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2012.02.08

いつまでも新しく在り続ける(ノボラスキュ:黒船)

 百貨店に入り、宝飾品売り場を通り抜け、化粧品売り場を通り抜け、下向きのエスカレーターに運ばれ、地下一階に着いたとき、はた、と気がつきます。
「洋菓子売り場に行けばいいのか、和菓子売り場に行けばいいのか……?」
 目的のお菓子について思います。あれは日本語では無い、はず。いや、売っているお店は漢字だった、はず。はて? To 和菓子売り場, or To 洋菓子売り場, That is the question.
 カステラが欲しいのです。
 「カステラ」と聞くと、長崎。長崎というと、西洋異国情緒。よって、カステラは西洋異国菓子。……とはなりません。カステラは和菓子らしいのです。カステラが主力となっているお店の名前をいくつか思い浮かべてみてください。漢字ばかりのはずです。
 実際、和菓子屋さんには、「かすていら」という墨書が張り出されています。カステラは和菓子です。
 「ラ」です。「ラ」が問題の元なのです。ひらがなの「ら」でも同じです。「la」もしくは「ra」の響きは、和菓子向きではありません。本来、日本語(和語)の語頭にはラ行音は存在しません。カステラの「ラ」は語頭ではない。はい、仰るとおり語尾です。でも、「ラ」が付いていると、「洋」っぽくありませんか? 「かすて」と「かすてら」を声に出して比べてみてください。後者の「洋」っぽさを実感いただけると思います。
 和菓子屋さんで売られているけれども、洋風で、けれどもやっぱり和菓子。
 和菓子の一つとして定着していますが、いつまでも最初期の若やぎを持ち続けています。ハイカラ、ということばが、よく似合うお菓子です。ずっと「新しさ」を自然にまとっています。
 その、新しくハイカラなカステラが、さらに新しくなったらどのような姿になると思われますか。

ノボラスキュ・外箱
 白と黒の円筒の中がラスクとは思い難いです

 ラスクになります。
 黒船さんの「ノボラスキュ」のつづりは「NOVO RASQ」。「NOVO」はポルトガル語で「新しい」の意味とのことです。英語の「NEW」、フランス語の「NOUVEAU」、イタリア語の「NUOVO」と形が似ているので、元が同じなのだろうな、と想像します。おそらく、ラテン語からなのでしょう。経験上、このような場合、ラテン語、と言っておけば、60%くらいの確率で正解となるようです。60点は、優良可の可なので良しとします。
 パンをスライスして、かりっかりにオーブンで焼かれたラスクの食感は、人々を引きつけて已みません。たとえ食後に、テーブル、膝の上、衣服に、乾いたパン粉が散らばるという事態が待ち受けようとも、それはラスクへの手を引き留めるにはあまりに弱すぎる力です。
 ノボラスキュは、カステラをラスクにしてしまいました。さらには、ミルクチョコレートまで染みこませています。
 普通のラスク、フランスパンをオーブンカリカリ焼成後はその形と食感がおおよそ分かります。
 カステラをラスク? あのふわふわしっとりをカリカリ焼成? いいのですか、そのようなことをして。
 危惧しました。
 円筒形の箱のふたを、卒業証書入れと同じ要領で開けます。あの春の日、教室に響いたのと同じ音がします。
 がさがさと円筒をを振ると、Qの字が目立つシックなデザインのスティックが数本出てきました。

ノボラスキュ・個包装
 ラスクでした

 一本を取り出し、針金入りの封をくるくると解くと、甘さたっぷりのチョコレートの香りが、ふう、と鼻先をかすめます。
 長さ9cm、幅2cm、厚さ1.3cm。ごつごつだけど、きっちりと面を保っています。一般的なラスクは厚さ1cmほどの楕円形ですが、ノボラスキュはカステラ形状の縮小化という手段により、由来を保持しています。
 指にはチョコレートの重さが伝わります。しかし、全体は、その触感に相応しない軽さです。親指と人差し指ではさんだダークブラウンの一本は、円筒の箱や、個包装、本体のたたずまいに反して、親しみやすさを覚えます。ついつい、ふるふる、と振ってしまいます。チョコレートの粉が少し散りました。

