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2008.11.16

あのころのショートケーキは無かったけれど(ストロベリータルト:ハーブス)

 私のような、食べること好き、さらには、甘いもの好きの者にとっては、百貨店の地下はまさに桃源郷のようなところです。お客様で賑わうフロアを縫うようにして見目麗しいショーケースの中を、次から次へと、覗き込んでおりますと、時は瞬く間に過ぎて行き、腕時計に目をやると、「えっ、もうこんな時間!?」と驚くことが、多々あります。
 その日も、地階のお品を、洋菓子、和菓子、お惣菜、そしてまた洋菓子と、くるくると廻っていました。私はどちからというと、派手め、というか、飾り立ての巧みなお品に惹かれる傾向にあります。もちろんお味が良いということは前提です。ところが不意に、シンプルなお菓子を食べたいな、という気分が起こりました。風が通り抜けるように、その思いが心を刺激したのです。

 頻繁に甘いものを求めるようになったのは、名古屋に移り住んでからの、ここ3,4年ですが、「甘いもの好き」になった下地は、九州にいる頃、それも、かなり幼い頃に出来上がっていたように思われます。
 そうしたのは、和菓子では、近所のお店の蒸したての酒饅頭です。ほこほこで、表面がしっとりとしていて、ほのかに「ツン」とする、お酒の醗酵した香りと、さらりとした甘みのこしあんだったと記憶しています。それは、普通のお饅頭よりも小ぶりで、先に書いたように、抑えた甘みだったので、家族が放っておけば、いくらでも、際限なく、食べ続けていたんじゃないかと思われます。
 一方、洋菓子の原点は、「菊屋」さんの「イチゴのショートケーキ」でした。これは、たまに、父が仕事帰りのお土産で買ってきてくれるものでした。父自身は、それほど甘いものを好んで食べるタイプでは無いので、私と妹を喜ばせるために買ってきていたのだと思います。父の選択は、毎回ほぼ一緒でした。イチゴのショートケーキ、チョコレート味のクリームとスポンジのケーキ、スフレチーズケーキです。食後、白い箱を開けて、「どれでん、好きなもんを食べよ(どれでも、好きなものを食べなさい)」と言われるものの、どれも好きなので困りました。チョコレートケーキを選ぶこともあれば、チーズケーキを取ることもありました。でも、一番多かったのは、イチゴのショートケーキだったんじゃないかな、と、思います。
 そのイチゴのショートケーキは、表面は真っ白の生クリームがすうっ、と塗られ、スポンジと、イチゴが混ぜ込まれている思われるピンクのクリームがそうになっていました。その層の天辺には、くるっとした生クリームを台にして、一粒のイチゴが座っていました。ケーキをお皿に載せると、まずは、三角形の頂点にあたる部分をフォークで、そうっ、と、切り取り、一口。甘くて、酸っぱくて。次は、ケーキが倒れないように、続きを切り取り、また同じように味わいます。三口目くらいになると、イチゴをそろそろどうにかしないと、という気分になり、天辺から、紅い珠をフォークで刺して、口の中へ。ここまで来ると、もう残り少なくなったな、という物悲しさがふっ、と、浮かび、名残惜しくなりますが、もちろん食べ残すなんてことにはならずに、少し少し、クリームとスポンジを削り取って、ゆっくりと食べ終わっていました。この瞬間は、それこそ、甘美な世界に身を委ねているようでした。この優しい記憶は、おそらく、最期まで、私の心に在り続けることになると思っています。

 話しを元に戻しましょう。百貨店の地下を回っていると、シンプルなイチゴのショートケーキの記憶が、さーっ、と、表に出てきて、無性にそれが食べたくなりました。「よし、今日はイチゴのショートケーキ!」と思ったものの、案外と、そのシンプルなショートケーキが見当たらないのです。数種類のきらめく果物が盛り付けられたタルトや、お洒落でシックなチョコレートケーキ、洋酒の香りがショーケース越しに伝わってくるような雅やかなケーキは存外にあっさりと見付かるのですが、イチゴと生クリームとスポンジのシンプルなショートケーキが消えているのです。あれほど隆盛を誇っていたケーキが、こんなに見られなくなるとは…。この情勢を見逃していたとは、甘党を自負していただけに、迂闊さを覚えないわけにはまいりません。
 「ケーキ…、ショートケーキ…、イチゴのショートケーキ…」と沙漠でオアシスを探す人の如く、百貨店地階を彷徨っていましたが、とうとう音を上げました。見付かりません。「ここなら、確か、あったはず。だって、前に、カタログで見たから」と思って、立ち寄ったハーブスさんのコーナーにもなかったからです。ここまで無いというのは、多分、季節の問題なのでしょう。はぁーっ…、仕方ありません。時間が無かったこともあり、妥協しました。スポンジを諦めました。たくさんの生クリームと、たくさんのイチゴを使った大きな「ストロベリータルト」をテイクアウトです。

ストロベリータルト・アップ
 全体がフレームに収まりきれないほど大きい!

