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2010.03.10

異聞・竹取物語

 今は昔の話や。一人のじいさんがおったんよ。じいさんは山で竹を取ってきて、それを売って暮らしを立てとった。
 ある日、いつもの通り、籠を作るための竹を取りに山に入ったんやけど、そこで不思議なものを見つけたんや。一本の竹が光っとったんよ。じいさんは、おかしな事もあるもんや、と思いながら、その竹を切ってみたんよ。そしたら、その竹の節の中から、三寸くらいの人がちょこんと座っとったんや。じいさんはこの小さな人を見て、
「わしは、長いこと竹を取ってきたけど、こんなことは初めてや!」
と、たいそう喜んで、小さな人をていねいに手にとって、家に帰ったんよ。家にはじいさいの連れ合いのばあさんがいたんや。じいさんははしゃぎながら、
「竹を切っとったら、こんなかわいらしい娘を見つけたわ」
と、ばあさんと一緒に嬉しがったんや。
 それからは、じいさんとばあさんは、小さな娘を籠の中に入れて、育てたんよ。三月も経ったころには、娘は皆と並ぶくらいの背丈にまで大きくなったんやて。それに、もともとかわいらしかったんやけど、大きくなればなるほど、この世のもんじゃないちゅうくらいに美しゅうなったんや。そんなもんだから、じいさんもばあさんもますます娘を愛くるしゅう思って、大切に大切に世話をしておったんや。そうやっとると、その美しい娘の話が遠い町にまで広まったんよ。
 それに、娘を育てるようになってから、じいさんが山に竹を取りに行くと、そのたびごとに竹の中から黄金が出てくるようになったんや。じいさんはそのおかげで、たいそう豊かな暮らしができるようになって、粗末だった家は宮殿のような大屋敷に、倉には金銀財宝が満ちあふれるようになったんや。じいさんはこんななんでも思いが叶うような暮らしができるようになったのも娘のおかげやと思って、ますます大切に育てたんや。
 こうして、裕福に、美しゅう育った娘を男たちが放っておくはずもないわな。今をときめく上達部とか殿上人のお歴々が、娘に手紙を送ったり、結婚を申し込むようになったんやけど、娘はそんな申し出を軽くあしらって、とんと受けようとはせんやった。でもな、人というもんは、断られるとますます熱が入るもんで、男たちはいっそう心を込めて娘に言い寄ったんや。そうしたら、娘はこんなことを言い出したんよ。
「それでは、空で鳴る雷を捕まえて、持ってきてくれますか」
「そうですねえ…、優曇華という花があるそうですね。それを見せてくれますか」
「打たなくても鳴る太鼓。それを持ってきてください。そのとき、お話しをしましょう」などとな。
 娘はこんなことだけ言って、すぐには男たちに会おうとはせんやった。それでも、娘に心を寄せる男たちは、難しい言い分ではあったんやけど、娘がとんでもなく美しいっちゅうことに惹かれたもんやから、言うがままにとうてい無理な品を求めて、あちらこちらに出かけていったんや。あるもんは古い事をよく知るもんにありかを聞きに行った。またあるもんは海に乗り出した。ついには世を捨てて山に姿を消すもんまで出てきた。そんなこんなしたもんの、終いにはみんな娘の言ったもんを見つけきれんで、命を落としたり、行方知れずになったそうや。
 こんなことがあったもんやから、娘の噂はますます広まって、ついには帝のお耳にまで入ったんや。帝は、
「その娘は、この世の中に並ぶものがいないくらいの美しさだと聞いておる。私がそのものの屋敷にじかに行ってみよう。噂通りの美しさなら、すぐに私の后に召すことにしよう」
とお思いになられたんよ。そして、百官をお連れになって、じいさんの屋敷にお出ましになられたんや。帝はじいさんの屋敷をご覧になってたいそう驚かれた。まるで宮殿のように華やかやったもんやからな。
 帝は、そこで娘を召し出したんや。出てきた娘をご覧になってまた帝は驚かれたんよ。噂に勝るほど、目を見張るくらいの美しさやったからな。帝は、
「これはなんと美しい! これほどの美しさなのに、貴公子たちの結婚の申し出を受けなかったのは、帝である私のほかに見合うものがいないと考えてのことだろう。うむ、このまま、宮中に連れて帰り、后にしよう」
と、お喜びになったんや。だけどな、娘はそのお言葉を受けようとはせんやった。
「お后さまに私を、というお言葉は、この上なく嬉しいことでございます。ですが、ご無礼を承知して申し上げますが、それをお受けすることはできません。実は、私は人ではない身なのでございます」
なんてことを申し上げたんよ。帝はそれをお聞きになって、
「なんということを申すのだ。それならば、おぬしは鬼なのか、神なのか」
と、問われたんや。娘は、
「私は鬼でも神でもございません。もう、時間がございません。すぐに天上より迎えがやってまいります。陛下はもうお帰りになられますように」
と答えたんよ。それでも、帝は娘の言うことをお信じになられんで、
「なんとおかしなことを言うものだ。今すぐに、空から迎えが来るなどあるはずがない。このようなことを申すのも、私の言うことを断るためのいいわけに違いない」
とお思いになられたんよ。
 そうしているうちに、あたりに異様な気配が満ちてきたんよ。それで見上げると、天からたくさんの人が降りてきて、持ってきた輿に娘を乗せて、また空に昇っていったんや。その有様、人々の風情は、この世のもんとは全く違っとった。
 この様子をご覧になった帝は、ようやくのこと、
「ああ、なんということだ。申したとおり、娘はこの世のものではなかったのだ」
とお分かりになって、そのまま宮にお戻りになったんや。それでも、帝は娘の美しさ、麗しさをお忘れになることができんで、何度も思い出されたやけど、どうすることもおできになれんで、とうとうお諦めになったということや。
 その娘にはどういう訳があって、じいさんのもとにやってきたんやろうな。誰もそれを知ることはできんやった。この娘のことは、あれもこれも皆の考えの及ばない、不思議なことだと思うしかなかったんや。それでも、こんな珍しいことも起こるんや、と語り継がれておるんよ。

