« 航海の波に寄せらるる甘美(ラジョラス・ジントニック:カカオサンパカ) | トップページ | 今日の「山」登りは「きしめん風チョコスパ」 »

2012.02.12

芯の強さが思い出させる(生チョコ:シェ・シバタ)

 心に残るもの、には、忘れられないものと、思い出すものがあるようです。
 相も変わらず、試食をして、美味しいな、と思って、小箱を一つ購入して、帰る途中で我慢できずに箱を開け、一つ口に入れ、美味しいな、と思って、二つめを口に入れ、を繰り返すと、小箱なので、あっという間に無くなりました。
「ああ、美味しかったなあ、たらふくたらふく」
 と思って、途中だった帰り道を継続させました。このあとはあれに寄らないと、明日はあれをしないと、この前のあれをするのを忘れていたな、冷蔵庫のあれはまだ大丈夫のはず、などの多種多様の雑多な日常のあれが頭に浮かんでは消えていきました。
 その継続中に、猛々しいまでに思い出されたのです。先ほど空けてしまったチョコレートの味。
「わあ、美味しかった! あれは、美味しかった! もう無い! 美味しかった。食べたい! どうしよう!」
 この思い出し力は、帰り道を行き道に変化させるほどの力を持っていました。あれに寄らないと、を放擲して、きびすを返しました。

シェ・シバタ 生チョコ 外箱
 ピンク+型押し+銀のリボン

 そして、二箱目のこれです。
 生チョコレートは、彼らの柔らかさそのもののように、最近は人々の中にとけ込んでいます。シェ・シバタさんのこれも生チョコです。商品名は「生チョコ」。なんと飾り気の無い、と思われるかもしれません。しかし、奇をてらわない真摯さ、と思うこともできるのではないでしょうか。
 真摯さは強いです。
 その強さは、ひとたびは心の片隅に退いて、姿をひそめていても、失せてしまうことはありません。
 3cm四方を取り上げると、生チョコです。くちびるに近づけます。その1cm手前。軽く開けた口から鼻へと、鼻からのどへと、香りが動きます。甘みと苦みがすっきりとしなやかに通っていきます。

シェ・シバタ 生チョコ 3個入
 ココアパウダーが柚子味で粉砂糖がアールグレイ味です

 歯触りは、ねっとりと絡みつくよう。先だっての香りにしては重い、と感じながら、もくもくと溶かしていると、絡んだ食感は潔くほどけます。
 歯から舌へ。ぽってりとした重さ。生クリームの重さ。重さは口から胸へと下りていきます。甘みもあります。しっかりしたカカオの香り。そこに柚子のわずかな酸味とクセが徐々に強まっていきます。
 甘み、苦み、酸味、柑橘のクセ。これらは芯の太い風味です。でも、次の一個へ移るまでの短い時間のうちに、快く去っていきます。
 アールグレイ味の方が、いくらか甘みが強く感じられました。同じく、歯にねっとりと絡みつき、舌に移り、とろける。その頃に来る味は、華やか、絢爛。瑞な風が口を満たします。
 甘さと茶葉の香りが渾然となります。ミルクティーに似ているようで、それには如かず。温和に、鮮やかに後から後からアールグレイが連なってきます。でも、それも、形が無くなり、少しの間までです。にこやかに涼やかに風合いは去っていきます。
 自らの重みをさしでがましくなく感じさせ、頃合いを逃さず、密度を一気に低くし消えていきます。

シェ・シバタ 生チョコ 柚子&アールグレイ
 自然な形の内にある強さと潔さ

 重くて、消える。これが、この生チョコの持ち味です。
 そして、しばらく、また、しばらくと、時間を置いたときに、彼の力が発揮されます。
 拡散した風味が一気に集まります。ぎゅっ、と密度が高くなり、そこにあるかのような重さがよみがえります。
 そうなると、居ても立ってもいられません。「思い出す」のです。一度、心に浮かび上がると、抑えられないほどの衝動の強さです。
 それで、もう一箱、となりました。今また、思い出しています。居ても立ってもいられない思いで、書いています。
 この生チョコに籠められたであろう念の強さと、味わいを思い返しますと、陶然となり、目が潤みそうです。
 これだけ「強い」チョコレートですが、季節のお品としてはお手頃な価格です。ぜひ多くの方々に味わっていただきたいと思うのですが、残念ながら、岐阜県・多治見市か、名古屋市の店舗、もしくは、名古屋の催事会場でしか、入手できないということでした。
 忘れられない味。頭の中で現せるのですから、素晴らしいです。
 思い出す味。すぐに手に入れ、味わうことができない場合は……、罪作りな味です。


 ◎店舗・商品データ
 ・商品データ
  商品名:生チョコ(3個入)
  価格:\580

 ・店舗データ
  購入店
  店舗名:ジェイアール名古屋タカシマヤ 催事「アムール・デュ・ショコラ」
  住所:名古屋市中村区名駅1-1-4 10階
  営業時間:10:00-20:00
  定休日:期間中無休
  アクセス:JR名古屋駅直結
  公式サイト:http://www.jr-takashimaya.co.jp/
  ※「アムール・デュ・ショコラ」は2012年2月14日まで。最終日は18:30閉場

  主要販売店
  店舗名:chez Shibata Nagoya(シェ・シバタ 名古屋)
  住所:名古屋市千種区山門町2-54
  営業時間:10:00-20:00
  定休日:火曜日
  アクセス:名古屋市営地下鉄・覚王山駅1番出入口から、栄方向(西方向)へ約40m、「覚王山」交差点を右折し、日泰寺参道に沿って約120mの右手。
  公式サイト:http://www.chez-shibata.com/

 更新履歴
 2018/05/19
 画像のリンク切れを修正しました。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

|

« 航海の波に寄せらるる甘美(ラジョラス・ジントニック:カカオサンパカ) | トップページ | 今日の「山」登りは「きしめん風チョコスパ」 »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 芯の強さが思い出させる(生チョコ:シェ・シバタ):

« 航海の波に寄せらるる甘美(ラジョラス・ジントニック:カカオサンパカ) | トップページ | 今日の「山」登りは「きしめん風チョコスパ」 »