スターバックスの緩衝材を解読する
私はマグカップ集めを趣味としております。雑貨店、デパートやショッピングセンターの食器売り場、観光地のおみやげ売り場などに行きますと、自然とマグカップのコーナーに向かってしまいます。そこで、気の効いたマグカップを見付けますと、それだけでその日の買い物や観光の良さが3割増しくらいになった気がします。
他にも、洋菓子店やコーヒーショップでも、マグカップが売られていることが多いようです。中でも、スターバックスさんは、定期的に期間限定マグカップを販売されていて、マグカップコレクターとしては、たいへん魅惑的なお店です。
スターバックスさんでは、夏場はホットコーヒーを飲まれる方が少ないからか、限定マグカップはあまり出てきません。紅葉前線の南下がニュースになる頃から、限定マグカップが頻繁に登場するようになります。私にとって散財の時期の始まりです。
しかし、ためらうことなく、この秋もマグカップを求めて、スターバックスさんに立ち寄りました。そして、ためらうことなく、しっかりと「自宅用です」と宣言して、マグカップを購入しました。
帰宅後、早速、開封です。
この瞬間が嬉しいのです。中身は分かっているのですが、改めて、家で落ち着いて見るのが楽しいのです。それでは、中を見てみましょう。がさがさがさがさ…。
「ハロウィン限定・ナイトフクロウマグ」です。大ぶりで、カフェオレにぴったりです。内側に「hoo!」とプリントされているのがポイントですね。気に入りました。
さて、後片付けをして、早速、新入りマグカップで何か飲みましょう。
…
自宅用と言って購入すると、箱無しの簡易包装にしてくださるのですが、緩衝材として「プチプチ」で包む場合と、今回のように、数枚の薄紙を重ねたもので包む場合があります。
数枚の薄紙は、白とベージュの薄い紙を重ね合わせたもので、しわを入れて、クッションが効くようにしています。
この白・ベージュの紙は無地ではなくて、スターバックスの象徴「サイレン」と船の紋様と、何かの文言が書かれています。
英文だというのは、英語が苦手な私にも分かります。ただ、一面いっぱいにそれが書かれているので、今まではただの模様だとしか認識していませんでした。しかし、よくよく見ると、新たなことが分かったのです。
この英文は、それほどの長文ではなくて、短い文、単語の繰り返しになっています。上の写真の、青い下線の部分が繰り返しになっているのです。
これくらいの長さならば、私にも訳せそうです。訳す気にさせられる短さです。では、私の有する最大限の英語の知識と、それよりも遥かに頼りになる電子辞書、ネット辞書、普通の辞書の力で、解読してみましょう。
ひたすら同じ文章が続いているので、どこが文頭なのか分かりません。便宜的にサイレンのマークの次を先頭とします。
これは…、かなりクセのある筆記体です。読みづらいです。その中から、分かりやすい文字から判別していきましょう。
この下線の部分は、比較的分かりやすいと思います。"of"と"something"という頻出重要単語が字形と位置から分かるためです。これら頻出英単語に含まれているアルファベットから、芋づる式に読んでいきます。
"of"の前の文字は、形容される名詞のはずです。したがって、さらにその前は、普通は、冠詞か限定詞が来ることが分かります。その中で、一文字で、この字形のものは、"A"が当てはまると考えられます。
冠詞の次の名詞は、先に分かった"something"から類推すると分かりやすくなります。同じ形のアルファベットがあるからです。"something"の中から、"s","h","m","i","e"が同じです。よって、
"shimme?"
