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2008.07.31

今月の言い訳

 2008年7月に更新した、タイトルの下の言い訳です。

――――――――――

7月1日 ※只今、書き手がツチノコのポスターを切り抜いて草むらに置いて写真撮影をしておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
7月2日 ※只今、書き手があまりの高騰のためにデロリアンにガソリンを入れることができなくなったので代わりに1.21ジゴワットの電力を時計台に落ちる雷から引き入れようと細工をしておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
7月3日 ※只今、書き手が苦汁を嘗めることを体感するために青汁を嘗めたらそのあまりの苦汁っぷりに呆然としておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
7月4日 ※只今、書き手がうっかりと座椅子と座布団と床の間に奇妙な形で挟まって眠り込んでしまい体が奇妙な形にねじれて正面を向きにくくなっておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
7月5日 ※只今、書き手がVHSのビデオデッキをダビング10に対応させようとあれこれと試しておりますが一向に上手くいかず首を傾げておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
7月6日 ※只今、書き手が1万人が参加するハンカチ落としでハンカチを片手に延々と人の輪の外側を走っておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
7月7日 ※只今、書き手がマジカルハバナをしたところ「ハバナと言ったら」で思い出せることがまるで無いことに気付きいきなりつまづいたため参加者全員で頭をつき合わせてハバナで連想されることを検討しておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
7月8日 ※只今、書き手が幸福を得ようとして参拝処理業者さんから5円玉だけを選り分けてもらっておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
7月9日 ※只今、書き手が元気玉を作ろうとしましたが「みんな、オラに病気を分けてくれ!」と言い間違えてしまい瀕死になっておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
7月10日 ※只今、書き手がマグカップの中に米やらおかずやらを詰めて「マグの内弁当」として売り出して一山当てようと目論んでおりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
7月11日 ※只今、書き手が『ナショナルキッド』の続編をノイタミナ枠で『パナソニックキッド』として放映できるように根回しに躍起になっておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
7月12日 ※只今、書き手が杏金丹というありがたいお薬を飲んで低料金で近場を旅する気が起こってその準備をしておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
7月13日 ※只今、書き手がロト60000で3兆2000億スクレを当てて使い道を考えあぐんでおりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
7月14日 ※只今、書き手が明日の12時13分頃に備えて「そうですねー」の練習をしておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
7月15日 ※只今、書き手が闇焼肉を執り行おうと仕度をしていましたがどうやっても焼いているものが丸分かりで対応に苦慮しておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
7月16日 ※只今、書き手が学校じゃ教えられない超弦理論による葵の上とチンギスハーンのフェルマーの大定理的関係の解析に付随するSOV型語順の任意性について研究しておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
7月17日 ※只今、書き手が落花生部隊になって千葉県に落下する前にピーナツの安全祈願のため神社へお参りに行っておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
7月18日 ※只今、書き手が痛いの痛いの飛んで行けとした「痛いの」が第二宇宙速度を突破し月面に激突し月が痛くなり大惨事が引き起こり唖然としておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
7月19日 ※只今、書き手がビキニの似合う身体になるにはどのように改造すれば良いか閣議を開いておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
7月20日 ※只今、書き手がサイドカーにぬいを乗せしろばんばを追いかけて敦煌に向かっておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
7月21日 ※只今、書き手が余りに暑くて「くるりんアイスクリン」で大量にアイスクリームを作るために玉子と生クリームを買占めに奔走しておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
7月22日 ※只今、書き手が一人で神経衰弱で行っておりましたら残りの札が3枚であることに気付きどのように開いたらいいのか迷っておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
7月23日 ※只今、書き手が転んで怪我をしないようにと気を利かせて「新婚さんいらっしゃい」の三枝師匠の椅子をアロンアルファで強力に接着する作業に従事しておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
7月24日 ※只今、書き手がロン毛に茨の冠をしたお兄さんと意気投合しホットワインに変わった銭湯のお湯をがぶ飲みして前後不覚に陥っておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
7月25日 ※只今、書き手があぶく銭で洗濯物を驚きの白さに仕上げようと洗濯機をひっきりなしに回しておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
7月26日 ※只今、書き手が「どこでも自動ドア」を使ったら自動的に前人未到の土地へ着いてしまい慌てて帰り道を探しておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
7月27日 ※只今、書き手が部屋が余りに湿度が高いため床いっぱいにシリカゲルを敷き詰めているところでおりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
7月28日 ※只今、書き手が元気溌溂になるべくオロナインH軟膏をガブ飲みしておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
7月29日 ※只今、書き手がプールで右足が浸かる前に左足を出しその左足が浸かる前に右足を出していたら水上を歩けるようになったのではしゃいでいておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
7月30日 ※只今、書き手が「左へ回すとボールペン右へ回すと毛筆」という「フデーボ」なる実用新案の申請手続きに追われておりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。
7月31日 ※只今、書き手が「ジッポー売りの少年」というおとぎ話を書き始めたところなかなか火が消えず原稿用紙200枚を越えても終わらせることができないでおりますゆえ、更新がおろそかになっております。ご了承くださいませ。


