本との七夕 その一
避暑、ということばを聞いて思い浮かぶのは、白樺と、テニスと、白樺と……、というくらいに、避暑とは縁が薄い半生でした。九州で産湯につかり、豊後水道のお魚を食べて育ちましたので、夏というのは、遠くの空で、白く大きな雲がもくもくと盛り上がり、草の匂いとじめりとした湿り気を含んだ風が通り抜ける季節である、という観念を受け入れておりました。それを避けよう、避けることができるなどということは思いもしませんでした。
しかしながら、近年の夏は、度を超えています。避けられるものならば避けたいです。残暑お見舞い申し上げます、も、もう飽きたという頃合いでも、とても暑く、何らかの回避手段を講じなければ、身体に異常をきたす恐れがあります。白樺やテニスは無くてもいい、そもそもテニスをしたことがない、暑さを避けられればそれで構わない、ただ、許されるならば、静かでゆっくりとした時間を過ごせるところがいい、という我が儘な願望を抱きます。
それを叶えてくれる場所があります。その名は図書館。涼しい。座ることができる。本もたくさんあって自由に読むことができる。名古屋市鶴舞中央図書館や愛知県図書館であれば、スガキヤさんが入っているので、小腹が空けば、クリームぜんざいを食べることもできます。楽園です。
こんな良い思いをできるのも、本という存在がゆえにです。ありがとう、本。本の世界よ、永遠に。浅薄な我が脳に麗しき知識をお与え下さいますよう、なにとぞ、特に一番最後をどうかよろしくお願いします、と、このように常々思っておりましたが、本の世界が揺らいでいる、ようなのです。
●最近よく聞くようになった本屋さんの話題
電子書籍ができました。それが広まっています。町の書店が減少傾向にあるそうです。小さな書店ばかりでなく、都市部の大型書店も例外ではないようで、ジュンク堂書店新宿店さんの閉店は、ニュースになりました。
どれくらい、本屋さんで、本が売れなくなっているのか、手元に資料が無いため、はっきりしたことは分かりませんが、右肩上がりでぐんぐんと売り上げが伸びている、ということでは無さそうです。
ですが、本屋さんで本が売れなくなったから、急激に本が無くなった、ということも無く、本はまだまだあります。まだ全てが電子書籍とはなっていません。では、どのようにして本が人々の手に渡っているか、といいますと、ネット書店、らしいです。話題の本があれば、その紹介記事とともに、ネット書店のその本の購入ページへのリンクが貼られています。書名を検索すれば、最上位は、ネット書店内のページが表示されることも多いです。
ネット書店は便利です。私もよく利用しています。町の本屋さんと、ネット書店。どちらが良く、どちらが良くない、とは言い切れません。どちらにも良いところがあります。願わくば、上手い具合に共存してほしい、手に取りたい本が手に取りやすいようになっていてほしい、と思っています。
●本の安泰を願いたい
この願い、流星に祈ってもいいのですが、流星に祈る場合は、現れてから、消えるまでに三回唱えねばならないそうです。そんなに口が回りません。もっと、ゆっくり、願いたいです。お正月ならば、初詣、という手もありますが、この季節に詣でて願っても神さまは「え、今頃、来たのかい!?」とお思いになるような気がします。
ところが、世の中、良くできたもので、「みんな、そろそろ願いたい頃なんじゃないのかい?」と狙い澄ましたようなイベントが設定されています。
七夕です。
短冊にゆっくりと願い事を書いて、ゆっくりと笹にくくりつけ、ゆっくりと夜空に祈ります。お願いします。本をできるだけ長く読めますように。
その願いをあざ笑うかのような、大雨。短冊は湿り、水性ペンで書いた願いは流れ落ちます。そうです、七月七日、七夕の日は、おおよそにして、梅雨まっただ中です。毎年、七夕の夜は晴れるのか、曇り空なのか、雨降りなのか、が天気予報されています。晴れだと、それだけで「運が良い」ということになっているように見受けられます。晴れにするだけで、願い力、を使い果たしているのではないか、という気にさせられてしまいます。