まで分かります。ここまで分かれば、電子辞書で前方一致で引けば、"shimmer"という単語が当たります。これで、ここの下線が、
"A shimmer of something"
と分かりました。後の解読のために、判別のついたアルファベットを抜書きしておきます。
A_________________________
____efghi___mno___st______
では、次の部分です。
ここもかなりクセが強いです。鍵は、二つ目の単語でしょう。これは、形だけで、"and"ではないだろうか、と推測されます。実際に、二つの単語の間をつなげるように位置しているので、可能性は高そうです。その前後がやや厄介です。"something"に近い、後ろの単語から解いてみます。一か所目で分かったものと、"and"と合わせて、重なる部分を当てはめると、
"?ra??ings"
というところまで埋まります。次は、"a"と"i"の間の、下に長く伸びる同じ形の二つのアルファベットが分かりやすそうです。筆記体小文字で、下に伸びるアルファベットは、普通は、"f","g","j","p,"q","y","z"です。これらを総当りで、当てはめてみてもそれほど時間は掛からないでしょうが、文字の、右上が丸型、左下に伸びる、という特徴から、"g","p","q"が適当だと思われます。このうち、"g"は既に分かっています。残る"p"と"q"を比べると、英語においては、圧倒的に"p"の出現頻度の方が高いということから、"q"を外します。すると、
"?rappings"
が出てきます。ここまで分かれば、逆引きができます。丁度良さそうなものがありました。
"wrappings"
です。"w"は緩衝材に書かれた字形と比べても違和感は無さそうです。
"and"の前は、
"?iss?e"
まで当てはめることができます。"e"の手前のカップ型のアルファベットは、形から候補を挙げて、それぞれ当てはめてみます。これまで出てきていないアルファベットの中からは、"u"か"v"のいずれかになるでしょう。それぞれを当てはめて、逆引きしてみます。"?issve"では該当するものは出てきませんでした。対して、"?issue"では、
"Tissue"
が、当たりました。字形も合います。二番目の部分は、
"Tissue and wrappings"
となりました。これで表がまた少し埋まります。
A__________________T______
a__defghi___mnop_rstu_w___
まず、最初は、"and"が分かります。その次も、今まで分かっているアルファベットが全て当てはまり、"surprises"が出てきました。"and"の前は、"?e?rets"となり、あと少しです。
二つ目の?の部分を考えます。くるっ、と丸みのあるボール状のアルファベットです。これに当てはまりそうなのは、"a","c","e","o"のどれかでしょう。しかし既に、"a","e","o"は出てきて、字形が分かっています。よって、残りは"c"だけになります。ここを"c"だと仮定しますと、
"?ecrets"
となるので、逆引きをします。なお、この単語の最後の"s"は、先に判別した"surprises"から、複数形の"s"だと思われるので、その"s"を除いて検索します。結果、"S"だけが該当し、
"Secrets"
が出てきました。字形も合っているようです。これで、三番目は、
"Secrets and surprises"
となり、残りは、
A_________________ST______
a_cdefghi___mnop_rstu_w___
ここまでで、小文字のアルファベットはかなり埋まりました。これでペースが上がりそうです。
ちょっと、難解な部分に当たりました。前出のアルファベット以外のものが、結構あります。最後の単語を足がかりにして読んでいきます。
"?idden"
"d"はクセが強いのですが、先に"and"を解いていたので、かえって分かりやすいです。先頭の大文字以外は、前出のもので埋まりました。これで逆引きすると、
"Ridden"、"Hidden"、"Midden"
が候補に挙がりました。"H"か"M"か"R"のいずれが当てはまるでしょうか。緩衝材の文字を見ると、縦線が二本、それを横切るように横線が一本です。この点から、三つの候補のうち、"H"が一番近いようです。
次は、一つ目の単語です。
"??sterious"
と、最初の二文字が分かりません。それでも試しに逆引き検索してみます。上手い具合に一つしか該当しませんでした。
"Mysterious"
大文字"M"は分かりにくいですが、"M"だということを前提として緩衝材の文字を見ると、確かに"M"の形です。次の"y"は、下に伸びるアルファベットです。それらのアルファベットで、ここまでに分かっていなかったものは、"j","q","y","z"の四つですが、総当りすると、手元の辞書では、"My"でしか、意味の通る単語は出てきません。
二番目の単語は、
"e?usi?e"
までは前出のアルファベットで埋まります。
では、不明文字を見ていきましょう。一つ目は、下から大きく上に跳ね上がって、また下に戻って次の"u"に続いています。上に長く伸びる筆記体小文字は、"b","d","f","h","k","l"です。この中から既に判別できているものを除くと、"b","k","l"の三つです。さらにこの中で、下に下がった後に、直接、次の文字につながらないものは"l"だけです。字形も問題ないでしょう。
次に、二つ目の不明文字ですが、かなりクセの強い字ですね。丸い山があって、谷ができて、右上にはねるアルファベットです。これに該当しそうな筆記体のものは、"n","r","s","u","v"でしょう。この中から既に判別の付いているものを除外すると、"v"しか残りません。では、"v"を当てはめて、辞書をを引いてみましょう。該当する単語がありました。
"elusive"
です。"v"の筆記体としては、字形に見づらさがありますが、おおよそ合っています。これで、この部分の3つの単語が分かりました。
"Mysterious. elusive. Hidden."
