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2009.04.20

黄金郷「佐渡国」

 今は昔の話なんだけどね。能登の国では鉄の元になる石くれ、「あらかね」って言うんだけどね、そいつを掘り出して、国司の藤原実房さまに納めてたんだ。実房さまが国司の任にあった時、そのあらかねを掘る者は六人いた。その中の年かさの者が、仲間たちをあれこれとおしゃべりをしていて、ぽろりと言ったんだ。
「実は佐渡の国には、花が咲くように黄金がごろごろとあるんだよ」
 その話を、実房さまは、噂で伝え聞いたもんだから、年かさの男を呼び出して、ちょっとしたものをその男にやって、聞き出そうとした。そうしたら、上手い具合に、男は話し始めたのさ。
「ええ、ええ。佐渡の国には黄金がたんまりとあります。間違いありません。黄金がありそうな所を見つけた、と、あっしの仲間が言っておったんです。そのことを先だって話した次第でして」
「それならば、お主が、その、ありそうだ、と、いうところに行って、黄金を取ってくることができるのか」
「実房さまがそのようにお申し付けなさるのでしたら、行ってみます」
「よし、それならば、お主、その黄金を取ってきてくれ。何か入り用のものがあるか」
「いえ、他に人は要りません。小船をひとつ、それと、食べ物を少々いただきます。それだけ用意していただければ、試しに佐渡に渡ってみましょう」
 実房さまは、その男が言うとおりにして、他の者には何一つ話さず、小さな船一つ、食べ物を少し、それだけで男を佐渡に送り出したんだ。
 それから、ひと月ほど経って、実房さまも忘れそうになった頃、例の男がふいっ、と、実房さまの前に現れた。すると、実房さまも事の次第を思い出して、人払いして、誰も来そうに無いところで、直接、男に会って、話を聞くことにした。そうしたら、帰ってきた男は黒っぽい布切れに包んだものを、実房さまの袖の上に載せた。すると、この布に包まれた塊は、ずっしりと手の上に沈みこんだんだよ。
 そのすぐ後、たちまちに、年かさの男の行方が、分からなくなった。手がかりも何も無く、戻ってきたときのように、ふっ、と、消えてしまったんだ。実房さまは、八方に人を出して、男の行方を追ったんだけど、とうとう、見つからないで、はい、おしまい、ってわけさ。行方をくらました理由は分からない、もちろん、黄金のことを除いてはね。黄金のことは、実房さまと年かさの男だけの秘め事だったんだけど、そんな大ごとは、黙っていても広まるもんでね。男は、黄金のありかを見つけ出して、そいつを取りにいった、その黄金は千両はあるとかいう話しだったね。
 そういうわけで、佐渡の国では、黄金が掘れるって、能登の国の人たちは言ってたよ。そして、その年かさの男は、きっと山ほどの黄金を掘り出したんだともね。けど、いつの間にか、佐渡の黄金の話はされなくなってしまった、と語り継がれてるよ。

――――――――――

 『今昔物語集』巻26・第15話「能登の国の鉄を堀る者、佐渡の国に行きて金を堀る語」の現代語訳です。今回は、もちろん、ちゃんと『今昔』に収められている説話です。
 いつの時代、どの地域でも、「黄金郷伝説」はあるようです。世界中で最もよく知られているのは、アンデスの「エルドラド」でしょうか。エルドラドは、その土地の儀式で体に金粉を塗っていたというところから広まったということです。このエルドラドに魅せられて、多くのヨーロッパの冒険家が、南米に向かいましたが、伝説のような黄金郷は見つかりませんでした。
 また、マルコ・ポーロの『東方見聞録』中に書かれている「黄金の国ジパング」も有名ですね。皆さんご存知の通り、ジパングは日本のことです。噂話で、日本には黄金が満ちあふれていて、建物は黄金で出来ている、とされていますが、そんなことはないですね。木にわらぶき屋根か、瓦屋根です。この噂話は「中尊寺金色堂」のことを指しているとか、稲穂がたくさん実り、それが黄金の波のように見えたというのが大げさに伝わった、とか言われているようです。

 さて、問題の「佐渡の黄金」ですが、これは歴史の教科書を見れば分かります。佐渡金山は、江戸初期に発見されたことが公式に伝わっています。以来、ここから掘り出される金は、江戸幕府の重要な財源となりました。
 でも、よく考えてみましょう。『今昔物語集』は、収録説話の内容から推測して、現在は、12世紀初めに成立したとされています。そして、成立後すぐに『今昔』の存在が、消え失せます。『今昔』の再発見がなされたのは、室町時代、15世紀半ばの文献に『今昔物語』の書名が出てきます。
 この『今昔』の歴史をみると、佐渡金山が江戸時代に「発見」されるよりもかなり前に、噂話として、しかも確度の高い話しとして伝わっていたことが分かります。まさに「知る人ぞ知る」黄金郷が佐渡の国だったのでしょう。
 知る人ぞ知っていた一部の人たちは、江戸幕府に見つかってしまい、さぞかし悔しがったことでしょう。


 『今昔物語集 五 (新日本古典文学大系37)』 森正人校注 岩波書店 1996/01/30 ISBN:4002400379
 現代語訳には、この本の原文・注釈を参考にしました。

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