2024.12.29

シャルロットを僕のものにしたいけれどもなかなか会えない(「シャルロット」シリーズ:YKベーキングカンパニー)

 一年以上、恋しているスーパーマーケットパンがあります。その、味と食感と価格とで恋に落ちました。恋して以来、乞い求めているのですが、なかなか出会えません。何故ならば、それは神戸屋から出ているパンだからです。
 私は名古屋にいます。日本三大パンメーカーの二社「敷島製パン(パスコ)」と「フジパン」(五十音順)の本社がある土地です。中京パン二重王国です。そこに近畿勢力である「神戸屋」が入り込むのは容易でないことは想像がつきます(そんな中でもしっかりと勢力を維持している山崎製パンはさすがだと思います)。
 いくら神戸に美味しいパン屋さんが多くても……、と書いたところで確認したら、本社は大阪府でした。阪神地域では「パンは神戸」というイメージがあるのでしょう。そういうことにしておきます。
 本題に戻ります。神戸屋が出している「シャルロット」シリーズに恋をしています。しかし、上記の事情で、なかなか見かけません。あの食感、あの甘味、あの姿。恋煩いかける頃にふと見かけて、シリーズをまとめ買いします。煩う直前で出会うので、始末に負えません。

定番のミルクシャルロットとカスタードシャルロット
 定番のミルクシャルロットとカスタードシャルロット

 シリーズですから、いくつかの味があります。シンプルな「ミルクシャルロット」、こくのある「カスタードシャルロット」、ほろ苦さと甘さの整った「コーヒーシャルロット」が定番のようです。他にも季節限定シャルロットがあり、恋煩いかけながら見かけると、
「そのような姿にもなれるのか!」
 と、新たな魅力を発見した気持ちでまとめ買います。
 そもそも、シャルロットはケーキの一種類です。ビスキュイと呼ばれるもこもことした生地のフレームで、ババロアやフルーツ、クリーム、ソースなどを包み込んだものです。それをパンで表現しているのが神戸屋の「シャルロット」です。

うず巻きが麗しい
 幅5.5cm、奥行8cm、そして斜辺14cmのうず巻きが麗しい

 「シャルロット」はビスキュイよりも、しっとりふわふわした生地で表面をくるりと包んで、内側は、スポンジ生地とクリーム、ソースがくるりと巻かれています。しっとりの表面、ふんわりのロール、それぞれの個性を強める内側に巻き込まれたクリームとソース。一見するとバラバラな要素ですが、それらが「の」の字で巻かれていると、なんとしたことか、「ミルク」でも「カスタード」でも「コーヒー」でも季節限定のものでも、味は異なるのに全て「シャルロット」というひとつの個性のパンになるのです。
 斜めに切られているのも素晴らしい。表面のビスキュイを模したしっとり生地はシリーズ共通です。そのため、ちらと見ただけではどの風味か分かりにくいです。断面を広く見せることによって、明瞭に、そして美しく「シャルロット」であると魅せているのです。この姿にも恋しました。

オレンジシャルロットのむしり痕
 食べかけではなくて、むしったものです。このむしり痕でふわふわさを感じ取ってください。

 「シャルロット」を口にしている間は「できることならば、手に入りやすい阪神間に住みたい」という衝動が沸き起こります。食後、しばし久々の味わいにうっとりとしてから、「いやいや、パン二重王国である名古屋を離れるわけにはいかない」と、正気を取り戻します。
 それならば、せめて、近所のスーパーマーケットで「シャルロット」シリーズが置かれる曜日、あるいは「ごとび」のように決まった日に並んでいれば助かるのですが、そのパターンは決まっていないようなのです。恋に朽ちそうになるころに、ふと見かけるのです。たまたま立ち寄った近所ではないスーパーなどで。さらには季節限定を含んでシリーズが並んでいたりするのです。私の恋心を弄んでいるのか。
 そうして、たまの逢瀬を楽しんで、「いつ、また会えるのだろうか」、きぬぎぬを惜しむかのように包装を眺めました。