となります。ここまでで埋まっているアルファベットは、
A______H____M_____ST______
a_cdefghi__lmnop_rstuvw_y_
です。
サイレンマークの前の部分です。最初から順に、前置詞"for"、代名詞"She"、動詞"has"、定冠詞"the"までは前出の文字で埋まります。最後の単語は、下に伸びるアルファベットが二つあります。そのうち後の方は、"of"で出てきた"f"です。その前後は"i"と"t"なので、"?ift"まで埋まります。残った一つ目の、下に伸びるアルファベットは、"-ing"の形で出てきた"g"だと思われますが、上の部分がくっついていないので、他の文字にも見えます。下に伸びるアルファベットを総当りで当てはめてみます。"f","j","p,"q","y","z"を、"?ift"にそれぞれ入れて単語を作ってみましょう。
"fift","jift","pift","qift","yift","zift"
のうち、辞書では、"fift","zift"が項目として立てられていました。ただし、"fift"は方言、"zift"は医学専門用語で、大文字で"ZIFT"か"Zift"としてしか用いられないとあります。どちらも今回のパターンには当てはまらないと考えてよいでしょう。これで最後の単語の先頭は、"g"の筆記体だと確定しても良さそうです。これで、
"She has the gift"
の文が出てきます。
やや長めの文章です。ここまでくれば、前出のものでどうにかなりそうです。先頭から順に見ていきましょう。
"The unveiling of the une?pected"
長文でしたが、不明のアルファベットは一文字だけでした。"e"と"p"の間で、線が交差しています。ここまでで不確定の小文字を挙げると、"b","j","k","q","x","z"の六つです。緩衝材の文字を見れば、下に伸びるアルファベットは除外できそうです。そうすると、"b","k","x"の三つが残ります。
この文章を書いている人は、クセのある字ですが、筆記体で下に伸びる文字は、ちゃんと下に伸ばし、上に伸びる文字はちゃんと上に伸ばしています。この特徴から、不明の文字は上にも下にも伸びていなくて、線が交差しているので、該当するのは"x"だけです。辞書でも、"unexpected"の項目が立てられていました。これで、一文字だけ欠けていた文章が、
"The unveiling of the unexpected"
となり、ここまでで、
A______H____M_____ST______
a_cdefghi__lmnop_rstuvwxy_
が判明しました。
いよいよ最後です。二つ前に見た"for"の前の部分です。既に挙がっている文字で埋めてみましょう
"The Siren holds the ?ey"
ここも、あと一文字だけです。残っている小文字は、"b","j","k","q","z"です。不明の一文字は、上に伸びていて、丸みがありません。その特徴から、"k"が最も適していると判断できます。
これで、全ての単語が埋まりました。解読した順に挙げると、
"A shimmer of something."
"Tissue and wrappings."
"Secrets and surprises."
"Mysterious. elusive. Hidden."
"for She has the gift."
"The unveiling of the unexpected."
