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2008.09.30

今月の言い訳

 2008年9月に更新した、タイトルの下の言い訳です。

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9月1日 ※只今、書き手があと2ページ残った計算ドリルを慌てて筆算を駆使して解いておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
9月2日 ※只今、書き手がひらがなの「ぬ」を長時間ずーっと見続けていたら「め」及び「ね」との区別が付かなくなってしまい文章をつづることができなくなっておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
9月3日 ※只今、書き手が自分自身を客観的に見て他の方と違うところを探そうとしておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
9月4日 ※只今、書き手がクマゼミを追って北へ北へと旅を続けておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
9月6日 ※只今、書き手が日本武道館のてっぺんのものを玉ねぎと取り替えようとして柱をよじ登っておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
9月7日 ※只今、書き手がシュークリームのシューをはいでクリームだけにして食べようと両手をべとべとにしておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
9月8日 ※只今、書き手が腕が疲れないために「ねるねるねるね」を練る機械を開発している途中でおりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
9月9日 ※只今、書き手が紫陽花の一株全体を使った花占いを6月から続けているのにまだ終わらせることができないでおりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
9月10日 ※只今、書き手が春菊が食べられるならば秋菊も食べられるのではないかと考え昨日の節句の残りの菊を調理しておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
9月11日 ※只今、書き手が体育館の天井に挟まったバレーボールを落とそうとして別のバレーボールを投げたらそれがまた挟まってそのバレーボールを落とすために別のバレーボールを投げたらそれが挟まってというのを繰り返しておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
9月12日 ※只今、書き手が秋風が吹けば自分がもうかるようにしようと関連個所の微調整を行っておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
9月13日 ※只今、書き手が目の前にニンジンをぶら下げられてそれから逃げるようにして後ろ走りを続けておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
9月14日 ※只今、書き手がメンチカツ1枚とコロッケ52枚を使ってばば抜きをしたために手が油まみれになりキーボードを打つことができないでおりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
9月15日 ※只今、書き手がチキンレース用の鶏をケンタッキーまで獲りに行っておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
9月16日 ※只今、書き手が競技場のラグビーボールをアーモンドとすり替えて競技場を香ばしくしようとおりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
9月17日 ※只今、書き手がウルトラな宝箱を開けてその煌めきに酔いしれておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
9月18日 ※只今、書き手が明太子一腹全部の孵化に成功し部屋がスケトウダラだらけになり身動きができずにおりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
9月20日 ※只今、書き手が扇風機の「弱」と「中」の間に「そこそこ」を入れ「中」と「強」の間に「かなり」を入れるために工場にこっそり入り扇風機の文字を書き換えておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
9月21日 ※只今、書き手が秋らしく頭を紅葉刈りにしたところ恥ずかしくなってネタ集めに外出できずにおりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
9月22日 ※只今、書き手がハードディスクのハードさを確かめるためにハードディスクをかなづちで叩いたら案外とハードではなかった上に取り返しの付かないことになっておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
9月23日 ※只今、書き手がトランプタワーのように団子を積み重ねていって世界記録樹立を目指しておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
9月25日 ※只今、書き手がTVアニメ『イタズラなKiss』のラストを9年越しで観てあまりの感動に咽び泣き他の事が手に付かずにおりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
9月26日 ※只今、書き手が最近時間の流れが早くなっていると感じたため13時まである時計を製作中でおりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
9月28日 ※只今、書き手がイースト菌を西方浄土へと運びウエスト菌に変化させるために旅立っておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
9月29日 ※只今、書き手がハブティーを飲んだらむやみやたらに元気になりグラウンドを駆け回っておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
9月30日 ※只今、書き手がとうもろこしの皮が夏からずっと歯に挟まっていて気になって仕方なく他の事に手が回らないでおりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。


