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2012.01.31

平安時代的超撥水加工技術

 今は昔のお話し。小野宮の太政大臣、藤原実頼さまが饗宴をなさいました。その時は、九条の右大臣、藤原師輔さまが主賓でいらっしゃいました。
 饗宴の引き出物は、女物の装束ひとそろいでした。前駆がそれを持って出ようとしたところ、ふと、何かのはずみで気が逸れたのでしょうか、装束に添えられていた紅の砧打ちの細長の衣が、するり、と手元からこぼれ落としてしまったのです。しかも、その衣は遣水の流れの中に落ちてしまいました。
 前駆は慌てふためきながら、その衣を遣り水から引き上げて、はたはたと振りました。すると、ぱっ、と水は細かく飛び散りました。なんと、それだけで衣はすっかり乾いていたのです。水に浸った方の袖は、少しもその跡を残さず、濡れなかった方の袖と見比べてみても、全く同じように砧打ちの文が浮き上がっていました。この有様を見た人たちは、細長の衣の作りの素晴らしさを褒め称えたのです。
 昔は、砧打ちのものもこのように良い出来でした。今ではお目にかかれないこと、と語り継がれておりますよ。

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 『今昔物語集』巻二十四・第三話「小野の宮の大饗に九条の大臣、打ち衣を得る語」の現代語訳です。
 接待役の前駆が、不注意で衣を水に落としたけれども、あっという間に乾いた、昔の技術は凄いなあ、というお話しです。『今昔物語集』にたまにある「昔は良かった」系の語りです。
 引き出物は装束一式、礼服ひとそろいでしたが、水に落ちたのは「細長」だけでした。細長は、日常的な羽織りものです。そんな普段着でも、良い作りをしていた、昔は凄かったなあ、という、これもたまに出てくるタイプの語りです。
 今年は、ロンドンオリンピックが開催されます。近年は、オリンピックは選手諸氏の技能と共に、選手が着用する衣類、使用する道具類の技術も注目されるようです。陸上選手のスパイクや、チーム競技のユニフォームがよく知られています。前回のオリンピックでは、高速水着が話題になりました。
 超撥水加工、ちょっと振っただけで、水分を全て無くしてしまう繊維技術。平安時代の職人さんがこの時代にやって来たとしたら、記録が塗り変わる、かも、知れません。


 『今昔物語集 四 (新日本古典文学大系36)』 小峯和明校注 岩波書店 1994/11/21 ISBN:4002400360
 現代語訳には、この本の原文・注釈を参考にしました。

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