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2008.07.30

京の都のウンディーネ

 今は昔のことでございます。陽成院の御所は冷泉院でした。その冷泉院も、陽成院がいらっしゃらなくなった後は、その中にあった小路を通してしまい、北は人々が住む家になり、南は池などを少し残すだけとなったのです。
 ある夏の日、西の対屋の縁側で、ある男が寝ておりますと、ふと、気配がしたのです。その方を見るとは無しに顔を向けますと、目に入ってきたのは、腰ほどの背丈のお爺さんの姿だったのです。そして、そのお爺さんは、寝ている男の顔を、ぺたりぺたりと撫で回すのです。なんとも不思議なことだと思いましたが、あまりに怖ろしくて、何もできずに、寝たふりをして身を固くしていました。すると、お爺さんは静かに立ち上がり来た方へと戻っていきました。星の明るい夜でしたので、お爺さんの姿がぼんやりと浮かび上がります。そして、池の際にまで辿り着くと、すっ、と消えてしまったのでした。その池は、誰も手入れをすることはなかったので、浮き草や菖蒲が茂って、たいへん気味悪く、怖ろしく、妖気のようなものを放っているように思われました。
 この一部始終を見ていた男は、「あの爺さんは、池の主に違いない」と思って背筋が凍るようでした。その日以来、お爺さんは、夜な夜な池からやってきて、男の顔を撫で回すようになりました。この話しを聞いた者たちは、怖がって手助けをしてくれません。しかし、たいそう勇気のある武士がその話しを聞きつけて、
 「どれどれ、俺が、顔撫での爺さんをひっ捕まえてやろう」
と、言って、麻縄を用意して、一人で縁側に横なって夜を待つことになったのです。
 だんだんと夜が更けていきましたが、宵の口には、まだ何も起こりません。「もう真夜中も過ぎてしまったぞ」と男が思いながら、うつらうつらとしたところに、顔にひやりと冷たいものが当たりました。
 「奴が来たなっ」
と、男は思うと眠気が飛び去り、さっと起き上がり、素早く己の顔に触れたものを捕まえて、麻縄で縛り上げ、柱に結び付けたのです。
 男の声を聞きつけた人々が火を灯してやってきました。その火を柱の方に向けると、薄青の衣を着た小さなお爺さんが、けだるそうにして、ゆっくりとまばたきをしながら、縛られている姿が照らされました。人々はお爺さんに何かしら声を掛けたのですが、全く口を開こうとしません。
 しばらくすると、お爺さんはにやりとして、ふらふらと辺りを見回して、小さく苦しげな声を出したのです。
 「たらいに…、水を入れて…、くれんか…」
 それを聞いた人たちは、大きなたらいに水を入れて、お爺さんの前に置いたのです。お爺さんは、首を伸ばしてたらいの水面に映る自らの顔を見て、
 「わしは、水の精じゃ!」
と、言うが早いか、たらいの水に、どぼんと飛び込んで、姿が消えてしまいました。たらいの水は増えて、縁からこぼれ出し、麻縄は結ばれたままたらいの底に沈んでいました。お爺さんは、水になってしまったのです。人々はこれを見て、たいそう驚き、不思議に思いながらも、たらいをそっと持ち上げ、水をこぼさないようにして、不気味なあの池へとそそぎ入れたのでした。
 その後、お爺さんが来て、人の顔を撫でるようなことは無くなりました。きっと、水の精が人の姿になって来ていたのだろうと、語り継がれることとなったのですよ。

――――――――――

 『今昔物語集』巻27・第5話「冷泉院の水の精、人の形と成りて捕えらるる語」の現代語訳です。この季節に合う説話を選んでみました。
 「霊鬼」の話しが集められた巻27の中でも、この第5話は、ややコミカルな雰囲気を持っています。夜中に冷たく小さな手で顔をぺたりぺたりと触られるのは気味が悪いですが、大した害はありませんね。ちょっと手荒な退治劇でした。
 水の精というと、西洋の「ウンディーネ」の存在が思い浮かびます。ウンディーネは、普通、美しく若い女性の姿で描かれています。文学作品では、悲恋の主人公として書かれることが多いようです。そのイメージがあると、この説話に出てくる、お爺さんは、それとは対極の雰囲気を持っています。冷たい手(原文「面に物のひややかに当たりければ」)、水色の衣(原文「浅黄の上下を着たる」)と、いったところに、水の精らしさが表れています。


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2008.07.20

右横書きゼミナール・後編

 「右横書きゼミナール・前編」のつづきです。前編を先にご覧ください。


 ●文字種ごとの書字方向問題

 結局、この夏の限定ケーキ『豊田猿投の桃のタルト』は七海が取り、桜濱は定番の『季節のフルーツタルト』を食べることになった。
 「何度食べても、季節のフルーツタルトは美味しいですね。選択権が無くてもこっちを選んでましたよ」
 「いや、桜濱さんなら、こっちの新作を選んでいたはずです。限定品とか、新しいもの好きですよね」
 「ま、まあ…、そうですが。どちらも美味しいと思いますよ。食べ比べてみたいので、少しください」
 「当然、駄目です」
 「…分かりました。ごめんなさい。今度、自分で買って食べます」
 「はい、そうしてください。ところで、桜濱さんの『把握し辛い右横書き』がまだですよ。早く、見せてください」
 「あ、そうでしたね。うーん、と。これなんてどうでしょうか?」

右横書き19

 「『電子氷』って何ですか?」
 「いやいや、問題はそこじゃないです。その上の『WEN』を見てください。これは『NEW』の右横書きですよね。アルファベットの右横書きは珍しいですよ。『氷子電』は『電子氷』とすぐ分かっても、『WEN』が『NEW』だとは、一瞬じゃ分からないんじゃないですか?」
 「そう言われてみれば…、そうですね」
 「それに、右のロゴを見てください。『Precious』は左横書きなんです。あと、左下の電話番号も左横書きです。仮名、漢字、アルファベットが左右両方向、そして数字。いろんな文字種が入り混じっている右横書き車なんですよ。これは頭が混乱してしまうくらいの上質の右横書きだと思います」
 「一つ一つの単語だけだと可読性は低くないと思いますが、いろんな文字種、書字方向がいっぺんに書かれていることで、可読性が低くなってしまっているわけですね」
 「そうです。この車の場合、『落ち着きの悪さ』を受け入れて、全部を左横書きにした方が、分かりやすかったでしょうね。それぞれは長い文章ではないので。むしろ右横書きにした英単語の落ち着きの悪さを感じてしまいます。英単語の右横書きには、こんなのもありましたよ」

