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2011.02.02

春呼ぶ恵みのバウムクーヘン(治一郎のバウムクーヘン:治一郎)

 毎年、同じように言っている気もしますが、今年は寒さが厳しいです。先のセンター試験二日目、名古屋では大雪が降りました。気象庁の発表では積雪が11cmで、これだけの降雪は、9年ぶりだったそうです。9年ということは、私が名古屋に移り住んで以来、一番の大雪だった、ということです。やはり、今年の冬は寒さがひときわ厳しい、のですね。
 ここ十日ほどは、いくぶん寒さが和らいだようですが、まだまだしっかりと、冬、です。かたつむりのようにコタツから離れられません。かたつむりは家を背負って、少しずつではありますが、前に進みます。でも、私はコタツの位置から動きませんので、かたつむりよりも、静かです。前進がありません。いけませんね。
 しかし、この二三日、そんなに静かではいけませんよ、と窓の外から陽が呼んでいるようです。ちょっと、
「暖かいかな?」
 と、思える瞬間があります。ちょっと、春、なんですね。それもそのはず、もうすぐ立春。暦の上、のこととは言っても、春がやってきます。春を迎える準備はみなさんお済みですか?
 立春の前日は節分です。
 聞くところによると、節分で「豆まき」をする方が少なくなっているそうです。昨年、今年は、関西発祥の「恵方巻」が「豆まき」を逆転した(する)とのことです。
 「恵方巻」は、一気に節分の表舞台に出ました。もう日本全国恵方巻です。
 黙して、一方向を向き、ひたすら巻き寿司を一本食べ尽くす。
 奇異なならわし、のようですが、いざそれをしてみると、面白いです。数年前、巻き寿司を手作りして、ひたすら、がぶりがぶり、と食べてみました。達成感がありました。「一仕事済ませた」という気になりました。それが、新しい春を迎える心構えになるのかもしれません。
 これだけ「恵方巻」が浸透して、巻き寿司屋さんは、さぞかしホクホク顔かも、と思いましたら、商魂たくましい、いやいや、応用力のある方が多いこの国。巻き寿司だけに、それを任せてはおけない、と、各分野が食材を巻くことにしたようです。私が見た中では、トルティーヤまで参戦していました。恵方がメキシコ方面限定になりそうな気がしますが、発祥の地の方々がそれをご覧になっても「かまへん、かまへん」なのかもしれません。
 もちろん、甘味もそれに参入しています。ロールケーキ、という、甘味界の巻き担当者がいます。彼に任せておけば、甘味の巻きは安泰でしょう。多くの方も、「甘い恵方巻は、ロールケーキ氏でいいと思います」と委任状を書くこともためらわない、でしょう。
 果たしてそれで良いでしょうか? 巻く、ことをロールケーキ氏に全て託して良いでしょうか? 「恵方巻」には、「福を巻き込む」という意味があります。近年、話題になっているロールケーキを見てみましょう。くるくるうずまきになっているのは「昔ながらのロールケーキ」と思われている節があるようです。現在人気のものは、たっぷりのクリームをスポンジで一巻き、というスタイルのようです。
 このような事態になっているのに、ロールケーキ氏に「恵方巻で福を巻き込んでください」と全てを預けていいでしょうか。欲深き私としては、「福を巻き込む」のならば、たくさん巻いていた方がいいような気がします。巻きが多ければ多いほど、良い春が来そうな気がします。
 私は推します。バウムクーヘンを。
 彼の巻きっぷりは、そうとうなものです。ひたすら巻きに心血を注いでいます。細かな層を幾重にも重ね、焼き、それを繰り返し、少しずつ我が身を成長させているのです。涙ぐましい努力の賜物ではありませんか。ロールケーキ氏に対して、バウムクーヘンさんの擁立することにためらいはありません。
 しかし、ここでバウムクーヘンさん自身が、少し気弱になるのです。
「いやいや、わたくしは、巻くには巻いていますが、みっしりとした体質で、やや水分に欠けております。『恵方巻』として『黙して一本』をするには、皆様方のお口にぱさつきをもたらし、困難が予想されます。やはりここはロールケーキ氏が良いのではないかと……」
 そのように言われると、私も、「恵方巻沈黙一本」は彼には荷が重いのかもしれない、と思ってしまいました。実力と才能があるだけに、惜しいのですが……。
 このように頭を抱えておりましたら、過日、お年賀の贈り物をいただきました。バウムクーヘンでした。