パンではなかった

  名称|洋菓子

 パンじゃない!
          *

「神戸屋」時代のシャルロット
 神戸屋時代の姿

 なお、2023年に、神戸屋は山崎製パングループに入っていて、「YKベーキングカンパニー」の社名に変わりました。それならば、もっと、「シャルロット」シリーズの領土拡大をお願いします。

さつまいもシャルロット
 季節限定

 今季見かけた「さつまいもシャルロット」、美味しくないわけがないですね。


◎商品データ
 商品名:シャルロット(ミルク、カスタード、オレンジ、さつまいも)
 製造者:株式会社YKベーキングカンパニー
 価格:138円(税込・近所のスーパーマーケット価格)
 公式ページ:https://www.ykbaking.co.jp/products_series_taxonomy/series_charlotte/

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2021.11.28

かこちがおなるトング

 これまでに築いてきた信頼がカシャカシャと音を立てて崩れていくようだった。その責は私たちにない。全くない。それでも申し訳なく思う。「もうここで働いてもらっては困るのです」と言われれば、「そうですよね……。分かってます。今までお世話になりました」と去るしかない。あるいは、「息苦しいだろうが、我慢してほしい」と言われれば、これもまた、分かってます、とビニールの膜を被ったり、密閉された狭いガラスケースの中で、息も絶え絶えに答えるしかない。
 こんな通気性の悪い有り様も風潮も、一年、一年半と経つうちに、だいぶん慣れた。いっときは悪の根源、邪気の伝道者と見られていたが、人々は私たちの新しい扱い方に慣れてくれているようだ。もともと頑丈な体を持っていたことが幸いしたのかもしれない。引き続き私たちが使われているところでは、いずれも厳格な運用が為されているようだ。使われなくなったところでは……、どうなっているのか判然としない。そのものたちは第二の生を歩めているのだろうか。倉庫の奥深くで箱詰めにされて静かにしているのだろうか、粉砕され微細な金属片になったのだろうか、溶解され何かの金属部品に再加工されたのだろうか。
 幸いにして以前と同じ役を与えられた私たちを、手に取ってくれる人たち。二年前程前と比べて、カチカチと鳴らす音を小さくされているのは気のせいだろうか。あの音を発していると、「迷っていらっしゃるなあ。どうぞ、存分にお迷いになって、好みの美味しそうなものを挟んでほしい。私たちはそれらをきっちりと捕らまえます」と期待に胸を膨らんでいた。しかし、今は、その音を発する機会が少なくなっているようだと、まことしやかにささやかれている。引っ掛け横棒からそっと取り上げられ、そっとトレイ氏と視線を交わす。私たちと同じく、厳しく清浄されているトレイ氏も何だかへなへなと張りが無いようだ。カチカチは響かず、力弱く美味しいものを挟み、トレイ氏へ移す。役割を果たしてはいるけれども、ぬぐい切れない寂しさがある。
 そもそも私たちは、清潔が実体になったもののように思われていたし、私たちもそう思っていた。食事を楽しむ人たちが、じかに美味しいものを各々の箸でつまんだり、手掴みで取り上げるのは、はしたない。さらに言えば不潔であるとされる。その思いを汲んで、私たちが代わりに働いていると自負していた。清らかな食生活を世にもたらすために私たちがいるのだ、と。だが、それは思い上がりだった。