それを、避ける手段として、「月遅れの七夕」を催す地域があります。八月七日に七夕を行う、ということです。良い考えだと思います。八月に入れば、梅雨も明けていて、青空が見込め、星空に願いを、ということができます。ただひとつ残念なのは、七が並んでいないため、ちょっと心中もやもやしてしまう、ということでしょう(奇数は「陽」であり、月日でそれが並ぶため吉日とされています)。
七月七日は雨、八月七日は居心地が少し良くない。でも、諦めるにおよびません。最終手段が残っています。「旧暦の七月七日」です。現行の暦(太陽暦)では七月七日は梅雨のただ中であっても、旧暦(太陰太陽暦)の七月七日ですと、立秋も過ぎ、梅雨もとうに明けていることが多いようです。
今年の旧暦七月七日は、七月二十四日です。明後日です。近頃は、昼間は酷暑でも、日が落ちると、秋をほのかに感じさせてくれる風が吹くようになりました。夕立、通り雨はありますが、晴れている時間はかなり長いです。
七夕日和です。いざ、星に願いを。
七夕の願いは、短冊に願い事を書いて、笹にくくり付けますが、それ以外にも、いろいろな飾りを笹にまとわり付けさせます。それらの飾りは、紙製のものが多いです。ケーキもろうそくも要らないので、実に容易に行動に移せます。
セットの色紙と、少し厚手のA4サイズ
東急ハンズさんでこれだけ入手すれば、短冊以外の七夕飾りは成立します。これらを切ったり貼ったり折ったりすればいいのです。さて、切りましょう、折りましょう。
……輪っかをつなげたものしか思い出せません。あとは、単純に色紙をつなげたものくらいしか。自らの創造力と想像力と記憶力を嘆きつつ、キーボードを打ちますと、ありがたいページが見つかりました。こちらを参考に作っていきます。
七夕特集|七夕飾り(かざり)と短冊|縁結び祈願 京都地主神社
http://www.jishujinja.or.jp/tanabata/kazari/kazari.html
まずは、簡単で、見た目が「いかにも七夕」というような飾りです。折って切って広げるだけです。左右交互に「へ」の字形に切って、
広げると、
できました。かっこいいです。いかにも縁起が良さそうです。
縁結び神社推奨っぽさが出ています
次は、定番のものを作りましょう。これは、見なくても分かります。細切りにしたものを輪っかにしてしてつなげる、小さい四角に切ってつなげる、の繰り返しで、
定番の飾り二種類
できました。懐かしいです。しばし、童心に返りました。
あとは、数十枚の色紙があれば、その中の数枚は、この運命を辿るであろうものを作ります。
折って、広げて、
鶴、ではありません。カササギ、です。七夕の空、天の川の架け橋の役目を担っているのは、カササギです。「かささぎの渡せる橋におく霜の白きをみれば夜ぞふけにける」という大友家持作とされる百人一首にも収められている有名な和歌からも、カササギの役目と人の良さが分かります。ただし、カササギの折り方は「鶴を参照」です。
小学生の頃、先生が色紙を取り出すと、各一枚ずつ入っている「金」と「銀」の争奪戦が始まりました。金と銀の希少価値は、色紙界にも及んでいます。今回は、一人で作っておりますので、贅沢に、我が身一つで金と銀をもてあそぶことができます。贅沢に使いましょう。
色紙に入っていた台紙を星形に切ります。定規とコンパスで五角形を作ったのは何年ぶりでしょうか。かなり頭を悩ませてくれました。これだけで、輪っか飾りと四角をつなげた飾りを作る時間くらい要しました。この苦労して作った星形の裏表に、星形に取った金と銀の色紙を貼り付けます。
贅沢です。小さい頃にはできなかった代物です。しばらく、輝く星飾りを見遣ります。金に目がくらむ、とはこのようなことなのでしょう。
あこがれの金と銀をどちらも使った逸品
色紙セットの飾りはこれくらいにして、別に用意したA4の紙を使います。これを四つ折りにして、互い違いに左右からはさみを入れます。
びよーん、としたじゃばらのようなものができます。こんなのが飾りになるのか、叱責を受ける前に、ささっ、と折り目を広げると、
天の川のできあがりです。これを「網」ということもあるようです。天の川に棲むものを捕らえるための網らしいです。……なんとなく、「天の川」としたい気持ちです。
これで、飾りは一通りできました。では、肝心の短冊を用意することにいたしましょう。
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