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2011.02.12

チョコレートバーで遊び心を想わせて(バー・オー・ショコラ:シェ・シバタ)

 遊び心、という、心の構え方があります。
 雑誌をぱらりぱらりとめくっていると、「遊び心をくすぐるアイテム」というようなキャプション付きで商品の紹介がされていることがありますね。書かれているとおり、写真や、商品説明を見ておりますと、「あ、いいな」と思います。
 遊び心、というのは、惹かれます。しかし、上記のように、キャプションなどで「遊び心を……」を、と、紹介されておりますと、果たしてそれが、「遊び心」から「いいな」と思っているのか、商品そのものを目にして「いいな」と思っているのか、分からなくなることがあります。
 こういうときは、実際に、実物を見るのが一番です。
 今年も、バレンタインデーがあとちょっとまでやってきました。直前の三連休はさぞかし百貨店の特設売り場は賑わっているだろうと思います。私は、少し先発して、フライングで参じました。
 フライングでも、百貨店のバレンタインカタログのトップを飾るような舶来のショコラティエさんの限定のお品は、売り切れがかなりありました。毎年の光景です。目をつけていらっしゃる方は早い!
 特設売り場では、店員さんがそれぞれのお品をアピールしていらっしゃり、それに引かれて、それぞれのお店のお品をちょっとずつだけど試食をし、それだけでけっこうたらふくになりました(この日、晩ごはんはおなかいっぱいで、食べられませんでした)。一通り、巡りますと、大体の傾向が分かります。今年は、「和風(日本風)」が目に付きました。和の食材をチョコレートアレンジしていたり、和菓子屋専門店も、バレンタインデー用のチョコレート以外の限定商品を出していらっしゃいました。
「乗っかりすぎじゃないのですか?」
 と、思われる方もいらっしゃると思います。でも、それも「遊び心」。いろいろあって、いいと思います。
 各ブランドのショーケースを見ますと、小粒で、トリュフで、生チョコ、というのが、多いですね。もちろん、特設期間外よりも念を入れた作りになっているようです。
 小粒のチョコレート。
 一口入れると、小さな中にも、ふくよかな香りと、華やかな甘味。そこに、各ブランド持ち味の首肯を凝らした、プラスアルファがあるようです。
 そのような、小粒チョコレート。定番です。贈る側も贈られる側も(どのような意味合いがあるチョコレートであっても)、ほんのりと、柔らかな優しさがあります。
 と、そんな売り場の中に、林立した、堂々たるチョコレートが。

バー・オー・ショコラ:外箱
 バレンタイン用限定です

 岐阜県・多治見の「シェ・シバタ」さんの、『バー・オー・ショコラ』です。
 小粒とは正反対。チョコレートバーです。昔懐かしい『ホームランバー』が瞬時に思い出されました。
 子供の頃、よく食べていた『ホームランバー』。当時は、ビニールや箱に入っているのではなく、表側が銀色の紙に包まれているだけの簡易包装。ペリペリとめくって、一口、ひんやり。しばらく、溶かしていくと、木の棒の先端部が表れます。そこにあるのは当たりくじ。
 まさに「遊び心」のアイス。夏場駄菓子のホームラン王。
 それを、柴田武さんがアレンジすると、この『バー・オー・ショコラ』に行き着いた、そのような気がします。

バー・オー・ショコラ:外箱ロゴアップ
 ロゴも光り輝いています

 小さなチョコレートに、ちょっと、飽きたな、と、思われる方は、こちらをご覧下さい。

バー・オー・ショコラ:開封
 きらきら、だけで嬉しくなります

 ケースをスライドさせて開けると、そこには、チョコレートのどっしりとした塊が現れます。でも、そこは、ショコラティエの見せ所です。細かな金粉がほろほろとまぶされていて、年に一度の華麗なる祭典を忘れてはいらっしゃいません。
 お味は、フランボワーズと、キャラメルサレ(塩キャラメル)の二種類。金粉がフランボワーズで、銀粉がキャラメルサレです。