 私たちは運び屋にされていた。
 そのことは、ほとんど誰も知らなかった。誰が悪いわけでもない。「知らなかっただけで、良かれと思って」などと免罪を求めることばを言うつもりはない。言うつもりはないけれども……。
 最近、思い出す。お腹を空かせた人たちに、ガシャッと取り上げられて、美味しい料理、お菓子、パン、それらを何のためらいもなく挟んでいた時の同胞の活躍を。好きなものを存分に食べようと思っていらっしゃる人たちの火照った手の感触を。それが、今は、恐る恐る手に取られ、カチカチの音は無く、さっさと機械的に食物を挟み、「使用済みはこちら」の中に投じられるか、トレイ氏を介して手袋をした店員さんに受け渡される。このような日々の様子をパン屋さんなどで働く同胞から打電――私たちの情報ネットワークはカチカチ音を利用したモールス信号で構築されている――で知ると、ただただ悲しさが沸き上がるのみ。
 私自身はというと、今、甘いものが好物の人のもとに居る。四枚切りの食パンのトーストにジャムを塗るか小倉あんを塗るか迷った末に、ジャムを塗ったものとあんこを塗ったものと二枚食べ終わってから、「ここで塩気が来るとさっきの甘みがさらに引き立つのだが」と考え、バターだけを塗った三枚目を食べようかどうしようか迷うような人だ。この人は、摂氏二百六十度、二分半に設定したオーブントースターで焼いた食パンを手づかみでお皿に移していた。「あち、あち、あちっ! あっついな」とぼそぼそつぶやきながら、きつね色の食パンを焼き網から皿に移していたらしい。何年も。
 ある日、この人がパン屋さんに行った時、頭の中で事柄が繋がった。
「このままではトング文化が滅んでしまう! それを食い止めるために、せめて1挺(はさみの助数詞が「挺」なので、似たような動きの私たちを挺と数えたようだ)だけでもうちで厚遇しよう」
 この人は、パン屋さんで私たちを手に取る機会が多いからこんなことを考えたのであろうが、私たちはご家庭の調理でも使われているので、さすがに、当面のところ、滅ぶ予定まではない。そんな私たちの事情をよそに、この人は、販売店の調理器具コーナーで吟味ののち、小柄な私をオーブントースター用として、このうちに招聘してくれた。
 以来、日々食パンを挟んでいる。たまに、食パンが焼き上がってから私を用意し忘れていることに気付くことがある。すると、この人は、まあいいかと手で掴もうとする。そして、「あちっ!」と手を引っ込め、「やっぱり、トング、トング」とぶつぶつ言いながら台所に控えている私を取りに来てくれる。
 遠い記憶。金属加工されていた頃、ホテルのランチビュフェや、パン屋さん、ドーナツ屋さんといった華やかな世界を夢見たこともあった。しかし近頃は、こうして、毎朝、この人の素手の代わりに食パンを挟んで(時折、サツマイモやお惣菜の揚げ物などを挟んで)いると、決まったとおりに一人の人と顔を合わせる日々も悪くないかな、と思うようになった。華やかではないけれども穏やかで変わりない日が続くのは、ありがたいな、と。
 夜中、この人の寝息か寝言が聞こえてきたのを確認したら、そんな思いをもって過ごしているよと、パン屋さんやドーナツ屋さん、ビュフェで奮闘している同胞に、この人を起こさない程度の音で、カチカチと安否を打電している。

