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2008.09.07

ベーグルをおかずにごはんを食べられる(ベーグル各種:ベーグル心粋)

 ベーグルというパンは、まことに不思議なパンです。
 なんというか、愛嬌がありませんか? くるっと、天使の輪のようになっていて、表面に艶めきがあって、食べると、もっちりしていて、もっくもっくと噛んでいると、歯が楽しくなってきます。
 それに、ベーグルはおしゃれっぽいです。ベーグルサンドというものがあります。その名の通り、ベーグルのサンドイッチです。形は、ハンバーガーに近いですね。でも、ハンバーガーよりもスタイリッシュな雰囲気です。前述のように、輪っかになっていたり、艶めきがあるからでしょう。普通の四角だったり三角だったりするサンドイッチとも違います。あれは、具に連れられてパンが参画しているような気がします。本当の話か、うその話か、いまだに分からないのですが、サンドイッチの語源は「サンドウィッチ伯爵が、カードゲームの間に、手を汚さないように、簡単に食べられるものを」と考案したところから来ているといいますね。そのエピソードからも、普通のサンドイッチのパンは、「手がべとべとにならない」「楽に摂食できるように」という大きな目的があるのです。つまり、パンは、中の具に対する、パッケージのような存在になっているのです。主役の座を譲っているわけです。
 それに対し、ベーグルサンドは違います。ベーグルのあの存在感は、具に主役を譲っているという風はありません。真ん中に穴が開いているのも、「隙があれば、ここから具を出して、手をべとべとにして差し上げましょう。おほほほ」という意思が読み取れます。それに、あの歯ごたえ。どう考えても、ベーグルの食感無しでサンドを食べるということはできません。具よりもしっかりした反発力。ベーグルはパワフルなのです。

 このように、その存在感に惹かれるように、ベーグルを愛される方々は多いようです。小麦の旨みを、食感を、楽しさを求めて、ベーグルに手が伸びるのでしょう。
 その要望に応えるように、ベーグル専門店や、軽食がベーグルメインのお店が数多くあります。パン好きの人々の間でも、「美味しいベーグルのお店」というテーマで討論が行われているというのも、まことしやかに囁かれています。
 その囁きからもれ出でたのが、私の耳にも届きました。なんでも、池下にベーグル専門店が出来たらしい。なんでも、開店直後から爆発的に人気が急上昇らしい。なんでも、あまりの人気で、各日、お店を開けてから2時間くらいで完売することもあるらしい。なんでも、だから予約をするのがいいらしい。なんでも、美味しさは名古屋屈指らしい。
 と、このような囁きが春先から聞こえてきました。これは相当な力を持っているようだ、というのは想像がつきました。そして、よし行こう、よし行こう、と思いつつ早半年。池下に用事があることが少ないので、延び延びになってしまいました。でも、このまま、味わわないわけにはいかない、と、ベーグルのために池下へ自転車をふっ飛ばしました。もちろん品切れにならないように、開店前から張っていました。張り込みらしく、あんぱんと牛乳も用意しようかと思いましたが、パンを買うのにパンを食べながらは本末転倒ですし、私は牛乳を飲めないので、それは止めて、普通に電信柱の陰に立っておりました。 そして、看板が出ると同時に入店です。

ベーグル心粋
 お店のロゴのフォントが粋です

 「ベーグル心粋」さんは、名前の通り、ベーグル専門店です。毎日10種類ほどのベーグルが用意され、日替わりメニューもあります。店内はシンプルな内装、壁面に取り付けられた棚に、いろとりどりのベーグルが置かれたかごが置かれており、その彩りだけで、浮かれてきました。
 ベーグルをよくよく見ると、不思議な点がいくつか。まず、こちらのベーグルは、輪になっていません。いちおうはくるりと巻いているのですが、ぷっくりと焼かれた生地は穴をすっかり埋めてしまっています。これはこれで、見た目が面白いです。そのぽってりとしたベーグルを見ていくと、今までベーグルで見たこと無いような味のものがあります。それについて、詳しくは後述しますが、いくら名古屋とはいっても…、というようなお品です。
 それらはどれも魅力的なベーグルなので、全種類手に入れたいところですが、そんなに食べられるはずもないので、特に気になった5つを入手しました。