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梓弓

 そういえば、朝の天気予報で、夕方くらいから雨が降る、って言ってたっけ。部屋、暗いもんね。もう降り始めてるのかもしれない。ああ、そうだ。「帰る頃には雨降るから、傘、持っていってね」って、声、掛けたんだった。あの人、傘、持っていってたかな。よく覚えてない。
 アズサは、反対側の壁にある掛け時計に目を遣った。暗い雲ばかりで、レースのカーテンだけを掛けている部屋には陽は入ってきていない。蛍光灯も点けていない。部屋のところどころにある家電が、待機を知らせるために、緑だったり、赤だったりの光を、小さく灯している。部屋を一番明るくしているのは、携帯電話の液晶画面だ。その光の力で、ようやく読み取った掛け時計の針は、まだ夕方間もない時間を指していた。
 まだだ。こんなに暗いのに、まだこんな時間なんだ。もっと待っていないと。
 時計を見るために少し起こした身体を、再び、ベッドにもたせ掛けた。
 いつからこうしていたんだっけ。何時から?何日前から?何週間前から?そう、三年前からだった。この時間が長いのか、短いのか、私にはわからない。毎日、ただ、こうしてベッドにもたれ掛かっているだけじゃない。朝は、ごはんを作って、あの人と食べて、見送る。天気予報を見て、雨が降りそうだったら、傘を持っていくように言って、暑そうだったら角を揃えて折りたたんだタオルハンカチを渡して、寒そうだったらコートを用意して。
 その儀式が終わったら、食器を洗って、掃除をして、洗濯物を片付けて、晩と明日の朝の食材が少なかったら、近くのスーパーに買いに行く。それで、午前中が終わる。同時に午後も終わる。もう、することが何も無くなっているから。あとは、あの人が帰ってくるのを待っているだけ。最初の頃、待つのは楽しかった。夕食を食べながら、私にはよく分からないあの人の仕事の話を聞くのも楽しかった。私は、あの人には分からないはずの、スーパーでの些細なハプニングなんかを話すのが楽しかった。あの人は、喜んで聴いてくれているように見えていた。
 今でも、そんな一日は何も変わっていない。だけど、どこか違う気がする。毎日していることが変わっていないから、余計に気になる。こんな気になるのはいつからだったかな。それは覚えていない。三年よりも短くて、一日よりも長い間にこんな気を持つようになったんだと思う。
 三年前は、そんな時間は無かった。違う。ほんの少しだけあった。茫漠とした時間は、私の一日に、一秒にもならないくらいの染みを付けていた。私が決めた私の仕事を全部終わらせて、あの人が帰ってくるまでの時間のどこかに、それがあった。
 テレビニュースで原油タンカーの事故を見たのは、いつだったかな。事故現場の海面には、深い海の底の船から湧き出してくる黒い油で膜が作られ、それが時間と共に広がっていっていた。私はヘリコプターからのその映像に見入った。それは、私だと思った。油でぬめる海面は光を反射して、ところどころ虹色に輝きながら、波に漂い、水平線のほうへ広がっていった。
 そこまで見たら、テレビも電灯も消して、ベッドにもぐりこんだ。あれは私なんだ。身体を洗っても洗っても、粘りのある黒い油は落ちない。どうしよう。あの人が帰ってくるのに。朝、せっかく床も水拭きしたのに。毎日毎日そうしているのに。どうしよう。こんな体は見せられない。
 アズサは携帯電話を掴み取り、番号を登録しているあの人のボタン押した。そうしたら、全身を包んでいた布団の中がまぶしいくらいに明るくなった。液晶の光が、体を包んだ。すると、波が引くように落ち着いていった。
 それから、どれくらいケータイを抱いていたんだろう。いつの間にか眠ってしまってた。目覚めた時は、夕暮れだったな。
 アズサは、急いで起きて、携帯電話をベッドの上に放って、夕食の支度を始めるために、蛍光灯を点けた。初めて一緒に撮った写真の待ち受け画面は、その光に紛れてしまった。
 それから、毎日、午前中の仕事を済ませると、携帯電話を持って、布団をかぶり、眠った。
 眠っている間は、黒い染みは消えていた。しかし、目が覚めた後は、頭が働かなかった。このままじゃいけない、とだけは思って、ベッドから降りるのだけど、立ち上がれない。座り込んで体を投げ出すようにベッドにもたれ掛かった。あの人が帰ってくる、そのことだけを思って、ただ力なく座っていた。
 カーテン、閉めないと。陽の光はもう無い。雲はもっと深くなっていっているみたい。窓の外は、ただわずかな白を含んだ灰色があるだけだ。
 枕元に置いた携帯電話が、振動音と光を放った。この振動パターンはあの人のものだ。

