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2012.01.24

なんていい陽気だったのだろう ―キルフェボン名古屋店へ惜別の辞

 小春日和。桜匂いぬるキャンパス。日の光を映した噴水。高く広く薄青いドームの中心。季を経るたびに、そのようなものたちが見えて聞こえて触れていったとき、何の気無しに浮かぶことばがあります。
 厳しい冷たさの中、激しい暑さの中、それらが緩む瞬間、固まっていた身と心が、はらん、解けて、頭を上げて甘い空気を吸い込める場所がありました。
 栄駅で降り、セントラルパークに行こうか、サカエチカからデパートを巡ろうか。北へふらりふらりと歩き、服を眺めたり、雑貨を見たり。久屋大通駅に着いたら、アネックスに上がり、フランフラン、プラザ、無印良品、東急ハンズをチェックして、南へ引き返します。三越までくると、少し疲れたかなあ、休もうか、いや、もう少し見てから、と、丸善だったり、ロフトだったり。大津通を歩く頃には、本格的に足は重く、日も傾いていて。
 そして、目に留まります。西から光を受けて白くてぴかぴかと眩しい松坂屋南館一階。
 全面ガラス張りで大津通からは丸見え。そのガラス越しに白いお皿と白いカップと小さな色と色。
 どうしても惹きつけられます。松坂屋南館のドアを押し抜けると、背の低い白い壁。今度はガラス越しではない色と色と嬉しそうな人たち。
 やっぱりここで、と決まります。でも、すぐに入ることができたためしは無かったように思います。いつ行っても、入り口の横、向かって左に並べられた銀色の椅子で待たないといけませんでした。けれども、その待ち時間も楽しく、渡されたメニューを見て、
「あ、今はこういうのが季節限定になっているのか。でも、いつものこれも美味しいし」
 などと、考えているうちに、どうぞ、と促されて店内に。
 白と青。清清しくあたたかい。
 入り口の前のショーケースには、先ほど渡されたメニューの本物が並んでいて、写真と本物はやっぱり違うなあ、これが良いような気がしてきた、となるようにお店が作ってあって、あっさりと気分が高められます。
 お店の中はちょっと窮屈なような、席と席がくっつきすぎているような、でも、必要十分な間というか、きっちりぴしりと詰まっていても、いや、詰まっているからか、お隣さんは気にならず。
 テーブルに運ばれたタルトは、とんがった方にフォークを入れます。果物とカスタードクリームの間を通って、底のタルト生地を、かしり、と割って、タルト生地の破片とカスタードクリームと果物、三位一体に絡めて、を繰り返し。
 最後、タルトの縁を上手く食べられたことが一度もありません。底よりも堅いそれは、フォークを立てても割れず、突いても割れず、ぐっ、と力を入れると、ぱきり、と、二つ三つに割れてお皿に広がり。もうカスタードクリームは残っていないので、タルト生地はなかなかフォークと馴染んでくれず、右に追って、左に追って、やっとすくって、少し口を近づけて、放り込みます。
 お水を飲んで、ふっ、と息をついて、そろそろ出ようか。きびきびと動く、真っ白いエプロン、青と白のストライプのパンツ、チェックのバンダナ、の明るさと元気が目に染みます。
 こういう一連の流れが、キルフェボンの美味しさです。外から丸見えなのも、(ほぼ必ず)待つのも、あれもこれも、何もかも全部込みで、美味しかったです。
 キルフェボンのタルトは、決してお手頃とは言えません。手が出せないほど高価というわけではないけれども、これ1ピースで、夕ごはん、たらふく食べようと思えばできるなあ、くらいなので、迷います。
 なので、「ここぞ」というときのキルフェボン、でした。だから、白い壁の前で待っているだけで満たされていました。今日はここのタルトを食べてもいいんだ、という心の浮く感じだけで美味しかったのです。
 キルフェボンを出て、矢場町駅へ。
「僕は、あっちから乗るから」
「分かった。ここで乗るから。じゃあ、また」
 その時、雨がしとしと降っていても、じっとりとしていても、風が冷たく強くても、思っていました。
「なんていい陽気なんだろう!」

Merci! Qu'il fait bon Nagoya


 ◎店舗・商品データ
 ・商品データ
  商品名:季節のフルーツタルト
  価格:¥672

 ・店舗データ
  店舗名:キルフェボン・名古屋店
  住所:名古屋市中区栄3-16-1 松坂屋名古屋店南館1階
  公式サイト:http://www.quil-fait-bon.com/
  ※2012年1月24日閉店


(本文中の各店舗の敬称は略しました。ご了承下さい)

 更新履歴
 2018/05/18 画像のリンク切れを修正しました。

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