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2009.05.20

体が透けたら、何をする?

 今は昔の話し。百巻の書を読み通したという男がおったそうな。その男が、仲間二人と悪知恵を働かせて、「陰行の薬」というものを作った。「陰行の薬」とは…、ありていに言えば、姿を消す薬じゃな。詳しくは知らんが、ヤドリギを五寸ほどに切って、百日の間陰干しにする。それが薬になるんだと。法力の術を使って、そのヤドリギを髪に刺すと、たちまちのうちに姿が消えてしまうと言われている。皆がよく知っている「隠れ蓑」と同じものだな。他の人からは全く姿が見えなくなってしまう。
 さて、男たちはそのヤドリギで何をしたと思う? いかにも俗な男のやりそうなことじゃよ。三人は、うまく示し合わせて、秘術のヤドリギを髪に刺して、国王の宮殿に入り込んで、そこに住まう数多くのお后さまをはじめとした女たちに手を出した。
 お后さまは、姿が見えないものに触られることに恐れおののいて、国王にこっそりと、
「最近、姿が見えない者が近寄ってきて、わたくしたちの体に触るのです。いかがしたらよろしいのでしょう…」
と、国王にこっそりと告げたんじゃ。
 すると、国王は賢いお方でいらっしゃったため、これを聞いて、
「なんだと! ふむ…、これは『陰行の薬』を作ってやっていることだな。これを仕留めるには、粉を宮殿の床に隙間無く撒くのがよかろう。そうすれば、姿は見えなくとも、足形が付いて、どこにいるのかが、はっきりと分かる」
と、計をめぐらされて、おしろいの粉をたくさん取り寄せ、宮殿の床にびっしりと撒かせたんじゃ。
 そんな中、また、あの三人の男が宮殿に現れた。国王の計らいが上手くいって、宮殿の床には姿無き三人の足あとがぺたりぺたり。その足あとの主をめがけて、兵士たちが刀を振り下ろした。たちまちのうちに二人が刀の刃を受けた…、のじゃが、そのうち一人は命を失うほどの傷ではなくて、慌てて、国王の近くにいらっしゃったお后さまの衣の裾を頭からすっぽりと被ったんじゃ。その国の決まりごとで、国王の周り七尺のところには刀を持っては近づけない、というのがあったもんでな。裾を被ったその男は、ひたすらに心の中で神仏に誓いを立てた。そのおかげがあったんじゃろう、国王は、残りの二人の男が切り伏せられたところで、
「やはり、『陰行の術』であったな。どうやらこの二人だけらしい。よし、兵ども引くがよい」
とおっしゃっり、刀を収めさせた。お后さまの裾を被った男は、命拾いをしたのさ。その後、人目をしのんで、気を配りながら、こっそりと、宮殿の外に逃げ出すことができたのじゃ。
 この事のあと、男は「魔術の法は使うべきではない。身のためにはならない」と思い、出家をして、仏法を習い、人々に伝えたということじゃ。その男こそ、竜樹菩薩さま。後に、人々にたいそう尊ばれたと、語り継がれておるのじゃよ。

――――――――――

 『今昔物語集』巻4・第24話「竜樹、俗の時、陰行の薬を作れる語」の現代語訳です。
 「隠れ蓑伝説」は古今東西にあるようです。この説話では、ヤドリギをかんざしのようにして髪に刺すと姿が消えるようになっていますが、「隠れ蓑」はそう呼ばれるとおり、「蓑≒コート」のようになっていて、ぐるりと身を包むようにすると、姿が消えうせてしまいます。
 昔話では「天狗の隠れ蓑」というのが有名なようです。天狗をだまして上手く隠れ蓑をいただいた男が、あれこれといたずらをして、最後には、酒屋で大酒を飲む。ぐでんぐでんに酔っ払って、家に帰って、隠れ蓑を脱いで、ぐーぐーと眠っていると、男の妻が隠れ蓑をゴミだと思って燃やしてしまう。起きた男はあわてるものの、ちょっと考えて、隠れ蓑の灰を体に塗ってみると、これまたうまい具合に姿が消えます。ラッキー、とばかりにまた酒を飲みに行くと、今度は「灰」なので、酒を飲んだ口の周りだけが洗い流されて、ばれてしまい、大目玉、という筋になっています。やっぱり、隠れ蓑で成功しないんですね。しかも、最後は、「粉」と「灰」と似たようなもので失敗するので、隠れ蓑伝説の源泉は同じところにあるのかもしれません。
 たいていは、姿が見えなくなったら、下世話ないたずらをしたくなるようですね。ついつい本能に負けてしまうのでしょう。人間の心の弱さを示すのに「透明化」という表現が使われているのかもしれません。だからこそ、その弱さから生じた大事件を大きく反転させて、竜樹菩薩の尊さを謂っていると考えられますね。

 マンガ『ドラえもん』では、「とうめいマント」という名前で出てきます。ビニールのような透明な布をすっぽりと被ると、姿が見えなくなります。同じような道具がいくつか出てきますが、一番知られている道具ではないでしょうか。
 ちなみに、「とうめいマント」が出てくる「のび太の結婚前夜」(てんとう虫コミックス『ドラえもん』・第25巻)は、名作中の名作として名高い作品です。長編映画の同時上映作品として映画化もされています。こちらは透明になった姿を良いように使っています。
 マンガ・DVD、どちらもお薦めです。機会がおありになりましたら、ご覧くださいませ。


 参考
 『ドラえもん 第25巻』 藤子・F・不二雄 小学館 1982/07/28 ISBN:4091405053
 『映画 のび太の結婚前夜/ザ・ドラえもんズ おかしなお菓子なオカシナナ?/ドラミちゃん アララ・少年山賊団』(DVD) 原作:藤子・F・不二雄 監督・脚本:米谷良知 ポニーキャニオン 2003/11/19

 『今昔物語集 一 (新日本古典文学大系33)』 今野達校注 岩波書店 1999/07/28 ISBN:4002400336
 現代語訳には、この本の原文・注釈を参考にしました。

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