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2008.02.14

ビターな気持ちでかじり付く、甘辛きこげ茶色(とんかつ定食:とんかつ比呂野)

 バレンタインデー。
 皆様、特に男性諸氏、チョコレートを手にすることができましたでしょうか。もちろん自分で購入したものではなく、プレゼントとしてです。「数え切れないくらいもらいました。虫歯が心配です」という方もいらっしゃることでしょう。しかし、「チョコレートは?」と訊かれても、黙って下を向き、家路につき、家に帰るとすぐに布団に入り、静かに枕を涙で濡らし、「来年こそは…」とそっとつぶやく方もいらっしゃるかもしれません。
 『神聖モテモテ王国』(ながいけん著)というマンガをご存知でしょうか。『週刊少年サンデー』(小学館)で1996年から2000年まで連載されていたギャグ漫画です。深田一郎という15歳の学生と、彼の父親だと言い張る奇妙ないでたち(下半身は常に白ブリーフのみ)の謎の宇宙人「ファーザー」が、「ナオン」(女性のこと)に好意を寄せては、果敢にアタックし、壮絶に散る(主にファーザーが)というパターンが、毎回、踏襲されています。ファーザーは何故か「自分はモテる」と思っており、ナオンを振り向かせるために一郎のアパートの部屋で計画を立てます。ところがその計画はファーザーの手によって展開されると、的外れなものとなり、どんどんと深みにはまっていき、散るのです。詳しくはWikipediaに載っていますので、ご興味がおありの方はお調べください。
 単行本第3巻には、バレンタインデーを取り扱った一編があります。冒頭の、一郎とファーザーの会話をご紹介します。

 一郎「…くっ、とうとうバレンタインが来てしまったか。」
 ファーザー「……かわいそうに。なかなか人類皆平等とはいかないもんじゃよね?」
 一郎「お前もらう気か? 別にへんな男に爆発物あげる日じゃないんだぞ。」
 ファーザー「チョコくれるんじゃろ? おい。チョコってこげ茶色でトンカツじゃないやつじゃろ?」
 一郎「食ったことないんじゃないか!?」

 …なんと、秀逸なセリフ回し!
 ファーザーと一郎の食卓は、何故か毎回トンカツなのです。ファーザーにとって、日常の食事であり、最高の食事はトンカツで、基準がトンカツなのです。

 枕を涙で濡らした皆様。ファーザーに見習おうではありませんか。
 2月14日はバレンタインデーです。2月15日は「バレンタインでチョコレートをもらえなかった人デー(略してVDCWMNHD)」とし、夕食にトンカツを食べるのです。(『神聖モテモテ王国』では略称が多く使われます。[例:MNO=もてない男] ただし、『神聖モテモテ王国』自体の略称は「キムタク」。当時の読者の公募で選ばれた略称です)

 都合の良いことに、名古屋はトンカツ文化が活発な地域。トンカツに味噌だれをかけた「味噌カツ」という美食が花開いた土地です。名古屋にしばらくの間住んでいれば、自分の好きなトンカツ屋さんの1件や2件は脳内データベースに蓄積されることになります。
 名古屋の味噌カツ屋さんの代表は、やっぱり『矢場とん』さんでしょう。名古屋の中心地、中区・矢場町にでっかいビルを構え、イメージキャラクターの化粧回し姿のブタが「どすこい」と、描かれています。その本店ビルの他にも、名古屋の主要地に店舗を構えています。
 『矢場とん』さんはメジャーすぎるほどメジャーで、別格の感があります。名古屋のトンカツ好きの人の脳内データベースには、『矢場とん』さん以外に、「穴場の名店」があるはずです。今回は、私のそのうちの一店をご紹介いたしたいと思います。

とんかつ比呂野
 お隣は系列店の喫茶店です

 「とんかつ比呂野」さんは、「穴場の名店」だと私は思いますが、「名古屋の美味しい味噌カツ屋さんはどこですか?」というアンケートを取ったら、名前の挙がる頻度の非常に高いお店です。

