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2009.02.08

この季節に最適の茶色くて甘いもの(天然酵母黒糖かりんとう、天然酵母竹炭かりんとう:錦豊琳)

 甘くて、茶色くて、パキッ、と食べるものといえば、

 そうですね。かりんとうですね。

 いいですよね、かりんとう。素朴で、素直な、飾り気の無い甘み。食べ始めは「なんだ、かりんとうか…」などと思って手を出すのですが、気が付くと、大袋に手を入れて、次から次へ、黒い小片を、口中へ放り込んでいます。あなどれない甘さ。あなどれない歯ごたえ。あなどれない大きさ。複数の要素が組み合わさって、「加速が付く」お味になっています。
 これに、あったかい緑茶なんてあったら、冬のコタツ周りは、極上の癒しの空間となります。そうすると、かりんとうに対する物腰はちょっと穏やかになります。袋に直接手を入れることはせずに、深めの小皿にパラパラとあけて、一本を手に取り、形状を確認します。確認とは言っても、「茶色いな」「固いな」「曲がっているな」くらいの感想に止めておきます。「これ一本で炭水化物が○○グラム、脂質が○○グラム。よって○○キロカロリー」と考える必要は、癒しの空間の演出のためには、まるでありません。軽く、見たままの素直な感想で済ませるべきです。手に取った一本、直径1.5cm、長さ5cmの茶色の塊を、かじりつきます。

 「カリッ」

とは、音がすれど、かりんとうは、ほどんど元の形のまま。そうなのです。かりんとうは固いのです。「かじりつく」程度の歯でのアプローチは失敗します。「噛み折る」「噛み砕く」「噛み潰す」の心を持って対処しなければなりません。一本そのまま、ガッ、と、口に入れ、渾身の力を以って、歯を働かせます。

 「ごぎっ!」

この音がすれば、成功です。かりんとうは無事に噛み砕かれました。続けて、二口三口。その間も「かぎっ! がごっ!」と音を立てるはずです。かりんとうは、揚げている上に、しっかりと黒糖で表面がコーティングされているので、水分に負けません。短時間、口の中に居ただけでは、軟化の態度を見せません。それでも、しばらく、歯に活躍の場を与えていると、かりんとうも白旗を揚げざるを得なくなります。黒糖が弾けて、中の小麦粉が散り、油を伴った甘みが口いっぱいに広がり、ひっつきます。かりんとうって、残る甘さだと思います。結構、しぶとく残ります。このままだと、甘みでいっぱいになって、血が回り、頭と心が、炎の如く熱くなります。
 それをなだめてくれるのが、緑茶です。甘く、とろりとした、ほの温かいお茶は、歯とかりんとうの格闘の歴史を穏やかに鎮めてくれます。カテキンが、すっきり、さっぱりと、油、黒糖、小麦粉を洗い流して、無垢な状態へと還してくれます。これで、二本目のかりんとうへ取り掛かる準備ができました。こうして、やめられないとまらない「かりんとう力」が遺憾無く発揮されるのです。

 かりんとうは、このような特徴を持つことから、どちらかというと下町、田舎、大衆の属性を持っているようです。商店街のお菓子屋さんとか、スーパーの大袋コーナーが定位置。ややうつむいて、片手で口を隠しながら、開いた片手で、出来るだけ小さい音でポリポリといただくような、上品な場には向いていないと思っていました。
 ところが、探せば世の中にはあるものですね。「上品かりんとう」という分野がいつの間にか出来ていました。友人から、「このかりんとう、とても美味しいんですよ」と贈っていただいた「日本橋 錦豊琳」さんのかりんとうが、まさに上品かりんとうなのです。何が違うって、外側が違います。スーパーのは大袋です。

錦豊琳 かりんとう・1
 小袋入りのかりんとう

 錦豊琳さんのかりんとうは「小袋」です。この時点で、第一ラウンドの旗が上がります。小袋入りですから、中のかりんとうは、一般的に販売されているかりんとうよりも、細身で、小ぶりです。「繊細」ということばが浮かびます。反面、「いくら細身で小ぶりだからといって、かりんとうに『繊細』は無いだろう」という意見も出てきます。その真偽は、いただいてから判断することにしましょう。

