幸せは黄色と純白でできている(堂島ロール:パティシェリー モンシュシュ)
「此頃、名古屋に流行る
と、言われるくらいに、毎日長い行列が出来ている二大巨頭。どちらも話題に上り始めたのは、かなり前です。クラブハリエは半年以上、モンシュシュは約3ヶ月前です。
そろそろ、行列も無くなる頃だろう、と、思いつつ、名駅タワーズの1階や、伏見・御園座の斜向かいを通るのですが、いつ行っても、行列が出来ています。本当にいつ行ってもです。土日平日関係なし。
それでもいただきたい。どうにかならないものか…? と思案していましたが、どうにもならない、という結論に至りました。結局は並ぶほか無いのです。
行列が絶えないお店
意を決して、伏見のモンシュシュに行きますと、行列が全くありません。ここでふと思ったことは「休業日なのか!?」でしたが、お店の扉の前に行きますと、立て札がありました。
「今回の分は売り切れまた。次回焼きあがり次第、販売いたします」
ちょうど、私が立ち寄る直前に無くなったようです。それでも、お店に入ると、嬉しそうに、さも嬉しそうにロールケーキが入ったオレンジ色の袋を持って帰る方が数人いらっしゃいました。悔しいです。幸いにも、本当に直前で行列が切れていたようで、スタッフさんに、
「次回の堂島ロールを買いたいのですが、どこに並んでいれば良いですか」
「それでしたら、そちらのショーケースの角の辺りでお待ちください。若干時間が前後するかもしれませんが、だいたい1時間半くらいで、次回の分が出来上がると思います」
1時間半…。ロールケーキにいちじかんはん。これは事件です。一大事です。
焦っても仕方が無いので、初めて訪れるモンシュシュの店内を観察します。イートインのカフェスペースがあり、そちらでは、カットされた堂島ロール+飲み物の「堂島ロールセット」が販売されていました。かなり気が惹かれましたが、そちらに流れてしまうと、せっかく先頭に並んでいるのに、その順番を譲ることになります。「いいな…」と思いつつ、堂島ロールを楽しそうに召し上がっていらっしゃるグループを、のどを鳴らしつつ眺めていました。
1時間ほど経った頃でしょうか、行列もしっかりと出来上がっています。店内が慌しくなりました。次の堂島ロールが出来上がったのです。台車に山盛りになった堂島ロールの箱が何回も運ばれてきます。行列のボルテージ上昇です。あと少し、もう少し、の緊張感が行列にみなぎります。スタッフの皆様は、手早く保冷剤を箱に入れていきます。その作業が10分強続いた頃、
「お待たせいたしました。ただいまより、ロールケーキの販売を始めます」
天からのラッパのようなお声が高らかに響き渡りました。
私は先頭です。間違いなく購入できます。嬉しい!
明るく輝くオレンジの紙袋
か、買えました。あこがれの、モンシュシュの堂島ロール。果たして、1時間10分待った甲斐があるお味なのか。あれだけの人々を魅了しているお味なのだ、ということを信じて、丁寧に持って帰ります。
追加情報です。店員さんにお伺いしたところ、
・休日でも平日でも、現在はだいたい1時間ほどの待ち時間をいただいています。
・お電話でも予約を受け付けていますが、1週間後までの期間内での受付です。
・予約も早く埋まってしまうので、お早めにお知らせください。
とのことでした。
急いで家で食べたい。早く、クリームにまみれたい。その思い一心でしたが、ふと、オレンジの紙袋が目に付きました。オレンジ色はあまりに目立ちます。「これは、いけないのではないか。堂島ロールを欲する人は数多くいらっしゃる。私は堂島ロールだとはっきりと分かる紙袋をぶら下げている。『堂島ロール狩り』に遭う危険性に満ちているではないか」と、ここでようやく気づきました。あらかじめ持っていたバッグで紙袋を覆い隠します。それでも、オレンジ色がはみ出ます。明るいオレンジ色がこれほど憎らしいと思ったことはありませんでした。高鳴る心臓。襲い掛かる不安。無事に家に着きましたが、へとへとになりました。
これで安心、と、一息ついて、箱をテーブルに鎮座させました。その箱の上面には、堂島ロールの由来が書かれています。その文章の最初はこうです。
由来が書いています
海外の甘味なのです。ニューヨークのお味なのです。それが伏見駅の上で購入できるのですから、1時間10分待ちなんて、たいしたことはありません。名古屋に居ながら、ニューヨークの味を堪能できる喜びに咽びながら、ゆっくりと箱からロールを取り出します。
くるりん
これが、堂島ロール様…! シンプルなお姿か真っ白な光が放たれているように、粉砂糖がまぶされています。
シンプル極まっています
本当にシンプルです。生クリームをスポンジで一巻き。普通のロールケーキは、くるくると二重三重にクリームとスポンジが巻かれていますが、堂島ロールさんは、ぴったり一巻です。その分、クリームがたっぷりです。スポンジは、クリームがこぼれ落ちないために巻かれているようにも見えます。