 メインメニューの「とんかつ」は、味噌だれかソースかを選択できるようになっています。でも、ここは定番の「みそかつ定食・たれ全掛け」でオーダー。

とんかつ定食
 ソースも良いけど、名古屋ではやっぱり味噌カツ

 定食は、とんかつに付け合せの野菜(キャベツ、トマト、サニーレタス、キュウリ)に、ゆかりがふりかけられたどんぶりごはん、わかめとみつばの赤だし、そしてお漬物の陣容となっています。
 まずは、とんかつ(今回は味噌カツ)を、慈愛の心を込めて見つめましょう。赤味噌をベースとしたたれは、ウスターソースや普通のとんかつソースなど、黒味が強いたれと違って、見る者の心を優しく包み込んでくれるような、まろやかで深みのある色合いをしています。まるでチョコレートのような色合い…。

とんかつ・アップ
 照り輝く味噌だれ!

 とんかつには、どこから食べ始めるかという問題が常に付きまといます。東海林さだお先生もそのことに言及したいらっしゃったと記憶しています。とんかつを食べる順番には、大きく分けて2種類が存在します。端から食べるか、中央から食べるかです。
 これは、議論を重ねることが必要と思われる重要な問題です。端から食べる人は、「整然」を重要視しているのだと思います。一方、中央から食べる方は、最重要地点を真っ先に抑える戦術を取っていると考えられます。私は、後者に属しています。まず、そのとんかつの旨みの中心を、無垢な舌で感じなければならないと考えているからです。
 では、中央のお肉を取り出だします。

とんかつ・断面
 みっしりとお肉です。食べ応えアリ!

 約170mm×約90mmのとんかつは、8つにカットされています。その4番目部分は、肉厚15mm、約15%の脂身と約85%の肉で構成されていました。衣は薄く、細かめのパン粉をまとっています。
 さて、いただく前に、儀式を一つ。2月15日のとんかつの夕餉が有意義なものとなるように、「乾とんかつ」です。

乾とんかつ
 できるだけ楽しい気持ちでお肉を合わせましょう

 両手に持ったお箸で、二切れのお肉をやや勢いをつけて合わせます。一人で。ここで本当に乾杯の時のように「かんとんかーつ」と声を出してはいけません。お店の人や周りのお客さんに怪しまれます。「かんとんかーつ」は心の声に留めておいてください。

 「乾とんかつ」を済ませたら、ようやく実食です。いただきます。
 まずは歯にサクサクの衣が当ります。やや時間を置いて、味噌だれを吸って、やや柔らかくなった衣の感触と香り。甘味としっかりとコシの入ったたれの合わせ技。甘さと味噌の塩気の組み合わせは、コロンブスのアメリカ大陸到達に匹敵する邂逅だと思わざるを得ません。
 この甘辛さが口に残っている間に、ごはんを頬張ります。…「ごはんの友」の実力者「明太子」とタメを張れると思います。
 たまらず、次なる一切れに。サクサクと食べられるのです。油切れが良く、衣にしつこさが全くありません。また、お肉の脂身の旨さ。じんわりと体の隅々に行きわたる脂の甘さ。これが包容力というものなのでしょう。
 ついつい脂身の旨さを強調してしまいましたが、お肉の本体部分の旨さも言わずもがなです。みっしりと詰まったお肉は、かじると、清涼感と重量感の両方を合わせ持った豊潤な香りと味を口腔内に広げます。いくら噛んでも、その旨みは次から次へと立ち現れ、永遠に尽きることがないのではなかろうかと思わずにはいられません。
 中央に空いた、二切れ分のとんかつの空間。付け合せのキャベツをその空間に残った味噌だれに付け、一口。さっぱりしたキャベツに濃厚なたれの組み合わせは、肉の旨みを残しつつ、口直しの効果も発揮します。
 もうここまで来ると加速度がつきます。肉、野菜、ごはん、お味噌汁に陶酔し、お箸が止まりません。お肉は中央から端へとその姿を消していき、それに伴い、どんぶりのごはんもみるみる間に無くなっていきます。
 おっと、あまりに勢いよく頂いていたために、のどにつかえてしまいました。ここでお味噌汁をくいっと。赤味噌に赤味噌。なめらかにのどを潤します。

 最期の一口のお肉になりました。ここで、

 「すみません。ごはんと赤だしのおかわりをお願いします」

 比呂野さんでは、定食を注文すると、ごはんと赤だしとキャベツのおかわりが自由なのです。たらふくになれるシステムが備わっているのです。味噌カツがいかにごはんに合うのかを、ちゃんと分かっていらっしゃる店主さんのお心を見た気がします。

