今日の「山」登りは「アラビアン」
私の部屋の本棚には、岩波文庫の『完訳 千一夜物語』全13巻があります。「あります」という状態が、4年ほど続いています。『今昔物語集』と並ぶ大説話集ですので、読まなければならないな、と思って、全巻箱買いをしたのですが、「読まなければならない」と思って買った本ほど読まないことが分かりました。
でも、本は、そこにあって、欲しいと思った時に買っておかないと、絶版、品切れの惧れがあります。他の品物では、売切れてしまえば「自分には縁が無かった品だったんだな」とあっさりと諦めが付きます。特に服などは、その季節ごとの流行があるので、買えなくても、次の年まで引きずることはあまりありません。
しかし、本は何故かそういうわけにはいきません。「あの文庫本欲しいな。でも、また今度でいいか」と思って、そのまま買い逃がし、絶版になった本は、いつまで経っても諦めが付きません。「あの時、買っておけば…」と後悔の念がいつまで経っても残ります。よって、『千一夜物語』も、そこにあるだけでいいのです。
いいのです、とは申し上げたものの、そのままお飾りにしておくにはもったいないと思い、先日、箱を開けて、1巻から読み始めました。面白いです。世界文学の代表選手というだけのことはあります。毎夜毎夜のシャハラザードの語りに引き込まれます。豪華な宮殿で展開されるアラビアンナイトは、色とりどりで不可思議な魅力を包み込んでいます。
さて、そのようなアラビアンナイトを意識したのかどうか分かりませんが、喫茶マウンテンにも「アラビアン」なるお品があります。いくつかある「地域名メニュー」の一つです。普通のお店では、その地域に関連した味付けなり、具材が入っていたりするのですが、マウンテンではその常識はあまり通用しません。「コスモスパ」のどこに宇宙要素があるのか、いまだに分かりません。
では、どきどきしながらオーダーします。
…
着きました! 2分で着いた!! カップヌードルより早い!
この早さがアラビアンナイトの不思議っぽさを表しているのでしょうか。
予想外のシンプルな構成
はて? どうにも変な感じです。見た目は、アラビアンナイトのように色とりどりでもなければ、不思議な具が入っているようでもありません。見たままです。ただ、匂いには少し違和感を感じます。何から発せられているのか分からない匂いがあります。
基本はトマトソースベースのようなのですが、トマトっぽい酸味が香ってきません。代わりに香ってくるのは、甘さと魚類の匂いです。何かがおかしいです。中身をチェックしてみます。まず、目に付くのは、マウンテンでは定番のトッピングのインゲン豆。かろうじて彩りを添えています。
ブラウンの塊が問題の元のようです
あとは、赤茶色のくしゃくしゃっ、と、なった「何か」です。この「何か」が「何か」の匂いの元になっているであろうことは疑う余地がありません。
では、この「何か」だけをいただいてみます。
魚です。
詳しくは、ツナ缶。それも、缶に入った状態で、すでに味が付けられている方のツナ缶です。よって、砂糖と醤油ベースの和風の味付けになっており、そこに魚類のダシが染み出しているものと言えば当てはまるでしょう。おかかを甘辛く煮て、ごはんの友にするようなお味です。ただ、ツナ缶なので、魚の匂いが非常に強いです。
この砂糖醤油ツナで、スパを平らげろ、というと、そうではなく、マウンテンらしい心配りがされています。強すぎる魚の匂いを和らげるためでしょう、生姜のすりおろしたものが投入されているのです。煮魚に生姜は付き物ですね。初見よりも生姜は多くて、潰れたツナと見えていたものの多くは、おろし生姜が砂糖醤油に染まったものでした。よって、徐々に口の中が温かく、ひりひりとなってきます。
スパ自体には、塩コショウなどの味はほとんど付けられていないらしく、具である、砂糖醤油のツナと、生姜で味がまかなわれています。この味付けが絶妙で、スパに味が無いため「あれ、薄味だな」と思って食べ進めると、甘辛さと、おろし生姜が、時の経過とともに前面に出てきます。甘辛さは舌に残り、まとわりつくよう。単純な甘さではありません。とろりとした、みりんの甘さのようでもあります。甘さ、醤油が落ち着いてくると、じんわりとスパイシーさが覆ってきます。生姜が本領を発揮してきたようです。たらりと流れる汗ではなく、にじみ出る汗です。口はヒリヒリ、ひたいはべとべと。立ち上る魚の匂い。あんなに早く到着したのに、こんな強烈な味付けができるなんて…!
これがおかずだったらどんなに良かったでしょう。このスパを白いご飯のお供にしたら、美味しく、たらふくにいただけそうです。しかし、残念ながら、これが主食なのです。 この味は、ご家庭でも再現できそうです。ツナ缶、いや、魚の匂いを強くするには鯖の方がいいでしょう。鯖の生姜煮を作って、そこに軟らかめに茹でたスパゲッティを入れ、思いっきりかき混ぜてください。似た物になると思います。
今回、デジタルカメラを忘れて、携帯電話のカメラで撮影しました。操作に慣れていなくて、ホワイトバランスが一定していない上に、サイズを間違えてしまい、横長の写真になっています。気がついたときには、電話の充電が切れてしまいました。
本来ならば、後日再び、アラビアンを注文して、慣れ親しんだデジタルカメラで撮影すべきなのでしょうが、もう、あの魚の匂いは経験したくありません。よって、見づらいとは思いますが、この写真でご容赦ください。
お味のショックで書くのを忘れるところでした。結局、このお品も、何が「アラビアン」なのか分からずじまいでした。
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