バー・オー・ショコラ:2種
 金銀。折り紙でも金銀は嬉しかったですね。

 遊び心は、この部分。

バー・オー・ショコラ:取っ手
 これに惹かれない諸氏はおられるだろうか

 「木の棒」です。バレンタインデーの華やかなチョコレートの集まりの中で、木の棒、なのです。
 ここを取っ手にして、チョコレートにかぶりついてください、ということのようです。スプーンなんかは要りません。
 なんとも、「遊び心」ではありませんか。『バー・オー・ショコラ』の商品説明には、「遊び心」ということばは使われていません。ただ、目にすると、もうこれ以上の「遊び心」は無い! というくらいの茶目っ気です。

バー・オー・ショコラ:2種全体
 名前通りの「バー」っぷりです

 「食べ物で遊んではいけません!」と、お叱りを受けそうですが、でも「遊ぶ」と「遊び心」は少し違うと考えます。「遊び心」は、そのお品でいかにして口にされる方々から、わくわくした心を引き出すか、ということだと思います。
 「遊び心」でいただきます。の、つもりでしたが、『バー・オー・ショコラ』を眺めておりますと、「遊び心」が、私の「遊ぶ」を呼び起こしてしまいました。

 持ちます。

バー・オー・ショコラ:持つ
 木の良さ

 振ります。

バー・オー・ショコラ:振る
 軽く振るだけに止めてください

 やっぱり、木の棒付きのお菓子を手にすると、ふるふると振ってしまいたくなりますね。これが実に楽しい。重みのあるチョコレートを、軽く振ると、童心が呼び起こされます。懐かしい。
 でも、振りすぎないでください。中がムース状になっているので、強く振ると、ボロボロに壊れます。私は、表面のチョコレートコーティングにヒビが入ったのを確認したところで、慌てて振るのを止めました。
 「遊び心」にうながされるままにするのはここまでにして、チョコレート本来の目的を達成させます。
 まずは、フランボワーズ味から。約1mmの厚さのアーモンド入りのミルクチョコレートコーティングは、少し甘味が強めです。チョコレートのパリッと、アーモンドのカリッが合わさっています。アーモンドの香りと食感がチョコレートの甘さが強く出過ぎないように、調整されているようです。
 その内側には、チョコレートムース。表面のチョコレートコーティングとは対照的に、とろとろでクリーミーな仕上がりです。アイスクリームに近い、とろっ、と感。かなり柔らかめなので、やっぱり「振るのは厳禁!」です。振り、に失敗すると、崩壊の可能性が高くなります。フランボワーズのジャムは、甘味よりも酸味が強めに感じました。チョコレートが甘いので、これくらい酸味が強い方が良いのでしょう。
 とろとろクリーミーなチョコレートのお味と、すっきり、しゃっきりのフランボワーズの酸味の兼ね合いで、勢い良くぱくぱくと食べ進められます。

バー・オー・ショコラ:フランボワーズ断面
 ほっとりととろけるチョコムースとフランボワーズの澄んだ酸味

 一方の「キャラメルサレ」は、フランボワーズジャムの部分が、塩キャラメル味のクリームになっています。フランボワーズのやや強めの酸味が無い分、こちらの方が、少しだけ甘みを強く感じられました。しかし、甘すぎる、ことはありません。出過ぎない「塩味」が、キャラメルの甘みと合わさり、チョコレートムース、チョコレートコーティング、それぞれの、違う甘みを引き立てています。
 そのため、キャラメルの甘みは、やや抑えめです。…と、思っておりましたら、のどごしでしっかりとキャラメルの風味を残していきます。各所、別々の甘みが余すところ無く、表現されています。
 塩の力、は偉大ですね。全体的に、甘っとろとろの感じになりそうなものを、しっかりと引き締めています。

バー・オー・ショコラ:キャラメルサレ断面
 きりりっ、と引きしまった塩キャラメルの甘み

 前述の『ホームランバー』。お子様のお口に合うように、一口でパクリ、といけましたが、さすがに、大人向けの『バー・オー・ショコラ』はお子様には一口ではちょっと、いけないかもしれません。これは、大人の「遊び心」用です。
 なにせ、一本が、長さ120mm、縦横それぞれ35mmです。『ホームランバー』よりも、二回りほど大きいです。
 写真用にカットしましたが、『バー・オー・ショコラ』は、頭から「かぶりつく」のが一番です。「かぶりつく」ように出来ています。フランボワーズも、キャラメルサレも、かぶりつくことで、各部分のお味が一体となります。それでいて、ごちゃごちゃしたところは無く、マーブルのように、それぞれが味が綺麗に口の中で渦巻きめくるめくようでした。

