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2017.06.26

実は「帰れなくなった」のか? ―『ひよっこ』の日次から考える―

 折り返し地点の第13週に入り、『ひよっこ』最大の謎であり、この作品の芯とも言える「実は何故行方不明になったのか」、その理由の一端が語られようとしています。第12週までにみね子が(=視聴者が)分かっていることは、実が家族と連絡を絶った後もどこかで生きているらしいということです。その示し方も綿引が得た「実らしき人を見掛けた人がいる」という聞き込みの結果と、実らしき人が黙って振り向くワンシーンだけです。
 しかし、他に手がかりはないかと、疑り深く物語のおさらいをすると、ほんの少しだけ「何故か」が見えてきます。それを、前回作成した日次をたよりに整理してみます。
 まず、実の存在が確認されているのがいつまでかを考えてみます。まず、実は稲刈りのために奥茨城に帰省する前に、すずふり亭を訪れています。その時、彼はハヤシライスを食べていますが(第4回)、その注文伝票に「9/12」と記されています。ここから、この後の3日間の流れが分かります。実はすずふり亭の開店直後の11時頃に食事をしたあと、その日の夕方、奥茨城に帰ってきます。翌日の9月13日に谷田部家は総出で稲刈りをします。実は稲刈りの一日だけ休みを取っていたので、翌14日朝には東京に戻ります。この朝が谷田部家一同が実と顔を合わせた最後の時ですが、同じ日の午後に実はすずふり亭を訪れて、お礼の品が入った重箱を鈴子たちに渡しているので、みね子の知人にまで広げると、これが彼の足取りを確認できる最後の時点です。実の移動を簡単に書くと、

  • 9月12日…実は午前中にすずふり亭を訪れ、夕方、奥茨城に帰る。
  • 9月13日…稲刈りをする。
  • 9月14日…朝、実は奥茨城を発ち、午後、すずふり亭を再訪する。
 となります。
 第2週(第7回から第12回)では、実が行方不明になったことが徐々に明らかになってきます。実は第7回の最後、宿舎に帰った場面をもって視聴者の前からも姿を消します。第8回は第7回の終わりから数日経ったところから始まります。この回の終わりに実に宛てた郵便物が返送される場面が描かれるため、第7回と第8回の間の数日が、一番の問題となります。では、第8回は何月何日なのか。ヒントは三男がみね子と時子に聖火リレー大会を持ちかけた教室にありました。その教室の黒板の右端に、「二一(月)」とチョークで書かれています。同じ日にみね子たち三人は茂に聖火リレー大会の相談をして、その翌日以降に、美代子は返送された郵便物を受け取っています。よって、遅くても、9月22日には実は東京の宿舎からいなくなっていたと考えられます。
 この後、日付は明示されませんが、以下のように、物語は一日ずつ描かれていきます。
  • 9月22日…美代子が返送された郵便物を受け取る(第8回)。
  • 翌日(9月23日)…午前、美代子は東京に電話を掛ける(第9回)。午後、美代子は、茂、宗男と話し合い、1日だけ東京に行くことを決める。
  • 翌日(9月24日)…早朝、美代子は東京に向かう。正午頃、美代子が上野駅に着く(第10回)。午後、美代子が実の居た宿舎に行く。夕方、美代子は赤坂警察署に行く(第11回)。夜、美代子がすずふり亭を訪れる。
  • 翌日(9月25日)…朝、美代子は鈴子、省吾と共に上野駅で始発を待ち、奥茨城に帰る。午後、みね子が学校から帰ると、美代子は畑仕事をしている(第12回)。
 このように、第2週は第8回以降、一日のすき間も空いていません。
 この間、実の手がかりとして、重要だと思われることが二つ出てきます。ひとつは、第10回で、茂と宗男に対し、美代子が伝えた東京との電話の内容です。
「実さんがずっと泊まっているとこの人の話だと、稲刈りが終わって東京さ戻ってきて、3日目に仕事が終わっても帰ってこなくて……。連絡もないんだそうで」
 この電話の内容を確かなものとするならば、奥茨城から東京に戻ってから3日目の9月16日までは宿舎にいたことになります。では、17日に完全に行方が分からなくなったのか、というとそうではなく、もうひとつ、極めて重要な手掛かりが示されます。第11回で、美代子は実が働いていた工事現場にも行っています。そこで、実が最後に現場で来た日として「昭和39年9月19日」と記された帳簿を目にします。実が宿舎から居なくなった日と、工事現場に来なくなった日との間に、3日の差があるのです。
 これが何を意味しているのか。しっくりくるのは、実は「連絡を取れなくなった」のではなくて「連絡を取らなくなった」という考え方です。不慮の事故に遭うなどして家族と連絡したくても連絡できない(もしくは家族の存在を忘れる)事態に陥ったわけではなく、実は「自らの意思で」家族や知人と関わりを絶った可能性が高いのではないでしょうか。9月17日に実に「何か」が起こり、9月19日から20日かけて彼は「決心」をしたのではないかと考えます。
 「何か」「決心」の正体は今はまだ分かりません。だんだんと分かっていく仕掛けになっているのが、第13週以降なのだろう、そういう期待を抱きつつ、『ひよっこ』をどきどきしながら観ていくことといたします。

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