右横書き20

 「なんですかこれ? 分かりにくい」
 「写真の撮りかたが悪いのは許してもらうとして。これは、アルファベットの綴りが裏焼きになってるんです。ほら、救急車のフロント部分で『急救』という風に、反転しているのを見たことがありませんか? あれと同じような感じで、右側面のアルファベットが反転しているんです」
 「『急救』は、前の車がバックミラーで見たときに、正しく『救急』と読めるようにしているんですよね。でも、側面だと意味が無いじゃないですか」
 「そうなんです。分かりにくいだけなんです。アルファベットの綴り方よりも、『右から始まる落ち着きの良さ』の方を優先した結果なんでしょう。ただ、ロゴを右から左に描いていくと、形を変えたりする手間とか厄介な問題が出てくるんでしょうね。それで仕方なく、型を裏返しにしてペイントしたんでしょう。アルファベットの右横書きでは、稀にこの『裏焼き右横書き』が見られますよ」
 「私、見たことありませんよ」
 「僕もほとんど見たことありません。だから、この観光バスを見つけた時は、見にくい位置だったんですけど、無理矢理に写真に撮ったんです。あと、交差点で青になるのを待っていたときに、目の前を『裏焼きアルファベット』が通過していくのを見かけたことがあるだけです。あの時はカメラを取り出す時間がありませんでした。悔しかったなぁ…」
 桜濱は、その時のことを思い出して、ややうつむき加減になり、ケーキをゆっくりと口に運んだ。
 「そんなに落ち込まないでくださいよ。またチャンスはあります。待てば海路の日和あり。鳴くまで待とうホトトギス。信じるものは救われる、です」
 七海の言い方が妙ににおさおさしいと思ったが、それを言うと、また失点になりそうだと思ったので、桜濱はそれは口には出さずに、軽くうなずいた。
 「ありがとうございます。次の機会を気長に待つことにします。七海さんもこのタイプの右横書きを見つけたら、すかさず捕獲してください」
 「はい、分かりましたっ。…と、これって、『引越のサカイ』じゃないですか。桜濱さん、前のブログ記事で書いていましたよね。珍しくないんじゃないですか」

 ●ロゴマークと書字方向

 桜濱は、七海が指差した「引越のサカイ」のトラックの写真と、以前に撮った写真とを並べて置いた。

右横書き21

 「ほら、右側面でも、前に取り上げたのは左横書き、新しい方は右横書きなんです。僕は、はじめは『引越のサカイ』さんのトラックは、左横書きしかないのかと思っていたんですが、右横書きも存在していたんです。でも、これで問題にしたいのは、パンダのロゴマークの方なんです。見比べてみてください。ロゴマークは一緒ですよね。それで、こっちを見てください」

右横書き22

 「西濃運輸さんは、「ールガンカ」と右横書きになっていて、カンガルーマークも裏焼きになっているんです。そして、こっちも」

右横書き23

 「佐川急便さんの飛脚マークも、右横書きに合わせて、裏焼きになってます。そしてこれが、クロネコヤマトさん」

右横書き24

 「クロネコマークは裏焼きになっていませんよね。どう思いますか?」
 「えーと…、裏焼きになっているロゴとそうじゃないロゴがあるってことですよね…。あ、走ってますっ」
 「そうなんです。カンガルーマークも飛脚マークも、裏焼きになるロゴっていうのは、走る方向、つまり頭の向きに大きなベクトルがあるんです。パンダマークやクロネコマークは、それほど大きなベクトルは感じられませんよね。このことからも、右横書きの大原則『人間は、身の回りに自分の似姿を見つけださずにはいられない習性を持つ』というのが当てはまっているんじゃないかと考えました。むしろ、ロゴのベクトルの大きさが、書字方向にも強い影響を与えているんじゃないかと思うんです。つまり、『頭と尾の意識』があるので、右横書きになったというわけです」
 「なるほど。反転ロゴマークが、『横書き登場』の記述の証明になっているということですね」
 「これだけでは明言はし辛いですが、可能性は高いと思います。では、次は、勝負は抜きしにして、他に気になる右横書きとか印象に残っている右横書きを見てみませんか?」
 「はい。えーと、これはちょっと気になりますね」

右横書き25

 「確かに、なんだか自然と気が引かれますね。でも、これは、右横書きに、というよりも、車体の色が問題じゃないんですか」
 「はい、そうなんです。あまりのピンクっぷりに驚いたんです。これを見てても思うんですけど、住所は右横書きにすることがあっても、電話番号はやっぱり左横書きなんですよね」
 「電話番号の可読性は落とすとなると抵抗感が生まれるんでしょう。アルファベットの右横書きはあっても、電話番号の右横書きはまず見られませんね。例えば、これも」

右横書き26

 「あっ…、これって、例の…」
 「はい…。例の…です。今となってはレアでしょう。これも『牛騨飛』と右横書きにしていても、電話番号の部分はやっぱり右横書きです。電話番号はもともとは意味の無い数字の羅列なので、左横書きという原則を崩すわけにはいかないんだと思います。ある一つの文字体系に組み込まれている人にとって、共通意識になっていると考えるべきなんでしょう。電話番号の他には、僕はこんなのが気になりました」

右横書き27

 「パトカーの右横書きはよく見るじゃないですか。そんなに印象に残っているんですか?」
 「だって、パトカーの写真を撮っていたら、怪しまれるじゃないですか。でも、一つは押さえておきたかったんですよ。どうしたらいいかな、といつも思っていたところ、幸運にも、松坂屋の前で、警察車両のキャンペーンみたいなのをやっていたんです。それで、乗り物ファンのふりをして、ちゃんと許可をいただいて、写真を撮ったものなんです。長い間、欲しかったものが手に入ったので、嬉しかったですよ。しかも、高速隊の三菱GTOですよ。かっこいいじゃないですか」
 「そ、そうですね」
 七海はやや付いて行けないという感がある。しかし、桜濱は勢いがついたらしく、次の写真を広げた。
 「ほらほら、これもかっこいいですよ」