 かぶりつく。かぶりつく。
 どんどんとかぶりつきました。

 大ぶりのチョコレートバーは、二本の木の棒になりました。
 どんどんおなかに入っていきました。しなやかな口当たりですが、さすがに二本両方をいちどきにいただくと、けっこうなボリュームです。
「それじゃ、フランボワーズは今日食べて、キャラメルサレは冷蔵庫に入れて二三日後、甘いのが欲しくなった時に食べよう!」
 と、思うと、ちょっと待って、となります。
 『バー・オー・ショコラ』は、「日保ちが二日」です。
 14日に贈ろうと早めに購入、と考えていると、失敗します(賞味期限に拘らない及び自分用はその限りではありません)。前日13日か、14日当日に購入するしかありません。特設売り場では、他のお店が「二週間、お日保ちしまーす」「4月○○日まで大丈夫でーす」と、売り込まれていらっしゃいましたが、『バー・オー・ショコラ」は完全に逆行です。その日か、次の日まで。誤魔化しは利きません。ちゃんと、外箱に消費期限が印字されています。贈り物用としては、13日か14日に。これもまた、柴田さんの思い入れの強さが感じられます。

 「遊び心」です。

 この新鮮なチョコレートバーで、「遊んでください」の心意気を感じました。味はお墨付きです。
 子供の頃を思い出させる形、取っ手の木の棒、かぶりつく、こと。
 全部、食べる人の「心をくすぐる」仕掛けになっています。
 日保ち二日のため、すぐにいただいた方がいいのですが、店員さんによると、「常温でも大丈夫ですが、冷蔵庫で少し冷やすといいと思います」とアドバイスをいただきました。おことば通りに少し冷やしていただきました。アイスクリームほどではないですが、すこーしだけ、ひんやりしていて、それが、口の中でほわほわと温まっていくのが良い雰囲気です。
 「遊び心をくすぐる」と、文章にしなくても、そのものを手に取れば、それが伝わってきます。大人の方ほど、この『バー・オー・ショコラ』を、楽しく、美味しく、二本味わってたらふく、満足、になれるのではないでしょうか。
 これを書いているのが、12日の夜中です。残りは二日。私は、栄の三越さんの特設売り場で入手いたしましたが、シェ・シバタさん・多治見店、名古屋店(千種区・覚王山)でもお取り扱いされているようです。

 ただ、「遊び心」にしては、『ホームランバー』よりは、ちょっと、値が張ります。
 でも、美味しいので大丈夫。楽しいので大丈夫。
 期間限定、と仰らずに定番商品希望です。

 木の棒には「当たり」は書いていないようです。


 ◎店舗・商品データ
 ・商品データ
  商品名:バー・オー・ショコラ(Barre au chocolat) フランボワーズ
  価格:¥801
  商品名:バー・オー・ショコラ(Barre au chocolat) キャラメルサレ
  価格:¥801

 ・店舗データ
  店舗名:シェ・シバタ(名古屋三越 栄店 7階催事「スイーツコレクション2011」(2011/02/02~2011/02/14))
  住所:名古屋市中区栄3-5-1 7階
  営業時間:名古屋三越栄店に準じる(催事最終日は18時閉場)
  定休日:名古屋三越栄店に準じる
  アクセス:名古屋市営地下鉄栄駅から、サカエチカ5番、6番出口から直結。
  公式サイト:http://nagoya.mitsukoshi.co.jp/


  店舗名:シェ・シバタ多治見
  住所:岐阜県多治見市太平町5-10-3
  営業時間:10:00-20:00
  定休日:火曜日

  店舗名:シェ・シバタ名古屋
  住所:名古屋市千種区山門町2-54
  営業時間:10:00-20:00
  定休日:火曜日
  公式サイト:http://www.chez-shibata.com/

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2011.02.02

春呼ぶ恵みのバウムクーヘン(治一郎のバウムクーヘン:治一郎)