ノボラスキュ・本体
 満遍なくしっかりチョコレートでコーティングされています。

 もてあそぶのはほどほどにして、がじっ、と。すると、こくっ、と折れます。
 途端、ミルクチョコレートのなめらかさと香ばしい風合いが伝わります。開封時と同じ、しっかりとした甘さが印象的です。
 こくっ、と折れた一片を、奥歯で、ごつり、と砕き、「なるほど、これがノボラスキュの歯ごたえなのか」と頷き、思い切りがりがりごつごつを楽しもう、と思った矢先に、さくさく、ほろほろと崩れていきました。最後にわずかな、とろり、と、しっとり。
 あまりの、展開の早さに呆然とします。今度はしっかりと展開を確かめようと心を強くしっかりと立て直し、残った一片を、ごつり、とかみ砕きます。
 表面は、カステラ生地がミルクチョコレートを吸って固まり、ごつり寄りのかりかり食感です。この抵抗感がある間に、まろやかに甘く、ちょっと苦く。それらが強く広がります。この後です。チョコレートの表面は、ころころと崩れゆき、中のカステラが姿を見せます。

ノボラスキュ・断面
 中は、細かい空気を含み、優しい色合い

 実に当たり前の、パンのラスクとカステラのラスクは、口当たりが大きく違うなあ、という嘆息。
 カステラのしっとりがさらに焼成されると、きめの細かいあの生地そのままが、さらさら、ほろほろ、となります。そのほどけ具合に、玉子とお砂糖のあのまろやかさ、甘さが加わっていて、懐かしくて嬉しくて。
 チョコレートと、ほろほろのカステラが、混じり、それぞれが丸みのある香りと甘みを残しつつ、ゆらゆらとたゆたい、とろけてゆきます。
 ラスクの姿を取りながら、「ラスキュ」として生まれたカステラは、まさに「NOVO」を伝える黒船そのものです。ラスクの軽やかさを持ってはいますが、玉子やお砂糖、カカオがふんだんに使われているようで、しっかりどっしりと一本でたらふくに近くなります。だけど、後を引き、あともう一つ、と取り出して、がりがりとしてしまうのは、やっぱりラスクです。
 円筒箱を小脇に抱えて、一人、もくもくといただく、のはやはり寂しいので(でも、この円筒箱はついつい小脇に抱えたくなる大きさです)、仲間内で一本ずつ配って、「美味しいね」と談笑とお茶をお供にどうぞ。


 ◎店舗・商品データ
 ・商品データ
  商品名:NOVO RASQ(ノボラスキュ)7本入
  価格:\1365

 ・店舗データ
  購入店
  店舗名:名古屋三越栄店 催事「スイーツコレクション2012」
  住所:名古屋市中区栄3-5-1 7階
  営業時間:10:00-20:00
  定休日:期間中無休
  アクセス:名古屋市営地下鉄・栄駅からサカエチカ直結。16番出入口すぐ。
  公式サイト:http://nagoya.mitsukoshi.co.jp/
  ※「スイーツコレクション2012」は、2012年2月14日まで。最終日は18時閉場。

  製造・販売元
  店舗名:黒船 自由が丘本店
  住所:東京都目黒区自由が丘1-24-11
  営業時間:10:00-19:00
  定休日:月曜日(祝日の場合は翌日)
  アクセス:東京急行電鉄・自由が丘駅・正面口から東急東横線に沿って北へ約250m。自由通りとの交差点を左折(西へ)して約30mの右手(北側)。
  公式サイト:http://www.quolofune.com/

 更新履歴
 2018/05/19
 画像のリンク切れを修正しました。

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コメント

>みんたさん
そうですね。出だし(歯がめり込む瞬間)は、まさしくラスクです。あのざっくりとした食感です。
ですが、その後の、ほろほろと解けていく感じは、玉子ボーロに近いように思います。水分を一定量以上吸った途端にほろっ、となる、あの感じです。
それでも、カステラが基盤になっているので、しっかりと甘く、ふんわりと優しいお味ですよ。
緑茶が合う雰囲気です。

投稿: 桜濱 | 2012.02.27 21:55

楽しいお品ですねえ。平戸の「かすどーす」を思い出す趣向です。でもラスクふうのサクサクなのですね。
数人で楽しくお茶をいただくのに、ほんとによさそうです。

投稿: みんた | 2012.02.25 22:07

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