右横書き28

 「…」
 「すっごい鼻ですよねーっ。『伸び』が素敵ですよ。憧れるなぁ、かっこいいなぁ。『ムハ狗天』ですよ、『むはいぬてん』。毘沙門天みたいじゃないですか。かっこいいなぁ。あまりにかっこよかったので、これは左側面も撮りました」

右横書き29

 「ちょっと、桜濱さんっ! 天狗だけ撮っても、右横書きとは、関係ないじゃないですかっ! いい加減にしてください」
 「ひっ、ご、ごめんなさい。つい調子に乗ってしまいました。…でも、全く右横書きと関係ないわけじゃないんですよ。この天狗も反転ロゴですよ。もともとのロゴは左側面の方なんです。右側面は裏返しになっている。と、いうことは、やっぱりベクトルが意識されていると思うんです。鼻の伸びる方向が頭だという意識が働いているので、それにつられて、『天狗ハム』も右横書きになった可能性があるんじゃないですか?」
 桜濱は、言い訳をしながら、どうにかして右横書きと関連付けて、七海の機嫌を取ろうとしている。
 「はぁ…、まぁ、そうかもしれませんね。分かりました。そういうことにしておきましょう。じゃ、ケーキも食べ終わったことですし、そろそろ、さっきの続きに戻りましょう」
 七海は、てきぱきとフォークと皿を片付けて、改めて、右横書きの資料を広げなおした。

 ●インパクトと異化効果

 「じゃ、次は何をテーマにしますか?」
 「インパクトの強い右横書きにしましょう。これが、右横書き鑑賞の一番の醍醐味だと思います。七海さんからどうぞ」
 「インパクトですか…。これはかなりパワーがありますよ」

右横書き30

 「無理矢理に右側面を端から端まで埋めた感じですね。それにテンポがいい。『ーヒーコ』は『コーヒー』のことだと分かりますね。この『ーヒーコ』を二度重ねて『ウトイ』としているので、『ウトイ』が『イトウ』だとすぐに判別がつきます。畳語のようにすることで、可読性が高まっているんですね。インパクトを持たせつつ、きちんと社名が分かるようにして、さらに広告効果も高めている。なかなかの秀作ですね。…では、僕はどうしましょうか。これに見合うだけのものってなかなか見つからないですよ。えーと、これなんて如何でしょう?」

右横書き31

 「普通じゃないですか」
 「やっぱり、そう見えますか。けど、ほら、ぱっと見で、あの双子の女優さんが思い浮かびませんか? NHKの朝の連ドラの」
 「あー、マナカナ。…強引です。」
 「はい、負けです。今回は完敗です。これは見つけたときは嬉しかったんだけどなぁ…」
 桜濱は名残惜しそうに、「マシカナ」の写真を仕舞いながら言った。
 「右横書きでインパクトがあるものは、他のものが連想されたり、なんとなくどこかにありそうと思わせられるんです。そのように、元の意味とは別のものが惹起される右横書きは『異化効果』が現れているということになるでしょうね。分かりにくいながらも、目を引くので、宣伝効果が高まっているんです」
 「じっくりと読ませる右横書きなんですね。前の記事の『んはごくゃにんこ』みたいなものかなあ」
 「あー、そう。そうです。あれも『異化効果』だと思いますよ。ただ、長文の右横書きなので、走行中に見せることを目的としているんじゃなくて、停車中に見せることを意識して書かれているのかもしれませんね」
 「『設建○○』みたいな、ありがちな右横書きだと、走行中のものでもすぐに判別できますが、長いものになるとそうはいかないですよね」
 「『設建○○』とか『送運○○』はたくさんありすぎて、みんな慣れてしまっているので、異化効果は発揮されなくなったんでしょう。それよりも頭と尾を一致させる居心地の良さが優先されて、結果、それが一般化したんだと思います。さて、かなり、右横書きを見てきたので、今日はこれくらいにしましょう。最後にお互いの自信作を披露して、お開きにしませんか?」
 「ええ。私も卒論の材料になりそうなものがいくつか見つかりました。帰ってからまとめることにします。じゃ、最後なんで、同時に出しませんか。いっせーのせ、で」
 「いいですね。僕はもう決まっていますよ。いいですか。では、いっせーのっ、せっ」 二人は後ろに隠していた右横書き写真を前に出した。

右横書き32

右横書き33

 「あっ」と両側から声が上がった。
 「『ン』ですね…」
 「『ン』になりましたね…。やっぱり、初めが『ン』の右横書きだと力があるなあ。前の『ンコマナ』とか」
 「それにしても、『ンチーコ』って、なんか迫力ありますね。しかも、ことごとく右横書きにしているし。『様王の鶏地』とか『ーリトーポト丸』とか、魅せてきますね」
 「七海さんの『田代千ンチッキ』も迫力ありますよ。『ぶゃしぶゃし』も。『しゃぶしゃぶ』自体も危うい雰囲気を持ったことばですが、逆読みすると、その危うさがこんなに増大するとは思いも寄りませんでした。湿度のある擬音になってますね。『ぶゃしぶゃし』な目には遭いたくないな、という気にさせられます」
 「そう考えると、おじさんのマークが意味深になりますね」
 「かわいいおじさんマークなんですけどねぇ…。ところで、『キッチン千代田』って名古屋一と評されるくらいのオムライスがいただけるんですよ。今度、行ってみませんか?」
 「あ、食べてみたいです。私、ぶゃしぶゃし食べますよ」
 「…擬音の使い方、間違っています」


――――――――――

 本稿を、偉大なることばの芸術家、故・大野晋博士に捧げます。

――――――――――

・参考文献
 屋名池誠『横書き登場―日本語表記の近代―』 岩波書店 2003年11月 ISBN4004308631
 桜濱『右横書き試論 ―「車体右側面上右横書き」の考察と鑑賞―』 本ブログ 2005年9月19日掲載