 相も変わらず、ハーブスさんのケーキは大きいです。大きさに圧倒されて、目にしただけでたらふくっぽい感じになります。が、やはり、それだけではおなかはふくれません。たっぷりの生クリームからいただきましょう。ふわふわと丸みを帯びた階段状に象られた1ピースは、一辺が15cm、標高9cm、弧8cmと、数値を見ても、素晴らしいたっぷり感。
 生クリーム、カスタードクリーム、イチゴ、タルト生地の順で層になっています。生クリームはさっくりとした食感。でもその後、ややもったりとした舌ざわりになります。そのもったり感から縫い出るように、玉子の香りの効いたカスタードクリームが現れます。このカスタードクリームは、生クリーム以上にねっとりとしていますが、甘みは抑えめになっていて、もたれるようなことにはなりません。
 そして、きりりと引き締まった味のイチゴ。やや酸っぱさが目立っているように思いましたが、ボリューミーなクリームと渡り合うには、このくらいの固めの味の方が良いのでしょう。後口がイチゴですっきりと流されて心地好いです。
 ふわふわの生クリームと、ねっとりのカスタードクリーム、ころころとたくさん入ったイチゴ、そしてさくさくのタルト生地、と、必要充分、シンプルな造りです。求めていたイチゴのショートケーキとは違いましたが、大満足の1ピースでした。でも、次こそは、懐かしのイチゴのショートケーキを見つけたいと思います。

 ところで、上の写真では、メインのイチゴが半分しか写っていません。「このケーキ、大きいですよ」というアピールをしましたが、実は…、

ストロベリータルト・先端崩壊
 イチゴ、重さに耐え切れず

 肝心の、先端のイチゴ部位が、大崩壊してしまいました。ハーブスさんは、テイクアウトの場合、銀紙で側面と底面を包んで下さるのですが、持って帰って、この銀紙をはがして、お皿に載せようとすると、独特の大きさによるその自重で、細くなっている先端の部分が、持ち堪えられなくて、倒れてしまうのです。よって、綺麗な写真を撮ることができませんでした。

 [教訓]
 ハーブスさんのケーキの写真を綺麗に撮りたければ、店内で。(その場合は、お店の方に許可をお取りになってくださいませ)


◎店舗・商品データ
・商品データ
 商品名:ストロベリータルト
 価格:¥730


・店舗データ
 店舗名:HARBS(ハーブス・三越名古屋栄テイクアウトショップ)
 住所:名古屋市中区栄3-5-1 三越名古屋栄店地下1階
 営業時間:10:00-20:00
 定休日:三越名古屋栄店に準じる
 公式サイト:http://www.harbs.co.jp/harbs/
 アクセス:名古屋市営地下鉄「栄駅」から、「サカエチカ」5,6番出入口直結。


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コメント

>うきょうさん
コメント、どうもありがとうございます。「ニヤニヤしながら」というのは、まさに私が望んでいることですので、本当に嬉しいです。

ハーブスさんの先月のメニューには、「ストロベリーケーキ」は無かったので、12月用のケーキなのだと思います。デパートのクリスマスケーキカタログでも、ハーブスさんは、スタンダードなショートケーキを載せていました。
クリスマスケーキは、いろいろと悩みましたが、大好きなハーブスさんのミルクレープとストロベリーケーキにしようかな、と思っています。

それでは、これからも、何卒、よろしくお願いいたします。

投稿: 桜濱 | 2008.12.20 00:36

数ヶ月前に「寄食の館」のリンクからやってきて、以来ちょくちょく読みにきてます。
ウィットに富んだ表現にいつもニヤニヤしながら拝読しております。
いつもはコメントなど書かないのですが、今日名鉄百貨店のハーブスの前を通ったら、「今月のおすすめ」としてイチゴショートがあったのでお知らせしなければと思った次第です。
また、レポートをお願いします。
これからも頑張って下さい。

投稿: うきょう | 2008.12.19 14:34

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