From:優哉
Subject:無題
帰ったよ。カギ開けて。

 部屋のカードキーは、一枚しかない。合鍵を作ろうか、と話したけど、あの人が帰る時に、私がいないことは無いということ、それに、カードキーの合鍵は、作るのに手間が掛かると入居時に不動産屋から聞いていたことから、合鍵は作らないままだった。カードキーは私が持つことにして、あの人は、マンションの玄関前に着いたらメールを送り、それを見たら、部屋の中からオートロックを開けるようにしていた。そして、毎日、私はあの人が帰る時間は部屋に居た。
 アズサは携帯電話の液晶画面をちらりと見ただけで、立ち上がろうとはしなかった。数分後、再び、振動音が鳴った。

From:優哉
Subject:無題
帰ったよ。カギ開けて。

 繰り返し。文面をケータイに登録してるんだろうな。
 外で葉が鳴り始めた。やっと雨が降り出したんだ。雨が降る前にあの人は帰り着いたから、朝、傘、要らなかったな。細かい水音が、徐々に膨らんでいく。

From:優哉
Subject:無題
どこに出かけてる? まだ帰られないの?

 心配してる。でも、私の心配、自分の心配、どっちなんだろう。

From:優哉
Subject:無題
帰ったよ。カギ開けて。

 私って何なのだろう。鍵を開けるため無題の人ってどんな人? 雨の音が頭に響く。

From:優哉
Subject:無題
男か?

 「男」って誰のことなんだろう。うん、そうね。男よ。さっきまで一緒にベッドにいたの。いつからか忘れたけど、毎日毎日、私を明るく包んでくれてた。安心して眠れた。だから、今までここに居ることができたんだと思う。でも、あなたの考えている「男」とは違う!

To:優哉
Subject:おかえり
ずっと待ってたよ。今、開けるから

From:優哉
Subject:無題
前から分かってたよ。もう、僕がいなくても梓はいいんだと思う。梓は僕に縛られることないよ。今、梓に必要なのは、僕じゃないんだ。君を必要としている人のところに君の心を置いていなければならない。もう僕の役割は終わったんだよ。楽しかったよ。ありがとう。

 「おかえり」って言ったのに、「いなくてもいい」ってどういうこと。いないと駄目に決まってる。ずっと一緒にいたでしょう。さっきも一緒にいた。私を明るく照らしてくれていたのは、あなたじゃない。勝手なこと言わないで。

To:優哉
Subject:おかえりおかえりおかえり
おかえりなさい。開けるから、おくなったけど、ばんごはんつくるまってててあけるから、あしたもごはんつくれしそうしもせんたくもそのあといっしょにねむらないといけない

 雨がますます強く葉を叩いている。アズサはレースのカーテンを開けて、ベランダから身を乗り出す。朝、手渡したバーバリーチェックの傘が遠ざかっていく。
 アズサは携帯電話を握り締め、部屋を出た。エレベーターは待てない。数階分の階段を駆け下りる。内側から鍵を外し、雨水をはじいているアスファルトを走る。裸足にアスファルトが絡みつく。タンカーの油が思い出された。
 なんで、追いつかないのだろう。痛い。さっきから何度か転んでいるような気がする。あれ、変だな。私、走っているのかな。
 温かい雨が髪を伝い、口に入る。
 ああ、そうか、私、倒れてるんだ。だから痛いんだ。だから痛くないところなんてないんだ。

To:優哉
Subject:Re:
朝も、昼も、夜も、一緒にいてくれてありがとう。大事にしてくれてありがとう。私も同じくらい大事にしてたと思うんだけどな。だって、いつもあなたと一緒にいたよ。すぐそばにいつもいたよ。あなたはそれを見てないけど、そうだったよ。そうだったんだよ。あなただけの一日だったんだよ。それを見てないのに、何故「役割は終わった」なの?終わったことなんて何も無いよ。

 早く、これを送らないといけない。
 アズサは雨の滴る左手を開いて携帯電話の画面を見た。黒い液晶画面しかなかった。どのボタンを押してもあの明かりは点らなかった。ただ、油と夜が詰め込まれた黒だった。

――――――――――

 こちら↓のブログ記事を参考にして、私も書いてみました。
http://blog.goo.ne.jp/koneeta/e/0a5c0cb24c588de73c6e5c74f1868e48
http://blog.goo.ne.jp/koneeta/e/73fe2117704983433c8d8e10770caf9f
http://blog.goo.ne.jp/koneeta/e/696676f689923c5b8d4e5aec4b73235a