小振りなトングとトースト
 片方がぎざぎざ、もう一方がなめらかになっているので、使い勝手がとても良いです


◎商品データ
 商品名:愛着道具 小回り指先トング C-8443
 製造元:パール金属株式会社
 小売価格:990円(税込)
 公式ページ:https://www.p-life-house.jp/goods_C-8443.html

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2019.06.30

味わいつくそー、「鮎菓子たべよー博 2019」

 鮎菓子に対する思いを篤くしている人がこれほどまでにいるのか。会場前の行列を見て驚きました。既に開場から一時間以上が経過しています。入場規制の列です。これほどまでに鮎菓子に対しヒートアップしている人がいらっしゃるとは……、一か月前からうっすらと感じてはいました。このイベントの一企画のチケットが取れなかったからです。当該チケットは先着順という告知が為されていました。私はそれでも油断していました。
「500円で『鮎菓子食べ放題』のチケット、僕は魅力を感じるけれども、世間一般はさほどでもないだろう」
 と高を括っていたのです。結果、発売開始日の夕方にチケット販売サイトを見ると、購入手続きボタンがグレーになっており押すことができませんでした。全くの出遅れです。調べてみるとどうやら即完売だったようです。クロールで泳ぐ人々を相手に古式泳法横泳ぎで挑んだようなものです(毎週『いだてん』を観ています)。
 「鮎菓子たべよー博 2019」は岐阜商工会議所の実行委員会が主催で、県下の和菓子店が一堂に集い、鮎菓子に次ぐ鮎菓子、東西南北上下どこを向いても鮎菓子に彩られた年に一度の鮎菓子の祭典、博です。私はこの博を昨年の博の日に知りました。テレビニュースで流れたのを見て、「行こう」と思ったものの、すでに博は後半の時間。電車に飛び乗って博の会場に行っても鮎菓子は泳いでいった後、ということが明確に分かる出遅れでした。昨年のこの悔しさを繰り返すまいと、桜のつぼみが色付く頃から「鮎菓子たべよー博」の動向を注視していました。それなのに、再びの出遅れを喫し、チケットを取り損ねたのですから、うっかりにもほどがあります。
 うっかりでがっかりですが、「もう起き上がりたくない!」と枕を涙で濡らすほどではありませんでした。そりゃあ、ワンコイン500円で40分間鮎菓子を食べ放題できるチケットはうらやましいですよ。でも、私の主たる目的は、一堂に会して販売促進にいそしむ岐阜の銘和菓子店からちょっとずつ色んな鮎菓子を手に入れることでしたから、立ち直りは早かったです。気持ちの切り替えが早いのは心がすくすく成長している証しでしょう。
 話しを冒頭に戻します。即完売するほどの人気を有す食べ放題に行列ができるのはまだ分かります。それとは別のフロアに設けられた和菓子店の即売会場の入り口にまで入場規制が掛かっていたのが驚きでした。岐阜の人たちはこんなにも鮎菓子を心に留めていたのか。
 行列に並んでいる間に、「鮎菓子たべよー博 2019」を復習しておきましょう。今年で4回目のこのイベントは、岐阜商工会議所の「もっと鮎菓子のことを知ってもらおう。東濃にはくりきんとんがある。水都大垣には水まんじゅうがある。清流長良川の岐阜には鮎菓子がある!」という思いで運営されています(そう明言はされてません。なんとなくの雰囲気です)。岐阜県内の他の和菓子だけではなく、やや離れたところの、強力なライバルにも目が向けられています。京都です。鮎菓子もしくは別名の「若鮎」は京都の銘菓という一面も持っています。もしかしたら、全国的に見れば京都の方がメジャーな感じがあるかもしれません。それでも岐阜の鮎菓子販売に携わる方々は、「相手にとって不足はない。我々の鮎菓子もたいそう美味しいのである」という意気込みが、壁の向こうから待機行列の私のところまでひしと伝わってきました。この博は岐阜の気概なのです。

「買おー」の幕
 「買おー」(鮎菓子の販売)、「食べよー」(鮎菓子食べ放題)、「作ろー」(オリジナル鮎菓子作り)、「楽しもー」(工作教室など)、盛りだくさん。

 規制が解除され、岐阜商工会議所の大会議室にようやく立ち入りました、ここは普段は商工の方々が会議をなさっているのでしょうが、この日は至るところに鮎菓子。つぶらな瞳をした鮎菓子が、ケースに、棚に、テーブルに何匹も、何十匹も、何百匹も。

鮎菓子沢山直販会議室
 東西南北天地全体鮎菓子状態

 お店で鮎菓子を見るといつもほのかな戸惑いを覚えます。鮎菓子の助数詞は「個」なのか「匹」なのか。私はできるだけお店の表示に従うようにしているのですが、「個」のお店もあれば「匹」のお店もあります。鮎菓子と様態を近似せしめているお菓子に「鯛焼き」があります。これへの対処はさほど難しくはありません。お店の人に「こんにちは。鯛焼き黒あん二つください」でいいのです。「つ」です。でも、鮎菓子に「つ」は相応しくないような気がしてなりません。「個」あるいは「匹」の助数詞のどちらかに絞るべし、という魂魄が鮎菓子の灼けた身中から、求肥の粘りのようにじわりじわりと伝わってくるのです。鮎菓子の個性を尊重すべきか、鮎の見立てを重んじて匹と呼ぶべきか。難問を頭の中だけで回しても鮎菓子が手に入るわけではありません。中庸の立場を変えず、素直にお店の表示に従うことにしました。あるお店では「二匹ください」、またあるお店では「抹茶味を一個、プレーンを二個ください」というように、状況になびきました。今回の目的は色々なお店の鮎菓子を一ぺんに手に入れられる機会を楽しむことなのですから。助数詞についてはこの度は棚に上げて、今後、思いついたときに下ろして、生涯を通して考えていきたいと思います。

