「じわり」の甲斐あった渋さとカワイさ(ホージ、ミルフィーユ フランボワ:モンサンクレール)
JR名古屋タカシマヤの「2006 パティスリー&ブーランジェリーコレクション」の最終日に関して言えば、一番人気は群を抜いて「モンサンクレール」さんだったでしょう。2日目も訪れましたが、ブースの前には行列ができていたような覚えがあります。おそらく、他の日も行列ができていたのでしょう。全期間を通じて一番人気だったと思われます。
「モンサンクレール」、そして、オーナーパティシエの「辻口博啓」さんのお名前もまた、「オーボンビュータン」さんと同じくらいよく聞くお名前です。もちろん、最上級のお菓子を提供しているお店、パティシエの固有名詞として。まっさきに、買わねばならないケーキリストにチェックを入れておりました。
「オーボンビュータン」さんが15時半からの限定販売だったように、「モンサンクレール」さんも15時半が販売開始時間となっていました。
15時10分。既に「モンサンクレール」さんのブースの前には「S」字状の行列が出来ていました。販売開始前20分の時点でこの状態です。ここで私は「先に『モンサンクレール』の列に並ばねば買えない」と判断しました。
そして「←最後尾」のプラカードを持っている店員さんのところに向かうと、
「すみません。最後尾はあちらになります」
と、プラカードの矢印方向を指されたのです。指された掌の先をたどってみると、15mほど離れて、まだ行列が続いていたのでした。他のお店の障碍にならない場所に、行列を区切っていたのです。
私はとぼとぼとショーケースから離れた、その行列の最後尾に加わりました。私の前には約50人。販売開始前なのに50人。前途が思いやられる50人。
15時半は過ぎましたが、行列が動く気配がありません。10分ほど過ぎて、じわりと列が動きます。そしてまた10分ほどたって3人分ほどじわり。その、じわりじわりの行列に身を任せていると、店員さんが後半の行列にいらっしゃり、
「商品の数に限りがございますので、ご希望に添えない場合がございます。申し訳ございません」
とアナウンスをされました。あせる私。じわり。もどかしい私。じわり。
じわり、じわりの行列に根気良く並んでいると、だんだんショーケースに近づいてきました。既に売り切れの商品もできているようです。じわり。しかし、幸いにして、私がお目当てにしていた商品はまだまだ在庫がありそうです。じわり。
そして、ようやく、やっと、ショーケースの前に。店員さんが目の前に。
「この、『ホージ』と、『ミルフィーユ・フランボワ』を一つずつください」
ケーキをさす人差し指は細かに震えていたかもしれません。オーダー後も、レジまでの数メートルの距離をじわり。
お会計を済ませて、2つのケーキが入った箱を手にしたのは、16時40分。行列の最後尾に加わってから1時間半が経っていました。ケーキ2個を買うために1時間半掛けたのでした。ケーキ2個に90分。我ながらたいした根気です。そして私の後ろに並んでいた方々もたいした根気をお持ちでいらっしゃいます。
これほど、苦労して手にしたケーキ。しっかりと味わわねばなりません。
まずは、「ホージ」。名前の通りほうじ茶を使ったケーキです。
渋いお姿!
すらりと立ったチョコレートスティックは日本の粋を感じさせてくれます。しゅっと抜き取って、ぽりり。ミルクチョコレートのなめらかな甘味が伝わってきます。
抹茶を使った鮮やかな若葉色のケーキはよく目にしますが、ほうじ茶を使った渋い色のケーキはあまりお目にかかれません。この渋色のほうじ茶はムースになっています。抹茶のケーキに比べると、お茶の薫りが強く立っているように感じました。ほわりと甘い泡だった抹茶のなめらかな甘味ではなく、炒ったお茶の芳しさと甘味がすっきりとした感覚とともに訪れます。うん、このような日本茶のケーキは珍しいです。抹茶のケーキよりも「お茶っぽいぞ」と思いました。
中にはチョコムースが端然と居住まいを正していました。おもてのほうじ茶のムースに甘さがあるのに対し、このチョコレートは甘さはやや抑えめ、苦味さえ感じる、コクのあるねっとりと濃いお味です。
芳ばしい薫りと甘さを併せもったほうじ茶の味と、苦味を強めにしたチョコレート。洋菓子なのに、ぴしりと締まった和風を感じるものでした。
次は、一転して、これぞフランスと思わせてくれる「ミルフィーユ フランボワ」です。こちらも名前から分かるように、フランボワーズを使ったミルフィーユです。
すっきりとカワイイお姿!
天辺の一個のフランボワーズ。それが腰掛けているのは、パイとクリームの層の繰り返しのベンチ。なんとかわいらしい。これを突き崩さずにいただけないものか。悩まされます。しかし、方法は一つあります。大口を開けて、一個まるまる口の中に押し込んでしまうのです。…できません。90分のケーキです。できるわけがありません。
毀すのが惜しいと思いつつ、パイにさっくりとフォークを突き立てると…。割れません。見た目に反して、案外しっかりとした堅さのパイ生地です。もう少しフォークに力を入れると、「パリパリッ」と硬質の音を立てて、甘酸っぱい香りとバターの香りが、わっとばかりに放たれました。…と、同時にパリパリのパイは、バリバリのパイになり、ボロボロのパイへと変化してしまいました。
…「カワイイ」が崩壊
あのかわいらしさはどこに…。しかし、ここまでになれば、なんの躊躇いもなく、ざくざくとパイを突いて、クリームを絡ませていただくことができます。
クリームは、フランボワーズが混ぜ込まれたカスタードです。見た目は「混ぜ込まれた」ですが、お味は対等。フランボワーズの酸味が強く出て、カスタードのなめらかな甘味とドッキング。甘味と酸味が最良の兼ね合いを見せています。
このミルフィーユを綺麗にさっくりと切り分けるのは諦めた方が良いと思いました。むしろ、一層ずつ、ざくざくに突き崩して、一口大よりもやや小さい一片でクリームをすくい取って、いただくのが良いのではないかと思うのです。すると、ザクザクで甘いパイと、すっぱいフランボワーズ、ほわりと軽いカスタードを、ちょっとずつぱくりぱくりといただくことで、なんとも贅沢な気分が味わえるのです。
対照的な優雅さを持つ二つのケーキをいただきました。
もちろんたらふくになりましたが、行列をじわりじわりと動いていた時点で、既にたらふくになっていたような気もいたします。
◎店舗・商品データ
・商品データ
商品名:Ho-ji(ホージ)
価格:¥473
商品名:Mille-feuille framboise(ミルフィーユ フランボワ)
価格:¥473
・店舗データ
店舗名:モンサンクレール
住所:東京都目黒区自由ヶ丘2-22-4
営業時間:11:00-19:00
定休日:第1水曜(臨時休業あり)
公式サイト:http://ms-clair.co.jp/
アクセス:東急東横線・自由が丘駅を西に約150m。最初の信号を右折(北方向へ)。そのまま直進して約500mの左手。「自由ヶ丘学園高校」の北側。
※JR名古屋タカシマヤ催事 「2006 パティスリー & ブーランジェリー コレクション」
JR名古屋駅隣接、JR名古屋タカシマヤ10階 '06.09.20-'06.09.25
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