 まずは、オーソドックスな「プレーン」から行きましょう。
 つやつやで、むっちりと張っていて、おへそのような凹みは、可愛らしくもあり、色っぽささえも感じます。これが、こちらでの標準的な形となっています。直径は約90ミリメートル。太さは約55ミリメートル、大人の方の小さめのこぶしの大きさくらいでしょう。

ベーグル・プレーン
 表面はぱっちぱちに張っていて

 小分けの袋を開けると、さわやかな小麦の甘さが香ってきます。それでは、一口。
 香りと同じく、小麦本来のじわりとにじむような穏やかで深い甘みが感じられます。砂糖っぽい甘さはありません。あくまで生地そのもののお味です。食感は、粘りが強く、ぐっ、と力を入れて噛まないといけないほどの弾力を示します。しかし、固いということは無く、歯切れはさっくりとしています。エアが多いですが、みっしりと高密度に凝縮しているようです。あえて言うならば、フランスパンと餅の中間のような感触です。
 この弾力は、しばらく噛み続けても無くなりません。いくらでも、もちもちと噛み続けられます。しかも、長時間噛み続けていても、味が薄まらないのです。いつまでも、小麦の甘みが供給されます。こんなに甘みがしっかりあるのに、全くくどくないというのが絶妙です。

ベーグル・プレーン・断面
 中はもっちもちです

 初めは、やや小ぶりかな、とも思いましたが、しっかりした食感と、長時間放たれる濃い甘みによって、一つ食べ終える頃には、おなかにかなりの満足感を抱けます。ふーっ、たらふく、たらふく。1個なのに、こんなにたっぷりおなかが満たされるなんて、素晴らしい実力者です。

 次は、甘みが付いた「黒糖」と「ダブルチョコレート」です。

ベーグル・黒糖&ダブルチョコレート
 左が黒糖、右がダブルチョコレート

 せっかく、生地に小麦の甘みがあるのに、黒糖の甘みが混じるといけないのではないかな、と危惧しておりましたが、それは杞憂に終わりました。小麦と黒糖が見事に手を取り合っています。ベースの甘みは残したまま、ふわりと上品な黒糖の香りが立ちます。これもじっくりと噛み締めていると、黒糖の活力のあるまろやかな旨みが出てきて、飲み込む頃には、その香りで豊かな陶酔感を味わえるようになっています。もちろん、黒糖が入っているので、「プレーン」よりも甘みは強めです。

 「ダブルチョコレート」は、「あれ? これがベーグル?」というような、ボール状になっています。凹みが無いのです。何故だろう? と思いつつ一口いただくとその理由がわかりました。中に、チョコレートクリームが入っていました。

ベーグル・ダブルチョコレート・断面
 濃厚なチョコレートクリーム

 生地もチョコレート、中もチョコレート、さらにチョコレートクリームも2種類入っているようで、いろいろと「ダブル」なベーグルです。生地の味はビター、その分、チョコレートクリームは、濃い目のねっとりした甘さです。さらに、生地は、他のベーグルとは違うものが使われているようで、柔らかくて、粘り気が少なく、さっくりとしています。そのため、チョコレートクリームのしっかりした甘さがありますが、生地がビターかつ柔らかなので、噛む回数が少なくなり、ぱくぱくといただけます。

ベーグル・シナモンレーズン
 シナモンの香りが心地良いです

 私の好きなシナモン味、「シナモンレーズン」もありました。これは、生地にシナモンのパウダーが混ぜ込まれているようです。ちょっとピリッとするスパイシーさは、シナモン好きにはたまりません。この香りを妨げないようにして、酸味と甘みをアクセントにしているのがレーズンです。実に効果的です。シナモンの刺激を楽しみながら、たっぷりたっぷりと噛んでいると、レーズンの力強い甘みと、生地の小麦の柔らかい甘みが渾然一体となり、最後、のど越しですっきりした生地の甘みがシナモンの涼やかさを伴って消えていきます。この清涼感が、「シナモンレーズン」の持ち味でしょう。

ベーグル・シナモンレーズン・断面
 レーズンの割合も丁度良い

 さて、店内で見かけたとき、一瞬ひるんだのが「八丁味噌」です。見た目もさることながら、持ち帰る時点で紙袋から甘辛の匂いがほのかに香る意思表示の強さ。

ベーグル・八丁味噌
 味噌!

