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2012.02.10

航海の波に寄せらるる甘美(ラジョラス・ジントニック:カカオサンパカ)

 板チョコ、は、まず名前で損をしていると思うのです。
 歴史はあります。スーパーマーケットでおなじみの各社板チョコのページをご覧ください。「~年から変わらず」「~年以来」「~年に初めて」などのことばが躍っています。色々なチョコレート菓子がありますが、全ては板チョコから始まっているのです。
 始祖としての確固たる地位を築いている板チョコですが、その地位ゆえに容易に姿を変じることが叶いませんでした。初代校長の肖像のように、厳格さを保たねばなりませんでした。
 その間、初代のもとから様々な師弟が羽ばたきました。あるものは中に果実を抱き、玄き珠となりました。またあるものは大気をまとい、天弓を越えるほど軽くあろうとしました。そしてまたあるものは、その柔らかき資性をもって、姿態を変え、きのこやたけのこや船舶など、万物の形象を現そうとしています。
 その間、初代校長も装いを変えておりました。しかし、人々は、彼のものを見てことばを交わします。
「あれ、この板チョコ、外側のデザイン変わったよね?」
「そうかな? 前からこういうのじゃなかった? いつから変わったっけ?」
 あんまりです。でも、初代は度量が大きいので、気にしないふりをして、威厳を保ち続けます。
 板、というのも、あんまりです。師弟は「ボール」「バー」「フレーク」「チップ」「山」「里」など、その風体に合わせて、人々に親しんでもらえるようにと、二つ名をもらい受けています。
 板。
 抗いようが無い断定です。しかし、
「あなたは板ですか?」
「いかにも私は板であります」
 彼のものは、問われれば荘厳さをもってそう答えるはずです。その有り様を誇りとしているからです。
 登山者の背嚢の中には、今でも板チョコが入っているのでしょうか? 彼のものはただ実用的であろうとしました。
 手作りチョコレート。市井にカカオマスから作る方がどれほどいらっしゃるでしょうか。
「『贈られるならば? ガナッシュ、ジャンドゥーヤとか……、ボンボンも……、ジュレが入っているのも……。でも、板チョコが案外いいですね』というアンケート結果も!」
 もう、これ以上は止めておきます。これ以上、彼のものの威厳を傷つけるに及びません。

ラジョラス・ジントニック 外箱
 お洒落ですが、平たい

 これは、ラジョラス、です。長方形で平たいチョコレートです。
 カカオサンパカさんの、板チョコレートは、ラジョラス、という名前です。スペインでは、この称号を以て国王陛下に謁見しているのです。広き海洋を渡りし頃の威厳は、チョコレートに於いても健在です。

ラジョラス・ジントニック 外箱側面
 隠れたところに情熱的色味

 バルセロナの本店では、ラジョラスのホワイトチョコレート「ロサス・イ・フレサス」が一番人気とのこと。このシーズンの各地の催事でも、ロサス・イ・フレサスがやはり一番人気とお聞きしました。カカオサンパカさんは、出店されている催事会場ごとに品揃えを若干変えていても、ロサス・イ・フレサスは外すことなくお取り扱いされているようです。
 そのため、試食でロサス・イ・フレサスをいただけます。
 薄いピンクの中に、細かくローズピンクの粒子。桜絨毯の中に紅梅が散っているような趣き。地中海、バルセロナというよりも、春の和の雰囲気を湛えているように思われます。
 ひとかけら、手のひらで受け取り、味見をします。
 すると、和の雰囲気はどこへやら、一気に欧州の華やかな庭園へと誘われます。バラの花弁を口にしたらこのような味なのだろうな、という貴く聖らかな香りに充ちます。華華の女王と呼ぶに相応しい香り。気品と烈しさを併せ持ちながらも、押しつけられるような、圧迫感は覚えません。
 君臨するバラの香りから弾け出るイチゴのすっぱさは、爽やかに明るく。
 両者のきらびやかさを、ホワイトチョコレートが雄大に柔らかく甘く受け止めています。
 ほんのひとかけらでこれだけの印象を与えるのですから、一番人気もむべなるかな、です。
 今回の試食の前に、これは分かっていました。既に、試食したことがあったからです(今回、カカオサンパカさんは名古屋初出店です。以前は、別のところでいただきました)。試食ばかりなのを心より申し訳なく思っております。以前の試食で迷いました。迷った挙げ句に、購入を見送りました。後日、惜しいことをした、と思いました。今回、名古屋初出店の情報をかぎつけました。駆けつけました。試食しました。また、迷いました。
 他にも、魅力的なラジョラスが並んでいるのです。私が優柔かつ不断に迷っているのを見て取られた店員さんが、ご親切に試食分をお出ししてくださいました。本当に試食ばかりで申し訳なく思っております。