治一郎のバウムクーヘン・包装
 落ち着いた中にバウムクーヘンの重さを感じます

 『治一郎のバウムクーヘン』は、静岡県浜松市に本社を置く「株式会社ヤタロー」さんのお品です。包装を開けると、ご挨拶の書状が同封されていました。

同封の挨拶文
 丁寧なご挨拶、ありがとうございます

 浜松の甘味と言えば、「夜のお菓子・うなぎパイ」。彼も水分に欠けます(言うまでもなくさくさくの食感と濃密な甘味が合わさった美味しいお菓子です)。
 そう、浜松、うなぎパイ、水分不足、浜名湖はあるのに……。

治一郎のバウムクーヘン・外箱
 木々をイメージしているようです

治一郎のバウムクーヘン・蓋を取る
 うっすらと「輪」が

 シックな色使いの箱のフタを開けると、とろり、と甘い玉子と砂糖の合わさった香り。甘い、美味しいお菓子なのだけど、水分が……、と、思って一枚の紙を取り上げると、そこには森林の写真と『治一郎のバウムクーヘン』の理念が書かれていました。

治一郎のバウムクーヘン・理念
 バウムクーヘンらしくない単語があります

 「みずみずしさ」「柔らかく」「しっとり」
 このようなことばが並んでいます。おや、バウムクーヘンなのに、と思いました。バウムクーヘンにそれらは難しい。彼自身が今までそれとは反対の姿勢で暮らしていた。そのはずです。

治一郎のバウムクーヘン・箱の中
 バウムクーヘンの輪を見るのは楽しい

 玉子の優しさを含んだクリーム色の輪がありました。ビニールの包装を解くと、たちこめる甘く温かくとろりと濃い香り。
 バウムクーヘンの良さは、巻き、に限りませんね。手にした時の重量感。これを抜きにはできません。片手では持てません。『治一郎のバウムクーヘン』は直径140mm、高さ78mmと、かなりの大きさのお菓子です。片手ではいけません。両の掌をおわん型にして上を向け、そこに、とすん、とバウムクーヘンを置くように、持ちます。生ケーキのように冷えていません。ぬくもりがそこにはあります。片手では味わえません。両手を伝って、肩から背中、足下まで伝わる重みとぬくもりです。

治一郎のバウムクーヘン・横
 結構な高さがあります

 安心感。それがバウムクーヘンの輪にはあります。
 ただ、惜しいかな、水分の欠如が、彼の心を引かせているのです。

治一郎のバウムクーヘン・年輪アップ
 一枚一枚の積み重ね

 巻きはしっかりです。層。これが、彼の持ち味です。
 バウムクーヘンの食べ方には何種類かあります。輪を細めにカットして、スティック状にして、もっくりと一口ずつ食べていく。四分の一ほどのサイズにカットして、層を一枚ずつはがして食べていく。カットせずにかみつく、など。この中で「層を一枚ずつはがして」というのが、バウムクーヘンの面白みでもあります。わざわざ巻いたものをはがす。その行為はどこか背徳的で、心の奥の暗い部分を刺激します。はがして食べている時、その方の片方の口角はやや上がっているはずです。そんな宜しくない楽しみもバウムクーヘンは持っています。
 私は、重層を見つめ、60mmの空洞に吸い込まれるような感を覚え、甘い香りにしばし酔った後、縦に包丁を入れ、90度回転させ、再び縦に包丁を入れました。四分の一カット法を採用です。

治一郎のバウムクーヘン・四分の一
 四分の一で落ち着きました

 お皿には、輪の時とは違い、やや艶めかしく横たわる四分の一がありました。40mmに詰められた重層が、私を見つめているようです。
 何か違う。そう思いました。
 フォークで角を削り取るようにすくい上げ、口に入れます。
 違いました。無いのです。ぱさつきが。
 バウムの名の通り、木々を思わせるしっとりとした瑞々しさ。一回、二回、ゆるくかみしめると、内から蜜が出るように、とろりととろけていきます。
 私のバウムクーヘン観が変わった瞬間です。
 クリームのようなそれは、舌触りから始まり、まんべんなく口の中を廻り、しっかりとした甘さを与えてゆきます。いつまでもこのなめらかさに身を任せていたい。そう思わせておきながら、するりと喉を通って去っていく。去り際もあでやかで、甘みをしっかりと、しかし、粘りすぎることなく、残していきます。
 一口食べて、間髪を入れず、すぐにもう一口食べたくなる型の美味しさがあります。『治一郎のバウムクーヘン』はそれとは違い、一口を長く感じ、それがだんだんと薄れゆく時間を楽しんだのち、次の一口に行く、という食べ方になります。
 もう一口、もう一口。思っていたバウムクーヘンのぱさつきはやはりありません。するりするりと食べ進んでいくのです。バウムクーヘンの重量感はあります。しかし、それとは真反対の、ふうわり、とした軽さもあります。スポンジケーキを思わせる軽さですが、たらふくをもたらす力強さも忘れていません。
 次の一口へのステップが実になめらかに進んでいきます。しゃんと背の伸びた砂糖の甘み、濃厚な玉子の風味、バターの重量感。いずれもあるのですが、まとわりつくような、しつこさが全く無いのです。甘みのなめらかさが次の一口へのなめらかさへとつながっています。喉を撫でながら、とろとろと体に沁みていきます。
 重みはありますが、羽ばたきを思わせる軽さもある。不思議なバウムクーヘン。

