします。

 2007年に5thアヴェニューさんの「シャンパン生チョコ」をご紹介しております。シャンパン生チョコは依然として高い人気を持っています。オリジナルの生チョコレートと、シャンパン味は、定番でこの毎年この季節に百貨店の催事に出場していますが、それ以外の味も、期間限定として出品されています。今年は、「生チョコレート・メロン」が登場です。
 5thアヴェニューさんのチョコレートの美味しさは、前に書いているし、改めて書くこともないでしょう、と思いつつ、微笑みを絶やさない店員さんに渡されたひとかけの試食を口にしたところ、涅槃に誘われているかのような多幸感に包まれました。催事会場の喧噪と熱気が一瞬にして消え去りました。無辺の草原に横たわり、冷たい光を総身に浴びているように感じた次の瞬間、片手に紫の紙袋を提げて、部屋に立っている自分がありました。下見のつもりだったのに。
 後悔は後にして、もう一度あの感覚を、とがさがさと包装紙を払うと、見覚えのあるあの木箱が出てきます。シャンパンの時には無かったシールが、この中身がメロン味であることを瞭然とさせています。

5th Avenue Chocolatiere 生チョコレート・メロン1
 5th Avenue Chocolatiereさんと言えば木箱、メロンと言えば木箱

 シールを切って、木箱のふたを開けると、雨上がりの朝のような潤いを持った香りが立ち上ります。すっ、と、さっ、と、数時間前の涅槃が甦ります。しゃらりとしたココアパウダーを指先に感じ、半分のところに歯を立てて、いや、それは性急すぎる、と、三分の一のところに立て直します。すると、かすかな抵抗のみで、するり、とチョコレートに沈んでいきます。
 その途端に、風格を見せるメロンの風味。さらに濃く香り、さらに潤う。摘んだばかりの玉をその場で半分に割ったのではないか、と思わせるほどの、密度の高さ。
 口中を転がる三分の一の欠片は、ころころと舞踏を始めます。柔らかいのに、どこかにしがみつくような感じはありません。全てが軽やかに、涼やかに進んでいくのです。しっとりとした甘味を振りまきながら、少しずつ欠片は小さくなっていきます。
 メロンの味わいが、やや薄れたか、と思わせた時に、チョコレートの芳ばしさと、かしりと堅い甘さが出てきます。これより早くとも遅くともいけない時に、チョコレートが来ます。

5th Avenue Chocolatiere 生チョコレート・メロン2
 見た目は、シャンパンと変わりはありません。

 メロンが舞い、踊った線を、静かに、それでいてしっかりとなぞっていきます。メロンで満たされていた感覚にチョコレートが追いついてきます。メロンがチョコレートにオーバーライトされるのではなく、メロンとチョコレートがマージされるのです。
 本来は、味のはっきりした両者です。混交すると、打ち消しあってしまうように思われますが、ここではそうはなりません。きちんとお互いを尊重し、引き立てあっています。なんというバランスの良さでしょう。
 溶けきってしまうと、まずは、チョコレートから退場します。甘さを落として、ほのかな渋みを残し、それも消し、あとはメロンに任せます。あとを託されたメロンは、青い甘さをとろりと出し、水気の多い果実が持つ、しゃくり、とした食感を思い出させる後味を残します。「青さ」と「熟れ」という、本来は相容れない味わいを、この一粒で感じることができるのです。さすがはあのシャンパン生チョコレートの香りを作った職人技、とうなることしきりです。
 残りの三分の二かけも溶かし終わり、さて、もう一個、となります。気分はそうなるのですが、指先が動きません。もう一個を取りあげることができません。一粒の生チョコレートを食べただけなのに、おなかは、ひとりでメロン一玉を平らげたような豪奢なたらふく感なのです。人差し指と親指の二本指を生チョコレートの上でかざしたまま、しばらくじっとしていると、体の中、どこからともなく、水源間もない清流のように、青い甘さと熟れた芳ばしさが通っていきます。まだ、一粒目が終わっていなかったのです。

5th Avenue Chocolatiere 生チョコレート・メロン3
 心なしか、エメラルド色に輝き始めているように見えます

 水菓子に、この生チョコレート・メロンが出てきたらどうなるでしょうか。目にした途端、怪訝な顔をするでしょう。しかし、のどを通ったとき、それは納得へと変わるでしょう。くだものっぽくないくだものじゃないものとくだものっぽいくだものよりもくだものっぽいくだもののようなくだものっぽいくだものじゃないものが、数センチ四辺に封じ込められているのです。さらに、「菓子」と「くだもの」という呼び名問題も解決させています。こういうことを、一挙両得、というのかもしれません。
 水菓子、すなわちデザートの役は、生チョコレート・メロンに担ってもらいましょう。では、その前のメインディッシュの役は……、言うまでもなく、シャンパン生チョコレートです。


◎店舗・商品データ
・商品データ
 商品名:生チョコレート・メロン(6個入り)
 価格:\1995

・店舗データ
 購入店
 店舗名:ジェイアール名古屋タカシマヤ催事「アムール・デュ・ショコラ」
 住所:名古屋市中村区名駅1-1-4 10階催事場
 営業時間:10:00-20:00
 定休日:催事期間中無休
 アクセス:JR名古屋駅直結
 公式サイト:http://www.jr-takashimaya.co.jp/
 ※アムール・デュ・ショコラは、2013年2月14日まで。最終日は19:00閉場

・製造元
 店舗名:5th Avenue Chocolatiere(フィフスアヴェニューチョコラティア)
 公式サイト:http://www.5thavenuechocolatiere.com/(米国公式サイト)
 ※2013年2月現在、日本には、直営店・常設店は無い模様です。
 以前は、松屋銀座さんに常設店がありましたが、昨年退店したようです。
 参考:松屋銀座ブログ「GINZAのおいしいスタッフ日記―バレンタイン2013 vol.3 "幸福のブタチョコレート"」(2013年1月25日付)
 http://www.matsuya.com/m_ginza/blog/food/2013/01/20130125_1501002013_vol3.html

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