 『伊勢物語』第二十四段の「翻案」です。原文はこのようになっています。

―――

 第二十四段 梓弓

 昔、男、かた田舎に住みけり。男、宮仕へしに、とて、別れ惜しみて行きにけるまゝに、三年来ざりければ、待ちわびたりけるに、いとねむごろに言ひける人に、今宵あはむ、と契りたりけるを、この男来たりけり。この戸あけたまへ、と叩きけれど、あけで、歌をなむ詠みて出だしたりける。
  あらたまの年の三とせを待ちわびて
  たゞ今宵こそ新枕すれ
と言ひ出したりければ、
  梓弓真弓槻弓年を経て
  我がせしがごとうるはしみせよ
と言ひて、往なむとしければ、女、
  梓弓引けど引かねど昔より
  心は君によりにしものを
と言ひけれど、男帰りにけり。女、いとかなしくて、後にたちて追ひゆけど、え追ひつかで、清水のある所に臥しにけり。そこなりける岩に、指の血して書きつけける。
  あひ思はで離れぬる人をとゞめかね
  我が身は今ぞ消えはてぬめる
と書きて、そこにいたづらになりにけり。
(神野藤昭夫・関根賢司編 『新編 伊勢物語』 おうふう 平成11年1月 より引用)

―――

 古典を現代風に翻案するというのを、『今昔物語集』で出来ないかと考えておりましたら、『伊勢物語』のものがあると分かりましたので、力試しのつもりで取り組んでみました。
 慣れない書き方なので、いろいろと突っ込み可能なところがあると思いますが、大目に見ていただければ、ありがたく存じます。

 歌の解釈とその翻案が難しかったです。


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2008.09.20

汚職、証拠隠滅、口封じ

 今は昔のことでございます。日向守の某という者がおりました。
 その日向守、任期が満了し、新しい国司が来ることになりました。引継ぎの文書をまとめていたのですが、色々と自分に都合の悪いことが書かれてあったようです。そこで、文字が上手く、仕事のよくできる書記官を呼び出し、その部分を細工して書かせたのです。書記官は、日向守が在任してからの記録を修正しながら、
「このように、私が細工をして書いたことを、守は新しい国司様に知られてはまずいと思うのではなかろうか。きっとそうだ、疑い始めるに違いない。守はこんなに悪いことをするような心構えの人だから、恐ろしいことをするだろう…」
と、思ったのです。「どうにかして逃げなければ」と思いはしたものの、屈強な者を四五人、見張りに付けて、夜昼無く目を光らせていたので、少しの間も身動きが取れないでおりました。
 このような日が二十日ほど続いた頃でしょうか、書記官は全ての文書を書き改めました。すると、日向守は、
「一人でこれだけの量をこなすとは見事だ。よしよし。上京しても、私の事を忘れないでいてくれたまえ」
などと言って、書記官に多くの絹の反物を褒美として与えました。しかし、書記官は褒美どころではなく、恐怖でうわの空になっておりました。そして、書記官がその褒美を受け取り立ち去ろうとする時に、守は、子飼いの武士を呼び寄せて、小声でしばらく話し掛けたのです。書記官はその様子を見て、胸が張り裂けんばかりになりました。
 武士が守との話を終えて出て行くときに、
「さあ、書記殿、おいでなされ。お話しいたしたい事がございます」
と、呼び寄せました。書記官はそれを断ることも出来ず、恐る恐る近寄りました。すると、すぐさま二人の男が現れ、書記官の両腕を捕らえて、身動き出来なくしたのです。武士は、矢筒を取り出し、弓を引き絞り、矢先をぴたりと、書記官の胸に向けました。書記官は、びくりと身体が強張りました。
「な、何をなさるのですっ!」
「可哀想な事だと思いますがね。だが、我が主の仰ることですから、断れますまい」
「やはり、そうか…。では、どこで私を殺そうとしているのか?」
「人が来そうにないところを知っているのでね」
「そうか…。そこまで決まっているんでしたら、私が今からあれこれと言っても仕方ないようだ。それならば、長年、同じところで働いた仲。一つ、願いを聞いてくれままいか」
「事にもよるが…、まあ、言ってごらんなさい」
「私には、一つ屋根の下で長年暮らしてきた、八十になる母と、妻、そして十になる子どもが一人いる。その家族の顔を最後に一目見ておきたい。だから、我が家の前まで連れて行ってくれないだろうか。そうしたら、人をやって、家族を呼び出して、顔を見ることができる」
「そんなことか。いいでしょう。それくらいならば、どうということもないでしょう」
 書記官を馬に乗せて、逃げ出さないように二人で馬の口を引き、あたかも病人を運んでいるかのように見せて、連れ出しました。その間も、武士は馬に乗り、後ろからいつでも書記官に矢を放てるようにしていました。
 書記官の家に着くと、人を遣り、母親を呼び出しました。すると、母親は、弱弱しく、人にすがり、門の前まで出てきました。書記官の言うように、髪は灰色、ひどく年老いておりました。後に続いて、十歳ほどの子どもを掻き抱きながら、怯えた様子で妻も現れました。
 止めた馬の近くに母親を呼び寄せて、書記官は物静かに声を掛けました。
「お母さん、私は少しも間違ったことをしておりません。しかし、前世の報いなのでしょう、もう、死ななければなりません。どうか悲しまないでください。幼いこの子は、そのうち、養ってくれる良い人が出てくるでしょう。ただ、お母さん…、お母さんがこの先どのようになられるのか。それが…、それが心残りです。殺されるよりもそのことが心苦しい! 悲しい! …もう、時間のようです。お体に障ります。さあ、家にお入りください。最後にただ一度お顔を目にしておきたかったのです」
 この様子を見ていた武士も、その部下も、皆、ただ涙を流すばかりでした。老いた母親は、あまりの悲しさに、倒れこみ、起き上がることができなくなりました。
 しばらくの時が流れ、武士は、このままでいるわけにもいかないと思い、「…もう、いいでしょう。行きましょう」と、言い、再び馬を引いて、書記官の家を離れました。
 そして、武士は、栗林の中で、書記官を射殺し、証拠の首を取り、日向守の元へ戻っていったということです。
 この話しで思われるのです。日向守の罪はどれだけ重いかということを。偽の文書を作ることでさえ、たいそう重い罪です。まして、無理矢理に書かせた罪無き者を口封じのために殺すなんて…。これは、悪行でしかありません。これを聞いた人々は、日向守をたいそう憎んだ、と語りがれておりますよ。

