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2007.09.10

やせたければ、これを食べれば良かったはずが

 今は昔のお話だよ。えーと、何て名前だったかなぁ。よくある名前っぽいような気がしたんだけど、思い出せないや。その何とかって人は、三条の中納言さまといって、三条の大臣のお子さまでいらっしゃったんだ。
 その中納言様、頭が良くってねぇ。唐の国のこともこの国の事も、いろいろとよく知っていたし、思慮深くて、肝が据わっててね、「押し」が強かったんだって。
 それに、笙の笛を吹くのが上手いっていうおまけつきさ。そうそう、お金も持っていたんで、家は栄えて、豊かだったんだ。「何高」だろうね。

 ただね…、背が高くって、とんでもなく太っていらっしゃったんだよ。あまりに太っていらっしゃっリすぎて、圧しつけられるくらい苦しかったんだって。それくらい太っていらっしゃりすぎてたんだよ。
 そういうことだから、有名なお医者さんのお家、和気さんのところから中納言さまは人を呼び寄せていいつけたんだ。
「こんなに無茶苦茶太ってしまった。なんとかしてくれないものか。立ったり座ったりするだけで、体が重すぎて、酷く苦しいのだ」
と仰られたので、和気さんは
「冬は湯漬け、夏は水漬けで、食事を召し上げあられるのがよろしかろうかと思います」
ごはんにお湯とか、水をかけて、かさを増して食べれば、その分おなかいっぱいになるからね。よく考えたもんだ。

 この時、六月の頃だったんで、中納言さまは、和気さんを
「それならば、しばらく私の家にいるがよい。その『水めし』を食べてみせるからな」
と仰って、和気さんは、そのまま中納言のお言葉通り、お宅にいたんだって。
 中納言は、家来を呼び寄せて、申し付けたんだよ。

 「いつも食べるようにして『水めし』を持ってきなさい」

 家来はすっと立ち去って、やや時をおいてから、お膳を一つ持ってきて、中納言の前にこれまたすっと置いたんだよ。そのお膳には、箸だけが置かれていたんだ。次にきたのが、それなりの大きさのお皿に白瓜のお漬物、これが三寸くらいので切らないまま十個ほど入ってたんだって。おなじようなお皿に、大きな鮎の漬物の尾頭付きが、これまた切らずに三十匹くらい盛ってたんだって。最後に、大きなお椀が出てきて、お膳に置いたかと思えば、もう一人がでっかい銀の鍋にこれまた大きな銀のさじを突き立てて、たいそう重そうに持ってきたんだって。

 ここまできたところで、中納言さまは、大きなお椀を手に持って、家来に、「これに盛りなさい」とおっしゃんだ。家来は、さも慣れた感じで、そのお椀に、大きな銀のさじで、ごはんをすくいあげて、山盛りに盛って、そのごはんの山の脇にちょろりんと、水を少しだけ入れたんだって。
 そしたら、はじまり、はじまりー。中納言さまはお膳を引き寄せて、おわんを持ち上げると、大きいはずのお椀がそれほど大きくは見えないくらい。余程だね。それで、まず、瓜の漬物を三つ、またたく間に食べて、次に鮎の漬物を、一匹を二口。それで五、六匹ほど、何の気もなしに平らげたんだって。
 そんでもって、例の山盛りの「水めし」だよ。二回くらい箸を動かしたかと思うと、ごはんが無くなってた。そうしたら中納言様「盛りなさい」。お椀を家来に差し出しなさるんだ。

 この有様を見て、和気さんは
「水漬けを召し上がり続けても、このように召し上がるんじゃ、やせるどころか、水漬けをさらさらと勢いよくお口にされるから、なおさら太られるだけだわい…。お手上げだ」
と、言って逃げるように帰る様子は、物笑いの種になったんだって。

 そして、この中納言様、ますます太り続けて、お相撲さんのようになったと語り継がれているよ。

――――――――――

 『今昔物語集』巻28・第23話「三条の中納言、水飯を食う語」の現代語訳です。
 夏と体重には強い結びつきがありますね。最近は特にそのようなことを言う風潮があるように思われます。夏前の雑誌(どちらかというと女性向け)には、「夏に向けて痩せよ」という旨の言葉で題された特集記事がたくさん見かけられました。夏は肌が露出する割合が高いので、痩せたいんでしょう。分かります。分かります
「痩せ=良い」は平安の昔はそうじゃなかった、とするのは多分正解。絵巻物なんかを見ていると、高貴な人は皆さんふっくらと描かれていますからね。
 それも度を過ぎると、痩せなければならないというのが、この説話から分かります。なにせ最後は「お相撲さん(原文だと『相撲人(すまいびと)』)」ですからね。現代のお相撲さんでも日常生活でいろいろと困ることあるというのをテレビ番組などで見聞きしますから、昔の生活では今以上に困っていただろうなというのは、想像が付きます。
 興味深いのが、中納言が太っていたと書き始めるくだりで、原文では、
「長高クシテ、大ニ太テナム有ケレバ、太リノ責テ苦シキマデ肥タリケレバ」
となっているのです。太っているというのがマイナス面として書かれているのと同列で、「背が高い」ことが書かれているのです。とにかく大きな人は好まれなかったようですね。
 そろそろ、暑さが和らいできました。夏バテだと痩せますね。あんまり健康的ではないですが、私は夏バテで結構持っていかれました。夏前にやや体重オーバーだったので、ちょうど良かったのですが、まだ食欲が戻りきれていません。喫茶マウンテンに一度登ったらおなかいっぱいになりますから。