ラジョラス・ジントニック 内部包装
 航海の果てにカカオにたどり着いた先人に敬意を表している、のだと思います

 ラジョラスの「ジントニック」を選びました。
 こちらは、少々無骨な雰囲気です。海で灼けた人々が、陽気にお酒をあおっている姿が浮かびます。

ラジョラス・ジントニック 全体
 これ以上ないくらいの板っぷり

 ジントニックのベースはミルクチョコレートです。ただ、ビターチョコ、ダークチョコほどではないにしても、甘さはやや抑えめです。一片を口に放ると、最初に、仄かはありますが、きっ、とジンの熱い刺激が伝わります。最初に目が開かされるこの印象は、味は大きく違っていても、ロサス・イ・フレサスと通底するようです。
 ジンの熱気が収まってきて、やや角の取れた頃、奥歯でかみしめると、しゃりっ、という音とともに、またもや別の切れの良い刺激が現れます。レモンの酸味です。イチゴの明るさとは別の風合いを持った明るさ、やや羽目を外したような、痺れにも似た強い酸味です。思わずまぶたを閉じ、眉間を寄せてしまうすっぱさ。寸前の熱気を払い、ミルクチョコレートの甘さを高く飛び越えてきます。

ラジョラス・ジントニック カカオサンパカロゴ
 強い意志をうかがわせる刻印

 熱気、元気、これらが口中を圧倒するのも、つかの間。前の時を落ち着かせて、寡黙なミルクチョコレートがじっくりゆっくり甘みを広げて五臓六腑へと移っていきます。
 五臓六腑です。お酒をたしなんだときの定番の文言です。おなかの中で、再び、ジンとレモン、そして寡黙だったはずのミルクチョコレートまでが、「たらふくになるのはまだまだ早いよ」とばかりに、しばし騒ぎ出すのです。
 二度楽しめるとは、このこと。
「もう一杯」
 が、お酒の定番となっている方は、思わず、そして、すぐさま、ラジョラスをもう一片割ってしまうことでしょう。
 贈り物には……、ロサス・イ・フレサスを一枚、ジントニックをもう一枚。ジントニックが取り扱われていなければ、試食をされてお気に召したものを。

ラジョラス・ジントニック 細分化
 ぱきっ、と硬め

 はじめに、板チョコの威厳、などと書いてしまいましたが、板チョコは親しみやすさもずっと持ち続けてきました。憧れの存在から身近な存在へ。板、という形状により、どなたでも気軽に手に取ることができるようになっています。顔は厳しくても、穏やかで好好な心中が見て取れます。
 なので、カカオサンパカさんのラジョラスもお気軽に。……と申し上げることができれば良いのですが、スーパーマーケットの板チョコ諸氏とラジョラスとの間には、ややお値段に開きがあります。それゆえ、贈り物でラジョラスの「二枚渡し(複数枚渡し)」は、お味はもとより、形状の親しみやすさと意外性が加わり、喜んでいただけるような気がいたします。
 そのようにラジョラスにいっとき移り気しても、板チョコ諸氏の威厳は揺るぎはしません。歴史が物語っています。
 あと、私は、板チョコ諸氏もラジョラスも、ガナッシュも、ジャンドゥーヤも、ボンボンも、ジュレ入りも、その他も、好きです。


 ◎店舗・商品データ
 ・商品データ
  商品名:Rajoles Gin tonic(ラジョラス・ジントニック)
  価格:\1260

 ・店舗データ
  購入店
  店舗名:名鉄百貨店・本店 催事「サロン・デュ・ショコラ」
  住所:名古屋市中村区名駅1-2-1 7階
  営業時間:10:00-20:00
  定休日:無休
  アクセス:名古屋鉄道・名古屋本線名鉄名古屋駅直結
  公式サイト:http://www.e-meitetsu.com/mds/index.html
  ※サロン・デュ・ショコラは、2012年2月14日まで。最終日は18時閉場。

  国内主要販売店
  店舗名:CACAO SAMPAKA(カカオサンパカ・丸の内本店)
  住所:東京都千代田区丸の内2-6-1 丸の内ブリックスクエア 1階
  営業時間:11:00-21:00(月~土)、11:00-20:00(日祝)
  休業日:元日
  アクセス:東京駅丸の内中央口から、都道402号線を南へ約300mの右手。丸の内ブリックスクエア内。
  公式サイト:http://www.cacaosampaka.jp/

 更新履歴
 2018/05/19
 画像のリンク切れを修正しました。

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コメント

>みんたさん
チョコレート…、いや、ショコラ、と言った方が最近の事情に合っていますね。
バレンタインシーズンの催事名には「ショコラ」が付いていることが多くなっています。
注目の商品も、名前はフランス語で付けられているので、やはりベルギー、フランス、スイスなどフランス語圏がチョコレート菓子の「本場」なのかなあ、と感じられます。

それでも、その他の地域も決して負けているとは思いません。
カカオサンパカさん、催事では、本店一番人気のロサスイフレサスをよくおすすめしていらっしゃるのですが、それ以外のチョコレートも推せばいいのになあ、と思います。ダーク、ミルク、ホワイトをそれぞれ試食に出せば、もっと、嬉しいです。個人的に。

投稿: 桜濱 | 2012.02.27 22:12

こんな顔もあるんですねえ、ヨーロッパ。スイスやベルギーは昔からチョコレートをたくさん消費する国として知られていましたが、離れたスペインも負けてはいなかったとは。
潔い平らかさにキリリとお酒。静かだけど妖しい情熱をもった品と見えます。お高いのもうなずけますが、あまり気軽にというわけにはいかないですね。年に1度くらいはいただきたいものです(遠い目)

投稿: みんた | 2012.02.25 22:20

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