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2006.08.21

涼しさ飛び出る檸檬のバクダン(タルト・シトロン・キャラメリゼ:シェ・シバタ 名古屋店)

 丸善の色とりどりの画集の上に置かれた檸檬は、あの後、どうなったのでしょうか。
 「奇怪な幻想的な城」はその上に置かれた檸檬によって、「ガチャガチャした色の諧調をひっそりと紡錘形の身体の中へ吸収してしまって、カーンと冴えかえ」りました。

 「カーン」という、擬音が良いですね。

 硬く、鋭く、そして冷ややかな音です。「肺尖を悪くしていていつも身体に熱が出」ていた「私」も檸檬を握ることで、「掌から身内に浸み透ってゆくようなその冷たさは快いもの」を感じていました。

 レモンはいつでも、冷たく、快いものなのです。

 「シェ・シバタ」さんの「タルト・シトロン・キャラメリゼ」もまたそうでした。このお品は、夏限定なのだそうです。

タルト・シトロン・キャラメリゼ
 画集の上には置かれていません

 表面がキャラメリゼされており、暖色系となっているため、ぱっと見た感じでは、それほど、甘い涼感を得られるようには見えません。果たして中身でどのようにして、夏限定を表しているのでしょうか。

 前回いただいた「タルト・オ・フィグ」は手づかみでしたが、今回はそうは参りません。このタルトを手づかみでいただくと、カラメルとタルト生地に内包されているクリームによって、指・手・口まわり・その他諸々箇所が惨憺たる有様になることが、容易に予想できます。
 これは、きちんとフォークとナイフでいただきましょう。

タルト・シトロン・キャラメリゼ 中身
 とろけだす甘酸っぱさ

 表面はパリッパリにキャラメリゼされていて、ナイフを通すと、ステンドグラスのように、パリンとひびが入ります。それとともに、真っ白なクリームが姿を現しました。カラメルと対を為すかのように、とろっとろです。このクリームは酸味がやや強いレモン風味。のどに軽く沁みるほどの酸味をもっています。

 あれ? ちょっとすっぱすぎるかな?

と、思ったのですが、表面のカラメルと共に口にいれると、きっちりバランスの取れた甘さ、すっぱさとなりました。これぞまさに名人芸!としか言いようがありません。
 タルトの土台はやや硬め。これは口ざわりの点で、クリームと対を為していると言えるでしょう。やはり名人芸!
 上にはアーモンド味のクッキーが乗っかっています。カリカリタイプのクッキーで、しっとり感はありません。

 このタルト一つで、さまざまな要素を体験できるのです。
 一番上がカリカリの香ばしいクッキー。
 パリッパリで強い甘みのカラメル。
 とろっとろで、酸味の強いレモンクリーム。
 ザクザクしたタルト生地が一番下。

 こんな贅沢な涼感があってもいいのでしょうか。アイスクリームやシャーベットのような冷たさはもちろんありません。しかし、昔の人と同じく、心と体に快いものを感じさせてくれるタルトです。心がくつろぐたらふく感でございました。

・引用文献
 梶井基次郎『檸檬』 新潮文庫 1985年6月改版


◎店舗・商品データ
・商品データ
 商品名:タルト・シトロン・キャラメリゼ(Tarte citron carameliser)
 価格:¥420
 ポップ:本場のレシピで作ったシトロンクリームをタルトに詰め、表面をキャラメル状にしました。

・店舗データ
 店舗名:chez Shibata NAGOYA(シェ・シバタ 名古屋店)
 住所:〒464-0064 名古屋市千種区山門町2-54
 営業時間:10:00-19:00
 定休日:火
 公式サイト:http://www.chez-shibata.com/
 アクセス:名古屋市営地下鉄覚王山駅の北東、日泰寺の参道に沿って、約150mの右側。


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コメント

>みんたさん
昔(昭和30年代くらいだったはず)の氷を使った冷蔵庫が、白玉を冷やすのに丁度良かったと聞いた覚えがあります。今の冷蔵庫だと、カチカチになっちゃうんですよね。
白玉はたまに食べたくなって、実家にいるときは、米粉を買ってきて、作ってもらったり、自分で作ったりしてました。もちもちが、ゆるいもともちで美味しいですよね。

白玉はそのものを冷やすことで涼ををとりますが(色も関係しているでしょうが)、ケーキでは、味覚そのものでなんとか涼を得ようとしているイメージがありますね。

夜中のケーキは非常に危険ですよー。 たまにその危険をおかすのもまた良しです(笑)

投稿: 桜濱 | 2006.08.22 09:36

江戸時代の日本人が、水で締めた白玉を錫皿に盛って白砂糖をかけただけのものに涼を感じられたというのは、すばらしい感性!とはいえ冷房と冷蔵庫があたりまえになってしまった現代ではなかなか実感できない…と常々思っていました。
それが、あったのですね、西洋からもたらされた技法と職人の腕によって。
本当に冷たいけれど儚いゼリーやアイスクリームに頼りがちですが、どこか暑さに負けてだれている感じがします。ピシリと酸味で締まったケーキに涼しさを感じるくらいには背筋をシャンとしていたいものだと思いました。
そして、桜濱さんの文章もたいへん涼やかで美味しゅうございました。いつも嬉しいです。

さて、近所のお気に入りでタルトシトロンでも買ってこようかしら、冷蔵庫のブッセがなくなったら…夜中なのにそんな気になってしまいましたよ!(苦笑)

投稿: みんた | 2006.08.21 03:51

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