 毎年、同じように言っている気もしますが、今年は寒さが厳しいです。先のセンター試験二日目、名古屋では大雪が降りました。気象庁の発表では積雪が11cmで、これだけの降雪は、9年ぶりだったそうです。9年ということは、私が名古屋に移り住んで以来、一番の大雪だった、ということです。やはり、今年の冬は寒さがひときわ厳しい、のですね。
 ここ十日ほどは、いくぶん寒さが和らいだようですが、まだまだしっかりと、冬、です。かたつむりのようにコタツから離れられません。かたつむりは家を背負って、少しずつではありますが、前に進みます。でも、私はコタツの位置から動きませんので、かたつむりよりも、静かです。前進がありません。いけませんね。
 しかし、この二三日、そんなに静かではいけませんよ、と窓の外から陽が呼んでいるようです。ちょっと、
「暖かいかな?」
 と、思える瞬間があります。ちょっと、春、なんですね。それもそのはず、もうすぐ立春。暦の上、のこととは言っても、春がやってきます。春を迎える準備はみなさんお済みですか?
 立春の前日は節分です。
 聞くところによると、節分で「豆まき」をする方が少なくなっているそうです。昨年、今年は、関西発祥の「恵方巻」が「豆まき」を逆転した(する)とのことです。
 「恵方巻」は、一気に節分の表舞台に出ました。もう日本全国恵方巻です。
 黙して、一方向を向き、ひたすら巻き寿司を一本食べ尽くす。
 奇異なならわし、のようですが、いざそれをしてみると、面白いです。数年前、巻き寿司を手作りして、ひたすら、がぶりがぶり、と食べてみました。達成感がありました。「一仕事済ませた」という気になりました。それが、新しい春を迎える心構えになるのかもしれません。
 これだけ「恵方巻」が浸透して、巻き寿司屋さんは、さぞかしホクホク顔かも、と思いましたら、商魂たくましい、いやいや、応用力のある方が多いこの国。巻き寿司だけに、それを任せてはおけない、と、各分野が食材を巻くことにしたようです。私が見た中では、トルティーヤまで参戦していました。恵方がメキシコ方面限定になりそうな気がしますが、発祥の地の方々がそれをご覧になっても「かまへん、かまへん」なのかもしれません。
 もちろん、甘味もそれに参入しています。ロールケーキ、という、甘味界の巻き担当者がいます。彼に任せておけば、甘味の巻きは安泰でしょう。多くの方も、「甘い恵方巻は、ロールケーキ氏でいいと思います」と委任状を書くこともためらわない、でしょう。
 果たしてそれで良いでしょうか? 巻く、ことをロールケーキ氏に全て託して良いでしょうか? 「恵方巻」には、「福を巻き込む」という意味があります。近年、話題になっているロールケーキを見てみましょう。くるくるうずまきになっているのは「昔ながらのロールケーキ」と思われている節があるようです。現在人気のものは、たっぷりのクリームをスポンジで一巻き、というスタイルのようです。
 このような事態になっているのに、ロールケーキ氏に「恵方巻で福を巻き込んでください」と全てを預けていいでしょうか。欲深き私としては、「福を巻き込む」のならば、たくさん巻いていた方がいいような気がします。巻きが多ければ多いほど、良い春が来そうな気がします。
 私は推します。バウムクーヘンを。
 彼の巻きっぷりは、そうとうなものです。ひたすら巻きに心血を注いでいます。細かな層を幾重にも重ね、焼き、それを繰り返し、少しずつ我が身を成長させているのです。涙ぐましい努力の賜物ではありませんか。ロールケーキ氏に対して、バウムクーヘンさんの擁立することにためらいはありません。
 しかし、ここでバウムクーヘンさん自身が、少し気弱になるのです。
「いやいや、わたくしは、巻くには巻いていますが、みっしりとした体質で、やや水分に欠けております。『恵方巻』として『黙して一本』をするには、皆様方のお口にぱさつきをもたらし、困難が予想されます。やはりここはロールケーキ氏が良いのではないかと……」
 そのように言われると、私も、「恵方巻沈黙一本」は彼には荷が重いのかもしれない、と思ってしまいました。実力と才能があるだけに、惜しいのですが……。
 このように頭を抱えておりましたら、過日、お年賀の贈り物をいただきました。バウムクーヘンでした。

治一郎のバウムクーヘン・包装
 落ち着いた中にバウムクーヘンの重さを感じます

 『治一郎のバウムクーヘン』は、静岡県浜松市に本社を置く「株式会社ヤタロー」さんのお品です。包装を開けると、ご挨拶の書状が同封されていました。

同封の挨拶文
 丁寧なご挨拶、ありがとうございます

 浜松の甘味と言えば、「夜のお菓子・うなぎパイ」。彼も水分に欠けます(言うまでもなくさくさくの食感と濃密な甘味が合わさった美味しいお菓子です)。
 そう、浜松、うなぎパイ、水分不足、浜名湖はあるのに……。

