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2008.11.10

できちゃった

 「できちゃった」。
 難問を抱えることばです。ですが、人それぞれにその問題は違うだろうとは思います。
 私が、今回、問題としたいのは、このことばの「作り」です。使う場合は「できちゃった」で一つながりになりますが、いくつかの部分に分けることができると思われるからです。
 では、どこで分ければいいでしょうか。

 一つ目は「でき-ちゃった」だというのは、すぐに分かります。「できる(出来る)」の語幹「でき」が最初の部分になりますね。
 では、次はどこで分ければ良いでしょうか。まず考えるのは「ちゃった」で一つの部分になっているのでは、ということです。しかし、それは、「できちゃう」という非過去の文章が作られることで誤りだと判断できます。最後の「-た」は、完了の助動詞「た」の終止形であり、「-ちゃった」は、非過去用法「-ちゃう」に対する、過去用法になっているのです。よって、「でき-ちゃっ-た」に分けられます。

 前記の二つの間に挟まれた「-ちゃっ-」は一つの語になるでしょうか。見ただけで、不自然だと感じます。どこから解きほぐせばいいでしょうか。完了の助動詞「た」は、五段活用動詞(サ行以外)に接続する場合、その動詞の連用形は音便化するという法則があります。それに当てはめれば、「-ゃっ-」の「っ」は促音便だと分かります。

 では、何の語尾が促音便化したのでしょうか。「ゃる」ということばはありません。「や」が何らかの理由で「ゃ」に変化したとできないでしょうか。「やる(行る)」ということばがあります。「やる」は、「~をする」「~を行う」の意味を持っています。この「やる」が何らかの理由で「ゃる」に変化したのだろうという考えに行きつきます。
 「や」が「ゃ」に変化した原因を、その前の「ち」に求めましょう。この「ち」とは一体どこから来たのでしょうか。「できる」は上一段活用なので、終止形の活用語尾「る」が落ちて、別のものが付いたとしたら、と仮定しましょう。「ち」=/chi/が唐突に出てくるわけがありません。その原型があるはずです。
 接続助詞「て」には、一連の事物が発生するという意味があります。つまり、「でき(る)」と「やる」が続けて起こったことを示すために、その二つの語の間に接続助詞「て」がはさまったということです。

 上一段動詞「できる」の連用形の語幹「でき」+接続助詞「て」+五段動詞「やる」の終止形+完了の助動詞「た」の終止形

という形にまで分割できました。
 最後の仕上げです。「て」と「やる」から、「ちゃっ」を引き出してみましょう。先に書いたように、「っ」は、後の「た」がもたらす促音便です。動詞の連用形が促音便化するので、「やり(行り)」が「やっ」になったということです。
 その前はどうでしょうか。「て」と「や」が連続することで、「ゃ」にしなければなりません。こういう場合は、音から考えてみましょう。「ちゃった」に相当する部分は、「/te-yat-ta/」です。/te/と、/yat/が接続すると、/chat/に変わってしまう理由を考えればいいのです。/y/は半母音で、/ii/と等価の音だとされています。それを当てはめると、/te-iiat-ta/になります。
 ここで、問題点がようやく浮かんできました。/e-iia/と四連母音ができるのです。この四連母音はたいへん発音しにくいものです。そのため、発音しやすい形に変化しやすいのです。/eii/の連母音のうち、/ei/の部分は/ɛ/、後の/i/は、これも発音しにくい連母音を避けるため、子音としての半母音/y/に変わります。これを日本語で発音した場合、「ぇゃ」に近いものになります。
 連母音処理をしたものは、/tɛyatta/と変わります。これは日本語では「てゃった」に近い音です。先程の四連母音と同じく、三連母音も発音がしにくいものです。これを発音しやすい形にするために母音を変化させたいのですが、四連母音のところで母音を変化させるという技を使ったので、もう使えません。その代わりに、邪魔な母音を無くしてしまいます。母音の脱落化です。母音の脱落は、初めの音の母音が無くなるものです。よって、/tɛyatta/の場合、/ɛ/が脱落して、/tyatta/という形になります。日本語発音をすると「てゃった」に変わりました。ここでまた、半母音/y/が母音/ii/と等価だということを使いましょう。/y/の代わりに、/ii/を置いてみます。すると/tiiatta/、「てぃぁった」になりました。現代の日本語では、「ち」は、/ti/とされずに、破擦音/chi/と発音されます。それにより、/tiiatta/は、/chiiatta/になります。ここでまた、三連母音/iia/を元の半母音+母音の/ya/に戻します。すると、ようやく、/chyatta/=「ちゃった」が出来あがりました。
 最終的には、

 「できる」の連用形の語幹「でき」+接続助詞「て」の母音脱落と子音の破擦音への変化+動詞「やる」の語等「や」の拗音化+動詞「やる」の連用形語尾の促音便化+過去の助動詞「た」の終止形

と、分割ができました。

 「できちゃった」はこのように、できちゃっていました。


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