 残りの一口のお肉を口にし、熱々のごはんでそれに合わせ、赤だしでその余韻を楽しむ。お肉は無くなりましたが、味の記憶で、どんぶりごはんと赤だしをいただきます。

 味噌カツがある文化圏に住まうことができたことを、神に感謝します。

―――

 『神聖モテモテ王国』第4巻で、ファーザーはこのように言っています。

 「トンカツとはトンに勝つ……つまり己に克つ事じゃよ。それを食べちゃうのだから、つまり何かに勝った様な気になるわけよ。」

 勝てるのです。トンカツはチョコレートにも勝てるのです。

 2月15日の夜は、さぁ、レッツ・トンカチックディナー!


 『神聖モテモテ王国』の単行本1~6巻(未完のため全6巻ではありません)は、永らく絶版となっていましたが、コミックパークさん復刊してくださいました。元の単行本に比べ割高(約2.5倍)になっています。万人にオススメするには、やや躊躇ってしまうマンガではありますが、ギャグ漫画がとにかく好きという方はご一読を。
 復刊本の売れ行きによっては、単行本未収録話を収めた「第7巻」が新たに発行される可能性もあるとのこと。ご購入をお願いいたします。もちろん第7巻を渇望する私のためにじゃよー!

 (2008.05.06追記)
 『神聖モテモテ王国』(略称:キムタク)ファンの想いがコミックパークさんに伝わり、なんと、8年ぶりに、続刊となる「第7巻」が発売されることが、コミックパークさんからアナウンスされました(復刊された1~6巻の売れ行きが好調で、小学館からOKが出たようです)。早ければ、2008年5月中に発売されるそうです。なお、「第7巻」は、手作り&完全注文生産のため、一般の流通ルートは通らず、コミックパークさんのみの販売になるらしいです。内容は、単行本未収録の週刊少年サンデー掲載分+ヤングサンデー集中連載分になるとのこと。

 ギャワワー! この追記はトンカツと関係ないじゃろー!
 でも、かーんげきーいー、早く喜びの酒、松竹梅を買ってきてー。


◎店舗・商品データ
・商品データ
 商品名:とんかつ定食
 価格:¥1260

・店舗データ
 店舗名:とんかつ比呂野
 住所:名古屋市昭和区山花町116
 営業時間:平日11:00-15:00,17:00-21:30 土日祝11:00-15:00,17:00-22:00(L.O.各30分前)
 定休日:無休
 アクセス:名古屋市営地下鉄「川名駅」直上、「川名交差点」を北へ約200m。「川原通7交差点」を右折し約50m、次の信号を左折し直進。約300mの右手。(山花町バス停向かい)


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コメント

>みんたさん
今まで「メンテナンス中」になっていたところに、雑ではありますが、記事を埋めました。余分なものをそぎ落として、ほとんど商品の写真だけになってしまっていますが…。
まだ少し、残りがあるので、時間を見つけて、なんとか埋めてみます。最近ミスドが新商品を出しすぎなので、それに偏ってしまっていますが、名古屋のお店もいくつか調べているので、あいだに挟み込んでいきたいと思います。

『神聖モテモテ王国』ですが、ちゃんとチェックしていますよー。先月から刊行開始です。今日は第3,4巻の発売日でした。旧版とまったく同じ内容なんですが、ファンは買わずにはおれません。
小学館さんは、なんやらいろいろと騒がしいことがありましたが、これに関してはありがたい限りです。

投稿: 桜濱 | 2009.06.11 20:29

写真を見るだけで名古屋に行きたくなる、それが山とみそかつ…今日もうっとり記事を読み返しておりました。

先日知ったのですが、『神聖モテモテ王国』がなんと小学館さんから新装完全版が出るとのこと。ファンの力でしょうか、おめでとうございます。70年代のギャグマンガがいまだ勢力をもっている我が家ではファーザーの出番はないかもしれませんが、小学館さんが過去のマンガにもきちんと対応してくださることは大歓迎ですんで嬉しいです。

投稿: みんた | 2009.06.10 22:37

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