治一郎のバウムクーヘン・外箱
 木々をイメージしているようです

治一郎のバウムクーヘン・蓋を取る
 うっすらと「輪」が

 シックな色使いの箱のフタを開けると、とろり、と甘い玉子と砂糖の合わさった香り。甘い、美味しいお菓子なのだけど、水分が……、と、思って一枚の紙を取り上げると、そこには森林の写真と『治一郎のバウムクーヘン』の理念が書かれていました。

治一郎のバウムクーヘン・理念
 バウムクーヘンらしくない単語があります

 「みずみずしさ」「柔らかく」「しっとり」
 このようなことばが並んでいます。おや、バウムクーヘンなのに、と思いました。バウムクーヘンにそれらは難しい。彼自身が今までそれとは反対の姿勢で暮らしていた。そのはずです。

治一郎のバウムクーヘン・箱の中
 バウムクーヘンの輪を見るのは楽しい

 玉子の優しさを含んだクリーム色の輪がありました。ビニールの包装を解くと、たちこめる甘く温かくとろりと濃い香り。
 バウムクーヘンの良さは、巻き、に限りませんね。手にした時の重量感。これを抜きにはできません。片手では持てません。『治一郎のバウムクーヘン』は直径140mm、高さ78mmと、かなりの大きさのお菓子です。片手ではいけません。両の掌をおわん型にして上を向け、そこに、とすん、とバウムクーヘンを置くように、持ちます。生ケーキのように冷えていません。ぬくもりがそこにはあります。片手では味わえません。両手を伝って、肩から背中、足下まで伝わる重みとぬくもりです。

治一郎のバウムクーヘン・横
 結構な高さがあります

 安心感。それがバウムクーヘンの輪にはあります。
 ただ、惜しいかな、水分の欠如が、彼の心を引かせているのです。

治一郎のバウムクーヘン・年輪アップ
 一枚一枚の積み重ね

 巻きはしっかりです。層。これが、彼の持ち味です。
 バウムクーヘンの食べ方には何種類かあります。輪を細めにカットして、スティック状にして、もっくりと一口ずつ食べていく。四分の一ほどのサイズにカットして、層を一枚ずつはがして食べていく。カットせずにかみつく、など。この中で「層を一枚ずつはがして」というのが、バウムクーヘンの面白みでもあります。わざわざ巻いたものをはがす。その行為はどこか背徳的で、心の奥の暗い部分を刺激します。はがして食べている時、その方の片方の口角はやや上がっているはずです。そんな宜しくない楽しみもバウムクーヘンは持っています。
 私は、重層を見つめ、60mmの空洞に吸い込まれるような感を覚え、甘い香りにしばし酔った後、縦に包丁を入れ、90度回転させ、再び縦に包丁を入れました。四分の一カット法を採用です。

治一郎のバウムクーヘン・四分の一
 四分の一で落ち着きました

 お皿には、輪の時とは違い、やや艶めかしく横たわる四分の一がありました。40mmに詰められた重層が、私を見つめているようです。
 何か違う。そう思いました。
 フォークで角を削り取るようにすくい上げ、口に入れます。
 違いました。無いのです。ぱさつきが。
 バウムの名の通り、木々を思わせるしっとりとした瑞々しさ。一回、二回、ゆるくかみしめると、内から蜜が出るように、とろりととろけていきます。
 私のバウムクーヘン観が変わった瞬間です。
 クリームのようなそれは、舌触りから始まり、まんべんなく口の中を廻り、しっかりとした甘さを与えてゆきます。いつまでもこのなめらかさに身を任せていたい。そう思わせておきながら、するりと喉を通って去っていく。去り際もあでやかで、甘みをしっかりと、しかし、粘りすぎることなく、残していきます。
 一口食べて、間髪を入れず、すぐにもう一口食べたくなる型の美味しさがあります。『治一郎のバウムクーヘン』はそれとは違い、一口を長く感じ、それがだんだんと薄れゆく時間を楽しんだのち、次の一口に行く、という食べ方になります。
 もう一口、もう一口。思っていたバウムクーヘンのぱさつきはやはりありません。するりするりと食べ進んでいくのです。バウムクーヘンの重量感はあります。しかし、それとは真反対の、ふうわり、とした軽さもあります。スポンジケーキを思わせる軽さですが、たらふくをもたらす力強さも忘れていません。
 次の一口へのステップが実になめらかに進んでいきます。しゃんと背の伸びた砂糖の甘み、濃厚な玉子の風味、バターの重量感。いずれもあるのですが、まとわりつくような、しつこさが全く無いのです。甘みのなめらかさが次の一口へのなめらかさへとつながっています。喉を撫でながら、とろとろと体に沁みていきます。
 重みはありますが、羽ばたきを思わせる軽さもある。不思議なバウムクーヘン。