錦豊琳 かりんとう・2
 「照り」が良いです

 右側が「黒糖」かりんとう、左側が「竹炭」かりんとうです。「黒糖」は、かりんとうの中のかりんとう。スタンダードです。でも、「竹炭」とは…。私も、甘いもの探しを数年しておりますので、炭を使ったお菓子と出会ったことが、数度あります。いずれも、「炭!!」と分かるようなお味では無かったので、この「竹炭」かりんとうも、特段、炭味が際立ってはないのだろうな、と予想は付きますが、お菓子の色が「真っ黒」というインパクトは、かなりのものです。瞬間、ひるみます。

 インパクトのある「竹炭」は後にして、大人しそうな「黒糖」からいただくことにします。ライトブラウンの黒糖を艶やかにまとっている黒糖かりんとうは、気ままに、天地東西南北、3次元の空間を生かして、自在に曲がっています。普通のかりんとうよりも、曲がり度がやや高いような気もします。恵まれた環境で自由に育ったご子息、ご令嬢、といった印象を覚えます。
 かりっ。いい音が響きます。それとともにじんわりとした甘みが伝わります。この甘みは、深みがあり、しっかりと中まで詰まっていて、とてもまろやか。上品に作られています。そのためか、「歯と格闘」という雰囲気がありません。噛み締めたときの「ぱきっ、ぽきっ」という軽やかな音に合わせて、口中でダンスを踊っているかのようです。音が華やかなのです。音と甘みで明るく楽しくいただくことができます。

 ちょっとワイルドな見た目の「竹炭」はどうでしょうか。「黒糖」よりも細身で、ざらめのアクセサリをつけて、黒一色のよそおいに、きらめきを持たせた、おしゃれなかりんとうです。
 細身のため、また、生地に気泡が多く含まれているために、黒糖ほどの固さはありません。さっくりとした食感です。もちろん炭の焦がれた味はしません。からりと芳ばしい香りとお味です。表面は、先程のざらめとともに、ほのかに塩味が付けられており、甘じょっぱくなっています。この甘辛のお味が、いつものかりんとうとは風合いが違っているために、これまた、食が進み、さくさくさくさくと加速が付きます。

竹炭かりんとう・断面
 中まで真っ黒

 「黒糖」も「竹炭」も、油気がほとんど感じられずに、軽い風味です。たくさんいただいても、もたれるような感触が生まれません。それなのに、お味は、印象強く、濃密で、たっぷりと、悠然としたものになっています。生地の舌ざわりもなめらかで、きめが細かく、まさに「ごちそうかりんとう」と言えるでしょう。普通のかりんとうは、その油気と甘さで、片手に盛るくらいいただいてしまうと、「うーむ、胃が重い…」となって、あっという間にたらふく感を味わうことになりますが、こちらのかりんとうは、そのような心配は無いでしょう。

 かりんとうに、このようなスタイルをもってくるとは、まさに盲点。かりんとうという姿のために、気軽に手を出すことができるようになっているのに、上品なお味を堪能できる。よく考えたものです。このかりんとうに倣うことで、シンデレラのように意外な転身を遂げることができるお菓子が、まだまだありそうです。


◎店舗・商品データ
・商品データ
 商品名:天然酵母黒糖かりんとう
 価格:いただきもの

 商品名:天然酵母竹炭かりんとう
 価格:いただきもの


・店舗データ
 店舗名:日本橋錦豊琳(にほんばし にしきほうりん)
 住所:東京都千代田区丸の内1-9-1 JR東京駅地下1階・グランスタ
 営業時間:平日8:00-22:00 日祝8:00-21:00
 定休日:無休
 公式サイト:http://www.nishikihorin.com/
 アクセス:JR東京駅直結、グランスタ内「銀の鈴」前。


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