長さは165mm、幅103mm、高さ103mmのスタイルで、クリームのバランスと相俟って、ぽってりとした印象を受けます。実際、スポンジの厚さは13mm、生クリーム部分の幅は80mm、高さは45mmになっていて、かなりの生クリームの存在感です。
計測している間も、小麦粉と玉子の焼けた、優しく甘い香りがほんわりと、くゆってきます。調べ癖の付いた者の因果です。この香りを我慢してから、いただかねばなりません。
さて、もう、測るところはありません。いただきます。思い切り良く、たっぷり厚めに切って、ゴージャスにいただきましょう。
思い切って厚めに切ったつもりが…
…根っからの貧乏性がなせる業です。思いっきり厚めに切れませんでした。普通の厚さになってしまいました。でも、いいのです。普通の厚さが最も美味しくいただける厚さのはずですから。
スポンジの均一性と生クリームのゆるやかさに目を見張ります
なめらかなクリームとふんわりとしたスポンジの構成は、見るものを陶然とさせる力を持っています。
“幸せ”を表す黄色と白のうずまき、“永遠”を表す筒型のロールケーキは、我が国独自の文化財。
とは、堂島ロールさんの箱の側面に書かれている文言です。今、この瞬間、私は、黄色と白で“幸せ”になっていることを実感いたしました。
ゆっくりとスポンジにフォークを差し込むと、思っていたよりも強い抵抗感を覚えます。ふんわりさっくり、のタイプのスポンジではなくて、もっちりふっかりのタイプのスポンジです。意外とクッション性が高いのです。
まずは、スポンジだけいただいてみましょう。先ほども書きましたが、小麦粉と玉子の焼けた香りに、甘さが加わっています。ロールケーキのスポンジにしては、甘みが強めに設定されているようです。
では、たっぷりのクリームを一口。
「ふわ~っほわら~」
と、でも表現したらいいのでしょうか。とにかく軽いです。あっという間に口いっぱいに香りと味とクリームそのものが広がります。口いっぱいに拡散した途端に、「ふぅ~ぅゎ」と溶けて消えていきます。こんな余韻の残し方は味わったことがありません。
頭が痺れるような、酔うような、甘み。しっかりと、甘みはあるけれど、のどをするりと通過していく軽やかさ。そこに満ちているのは生クリームの元になっているミルクの香り。そう、ミルクなのです。生クリームの形をしたミルクを飲んでいるかのような感覚です。いくらでも、この生クリームを「飲みたくなる」のです。甘いけれども甘ったるくない、流れるような食感、原料を最大限に生かした味わい、見事な按配としか言いようがありません。
再び、スポンジに戻ります。クリームを味わってみると、スポンジの力強さがプラスに働いていることが分かります。弾力を持ちつつも、キレが良くて、クリームの働きを阻害していません。阻害どころか、生クリームをしっかりと引き立てています。生クリームは、さらりとした軽やかな甘みを担当し、甘い強い香りはスポンジが担当しているのです。見事な役割分担が為されています。
黄色と白の単純な組み合わせながら、そこには、太陽のようなあたたかみと、力強さと、複雑さが含まれているのです。
説明も、もう、もどかしくなってきました。彼を一口いただいて、残りを目の前にしては、もう、なんだか、頭が混乱してくるようです。
あまりに美しいものをいじめたくなる
半ば猟奇的に、スポンジを押してみたり。そこからクリームをはみ出させたり。急いで完食したいものの、もったいなくて、しかし、それを嫌がる気持ちも働いて…。でも、スポンジを突き崩し、クリームをたっぷりとそれにまとわりつかせ、口に入れる…。
一切れのロールケーキの姿が消えました。でも、酔いは醒めません。
もう、いいや。全部食べてしまえ!
もう、切らなくてもいいや!
クリームにスポンジにクリームにスポンジにクリーム、クリーム、クリーム…。
一本のロールケーキの姿が消えました。でも、酔いは醒めません。たらふくにもなれません。
堂島ロールさん、あなたを何本いただけば、たらふくになれるのでしょう?
…そうか、皆さん、そんな気持ちになるから、何回もあの行列に並ぶ気になるのか。ようやく合点がいきました。
◎店舗・商品データ
・商品データ
商品名:堂島ロール(どうじまろーる)
価格:¥1200
・店舗データ
店舗名:Pâtisserie Mon chouchou(パティシェリー モンシュシュ・名古屋伏見店)
住所:名古屋市中区錦2-17-21 NTTDATA伏見ビル・1階
営業時間:10:00-20:00
定休日:不定休
公式サイト:http://www.mon-chouchou.com/nagoya.html
アクセス:名古屋市営地下鉄・伏見駅3番出入口横
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