 ベーグルの半面に赤味噌ベースの甘い味噌ダレが付けられて、白胡麻がトッピングされています。さらに、表面の生地のさらにその内側の生地にも味噌ダレが練り込まれていて、かなり強めの味に設定されているようです。
 この「八丁味噌ベーグル」、どこからどうやって食べれば良いのか戸惑いますが、手にタレが付かないように、不安定な持ち方をしながら、かぶりつきました。
 おーっ、これは、はっきり甘辛味噌ダレです。生地はプレーンのものがベースのようですが、さすがにこれだけの味噌風味だと、生地そのものの味は分かりにくくなっています。タレは、砂糖の甘みよりも、味噌の塩味の方が目立っていて、かなり濃い味付けです。飲み込むときまで味噌の風味はちゃんと残ります。

ベーグル・八丁味噌・断面
 内側にも味噌が入っているので、濃い味です

 それにしても、これはベーグルを食べている感覚とは思えないほどです。最初に書きましたが、なんだか不思議です。まるでおかずを食べているようなのです。強い弾力の生地に、甘辛味噌の組み合わせは、味噌カツそのものを食べているようなのです。

 これは立派な一品のおかずです。ごはんが要ります。

ごはんの友にぴったりだ、と思わずにはいられません。ビールのおつまみにも良さそうです。ベーグルにこんな展開を持たせたのは、ベーグルの新たな境地を開いたとも言えるでしょう。

 どのベーグルも、ベースの生地を丁寧に作っているからでしょう。コシのあるお味で、バリエーションを持たせていても、それぞれの素材がきちんと生きていました。
 もれ出でた噂の囁きの通り、ベーグル心粋さん、すごい実力です。人気の程が分かります。今回、美味しさにつられて、ボリュームのあるベーグルを、一度に5個も食べておなかがパンパンになりましたが、大満足です。今度は、開店前に張り込みをしなくてもいいように、ちゃんと予約しておきます。

看板・おすすめベーグル
 実は八丁味噌が一番人気


◎店舗・商品データ
・商品データ
 商品名:プレーン
 価格:¥167

 商品名:黒糖
 価格:¥199

 商品名:ダブルチョコレート
 価格:¥199

 商品名:シナモンレーズン
 価格:¥188

 商品名:八丁味噌
 価格:¥188


・店舗データ
 店舗名:BAGEL心粋(ベーグル心粋)
 住所:名古屋市千種区仲田2-8-7
 営業時間:11:00-18:00
 定休日:水・木
 アクセス:名古屋市営地下鉄「池下駅」横「池下北」交差点より西に350m。「仲田北」の交差点を右折(北へ)。「仲田2」の交差点を直進して50mの左手。


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コメント

>simochanさん
ようこそ、いらっしゃいませ。お褒めくださいまして、ありがとうございます。
食パンを使った普通のサンドイッチは、

「はい、わたくし、食パンでございます。食パンの『食』は『主食』という意味でございます。全力で、食事を承ります。どのようなおかずも引き受けます。はい。五枚切りでも六枚切りでも構いません。仰せのままに」

というような、腰の低さが感じられるのですが、ベーグルは、

「まぁ、サンドしてあげてもいいけど。私、なんていうか、食感っていうか、それを大事にしてるのよね。ほら、肌のお手入れもちゃんとしてるし。本当はそのままの方が美味しいと思うんだけどね」

と、ツンデレっぽく言いたげな雰囲気をまとっているような感を受けました。表面がぴしっ、としているのに対して、中がもっちりしているからかもしれません。

八丁味噌ベーグルは、一番人気になるのも頷ける美味しさでした。ベーグルっぽくないと言えばベーグルっぽくないのですが、そのミスマッチさが新たな旨みを引き出していると思います。良く考えたものだなあ、と感心しながら、もぐもぐといただきました。

投稿: 桜濱 | 2008.09.22 04:20

ベーグルが「おほほほ」(゚m゚*)という意思をもっているんですね。なかなかおもしろい文章ですね!私もベーグルって不思議なパンだと思います。そしてとってもおいしいですよね。
味噌ベーグルが気になりました!

投稿: simochan | 2008.09.21 18:40

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