ビッグマックで空想夏休み
私が、良く言えば「インドア派」、悪く言えば「出不精」なのは、今に始まったことではありません。記憶を辿ると、小学校低学年の頃からそうだったと思われます。
夏休み、担任の先生が企画した「蝉取り大会」が開かれたことがありました。同級生たちは喜んで、虫取り網を持って、一日遊んだそうです。「そうです」と伝聞の形なのも、私は参加しなかったからです。夏は、日があまり当たらない家の中で、扇風機の風に当たっているほうが好きでした。扇風機に当たって、普段はなかなか取り掛かれない長編の読書に目を通したり、早々に大量の宿題を済ませて、自分から計算ドリルなどを解くような子ならまだ良かったのですが、扇風機に当たって、ぐうたらぐうたらして、8月28日頃から半泣きで粗だらけの宿題を作り上げることが常でした。9月1日は、宿題疲れの身体を引き摺って、日焼けなしの肌を晒しての登校です。タイムマシンがあったら、叱り飛ばしてやりたいです。
そんな少年は、年を経て、今では年季の入った、インドア目ぐうたら科出不精属の生き物「桜濱」になりました。この夏も取り立てて、お出かけするということもありませんでした。ガソリンの値上げが無くても出かけていなかったはずです。
お盆の前後には、帰省・Uターンラッシュ、出国・帰国ラッシュの様子がニュースで流れました。燃油サーチャージ云々と言っても、しっかりとラッシュになっているようでした。夏の風物詩となったこの様子を見ていると、「私も外国に行ってみたいな」という気にはなります。でも、その後に「『どこでもドア』があったらいいのにな」と、出不精属らしい感想が思い浮かぶのです。
小説家の原田宗典さんはエッセイの中で「若いうちに沢木耕太郎の『深夜特急』みたいな旅をしておけば良かったと思う」と書いていらっしゃいました。このエッセイがきっかけで、私も『深夜特急』を読んで、原田さんと同じ感想を抱きましたが、腰の重さから、その夢は叶わずに終わりそうです。
『深夜特急』みたいに、実際に、世界中を渡り歩くことはありませんが、各地の産物を見て、世界を感じる、いや、「空想」? いや、「妄想」旅行をすることがあります。コーヒーのパックに "HAWAII Kona Coffee"などと書いていれば、フラの音色が聞こえてきます。テレビで激辛料理が紹介されていれば、そのお品を出すのが国内でも、既に心は半袖シャツ、短パン、パクチー、トムヤムクンの流れで、タイランドです。北海道のジンギスカン料理が紹介を見ると、一足飛びにモンゴル場所に参加です。もちろん、甘党ですから、ケーキを食べれば、オー、シャンゼリゼ。メルシィ、ムッシュウ。
こんな風に、食べ物一つで、海外に(心だけ)行っている習慣が付きますと、徐々に日常よく有るものでも、見付け次第、飛んで行ってしまうようになります。
その一つが、マクドナルドさんの「ビッグマック」です。ビッグマックは、瞬時にアメリカに私を誘います。他のハンバーガーにはそこまでの力はありません。
それには理由があります。中学生・高校生の時、英語を教えてくださる先生方が、たまにされる英語圏にまつわる雑談の中に「ビッグマック」がよく登場していました。
「日本の『ビッグマック』はこれくらいでしょ。でもね、アメリカのビッグマックはもっと安くてしかも、こーれくらい大きいんだよ」
一人の先生が仰っているならば、錯覚だ、とも思えるのですが、複数人の先生が仰っていたので、多分本当なのでしょう。(注:私が小学生・中学生・高校生の頃の話しなので、今は違うかもしれません)
真偽のほどは別にして、「本場のビッグマックはでかい」という刷り込みはしっかりと為されました。そのため、ハンバーガーでもなく、チーズバーガーでもなく、てりやきバーガーでもなく、フィレオフィッシュでもなく、マックフライポテトでもなく、
「ビッグマックで!」
私は、アメリカ合衆国に旅立つのです。
ハンバーガーって日本で一番好かれているアメリカ料理ではないでしょうか
ビッグマック買ってきて、それをしみじみ見るとすごいことになっていますね。上中下段のパン(バンズ)。その間々にハンバーガーに馴染みのあるものが大挙して押し寄せています。ハンバーグ(パティ)がバンズに護られて腰を下ろしています。しかも上下それぞれのパティは、丁寧にふんわりとしたレタスとやわらか鮮やか橙色のとろけるチーズを下に据え、居心地が良さそうにしています。さらにさらにそれらの結束力を高めるためにか、マスタードやタルタル風のソース、みじん切りの玉ねぎ、ピクルス、などが脇を固めるように参画しています。
こうして、ビッグマックの陣容を挙げてみると、「ビッグ」というだけの巨大勢力っぷりがうかがわれます。どこから食べたらいいのだろうか? と迷わずにはいられない、と思いきや、ハンバーガーなので、だいたいどこから食べても同じような味になります。
ほんのり温かいパンを上下の歯でふっかりと噛み割ったところに、ソースと肉の濃い味が舌を伝わります。さらに歯を進めると、レタスのシャッキリと、チーズのクリーミーさ、わずかな塩気を持ったピクルスがコリコリ、玉ねぎのみじん切りがシャリシャリ。飛び散る白胡麻!
数秒で口いっぱい、これだけの食感と味に包まれ、渾沌状態になるのです。
そして、私の心を乗せた飛行機はアメリカ合衆国へ飛びたちました。
リスのように口いっぱいにしての、アメリカ横断ウルトラジャーニーです。あれだけ綺麗に段階的に整理されていたビックマックは、口に入れると、その面影はなくなります。全てが詰まった味が発散され続けています。目を瞑り、私は、咀嚼を続ける。おっ、ロスに着陸。坂道を登る私。登った先はラスベガス。天井いっぱいのイリュージョン。その灯を突き破って、西部の荒涼とした風景の中、長い長い直線道路をでかい車で、突っ走る。マイアミの陽気に誘われてちょっと寄り道。出迎えてくれたよ、スタチュ・オブ・リバティ!
…と、一個のビッグマックを食べる五分間にアメリカ横断ができて、たらふくにもなれました。それもこれも、英語の時間の雑談での刷り込みのお陰です。先生方、ありがとうございました。英語の宿題をよくサボっていて、申し訳ございませんでした。
今まで、先生のお話しで、「本場のビッグマック」は大皿に載せないといけないくらいでかくて、レタスも丸1玉、ピクルス1本、肉はこぶし大のが2個くらいというイメージを持っていたのですが、正しいのでしょうか…?
いや、この謎は謎のままにしておきましょう。「夢多きビックマックの憧れ」を持ち続けることが、『深夜特急』宜しく、本当にアメリカ横断旅行するための第一歩のような気がしてきました。インドア目ぐうたら科出不精属は、ちょっとしたことでもきっかけとして残しておかないと、本当に憧れの地に旅立つ芽が全く無くなってしまいそうですから。
◎店舗・商品データ
・商品データ
商品名:ビッグマック
価格:200円(セール期間中)
・店舗データ
店舗名:マクドナルド (McDonald's)
公式サイト:http://www.mcdonalds.co.jp/
1巻・マカオ編のカジノのシーンが好きです。自分が賭けているかのような気になり、手に汗握ります。
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