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右横書きゼミナール・前編

 眠い目をこすりながら、ドアを開けると、いつものにこにこ顔が待っていた。彼女はとっくにいつもの調子だ。
 「おめでとうございますっ! お誕生日プレゼントを持ってきましたよ」
と、茶色の地に空色の絵が描かれたキルフェボンの紙袋を顔の高さまで持ち上げた。しかし、今日は僕の誕生日ではない。全く違う日だ。寝起きで頭がぼんやりしている上に、彼女のことばの意味がまるっきり飲み込めない。
 「あ、七海さん、おはようございます。おめでとうございます。いらっしゃい。いただきます」
 何とか彼女のペースに合わせようと、思いつく限りの返事をしたが、回らない頭なので、文脈がおかしくなっている。
 「もう、お昼過ぎてますよ。なのにパジャマなんて。まだ、眠ってたんですかっ?」
 「いや、眠っていませんでしたよ。目は覚めて、寝てただけです」
 「同じことです。折角のお誕生日なんですから、早起きしてください」
 「あれこれと立て込んでて、それが片付いたのが明け方近くだったんです。それから眠って、それで、この時間に目が覚めているんですから、奇跡的です。ところで、さっきから気になっていたんですけど、『お誕生日』ってどういうことですか? 七海さん、僕の誕生日を知っているはずですよ。3月にプレゼントをくれたじゃないですか」
 「桜濱さんのお誕生日じゃありません。『九州男児のにくばなれ』のお誕生日ですよ。4歳ですよ。今日から5年目突入ですよ」
 「あー、そうでした…っけ? 何も用意していなかったなぁ」
 「そんなことだと思いました。去年もおととしもさきおととしも忘れてましたよね。だから、ケーキも買ってきましたし、今年はネタになりそうなものを持って来たんですよ。おじゃましますね。外は暑すぎます。はい、これ、どうぞ。」
 「『さきおととし』まで持ち出さなくても…。でも、ありがとうございます。どうぞ上がってください。エアコンは入っていますよ」
 桜濱は、キルフェボンの紙袋を受け取り、七海をリビングに案内した。「ちょっと待っててくださいね」と言い残して、保冷材ごとケーキの箱を冷蔵庫に入れてから、ポロシャツとジーンズに着替え、身繕いを済ませて、リビングに入った。すると、七海は、なにやら印刷されたA4用紙を広げていた。
 「あれ? これは、右横書きの写真じゃないですか。どうしたんですか? こんなにたくさん」
 「これがネタです。桜濱さんの記事を見てから、私も右横書きの写真を集めてたんです。今回は右横書きの第二弾を書いてください」
 七海は、半ば、強制のように言いつけた。
 「右横書きの第二弾ですか…。いいですね。では、僕も準備しましょう。パソコンを点けるので、あの本棚の『横書き登場』を取ってください」

 ●右横書きのおさらい

 桜濱は、自分が集めた右横書きの写真が入っているフォルダを開け、以前の右横書きの記事の印刷を始めた。
 「僕も結構集めましたよ。3年ぶりのお披露目ですね。では、新しい右横書き写真を見ていく前に、右横書きについて、少しおさらいをしておきましょう」
 そう言うと、A4の裏紙に、つらつらと書いていった。

―――――

 1.「右横書き」とは右から左に読み進める書字方向
 2.一行一字の縦書きとは区別される
 3.日本語の右横書きは衰退の傾向にあるが、(業務用)車両の右側面には頻繁に書かれる。
 4.「人間は、身の回りに自分の似姿を見つけださずにはいられない習性をも」つため、乗り物にも進行方向から頭と尾を見て取り、「乗り物の頭に文字の列の末尾がくれば、落ち着きの悪さを感じないわけにはいかない」(『横書き登場』)
 5.右横書き鑑賞では「別の存在の連想を導き出す」ことが重要であり。この連想は「車体右側面上右横書き」が元々の意味と音のつながりを緩め、あるいは切り、新たな意味と音の結びつきを求めていることから促されている。

―――――

 「こういったところでしょうか。前の記事では、この右横書きの定義を踏まえて、右横書きの分類と鑑賞したんですよね。それからしばらくしてからですね。七海さんが、ご連絡をくださったのは」
 「そうですね。デイリーポータルZで取り上げられていたのを読んで。興味深かったですし、名古屋なので、桜濱さんとコンタクトが取りやすいだろうなと思いました」
 七海は、言語学を専攻しているので、ことばを取り扱ったネタにはことに強い興味を持っているようだ。桜濱は、七海から初めてメールを受け取ってからは、定期的に学校の空いたセミナー室や、喫茶店などで、ことばに関する話題で時間を過ごすようになった。ところが、今日はいきなり家に押しかけてきたので、眠気と相俟って面食らった。
 「もうちょっと、目を覚ましたいんで、コーヒーを飲んでもいいですか? あ…、一緒にケーキも食べましょう!!」
 「ダメです。まだ全然、新しい右横書きを見ていないじゃないですか。あとで、休憩時間に食べましょう。それまでおあずけです。コーヒーだけ飲んでいてください」
 七海のペースに合わせるのは骨が折れるが、逸脱すると、彼女のご機嫌を損ね、厄介な目に遭うことは分かっている。フィルターに豆を多目に入れて、濃いのを作る。
 「ふー、やっと一息つきましたよ。では、見ましょうか」
 「では、基本形からいきましょう。これは定型的な右横書きだと思います」

右横書き01

 「うん、そうですね。街中でよく見かけるのが、この手の右横書きでしょうね。社会式株型・アド型複合、カナ種・漢字種複合の工業系車両。基本的、典型的です。街を走る車の8割くらい右横書きはこのタイプになるんじゃないかな…」
 「統計取ってないんですか? 今度はきちんと統計を取ってください。それが調査です」
 「あー…、はい、分かりましたよ」
 「やる気が無いですね。コーヒーもっと濃くしましょうか」
 「いや、いいです、いいです。統計も取らないと、調査になりませんよね」
 七海は「ようやく分かりましたか」と言って、にこにこ顔に戻った。

 ●何語?

