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2009.05.10

お弁当箱を開けるときめき、フタするためいき

 お弁当には二種類あります。中が透けて見えるフタか、中が見えないフタか、です。他にも分け方はあるかもしれませんが、今回はこのように分けることにします。
 中が透けて見えるフタのお弁当は、いわゆる「コンビニ弁当」というものです。「コンビニ」と名は付くものの、コンビニエンスストアに限定はされません。スーパーマーケットのお惣菜売り場に並んでいるお弁当も同じです。仕切りのあるトレイに、ごはんが約半分のスペース、その脇に、シャケ、カツ、玉子焼き、根菜の煮たの、お漬物などが詰められています。このようなお弁当は、コンビニやスーパーでレジを通す前にその中身を知ることができます。フタのおかげです。「プラトレイ」のお弁当箱のフタは、透明の「プラフタ」になっています。これにより、購入前に中身の検分が可能になっているのです。
 例えば、「このシャケ弁のシャケは脂が乗っていて、野菜も多く、栄養バランスが取れているな」「む! このチキンカツ弁当は、カツが大きく見えるが、断面を見ると、コロモが半分以上ではないか! しかもスパゲッティとキャベツで上げ底になっているぞ!」「ハンバーグ弁当は、ソースが仕切りを通り越えて、他の具を浸食している。これでは全部が同じソース味になっているであろう」などということが、透明プラフタ越しに分かります。透明プラフタの功は実に大きいと言えるでしょう。

イラスト・その1

 反面、罪もあります。実際にお弁当をいただく段になって、盛り上がりに欠けるのです。「箱の中身は何だろな?」というワクワク感を味わえません。当たり前です。お弁当箱の中身を知った上で購入しているのですから。
 「お弁当の楽しさ」はここに隠れているのです。コンビニやスーパーの透明プラフタ弁当に、どことなく侘しさを感じるのは、これに由来しているのです。

 「フタを開けるまで、中身が分からない」

 これがお弁当の盛り上がりであり、フタを開ける瞬間をお弁当のクライマックスたらしめているのです。
 私は、小学校、中学校は、お昼は給食だったので、その間、学校でお弁当をいただく機会は、遠足、運動会など、行事のある日に限られていました。そのお弁当を持っていく日は、母も力が入っていたようで、遠足の時には、私の好物、かつ、ボリュームのあるおかずが入っていました。運動会の時は、家族揃って見学に来ていたので、重箱に家族全員分のごはんがぎっしりと入っていました。このお重の中には、きまって、巻き寿司が入っていました。父の好物だからです。あとは、玉子焼き、鶏の唐揚げ、ポテトサラダなどなどが、たっぷりとあって、「いくら家族全員分だからといって、こんなに食べられるだろうか…?」と疑問が浮かんでいましたが、体を思い切り動かしていたからでしょう、案外、食べられるものです。果物までしっかりといただいて、たらふくになって、午後の部の競技に出ていました。

 高校に上がると、給食が無くなりました。それゆえ、各人が昼食を用意せねばなりませんでした。私が通っていた高校には、学食が無い上に、下校時まで校外に出ることが禁じられていたので、コンビニなどにも行けず、主な選択肢は、お弁当持参か、校内の購買部でパンなどの軽食を購入するくらいしかありませんでした。
 今はどうなっているか分かりませんが、私が通っていた頃の購買部は、とても小さな部屋で、そこに焼きそばパンなどの惣菜パンや、銀チョコなどの菓子パン、サンドイッチなどが並べられたケースが、その小さな部屋に詰め込まれていました。

イラスト・その2

 悠々と、昼休みになってから購買部に行くと、めぼしいものはもう何もありません。目ざとい者たちは、業者さんが購買部に昼食を搬入する二時限目終わりくらいの時間を狙って、購買部で早々に人気のパンを入手していたからです。弱肉強食のような苛酷なレースですが、そこで人気のパンと「ピクニック」の紙パックジュースを購入することが、ゲームのようで面白くもありました。
 しかし、私はこのゲームにはほとんど参加していませんでした。母が、
「栄養がかたよるけん、お弁当を持って行きよ」
と、半ば強引にお弁当箱と箸箱を大きめのハンカチで包んだものを持たせていたからです。「コーバイで何か買うけん、要らんわ」と断っても「栄養が…」の一点張りで、結局、いつもお弁当を持って行くこととなり、購買部のサバイバルゲームを味わうことはほとんどありませんでした。

