傀儡氏登場
―あやつり人形を安く作ろう・なつやすみの工作教室―
今年は、9月の始まりと土日が重なって、夏休みが延びたような気になりますね。
そのおまけの夏休みは、いかがお過ごしでしょうか。
新学期の準備を万端整える?
遊び足りないので、まだまだ遊ぶ?
それとも…、
終わっていない宿題を済ませる!?
私は一番最後のタイプでした。8月31日がそれはもう怖ろしくて、怖ろしくて。結局、宿題を済ませないまま登校日を向えたこともありました。学校が始まって、先生は、「遅れてもいいから、ちゃんと出しなさいね」とお目こぼしを(今思えば…)下さったにもかかわらず、その教科(英語)が苦手で苦手でしょうがなかったために、提出せずに終わらせてしまいました。その2学期の成績は、中の下。赤点ではありませんでした。先生はお優しくもお目こぼしを、またもや下さったのです。
今、私が学校の先生だったら、どうでしょう…?
せっかくの夏休みなんだからと、ちょっとくらい、なまけた宿題でも大目に見ると思います。なんと言っても、自分には「前科」がありますから。
ここ数日のニュースで、「宿題代行業」なる商売が取り上げられておりました。なんでも、夏休みの宿題を、優秀な大学生などが引き受けるというのです。算数ドリルから、読書感想文、そして図画工作。図画工作に至っては、なんと相場は、
ゴマンエン!!
思わずカタカナで書きたくなる5万円です。
なにもそこまで完璧に仕上げようとしなくてもいいのではないでしょうか。先生方も分かっていらっしゃるはずです。夏休みの宿題が出来る子と出来ない子がいるということを。そして、出来ない子を悪く思うことはないはずです。自分の子供時代を振り返れば、それは分かると思うのです。
そして、子供たちも、出来る範囲でやればいいのです。私はある年の夏休みの最終日、図画工作の宿題で、慌てて「箱」を作りました。なんの衒いの無い、ただの「箱」。蓋も無い「箱」。家の倉庫にあった木材を切って、やっぱり倉庫にあった、釘とかなづちで、トンテンカン。寸法なんて図りゃしない。おかげで、箱の下には隙間がチラリ。
これじゃ、あんまりに酷いと思った私は、頼みの綱の倉庫を漁って、黄色いペンキを見つけ出し、曲がった箱にぺたぺたり。
…取り繕っても取り繕えない事があることを、この工作で学びました。図画工作は単なるものつくりでは無いのです。人生経験なのです!!
おっと、済みません。ついつい、熱くなってしまいました。それもこれも5万円のせいです。
夏休みのこそ、工作にぴったりの時期じゃありませんか。保護者同伴でホームセンターなどに行って、材料を買ってきて、試行錯誤しながら作るのは、実に微笑ましく、楽しい風景です。
そこで、私も、夏休みの工作体験がしたくなりました。おとなの自由工作です。
今回、私が作るものは「あやつり人形」。これには理由がございます。数年前、私は数万円(図画工作代行くらいのお値段)をはたいて、あやつり人形を購入いたしました。それが、彼。
マリオネットの「山猫」君
東京・新宿にある、劇人形専門店「パペットハウス」さんで求めたマリオネット(糸あやつり人形)で、宮沢賢治の作品の登場猫物をモチーフにした「山猫」という、劇人形作家「HaraTie」さんが手がけた作品です。私は「山猫」をもじって、「シャモン」と名付けました。フランス語で"chat(シャ)=猫"、"mont(モン)=山"からです。
シャモンは細かい飾りまで良くできている上に、私のような、たまにしかあやつらない初級者でも、それなりに綺麗に動くマリオネットなのです。
それでは、つたないながらも、実際にシャモン君を操っている様子をお見せいたします。下の画面をクリックして下さい。
職人さんの技が初級者を助けてくれます
さて、このシャモン君、どのようにあやつっているかといいますと、手足に付けられた糸の先には、コントローラーがあるのです。それがこれ。
正面
横から
糸の数が、結構多くて(それでも初心者向けで、少ないそうです)、頭がこんがらがりそうになりますが、なんとか頭を解きほぐして、構造を理解します。
要点を書き出しますと、
1.羽根のようになっているシーソーのように動く部分と、足を、糸でつなげると、足踏み動作をする。