 「前回の記事で右横書きの基本的な定義や、鑑賞の仕方は分かりました。それで、今回は、やや特殊なものを集めてきたんです。見てもらえますか」
 「僕も、大型トラックの右横書きなどは、もう、余程目を引かない限りは撮っていませんね。一ひねりあるものを探しています。では、片方が写真を出して、それに合いそうな写真をもう一人が出して、ゲームみたいにして見ていきましょうか」
 「それは白熱するでしょうね。いいですよ、負けませんよ。じゃ、私からいいですか。まずは小手調べで、こんなのはどうでしょう」

右横書き02

 「やっぱり、仮名が多いほうが見ごたえがありますね。発音できなくはないのですが、実際に読んでみると、違和感がたっぷりです。それに、長いカタカナ用語は、右横書きにすると一見しただけでは何の車なのか分からなくなってしまいますね。電話番号は左横書きか…、294で「フクシ」。中日のお膝元だからかな?」
 「関係ないです。どうですかっ。なかなか良いでしょう」
 七海は自分用に淹れた薄いコーヒーをすすった。
 「それじゃ、僕はこれを出しましょうか」

右横書き03

 「これも、長いカタカナ用語なので、原型が掴みにくくなってますね。それに、このことばの、なんとも言いがたい、いや、思わず言いたくなるテンポの良さ。なんなんですか、これは?」
 「何もかにもないですよ、普通のサービス業の自動車の右側面です。『サービス』に他のことばが付いたものだから、ちょっとおかしなテンポになっているんです。外国人ボクサーに居そうな右横書きですね。このように、『何かに似てくる』というのが、右横書きの良いところなんですよ。だから止められない」
 桜濱はぬるくなったコーヒーを飲み干して、ようやく、頭が回り始めた。
 「どうです、この勝負は? 僕が勝ちですよね。だからケーキを…」
 「はい、桜濱さんの勝ちは認めましょう。私のはもう一息でした。でも、まだ一回戦ですよ。なのに、ケーキ、ケーキって…。もうそろそろ、落ち着いてくださいよ。」
 七海のことばは、最後はため息混じりになった。だんだんと呆れてきている可能性がある。彼女の言うとおり、そろそろ真面目に右横書きに向かい合わないと、鉄槌が下りそうだ。
 「撮った写真を見ると、『スビーサ』ものが案外と多いんですよ。七海さんの撮った中にもありませんか?」
 「あ、そうなんですか。ちょっと見てみますね…。えーと。あ、本当だ、ありました、ありました。こういうのですね」

右横書き04

右横書き05

 「この『スビーサンーリグ』は良いですねー。やっぱり仮名が多いものが見応えがあるな。これは『スビ』『サン』『リグ』をハイフンで結んでいるように見えるというのも得点が高いですね」
 「なるほど。確かにハイフンで結んでいるようにも見えます。どちらにしても、発音しにくいですよね」
 「逆読みしたら、まったく別の言語のようになるのが、面白いですね。これとか、これとか、こんなのとか…」

右横書き06

右横書き07

右横書き08

 「『マツムラ』も『ムライズ』も、左横書きにすると普通の日本語なんですけどね。右横書きにすると、途端にエキセントリックな雰囲気を撒き散らすんです」
 「『グンリトボンイサ』は私の自信作だったんですよ。こっちを出したほうが良かったかなぁ。もともとの『サインボトル』というのが、どういうのか分からないんですが」
 「ちょっと、検索してみましょう。…どうやら、サインの入ったお酒のビンのようですね」
 「それを、事業にしているって、どういうことなんでしょう?」
 「さぁ…、どういうことなんでしょう?」

 ●別の意味になる

 二人は首を傾げていたが、思いついたように、七海は言った。
 「右横書きにはあまり関係無い、と、しませんか」
 「それがいいような気がしますね。じゃ、第二回戦にしましょう。僕はこれを出します」

右横書き09

 「『スビーサ』じゃないですか。まだ、残していたんですか」
 「『りぼしお』の方を見てください。『りぼしお』ですよ。『リボ払い』に『塩』ですよ。素晴らしい」
 桜濱は一人悦に入っている。
 「ちょっと、苦しいんじゃないですかー。でも、『おしぼり』が全く別の意味になっているところがミソなんですね。それなら、私はこれにしますっ」

右横書き10

右横書き11

 「『疎い』…。なるほど。良いですね。しかも、漢字かな交じり文章、カタカナ、ひらがなの混合と来ましたか。完成度が高い右横書きだと思います。これは、七海さんの勝ちとしましょう」
 「なんですか。その回りくどい言い方は。素直に負けを認めてください」
 七海は眉をひそめた。桜濱は慌てて、言い訳をする。
 「い、いや、負けました。僕の負けです。ちゃんと、左右両面の写真を撮っているのもポイントが高いですよ」
 「右横書きを観察していると、右側面しか撮らなくなりますから。こうして、見比べるのも必要だな、と思ったんですよ」
 「うん、そうなんですよね。どうしても、右側しか撮らなくなります。比較するには、こうしなくちゃいけないんでしょうね」
 七海はしてやったり、という表情で、にこにこしている。
 「ふふー。ちゃんと研究しているんですよ。卒論用にはこういうのも必要だと思ったんです」
 「おや。七海さん、右横書きを卒論にするんですか?」
 「材料の一つとして使おうかな、と思ってるんです。駄目しょうか?」
 「僕としては、大歓迎ですよ。なかなか右横書きの資料ってありませんからね。いろいろ調べて、僕にも教えてください」
 「楽なところを持っていこうとしますね。ずるいですよ。桜濱さんもちゃんと右横書きを集めてください」
 「分かってますよ。僕ももちろん調べます。ところで、いい区切りなので、ここらへんで、一休みしませんか? ケーキを…」
 「まだです。もう少し見てからです。他にも、別の意味になっている右横書きがあるんですから。桜濱さんも出してください」
 「ふー…、そうですか。それなら、これなんてどうですか」