"The Siren holds the key"
です。これをさらに、緩衝材に書かれている通り、文意が分かるように並べ替えましょう。先に書きましたように、サイレンマークを先頭としておきます。
――――――――――
□ A Shimmer of something. Mysterious. elusive. Hidden. Tissue and wrappings. □ Secrets and surprises. The unveiling of the unexpected. The Siren holds the key for She has the gift.
――――――――――
と、いう文章になりました。
さて、これを日本語に訳してみます。
「何かの微かな光。神秘的な。とらえどころのない。ひそんだ。薄絹と包み紙。秘密と驚きのもの。思いもよらない除幕式。サイレンには贈り物があります。彼女はその鍵を手にしています。」
英語が苦手ですので、辞書を介しての、ほぼ直訳です。それでも、おおよそ、意味は通りました。ただ、英語は本当に、心底、苦手で下手なので、間違い(特に英文和訳の部分)は、なんなりと、ご指摘くださいませ。
これは、徐々に贈り物の正体が浮かんできて、中に包まれたものを開ける喜びを盛り上げる、幻想的な雰囲気の文章だったのです。緩衝材・包装紙として、ぴったりの、気の効いた文です。この文章そのものが、スターバックスさんからの贈り物だったのです。紙が緩衝材であることの他に、このようなメッセージも含んでいることも分かれば、なおさらマグカップへの愛着が沸いてきます。ありがとう、スターバックスさん。
この解読で、ますます、マグカップコレクションに熱が入りました。これからもどんどん集めたいと思います。
ちなみに、今のところ、コレクションの一部はこのようになっています。
部屋がマグカップで埋まっていきます。集め始めて分かりましたが、マグカップは、存外に、かさばります。
参考にした辞書:
研究社『新英和中辞典 第6版』
大修館書店『ジーニアス英和大辞典』 SEIKO電子辞書版
三省堂『EXCEED 英和辞典』 goo辞書版
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コメント
>華宵さん
こんにちは。はじめまして。
私も、初めは、「英語できないのに、こんなの読めるわけ無い!」と思っていたのですが、一文字ずつ見ていくと、だんだんと緩衝材書記者さんのクセが見えてきました。その時は、嬉しかったです。
英語の授業や試験をエスケープした経験のあるほどの英語下手でしたが、ここまではできることが分かりました。英語に弱かったからこそ、「なんとしても読んでやろうじゃないか!」という意欲も湧きました。何事も、やってみなければ分からないなぁ、と改めて思い知った次第です。
でも、まだまだ勉強不足だということも分かりましたので、ホコリをかぶった英語の教科書を開こう、と、今のところは決心しています。しかし、挫折する可能性は高いです。
スタバさんの人気の秘訣というものが、こういうところにも現れていますよね。細かいところにも手を抜かない接客が、たいへん重要なことなんだな、と思いました。
街中には、よくよく見ると不可解な外国語があふれています。是非、華宵さんもお探しになってくださいませ。楽しいですよ。
投稿: 桜濱 | 2008.11.07 13:25
はじめまして。
DPZより来ました。
英語が苦手な私にとっては、そのくらいの文章でも断念しちゃいそうですが(汗)
筆記体という読みにくい字体での解読、お疲れ様でした。
とても素敵な文章で、スタバさんのこだわりが見えました♪
私も何か見つけて解読したくなりましたw
投稿: 華宵 | 2008.11.07 09:58
>みさちさん
ようこそ、いらっしゃいませ! お楽しみいただけて良かったです。
スターバックスさんのオフィシャルでは、あのロゴは「サイレン」としているようです。アメリカ発の会社なので、英語の"Siren"を日本語でも採用しているのだと思います。
あの人魚は、ギリシャ神話での呼び方で「セイレーン」("Seiren")の方が一般的ですね。
船乗りを惑わすセイレーンと、帆船を一緒の紙に印刷しているところが、スタバさんのウィットかな、と思いました。
投稿: 桜濱 | 2008.11.07 01:34
はじめまして、DPZから来ました。
サイレンはセイレーン(スタバのロゴにある女神さん)のことですねー。
興味深くて面白かったです♪
投稿: みさち | 2008.11.07 01:19