2.頭を固定させておかないと「ぶらーん」となる。
3.腰を固定させる糸をコントローラーの後ろの棒に結わえ付けておくと、座る動作、おじぎをする動作ができる。
4.両手の糸はつながっている。一方を引っぱると、一方が上がる。手の糸をコントローラーに引っ掛けて、動かすと、手を振るなどの動作ができる。
と、いったところでしょうか。
この要点を頭に入れて、あやつり人形の手作りに取り掛かってみましょう。
…と、その前に、いきなり、本職の作家さんのように作るのは無理ですし、お金もそんなに出せないので、一考。
まず、材料ですが、できるだけ身の回りにあるもので作ります。そして、あやつり人形の動きの基本「歩く」ができることを目指して作るようにします。
まず、コントローラーですが、「針金ハンガー」を使うことにしました。
皮膜は剥がしておいたほうが作業しやすいです
クリーニング店でいただけるアレですね。あの針金をこねくり回して、上の写真のコントローラーのように作ったものが、
糸を通すとこうなります
ぐっちゃんぐっちゃんのようですが、頭を一番下のループは、頭を固定する部分、横に針金を通しているのが、足を動かす部分。ここは2本の針金のループを絡ませて、シーソーのように動くようにしました。そして、てっぺんのループが手を動かす糸を引っ掛ける部分です。歩くだけじゃさびしいので、手も動かせるようにしてみました。
この、針金ハンガーを、ペンチ・ラジオペンチ・ニッパーでこねくり回す作業は、結構、力が要ります。ですので、小さいお子様には難儀だと思いますので、大人の方がお手伝いをしてあげてください。これが夏休みの工作の醍醐味です。
次は、本体部分です。本体を一から作るのは容易ではありません。なので、画材店さんなどに置いている、スケッチなどに使う、小型の木製マネキンを利用することにしました。
わーい、出番だー。
彼をまず、バラバラにします。
こら待て! 逃げるな!
木製マネキンは、ネジとバネでポーズが固定されるようになっていますが、それをドライバーや、ペンチ、ニッパーなどで、解体していきます。そして、この惨状…。
…彼は新しく生まれ変わるのです。ただバラバラになったわけではありません。
まずは、コントローラーとの接続が必要な部分に「ひーとん」を取り付けます。
今回は背中と腰のひーとんは必要ないですが、拡張性を考えて付けておきます
ふともも部分には穴を開けて、股関節と、糸で固定。糸は普通の縫い糸でもいけますが、それだと絡まりやすいので、硬くて、太めの糸が良いでしょう。
キリを使うので、小さいお子様はここもご注意!
関節の固定はこの要領で
首の内側と、腰の内側にひーとんを取り付けて、糸を通した後、元通りに組み立てて、糸を縛って固定します。その際、足も膝関節にくくりつけておきましょう。
だんだん形になってきた
同様に、肩から腕も糸で通しますが、肩と胴体の接続は接着剤の力を借ります。
木工用よりも、速乾性の強力なヤツで
これで、人形本体は一通り完成です。あとは、糸とコントローラーを接続するだけです。「だけです」とかきましたが、これがなかなか難しい。上手い具合に長さが合わせられないのです。初めは、コントローラーの下のループ部分に糸を通して頭の固定をすると後の作業が楽になります。
長さの調節が難しい
問題は足です。シーソー状の針金部分に固定するわけですが、仮留めして、何度もコントローラーの位置と向きを確認しながらでないと、きちんと立ってくれません。こればかりは、繰り返してくださいとしか言いようがございません。
手は右手と左手を、一本の糸でつなげるのですが、間にコントローラーをかませるので、かなり余裕を持たせた長さにしておいてください。この手の糸をコントローラーの一番上の輪に通せば、ひとまず完成です。
これが、立ち姿。
おっ、なかなか良い感じで立ってくれているぞ
では、早速、動かしてみましょう。下の画面をクリックしてください。
…
……
………暗黒舞踏のようになってしまいました。
もっと軽やかに、トコトコと動くのを期待していたのですが…。
いやいや、これこそ、夏休みの工作の醍醐味です。ちゃんとしすぎていないところが、いいのです。
5万円で工作を買いますか? 一生懸命に作った思い出を胸に刻みますか?
