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2011.06.16

彼は静かに凶器を取り出した

 ※『今昔物語集』の説話を訳しました。今回は、しもがかったお話しです。十八歳未満禁止、ということはないと思いますが、ご承知置きの上、ご覧ください。

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 巻二十八の二十五話 弾正台の次官・源顕定さまが超合金をお出しになり、笑われたお話し

 今は昔のお話しでございます。藤原範国さまが五位の蔵人でいらっしゃった頃の出来事です。紫宸殿で公卿の皆様がお揃いになり、会議が行われました。その会議は、右大臣・小野宮藤原実資さまが座の首席、範国さまは儀を進める役を務められていらっしゃいました。
 会議は滞りなく進んでおりました。そして、範国さまが帝に奏上される文書を、実資さまからお受け取りになる、その大事な時にそれは起こったのです。範国さまは、居住まいを正して実資さまのお言葉を承っていらっしゃっいました。同じ場、紫宸殿の東の端には、弾正台の次官で源顕定さまという方が座っておられました。顕定さまは、おごそかなその中で、いきなり、袴の間から、二十センチ砲を放り出したのです。実資さまは座の奥の方にいらっしゃいましたので、その振る舞いはお目に入りませんでした。ですが、範国さまは、座の南にいらっしゃいましたので、それをまともにご覧になってしまいました。そして、たまらず噴きだしたのです。
 実資さまは、ご自身がお話しになっているさなかに、わけも無く、―もちろん、わけは顕定さまなのですが、実資さまはそれがお分かりになりません―、いきなり範国さまが噴きだして笑われましたので、
「どうしてお前は、公の場で、大切なことばが下されているときに、そのように笑うのだっ!」
と、たいへんご立腹されたのです。しかも、それでことは終わらず、五位の蔵人範国が公事で不真面目なそぶりであった、と帝にまで奏上されてしまいました。範国さまはすっかり肩身が狭くなり、噴きだしたことがとんでもないおおごとになったことに恐れおののいてしまわれました。しかし、言い訳をしようにも、
「あの顕定の朝臣が、毛のはえた拳銃を出しておりましたので……」
などと、申しあげることは、できるはずもありません。その様子を一部始終見ておられた張本人の顕定さまは、胸の内でとてもおかしく思っていらっしゃったのだとか。
 このことを知った人々は、時と所をわきまえずに、つまらない冗談をするものではない、と語り継いでおりますよ。

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 『今昔物語集』巻28・第25話「弾正の弼・源顕定、まらを出して咲はるる語」の現代語訳です。
 このブログで初めて公開した「下ネタ説話」のはずです。初めてなので、かなり遊んで訳してみました。
 表題の「超合金」、本文中の「二十センチ砲」「毛のはえた拳銃」は全て同じモノを指しています。
 これらの婉曲表現は、『官能小説用語表現辞典』(永田守弘編・ちくま文庫)に掲載されているものを拝借しました。全て、実際に刊行された小説に使われている表現です。『官能小説用語表現辞典』にはこの他にも、バラエティに富んだ表現が紹介されています。「辞典」として使うにはやや難があるように思いますが、読み物としてページを開けば、これ以上ない笑いの種本になると思います。
 『今昔物語集』には、直接的な性の表現が多く見られます。「超合金」「二十センチ砲」「毛のはえた拳銃」とあてたモノは「まら」(もんがまえに牛、という漢字ですが、表示できない場合がありますので、ひらがなで書きます)と書かれています。現代でも「魔羅」と書かれることがあります。もともとは仏教用語で、心を惑わし、仏道の妨げとなる存在の意味です。そこから転じて、男根を指すようになりました。対して、女陰は「開」(つび)、や「前」と書かれています。「前」はやや婉曲の気がありますが、「まら」や「つび」は、回りくどい書き方をせずに、そのままの表現です。
 芥川龍之介は『今昔物語鑑賞』(1927年)の中で、巻26・第2話「東の方に行く者、蕪を娶ぎて子を生む語」を挙げ、「其の穴を娶て婬を成し」「皺干たりけるを搔削て」などの表現を「写生的筆致」とし、そこに「brutality(野生)の美しさ」を見出しています。セクシャルな事物でも、下手な加減をせずに、素直に直接的なことば・表現を以て伝えようとしていることが『今昔物語集』の特性であり、それが、本集の登場人物に躍動感を与え、出来事に現実味を持たせているように思います。
 巻28・第25話に戻りましょう。何故、源顕定は、大切な会議の最中に男根を出して、藤原範国を笑わせるなどという奇矯なふるまいを取ったのでしょうか。確かに、張り詰めた場で、このようなことをすれば、笑いが起こるでしょう。笑いは場の雰囲気を転換させ、人々の緊張を解きほぐす良い効果を生むことがあります。しかし、この場合は、範国は右大臣・藤原実資の怒りを買い、天皇にもその不始末が奏上され、すっかり立場が悪くなっています。良い結果になっているとは、到底思えません。
 この説話の元ネタとされている『江談抄』には、藤原範国が五位の蔵人に任じられた時、藤原実資がその人事に対して不快感を口にし、それが関白・藤原頼通の耳に入り、咎められた、という説話が収められています(新日本古典文学大系・『江談抄 中外抄 富家語』39ページ、『今昔物語集 五』239ページ注釈)。
 『今昔物語集』のこの「笑い話」の前に、『江談抄』の出来事があったのです。それを踏まえて、もう一度、まらを出した話しを読むと、なんとも嫌な仕返しの構図が見えてきます。つまり、顕定は実資サイドの人物で、実資が受けた勘の「仇討ち」をするために、会議で範国だけを笑わせ、公の場で責めを負わせたのです。
 巻28の中でも、下ネタに特化した笑い話にも見えるこの説話の裏に、薄暗い派閥間の争いが見え隠れしています。
 上の現代語訳を通常の現代語訳としてお使いになる場合は、「超合金」「二十センチ砲」「毛のはえた拳銃」は、「まら」に相当する一般的な現代語で、皆様、適宜読み替えてください。


 参考文献
 『官能小説用語表現辞典』 永田守弘 筑摩書房 2006/10 ISBN:4480422331

 『今昔物語集 一 (新日本古典文学大系33)』 今野達校注 岩波書店 1999/07/28 ISBN:4002400336
 現代語訳には、この本の原文・注釈を参考にしました。

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