鮎菓子たべよー博の看板
 看板の周囲を彩っている鮎菓子は市内小学生の手によるものだそうです。

 メイン会場のフロアに展開している和菓子店の販売ブースでは、定番の鮎菓子だったり、限定の鮎菓子だったりを四分割したほどの大きさで試食ができるようになっていました。食べ放題は逃してしまいましたが、それぞれのお店で一切れずつ試食をいただいたら、結構な案配でお腹が満たされていきました。「なんだ、食べ放題無くてもいいじゃないですか」と瞬く間に上機嫌になっていきます。複数のお店で試食を勧められたのが「スイカ味の鮎菓子」でした。新鮮な鮎はスイカの香りがする、と言われています。それはあくまで「スイカっぽい香り」を言っているのでしょうが、和菓子屋さんは真剣にスイカと格闘なさったのです。その成果が「スイカ味の鮎菓子」なのです。すっきりとした甘みで美味しかったです。あと、「鮎ですから、スイカの味で作ったのですよ!」というお店の方のキラキラした笑顔が印象的でした。
 鮎菓子の販売会場には、鮎菓子の着ぐるみキャラクターや、テレビに出演なさっているハンサムもいらっしゃっていて、「鮎菓子が好き」の方々だけではなく、「鮎菓子も好き」という方々でも楽しめるように趣向が凝らされていて、老若男女、鮎菓子を好きになってほしいという主催者側の意気込みがこれまたひしひしと伝わってきます。

ひやゆ丸
  岐阜のPRキャラクター「ひあゆ丸」はお子たちにつつかれていました。大人気。

 試食を堪能し、目当ての鮎菓子を手に入れ、ゲストの方々も見て、満足満足。……となったところで、会場の端の方で「鮎菓子グッズ」が販売されているのを見つけました。よくできています。鮎菓子をモチーフにして、木製、革製の小物がありました。確かに木の色、皮革の色と鮎菓子の焼き色は似通っています。なるほど。よく考えたものです。これらが会場に入ってすぐに目に飛び込んでいたら手を出していたかもしれません。予算が足りなくなったときに気付いたのが極めて残念です。鮎菓子型のバターナイフ、良かったなあ……。
 メイン会場を後にすると、鮎菓子作りの実演コーナーがありました。これが実に良かったのです。職人さんが透明の仕切りで作られたブースの内で、黙々と鮎菓子を作っていきます。お子様は透明の仕切りに顔を近づけ、大人は透明の仕切りに顔を近づけたいのを我慢してお子様の頭の上を越して職人さんの手元に目を遣ります。
 鉄板に生地を流します。
 15枚の丸い生地を焼きます。
 しばらく待ちます。
 直方体の求肥を焼けつつある生地に乗せます。
 しばらく待ちます。
 おもむろに鉄板に手を伸ばし、求肥の乗った生地を取り上げ、くるりと巻いて、生地の片端だけをきゅっとつまみます。
 次々に、くるっ、きゅっ、として、出来上がり箱(正式名称が分からない箱。10cmくらいの高さで、体の幅の1.5倍くらいある箱。横にお店の名前が印刷されている箱)に乗せていきます。
 全ての鮎菓子の原型が出来上がり箱に乗ったことを確認します。
 火に掛けておいた焼き印を箱の中の鮎菓子原型にぽんぽんとはたくように押していきます。