治一郎のバウムクーヘン・四分の一アップ
 さて、はがします……

 では、背徳感を味わってみましょう。
 一枚、はがします。
 おや? はがれません。
 層は見て取れるのですが、その層と層のあいだにフォークを入れても、はがれないのです。先の食感では、みし、みし、と層を破っていく歯触りは覚えたのですが、いざ、はがすとなると、はがれないのです。層と層の結束が強く、一枚、がはがれません。

 これぞ、「恵方巻」にふさわしい。

 一枚一枚積み重なった年月を思い、新しい春を想う。これからの福をしっかりと巻き込む。それを包んで離さない。優しく和やかな味。手にした時の年輪の重み。過去と現在、未来へ向かう、確かな「恵み」が、秘められています。
 甘み、重み。それぞれ激しい主張はしていません。ですが『治一郎のバウムクーヘン』には、活き活きとした大森林のような慈しみに充ちた深さがあります。
 その深さに溶け込みたい、という想いに駆られ、四分の三の年輪を二分の一にまでしました。やはり、まだ溶け込みたい。でも、楽しみはもう少し取っておこう、と、半分は次の日のお楽しみにしました。いくらでも入っていくのです。大きな年輪の半分を食べているあいだ、一口も水分を摂りませんでした。それでも、体に入っていくのです。このようなバウムクーヘンがあったとは。
 「恵方巻」。巻き寿司やロールケーキも美味しいですが、バウムクーヘン、も良いですよ。『治一郎のバウムクーヘン』ならば、「沈黙一方向丸かぶり」も平気でできそうな気がします。もちろん、節分が終わっても食べたいです。
 ただ、惜しむらくは、静岡・浜松だということ。お取り寄せはできますが、ちょっとの手間と時間が掛かります。
「こういうお菓子は、それこそ季節の節目ごとの、たまに、がいいのかもしれないなあ……」
 と、自分を納得させようとしたところで、箱の底の一枚の紙に気づきました。

 「お店のご案内『クーヘンスタジオ治一郎』 徳重店 愛知県名古屋市緑区……」

 おおっ、名古屋にも直営店がありますっ!
 昨年の秋にオープンした「ヒルズウォーク徳重ガーデンズ」というショッピングモールに入っているではありませんか。
「でも、緑区徳重は、ちょっと遠いかな……。いや、ちょっと待って!」
 調べました。名古屋市営地下鉄・桜通線は延長され、今年の3月27日には、野並・徳重間が開業されるのです。しかも、徳重駅と「ヒルズウォーク徳重ガーデンズ」が直結するらしいのです。
 これを機会に、名古屋でも『治一郎のバウムクーヘン』の美味しさがより広まることでしょう。
 もう一つ、春、待ち遠しくなりました。


 ◎店舗・商品データ
 ・商品データ
  商品名:治一郎のバウムクーヘン
  価格:いただきもの

 ・店舗データ
  本店
  店舗名:治一郎 大平台本店
  住所:静岡県浜松市西区大平台3-1-1
  営業時間:9:00-19:00
  定休日:年中無休
  公式サイト:http://www.jiichiro.com/index.html

  (名古屋・徳重店)
  店舗名:クーヘンスタジオ治一郎 徳重店
  住所:名古屋市緑区鳴見町字徳重18-44 ヒルズウォーク徳重ガーデンズ1階
  営業時間:10:00-21:00(ヒルズウォーク徳重ガーデンズに準じる)
  定休日:ヒルズウォーク徳重ガーデンズに準じる
  アクセス:名古屋市営地下鉄・徳重駅開業後は、ヒルズウォーク徳重ガーデンズと直結

 更新履歴
 2018/05/21
 画像のリンク切れを修正しました。

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