――――――――――

 『今昔物語集』巻31・第33話「竹取の翁、女児を見付けて養う語」の現代語訳です。参考にした本の注釈によると、「『竹取物語』と系統を異にする竹取説話」なのだそうです。「物語の出で来はじめの祖」と言われる『竹取物語』の他にも、同じような物語が複数存在したようです。
 『今昔物語集』に収録されている竹取説話は、大まかなところは『竹取物語』と変わりません。一番変化が見られるのは、かぐや姫(この説話では「かぐや」という名前は出てきませんが)の難題でしょう。以下に『竹取物語』の難題と、この竹取説話の難題を並べてみます。

 『竹取物語』
 ・仏の御石の鉢
 ・蓬莱の玉の枝
 ・火鼠の皮衣
 ・龍の頸の玉
 ・燕の子安貝

 『今昔物語集』の竹取説話
 ・空に鳴る雷を捕らえる
 ・優曇華の花
 ・打たずに鳴る鼓

 『今昔物語集』の竹取説話に出てくる難題は、他の物語や説話でも見られるものです。「空に鳴る雷を捕まえる」話しは、『日本霊異記』に収められています。優曇華の花は『竹取物語』で「蓬莱の玉の枝」として、くらもちの皇子が「優曇華の花を持ち帰った」と喧伝します。打たずに鳴る鼓(太鼓)は、とんち話によく出てくるもので、太鼓の中に入れた蜂などの虫が皮にぶつかって自然と鳴るしかけです。
 こうして見ると、やはり『竹取物語』の方が、難題を求める貴公子たちが苦慮する細かい描写や、語源譚が織り交ぜられていて、面白みがあるように思います。

 最近、このようなニュースを見ました。

 「3000年に1度しか咲かない伝説の花「優曇華」―江西」
 http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2010&d=0304&f=national_0304_003.shtml
 http://kwout.com/quote/hk2ec36t(引用)
 (サーチナ 2010/03/04 11:15)

 なんと、優曇華は実在したのです! 殿方がこれを見付けていれば超美人の姫と結婚できたのに。


 『今昔物語集 五 (新日本古典文学大系37)』 森正人校注 岩波書店 1996/01/30 ISBN:4002400379
 現代語訳には、この本の原文・注釈を参考にしました。

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