右横書き12

 「わー、これは見事に別の意味になっていますね。『きたのさと』が『土佐の滝』なんて。高知県の滝ってことですよね」
 「そういうことになりますね。実際にこの車で高知県まで行ってみたいですね。そして、バックを滝にして写真を撮ったら、それはそれは綺麗でしょう…」
 桜濱はその場面を想像しているのか、遠い目をしている。
 「ちょっと、桜濱さんっ。一人で、旅立たないでくださいっ」
 「あ、すみません。ほらほら、意味が変わるのでしたら、こんなのもありますよ。インパクトはあまりありませんが」

右横書き13

 「『昼間』。シンプルですね。でも、ちゃんと正しいことばになってますね。…思ったんですが、このタイプの右横書きって、短いことばに限られてくるんじゃないですか?」
 「僕もそうだと思います。単語レベルの右横書きじゃないと難しいでしょう。さっきの『きたのさと』は、二つの文節で構成されているから面白くなっていると思います。複数の文節で構成されていたり、文章になっている右横書きは、インパクトが大きくなりやすいようです」
 「こんなのですか?」
 七海は、数枚の写真を取り出した。

右横書き14

右横書き15

右横書き16

 「そうです、そうです。最後のはいいですねー。七海さん、これはお手柄ですよ。内容も名古屋っぽい」
 「原型をとどめていませんよね。正しく読もうと思えば読めなくもないですが、『おに嫁』みたいにも見えますし。文章が文字レベルまでバラバラに分解されているようです」
 「一種のゲシュタルト崩壊と見ることができるでしょう。長文になればなるほど可読性が低くなるのが一般的な右横書き文ですよね。でも、最初の『近藤産興』さんの右横書き、「何んでも貸します」は名古屋ではテレビCMなどでよく知られたフレーズなので、右横書きにしても可読性がそれほど落ちないんです。左横書き、縦書き、もしくは音声で『刷り込み』があらかじめ為されている文は、右横書きにしても、ぱっ、と見て分かるんですよ。これも右横書きが無くならない一つの要因だと思います」
 「キャッチフレーズが右横書きになってもすんなりと読めるようになるということは、企業にとってある種のステータスにもなるんですね」
 「ちょっと大げさな気もしますが、そう言えるでしょう。その点、こっちの『ワカサマのスイ』は『若様の粋』というかっこいいことばがまず連想されますね。右横書きとしては面白いんです。でも、こう言っては悪いと思いますが、元があまり馴染みが無いので、宣伝効果は若干落ちる、と言わざるを得ません」
 「長めの右横書きは、『頭から読める居心地の良さ』を取るか、『可読性』を取るか迷いどころになっちゃいますね」
 「右横書き観察者からしたら、可読性を捨てても右横書きにしてほしいところなんですが」
 「そんな、道楽ばかり言ってちゃいけません。もっとしっかりしてください」
 「保護者みたいに言わないでくださいよ。ささやかな趣味なんですから。では、休憩に入る前の最後の一番といきましょう。可読性のことが出たので、『把握し辛い』右横書きをテーマとします。七海さん、分かりにくい右横書きを出してください。」
 「えーと…、これとか、これは分かりにくいと思います。どうでしょうか」

右横書き17

右横書き18

 「どちらも漢字種ですね。文字数も多い。確かに、漢字は仮名やアルファベットに比べて画数が多いので、集まると黒っぽくなって、読みにくくなる傾向があります。一枚目のは、フォントも入り混じっているので、なおさら読みにくくなってますね。これはテーマに合っています。でも、問題は二枚目の写真です。これは右横書きじゃないですよ」
 「えっ? だって『屋古名』じゃないですか」
 「その前を見てください。地名が全部縦書きですよね。だからこの『屋古名』は『一行一字の縦書き』です」
 「あー、なるほど。そうですね。うっかりしてました」
 「基本事項ですよ。でも、今時、一行一字の縦書きなんて。こっちの方が珍しい。レア物です。コレクションにいただきます」
 「駄目出しをしておきながら、横取りするなんてずるいです。桜濱さんは、これで、ケーキの選択権が無くなりました」
 七海は、すっ、と立ち上がり、キッチンにケーキを取りに行った。
 「ごめんなさいー!」


 後編につづく


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2008.07.10

選る取る

 より‐どり【選り取り】
 よりとること。多数の物の中から好きなものを自由に選ぶこと。えりどり。
 よりどり‐みどり【選り取り見取り】
 好き勝手に選んで取ること。
 (『広辞苑』第五版)

よりどり100円
 つまりは希望小売価格

 こちらは「100円均一商品販売店」です。
 最初に書いた語釈から考えますと、間違ってはいないのです。この中から選んで買ってくださいということなのです。
 しかし、普通は「選り取り」と言えば、3個が多いですね。なので「選り取り」=「お得感」となるのです。
 この場合、「お得感」を出そうとして、失敗しているような気がします。素直に「1つ105円(税込み)」と丁寧に書いたほうが好感が持てます。
 このポップを書くときは、筆記者氏も暴挙に出ていると思われたのでしょう。緊張で、「1」の線が波打っています。下の棒が長すぎて安定感がありすぎです。