――――――――――

 『今昔物語集』巻29・第26話「日向守□、書生を殺す語」の現代語訳です。
 なんとも救いの無い、もやもやした気分になる説話です。巻29は悪行譚が収められている巻ですので、行われた悪そのものに視点が置かれることが多く、それに報いがあるかどうかはあまり問題とされていません。たぶん、日向守は上京してからも特に罪を受けることなく生きていったのでしょう。
 ただし、現世での報いは無かったとしても、来世での報いは受けたのかもしれません。原文の話末評では「日向の守、何ナル罪ヲ得ケム。詐テ文ヲ書スルソラ、尚シ罪深シ。況ヤ、書タル者ヲ咎無クシテ殺サム、可思遣シ。此レ、重キ盗犯ニ不異ズ」としています。『今昔物語集』の原理の一つに「報恩必罰」があります。罰は現世だけで下るものではありません。「可思遣シ(おもひやるべし)」から、堕地獄の可能性が見えてきます。

 それにしても、汚職、文書偽造、虚偽記載、証拠隠滅。どれも聞き覚えのあるような話しです。現代風だったら、事件がその後に発覚しても、「すでに当事者は公職を離れており、資料も処分され…」などという言い訳で逃れるのでしょう。



 現代語訳には、この本の原文・注釈を参考にしました。


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2008.09.10

どんな遊びやことを指しているのか?

団地の看板
 悪い子はいないかーっ!

 してはいけないことを明確にしているようで、詳細は分からない書き方です。
 「悪い遊び」のうちに入りそうなものを考えてみましょう。
 団地の歩道上で、1000点‐1万円のようなレートで麻雀をするのは、たぶん悪い遊びです。音がしますし、そもそも法律に抵触します。
 では、ノーレートで、花合わせをするのはどうでしょうか。花札なので音はしませんし、お金の移動もありません。悪いようで良いような気がします。
 トンボに糸を括り付けて飛ばす、というのは、良いようで悪い気がします。その遊びをすると、大概はトンボの命は儚くなります。

 人のいやがること、も、かなり曖昧な線です。主観が入っている文です。
 団地の歩道上で、音楽無しでエアギターの練習をするのは、人によってはいやがられそうです。同様に、パントマイムの練習も嫌がられそうです。どちらも怪訝な顔つきで遠巻きに見られそうな気がします。でも、どれも、してて問題は無いと思われます。自分と他者の価値観の違いに気付かされる文章です。

 「団地内で遊んではいけません」と、あっさりと書いてくれたほうが、余程良いです。


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