鮎菓子実演1
 並べて焼いた生地に求肥を乗せて……

鮎菓子実演2
 手で丸めて……

鮎菓子実演3
 尻尾をつまんで、ケースに入れて……

鮎菓子実演4
 焼き印をぽんぽん押して出来上がり

 次々と現れる鮎菓子の完成品。ブースを取り巻いていた人たちからは嘆息がもれます。職人芸というものは、いつどのようなものであっても、なめらかに、余剰が無く、正確なのだと改めて思いました。こうして、ひとつひとつが速やかに作られるから、求肥と生地というシンプルな澄みやかさを持った味わいになるのかもしれません。
 会場にはこの他にも、工作教室や記念写真撮影スペースなどがありました。工作は開始時間が決められていておりそれに合わずに断念しましたが(予算の都合もありました)、記念写真スペースは無料で空いていたので、入ってみました。この記念写真は、
「鮎菓子になれる」
 ものです。鮎菓子を模した人体大のビニールシートがありまして、片面に鮎菓子の焼き印の絵がプリントされています。これにくるまって、寝転べば、鮎菓子になった(正確には鮎菓子の中からはみ出た求肥になって)写真が撮れるのです。私が見た中ではこの博一番の良企画だと思いました。鮎菓子を一通り食べて、見て回って、すっかり鮎菓子に心を寄せたところで、自らが鮎菓子になれるというのですから。鮎菓子シートは大人向け、子供向けそれぞれの大きさのものが用意されており、背景もきちんと鮎菓子が焼けている感じに作り込まれています。また、ご家族が一緒に撮れるように係りの方も常駐なさっており、撮影をお願いすることもできます。係りの方の雰囲気は明るく、被写体の鮎菓子人間の表情をほぐして下さり、見事な撮影技術を以ってベストのアングルで撮影してしてくださいました。

鮎菓子になれる図
 図解・鮎菓子になれるしくみ

 初めの入場規制の時間を除くと、1時間強。ここまで鮎菓子を楽しめるとは思いませんでした。食べ放題のチケットが無くても、足を運ぶ価値は十分にありました。でも、来年こそは食べ放題チケットを……、とは申しません。今、岐阜駅前・柳ケ瀬周辺はまた徐々に活気を取り戻しつつあるように見えました。鮎菓子食べ放題の分を、街歩きと、カフェや洋食店などでのランチに充てるのが好もしいような気がします。


 ◎リンク
 ・岐阜商工会議所 https://www.gcci.or.jp/
 ・鮎菓子たべよー博(Facebook) https://www.facebook.com/ayugashi.tabeyohaku/

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2019.04.30

喫茶マウンテンのメニュー・2019年4月改訂新版・PDFファイル

 喫茶マウンテンのメニューの実物(2019年4月時点)を参考にして、近い形で複製し、PDFファイルを作成しました。以下のファイルをダウンロードしてお使いください。
 このPDF版メニューは、実物に近くなるように作ってはいますが、非公式のものです。この点ご承知おきの上でご利用いただければと思います。

 Adobe_PDF_file_icon喫茶マウンテン2019年4月版メニュー・PDFファイル

 PDFファイルの閲覧には、「Adobe Acrobat Reader」(https://acrobat.adobe.com/jp/ja/acrobat/pdf-reader.html,無料)等のPDFビューワが必要です。

喫茶マウンテン・メニュー・2019年4月・1ページ
 メニュー実物・1ページ目

喫茶マウンテン・メニュー・2019年4月・2ページ
 メニュー実物・2ページ目

喫茶マウンテン・メニュー・2019年4月・3ページ
 メニュー実物・3ページ目

喫茶マウンテン・メニュー・2019年4月・4ページ
 メニュー実物・4ページ目

―――――

 公式Twitterで2019年4月2日よりメニューが大幅に変わることがアナウンスされました[1]。仕入れ価格高騰による、飲食料金の見直しを主とするものです。他の喫茶店では見られない品々が用意されているため、仕方のないことでしょう。
 新しくなったメニューの中で、私が最も目が惹かれたのは「辛さ度合い表示」です。文字だけを見て注文し、予想と違い、届いたお皿の上にトウガラシが点々と見えた時のショックは大きいです。この表示は味の傾向の貴重な手がかりとなります。なお、私が食べたことのある「スパイス合衆国」は「辛さ2」の表示です。これは市販の大人向きカレールウの辛口よりちょっとばかり大丈夫、といった感じを受けました。「ピカンテピラフ」は「辛さ4」、「赤いワンピース」(スパゲッティ)は「辛さ5」です。
 今後も多くの方々が、一歩一歩確実に頂上に挑まれ、楽しくたらふくとなられることを願ってやみません。その際、このメニューが登山者の皆様の一助になれば幸いです。