 皆様、「よりどり」は決して2個以上とは限りません。お買い物の際はご注意ください。

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2008.07.07

世界平和は「NICE PEACE」から始まる

 今日から、洞爺湖サミットが始まります。主な議題は、環境とアフリカの問題です。しかし、これらの問題以外についても活発な議論が為されることになると思います。各国の秘めたる思惑はあるのでしょうが、全体的には、世界中の人々が、安心して暮らせる世界を作るような話し合いになるはずです。そうなってほしいです。
 「安心して暮らせる世界」を一言で言うとしたら「平和」で表わされると思います。自分を大切にして、他者を思いやる心を持てば、自ずからその方向へと流れていくでしょう。
 そのためには何をすればよいのでしょうか?
 難しい問題です。太古の昔より、人々は諍いを起こしてきました。諍いに勝つために、相手の上をいく技術を編み出そうと試みた結果、新発見、新発明が生み出され、それが、人々の暮らしを向上させることになった例もあります。
 しかし、技術向上のために争いを肯定することはできないと思います。平和な世の中を構築するために新しい技術を生み出すこともできるはずです。
 肝心なことは、「心持ち」なのだと思います。「是が非でも勝とう」という闘争本能に準じて行動していたら、平和は遠いものになってしまうはずです。そういう考え方をまずは手放して、純粋に、穏やかな心を人々と分け合うように努めていれば、自然と、平和への道筋が浮かび上がることでしょう。

 名古屋は、世界平和を目指す一人の人物を生み出しました。上記のような思いを持っていらっしゃると思います。たぶん。

 その人の名前は、「安穂野香」(あんほのか)。

 二十年程前から、名古屋の中心地、中区・栄のセントラルパークを中心に音楽活動をされていらっしゃる歌手です。この方は自らが作詞作曲した歌を披露するシンガーソングライターです。その歌は、いずれも穏やかな心で生み出されたことが分かる素敵な歌詞とメロディーとなっています。
 Wikipediaによれば、「安穂野香」の芸名も、「『あ』から『ん』まで(五十音の最初から最後まで)を『ほのか』な雰囲気で歌っていきたい」という思いから付けられているそうです。まさに己の身を以って、穏やかな世界を志向していると言えるでしょう。

 先々月末に、安穂野香さんのPVをまとめたDVDがリリースされました。
 様々なジャンルのパフォーマーを紹介するテレビ番組『あらびき団』(TBS系)に、安穂野香さんが出演され、その反響の大きさから、「あらびき団 Presents」という形で世に出ることになったようです。
 私も、安穂野香さんのパフォーマンスの素晴らしさに感銘を受けた一人です。発売後、すぐにHMVさんに出向き、入手いたしました。これがそのDVDです。

安穂野香DVD・ジャケット
 ジャケ写です。隠していますが、一部分出ています

 安穂野香さん。通称「セーラー服おじさん」のファーストDVD。何も間違っていません。
 本作には、
 『NICE PEACE』
 『Pigeon Dance』
 『キュートな☆と・き・め・き』
 『たんぽぽのマンボ』
 『ドキドキしてるの』
 『ハイキング・サンバ』(新曲)
が収録されています。では、中を見てみましょう。

安穂野香DVD・歌詞カード
 歌詞カードです。白抜きです

 まだ、秘密は守られています。
 躊躇いは要りません。ディスクをドライブにインしてください。

 …鑑賞中…

 …『あらびき団』で、免疫が付いていたと思っていたのですが、私の思考の遥か上を行く出来上がりになっています。

 こんなに、すごいミュージックビデオが、今までに存在したであろうか!!

 過去には、「格好良いPV」というものはありました。「美しいPV」というのもありました。
 しかし、穂野香さんのこのPVは、そのような尺度で計れるものではありません。観た人を、「非日常のさらに奥」へと誘ってくれるのです。
 約16分間。一回も笑うことがなかったならば、その方は素晴らしいです。
 このDVDには、特典映像に、『あらびき団』MCの東野幸治さんと藤井隆さんによるPV解説が入っています。本編で一回も笑わなかった方、このPV解説でも笑わなかったら、無我の境地に至っていると思います。もう既に悟りを開いていると思います。もう既に平和の中に身を置いていらっしゃるはずです。

 残念ながら、悟りを開けずに、現世に執着を持っていらっしゃる方。いいのです。お笑いください。このDVDをご覧になって、思いっきり笑ってください。
 わずか16分の映像なのですが、3週間分の笑い(個人的見積り)が詰まっています。3週間経ったら、また再生してください。次の3週間がより笑みに満ちたものになるでしょう。

 このDVDは、日本中、いや、世界中の方に観ていただきたいです。なぜなら、ここにこそ、平和のヒントが秘められている気がしてならないのです。
 平和の足がかりは、このような笑いの中にこそあるのだと思います。

 アーティストのPV集DVDなのに1260円(タックスイン)。6曲も入っているのに1260円。特典映像まで付いているのに1260円。なんというコストパフォーマンスの良さなのでしょう。いいのです。儲けなど無くてもいいのです。世界平和を目指して作られたのですから。

 このPV集は、愛に満ちた穂野香さんの力と、穂野香さんがインスパイアされた荘厳なる山の力と、なんらかの意志が働いた編集の力によって成り立っています。
 皆さん、ひたすらに観れば良いと思います。大人も、子どもも、男性も、女性も、サラリーマンさんも、学生さんも、官僚さんも、政治家さんも。皆さん、ひたすらに観れば良いのです。それが世界平和の第一歩へとつながるっていると強く思っています。

 サミットでは、会談の前に、このDVDを流していただきたいです。

 さあ、皆様、声を合わせて、

 NICE PEACE!!

 普段、本ブログでは特定の商品をご紹介することはないのですが、あまりに感銘を受けましたので、今回、取り上げることにいたしました。
 リンクでAmazon.co.jp内に飛べるようにしておりますが、ご購入を希望の方は、このリンクを利用しなくても全く構いません。もちろんクリックしていただければ、アフェリエイトで私にポイントは入るのですが、それが目的ではないからです。ただただ、「世界平和」のためです。数日間、ランチのランクを少し下げて、このDVDの購入資金に当てていただければと思います。

安穂野香DVD・おまけステッカー
 おまけのステッカーです。全貌が表れています。


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