 四時限目が終わり、昼休み。ハンカチ包みを解きます。ここで最初の定義に戻りましょう。「フタを開けるまで中身が分からない」がお弁当の盛り上がり、ということです。
 私も悪かったのです。全部を母に任せることはなかったのです。自分で近くのジャスコさんなどに行けば良かったのです。母は、私のお弁当箱に「タッパーウェア」を使ったのです。あの、白っぽい、半透明のです。半透明なので、中が分かります。まず一つ、盛り上がりが無くなりました。
 「ペケッ」とタッパーのフタを開けると、第二の悲劇です。保存用のタッパーなので、お弁当箱として存在を許されているお弁当箱に備わっているような「仕切り」がありません。母は、アルミホイルと、ギザギザのアルミカップで強引におかずを仕切っていました。しかし、それでどうして、ごはんへと流れるおかずの汁をせき止めることができるでしょう。いつも、ごはんは「おかずの汁味」でした。
 高校入学から、しばらくそのようなお昼のお弁当生活を続けていて、ふと気付きました。見覚えがあるのです。しかも近い記憶です。朝ごはんです。朝ごはんのおかずが昼弁当のおかずでした。使い回しです。今となっては、お弁当を作る大変さからそれも理解できるのですが、その頃は、悲劇でしかありませんでした。フタを開ける前から、いや、ハンカチ包みを開ける前から中身が分かっているからです。楽しみも何もありません。
 さらに悲劇が訪れました。私の父もお弁当を職場に持って行っていました。父は体に気を使っていたために、食べるものも制限をしていました。結果、父のお弁当の流れのまま、私のお弁当にも、いつも「根菜と鶏肉の煮たの」が入ることになりました。地味です。ワクワク感がありません。しかも、その「煮たの」は、汁が出ます。ごはんは主に、その汁味でした。
 もう、フタを閉めて拒否するのも諦めました。開ける前から、いや、朝食の時点で中身が分かっているものに、否応も無いのです。

イラスト・その3

 お昼休みの時間、校外に出ることは禁じられていましたが、校内であれば、どこで過ごしても構いませんでした。教室でお弁当を食べる者もいれば、天気の良い日は、仲良し同士で、中庭のベンチに腰掛けて購買部のサンドイッチを食べる者もいました。私はといえば、当時所属していた新聞部の部室でお弁当をいただくことが多かったです。数人の部活動仲間が集まって、他愛の無い話しをしながら、昼食をとることが常になりました。
 そんなある日、友人のエヌ君が、

 「なんだこりゃーっ!」

と、部室いっぱいに響く大声で叫びました。彼はお弁当箱のフタを持って、中身を見たまま呆然としています。「どしたん? エヌ君?」と彼のお弁当箱を見ると、合点がいきました。そこにはコンビニの三角おにぎりがぴったりと納まっていました。
「母さん、どうりで、朝、慌てて、どっかに出掛けよったわ…。これを買いに行っちょったんか…」
 私は、おかしくて、おかしくて、大笑いをしたかったのですが、エヌ君の憤慨っぷりと落胆ぶりを見ていると、そういうわけにもいきません。結局、エヌ君は、空腹には代えられないと考えたのでしょう、仕方なさそうに、ビニールをピリピリと破り、のりを巻いて、パリリとコンビニおにぎりをかじっていました。
 エヌ君にとっては、生涯で一番お弁当のフタを閉じたくなった瞬間だったろうな、と、いまだに思い返しては、悲しくも、おかしくもなります。

イラスト・その4


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コメント

>チエさん
タッパーは、パッキン付きのお弁当箱に比べて、密封性が低いため、私のお弁当でも、外に漏れていました。教科書がおかずの匂いになって、波打っていましたね。
さすがに、それは困る、ということで、母に「お弁当箱を変えてくれないだろうか」と交渉したら、パッキン付きのお弁当箱に変わりました。でも、何故か、フタが透明のお弁当箱でした。結局、中身丸見えです。

友人エヌ君のお母上は、寝坊されたのかもしれません。彼の登校時間までにごはんが炊き上がらなくて、おかずだけ早くできるものを詰めて、ごはんは外で調達、となったのかも。ちなみにエヌ君はかなり遠くから通っていたので、時間の余裕も無かったようです。

投稿: 桜濱 | 2009.05.21 22:52

おかずの汁がごはんだけならまだしも、
これが漏れて弁当袋や教科書やノートをもぬらしてしまうこと2,3度。
といいますのもうちの母、前日のオア下山の煮物とか平気で詰めるんですもの。
あれは勘弁して欲しかったです。
桜濱さんのご友人、きっとお母さん炊飯器のスイッチ入れ忘れたんでしょうね。
「おかずできたし、ご飯も炊け・・・あれ?」という状態だったかも。

投稿: 坂石チエ | 2009.05.21 21:58

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