 注
 [1] 喫茶マウンテンさんのツイート(2019/03/13 22:46 JST)「【料金改定のお知らせ】 喫茶マウンテンでは原材料の仕入価格高騰のため現行の価格を維持することが困難な状況になってきました。 つきましては4月2日火曜日から価格の改定を実施させていただくことになりました。 ご理解いただき今後ともよろしくお願いします。 #喫茶マウンテン」 https://twitter.com/kissa_mountain/status/1105827574675066881/

 更新履歴
 2019/05/12
 注を追加しました。
 2019/08/11
 PDFファイル内の誤字、レイアウト、フォントを修正し、「Rev01」として差し替えました。

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2019.02.11

琥珀の纏うショコラ(トロワフリュイ(オランジェット・シトロネット・パンプルムース):ドゥバイヨル)

 柑橘類の皮を食べることを忌んでいたのは何故か、きっかけは何だったか。遠い記憶なので掘り起こすことが難しいのですが、「みかんのたぐいの果物の皮は食べたくない」という気にさせた原因になるであろう出来事を二つ覚えています。
 順不同でそれらを挙げますと、まず一つは金柑。
「これは、実ではなく皮を食べるものだ。皮が美味しいものなのだ。だまされたと思って食べてみよ」
 と教えられ、その教えの通りに口に放り込んだら、
「うぐっ!」
 と、だまされました。
 もう一つはマーマレード。小学校入学から間もない頃、給食のパンに付属した状態で初対面しました。それまでジャムと言えばイチゴで赤くて甘いものでしたので、太陽色をしていてジャムとは呼ばれないジャムに興味と期待を抱きました。いただきますの号令の後、ビニールの小袋の端をちぎり、中のそれをずんぐりしたパンに擦りつけ、口にしました。
「うぐっ!」
 往々にして、子供は苦いものを嫌います。二つの出来事のどちらが先か、今となっては曖昧模糊としていますが、金柑もマーマレードもみかんの仲間で、甘さに紛らせ、その外皮を食べさせようとする一派がこの世の中には居るということが刷り込まれたのです。
 このような呪縛があり、長いこと柑橘類の皮を使った甘いものに積極的には手を出せずにいました。ところが数年前のチョコレート催事で大転換が起こったのです。「ご試食どうぞ」と出されたオレンジピールのチョコレート掛けを何の気なしに受け取り、口にしたところ、
「うわっ!」
 みかんの類の皮はこんなにも豊かな風味だったのか。苦味の向こうはうま味だったのか。美味しかったのか!
 長い間、遠ざけていたことが心底悔やまれました。

ドゥバイヨル・トロワフリュイ 2019年版ボックス
 毎年テーマに合わせて描かれています。

 ドゥバイヨルさんの「トロワフリュイ」は、オレンジピール、レモンピール、そしてグレープフルーツピールのチョコレート掛け3種が組み合わさったものです。オレンジピール、レモンピールまでならまだ分かりますが、グレープフルーツの皮にもチョコレートを掛けてしまうとは。グレープフルーツは包丁でもって胴体部分を横に断ち切り、露わになった房の内部を匙で奮闘して刳り抜き食すものではなかったのか。皮がもうちょっと物腰柔らかならば気楽に食べられるのにね、という感想を持たれる果実のはずです。それが「皮こそうま味」と為されるとは。

ドゥバイヨル・トロワフリュイ 2019年版ボックス・内部
 オランジェットとシトロネットは単体でも販売されています。

 まずは、比較的理解の得やすい「オランジェット」から味を見てみましょう。およそ半分の3.5cm部分をかじると、高さ1cmの移動の間に、覆いのチョコレートがパキッと割れ、その後ににっちりとした感触が伝わってきます。この中身がピール……、皮のはずなのですが、柑橘類のえぐみや引っ掛かりのようなものはまるでありません。オレンジ一玉全体を極限にまでぎゅっと押し詰めたかのようなつややかな味と香りが現れます。この柔らかなオレンジピールの味が徐々に大人しくなっていくと、ビターチョコレートの澄んだ苦みが働き始め、オレンジピールの味をまた引き戻します。ビターチョコレートが強めの苦味を担当することにより、対比される形でオレンジピールの「引っ掛かり」がほんのわずかに感じられるようになっています。この一連の流れで、甘くはあるが甘いだけではなく、苦味はあるが苦味ではない、というような幻惑がもたらされます。オレンジだから理解が得やすいだろうと取っ掛かりましたが、とんでもないことでした。