治一郎のバウムクーヘン・四分の一アップ
 さて、はがします……

 では、背徳感を味わってみましょう。
 一枚、はがします。
 おや? はがれません。
 層は見て取れるのですが、その層と層のあいだにフォークを入れても、はがれないのです。先の食感では、みし、みし、と層を破っていく歯触りは覚えたのですが、いざ、はがすとなると、はがれないのです。層と層の結束が強く、一枚、がはがれません。

 これぞ、「恵方巻」にふさわしい。

 一枚一枚積み重なった年月を思い、新しい春を想う。これからの福をしっかりと巻き込む。それを包んで離さない。優しく和やかな味。手にした時の年輪の重み。過去と現在、未来へ向かう、確かな「恵み」が、秘められています。
 甘み、重み。それぞれ激しい主張はしていません。ですが『治一郎のバウムクーヘン』には、活き活きとした大森林のような慈しみに充ちた深さがあります。
 その深さに溶け込みたい、という想いに駆られ、四分の三の年輪を二分の一にまでしました。やはり、まだ溶け込みたい。でも、楽しみはもう少し取っておこう、と、半分は次の日のお楽しみにしました。いくらでも入っていくのです。大きな年輪の半分を食べているあいだ、一口も水分を摂りませんでした。それでも、体に入っていくのです。このようなバウムクーヘンがあったとは。
 「恵方巻」。巻き寿司やロールケーキも美味しいですが、バウムクーヘン、も良いですよ。『治一郎のバウムクーヘン』ならば、「沈黙一方向丸かぶり」も平気でできそうな気がします。もちろん、節分が終わっても食べたいです。
 ただ、惜しむらくは、静岡・浜松だということ。お取り寄せはできますが、ちょっとの手間と時間が掛かります。
「こういうお菓子は、それこそ季節の節目ごとの、たまに、がいいのかもしれないなあ……」
 と、自分を納得させようとしたところで、箱の底の一枚の紙に気づきました。

 「お店のご案内『クーヘンスタジオ治一郎』 徳重店 愛知県名古屋市緑区……」

 おおっ、名古屋にも直営店がありますっ!
 昨年の秋にオープンした「ヒルズウォーク徳重ガーデンズ」というショッピングモールに入っているではありませんか。
「でも、緑区徳重は、ちょっと遠いかな……。いや、ちょっと待って!」
 調べました。名古屋市営地下鉄・桜通線は延長され、今年の3月27日には、野並・徳重間が開業されるのです。しかも、徳重駅と「ヒルズウォーク徳重ガーデンズ」が直結するらしいのです。
 これを機会に、名古屋でも『治一郎のバウムクーヘン』の美味しさがより広まることでしょう。
 もう一つ、春、待ち遠しくなりました。


 ◎店舗・商品データ
 ・商品データ
  商品名:治一郎のバウムクーヘン
  価格:いただきもの

 ・店舗データ
  本店
  店舗名:治一郎 大平台本店
  住所:静岡県浜松市西区大平台3-1-1
  営業時間:9:00-19:00
  定休日:年中無休
  公式サイト:http://www.jiichiro.com/index.html

  (名古屋・徳重店)
  店舗名:クーヘンスタジオ治一郎 徳重店
  住所:名古屋市緑区鳴見町字徳重18-44 ヒルズウォーク徳重ガーデンズ1階
  営業時間:10:00-21:00(ヒルズウォーク徳重ガーデンズに準じる)
  定休日:ヒルズウォーク徳重ガーデンズに準じる
  アクセス:名古屋市営地下鉄・徳重駅開業後は、ヒルズウォーク徳重ガーデンズと直結

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 2018/05/21
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