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コメント

>KATOさん
私の場合、海外に行く機会が無いので、英語が不自由でもあんまり困らないのでしょうね。PCを使っていて、日本語環境の無いソフトがあるので、それのREADME.TXTなどの読解に手間取るくらいでしょうか。
近くのパン屋さんにフランス人の職人さんがいらっしゃって、その方とお話しをする時は、フランス語、日本語、英語のちゃんぽんでどうにかこうにかコミュニケーションをとっています。もっとそのお店に通えばフランス語が上手くなるのでしょうが、ちょっと家から離れているうえに、駐車禁止地域なのが難です。
Billさんは、母語がフランス語ってことに誇りを持たれていらっしゃるのでしょうね。「合わせてるんだ」って(笑)

投稿: 桜濱 | 2007.09.22 18:03

私の場合、今回までは英語は取りあえず外国の人とcommunicationを取るtoolでしたので、韓国の方と英語で会話、日本で、とか、仏蘭西の人と英語で会話、パリで、インドの方と英語で会話、シンガポールで、とか、どこにいても役に立ちます(笑)。以前勤めていた研究所は公用語が英語でしたので、日本、カナダ、ミャンマー、中国、アメリカの人が英語で会議してました。時々わからない部分はこっそり漢字で聞きあったりして(笑)。
カナダの方に日本在住10年なのだから、When in Rome, do as Romans' doでしょうって言ったら、僕のmother tongueはFrenchだ、英語は君らに合わせてるんだって怒ってました。なのに私の論文、修正してもらってごめんね、Billって感じでした(笑)。

投稿: KATO | 2007.09.21 17:39

>KATOさん
お高い食事をしなくても、NYはさぞかし楽しめると思います。ニンテンドーDSのCMで松嶋菜々子さんが、ハンバーガーショップで英語ができずに全部「Yes」で答えて、どでかくて、具材がたっぷりのハンバーガーがでてくるものがありますが、あれがアメリカンサイズなんでしょうね。誇張はあるにしても。あれだけの大きさでも、お手頃価格なのでしょう。…若干、アメリカに対して誤解を持っている書き方をしているような気がしますが、私の無知だとして、お許しください。

時差も大変ですね。私が九州に帰省したときでさえ、日没の時間の違いに戸惑うのですから、アメリカだとなおさらですね。私の場合も時差ボケというのでしょうか。

英語と日本語のちゃんぽんで会話っていうのもオシャレ。私も外国語ができたらなぁ。英語、フランス語は読めはしても会話ができないのが痛いです。日本語はどうにかできます。

投稿: 桜濱 | 2007.09.18 18:07

楽しかったですよ~。お高いお食事をする以外にNYでできることは殆ど全て体験してきました!
英語しか話せないのに、実は英語圏の国に初上陸で、帰国後は初体験の時差で死にそうでしたが。今まで日本から西方向にしか移動したことがなくて、今回初めて東に行って帰ったら、大変な目に合いました(笑)。
英語についてはこちらのsiteでリハビリさせて頂いたり、街中で困ってる外人さんを何度か助けたのが役立ちました。
でも向こうにいる間、彼とのメールは日本語と英語が半々だったのですが、私が帰国しても話し難い内容を英語で送りつけてくるのは、如何なものかと思います(笑)。

投稿: KATO | 2007.09.14 14:32

>KATOさん
何にせよ、トラブルが解決して良かったです。これからも、コメントお待ちしております。ブログ職人にとっては、皆様からのコメントやトラックバックが活力源ですから。やる気がぜんぜん変わってきますもの。

 「美人」の基準って何なんでしょうね? 私も良く分かりません。時代が関係するのか、場所が関係するのか。ひっくるめて「風土」が関係するのか。私も、もう少し昔の時代に生まれたかったです(^^;

 今年の夏は、酷かったですねぇ。まさに酷暑。日本での観測記録が更新されるほどでしたから。しっかりと体力を持っていかれました。「水漬け」も食べられないくらい夏バテでございました。そして今、リバウンドの傾向が…(泣)
 ニューヨークで避暑ですかぁ。素敵ですねーっ! 私は、海外に行けるほどの余裕がないので、想像に羽根を付けて飛ばすくらいしかできません。痩せなくてもいいから、ニューヨークに行ってみたいですよー。

投稿: 桜濱 | 2007.09.14 01:56

何度かコメント入れさせていただこうとして、rejectが続いてどうしようかと思っていたのですが、わかりました!systemの問題ではなくて私の入力が間違っていたんだ。system troubleだと思っていたのですが、管理人さんにご連絡する手段もないし、もうコメントできないなあと淋しがっておりました(笑)。
平安美人(というか明治以前)の基準に色黒以外はばっちりあてはまる私は生まれる時代を間違えた感じですが、今年の夏は暑かったですね。酷暑の時期をNYに避暑していたので、意外に痩せずにすんでしまってやや残念です(笑)。

投稿: KATO | 2007.09.12 12:17

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