ドゥバイヨル・トロワフリュイ 並べて比べる
 一本ずつ形を楽しむこともできます。

 覚悟を持って「シトロネット」も味わってみます。オランジェットはオレンジピールでしたが、こちらはレモンピールです。教科書で育ってきた私たちはレモンと言われるとどうしても、絵具のチューブから出てくる冷たい紡錘形の爆弾が思い起こされましょう。その酸っぱさは口の中が破裂するかの如く。ことばだけで口中が湖沼と化します。その強い個性はシトロネットでどのようになっているか。
 おや、酸っぱくない。いや、酸っぱくはあるがさほど酸っぱくない。目を覚まさせるレモンの香りがぱっと放たれます。この広がりは爆弾というような強烈なものではなく、霧が吹かれた爽快さです。微睡みから瞬時にうつつへ引き戻してくれる酸味。目を覚めさせてくれた後、ほろとして苦さが出てきたかなと思うと同時にミルクチョコレートの甘みが交じり、なめらかにとろけていきます。レモンの皮もこんなに穏やかになれるなんて、と驚かされます。
 もう、柑橘類の皮だからと二の足を踏むことはありません。パンプルムースに手を伸ばします。素手では到底剥き得ないあの皮の強情さはありません。さらさらとした粉糖に出迎えられ、グレープフルーツの甘みが重く、優しく伝わります。ともすれば刺激とも言えるあの酸っぱさは影を潜め、深奥までしっかりと甘いグレープフルーツです。ミルクチョコレートの甘さとグレープフルーツの甘さが相互に働きかけ、長い間、甘さが留まり続けます。
 グレープフルーツ独特のくせがないわけではありません。むしろ「グレープフルーツの皮だな」という確かさがあり、3種類の中で「皮の味」の主張が一番強いのはこれのようにも思えます。ただ、チョコレート、ミルク、砂糖と手を組むことで、ここまで装いを変えられるのかという意外な思いも大きいのです。

ドゥバイヨル・オランジェット 断面
 琥珀のように輝くオレンジピール

 実のところ、この3種類のピールのチョコレート掛けを、ここ数年のこの季節、このように思いながら毎年食べていました。たいそう心惹かれたチョコレートについて、生半可な気持ちで書いてはならない、と腰引け逃げて、ひとりこっそりピールでたらふくになっていました。しかし、ようやく書き付けてみようという心持ちになりました。何故かは分かりません。太陽を包み込んだような3種類の果実の明るい力がようやく働き始めたのかもしれません。感じ取った明るさをそのまま書いてみればいい。己がくせをほんの少しだけ残しながら、と。
 そうそう、金柑はいまだに食べられません。


◎店舗・商品データ
・商品データ
 商品名:トロワ フリュイ(18個入)
 価格:2700円

・店舗データ
 購入店舗名:DEBAILLEUL(ドゥバイヨル)・松坂屋名古屋店催事「CHOCOLAT PROMENADE 2019」
 住所:愛知県名古屋市中区栄3-16-1 松坂屋名古屋店本館(2019年1月16日から2019年2月14日まで)(Googleマップ
 営業時間:松坂屋名古屋店に準じる
 定休日:松坂屋名古屋店に準じる
 公式サイト:https://www.kataoka.com/debailleul/
        https://www.facebook.com/debailleulproducts/(ブリュッセル本店公式facebookページ)
 アクセス:名古屋市営地下鉄・矢場町駅5番・6番出口直結

 2019年2月現在、日本国内では「丸の内オアゾ店」をはじめ4店舗が常設で営業しています。
 また名古屋地区は2019年2月14日まで、ジェイアール名古屋タカシマヤ「2019 Amour du Chocolat!」、三越名古屋栄店「SALON DU CHOCOLAT 2019」でも出店・販売される予定になっています。

 更新履歴
 2019/02/13
 店舗データにブリュッセル本店公式facebookページの情報を追加しました。
 日本国内の常設店舗の情報を追加しました。
 名古屋地区における催事情報を追加しました。

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