私は、このあやつり人形作りが楽しくてたまりませんでした。時間を忘れて工作に取り組みました。
そうそう、出来上がったあやつり人形にも名前を付けるのを忘れちゃいけませんね。もちろん、この記事のタイトル通り。
「傀儡氏」
今回は「傀儡氏登場」ですから、今後、いつ、活躍の場が出てくるかわかりませんよ。乞う、ご期待!
あ、江戸川乱歩の『お勢登場』って、この作品以外に「お勢」は登場したかしらん? …まぁ、いいか。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
>枯葉屋征平さん
コメントをいただきまして、ありがとうございます。
このような工作は、上手く完成するともちろん嬉しいですが、失敗を重ねつつ、徐々に良いものができあがっていくのも、また楽しいですね。
操り人形は、やや不格好なくらいに、重心を下に置いた方が動かしやすいようです。腰の部分だけ密度の高い素材を用いるのが良いのかな、と思っております。
コントローラーは、上の記事の形態でも、まだ複雑に思われます。最初は、木の棒を十字に組み合わせくらいにして、後からコントローラーの付け替えをしてもいいのかもしれません。
完成した傀儡氏で、お孫さんとご一緒に、楽しく、遊ばれることを、願っております。
投稿: 桜濱 | 2014.04.29 11:34
孫6才女に 作り始めました 最初は牛乳容器で作ったのですが 軽すぎて失敗でした 今作って居るのが 4機目です ブログにアップしていきます
投稿: 枯葉屋征平 | 2014.04.26 18:17
>masamichiさん
ようこそ、いらっしゃいませ。おぉ、あやつり人形自作のお仲間ですね。しかも、ご幼少の砌に作成なさったとは。さぞかし、お大変でしたでしょう・・・、と思いましたら、やはりお大変だったようですね。
夜見世のおもちゃはどれも魅力的に見えますね。あのお祭りの空間が一種の非現実性を醸しているからでしょう。わたしも夜見世のおもちゃがやたら欲しくなって、親に買ってもらったことがありました。でも、一夜経つと変に色褪せたものになるのは、当然なような、不思議なような。
マリオネットの関節は糸や紐、ネジになるでしょうが、本体が糸というのは、なかなか本当に果敢な(^^;
>なにも動かさないときは辛うじて人型に見えましたが動き出したらただ浮遊するボールに筒・・・。
昔、ファミコンの格闘ゲームで頭と手先、足先しかないキャラが登場するものがありましたが、それを思い出しました。ゲームでは、不思議にきちんと人間にみえましたが、masamichiさんのマリオネットさんはそうにはならなかったようですね。今回のマリオネットで私も苦心しただけに、その当時の落胆具合が伝わってきました。
やはり元が人形の方が作りやすいですね。二号機が60cmくらいあるとのことですが、私がシャモンを購入した「パペットハウス」さんでは、それくらいの大きさのマリオネットも扱っていました。今回の私作のマリオネットがむしろ小さすぎるくらいです。本格的なマリオネットはひざ丈くらいが一般的だったような覚えがあります。でも大人サイズですね。
親に夏休みの工作を作ってもらった覚えは私もあります。ドールハウスというかミニハウスというか箱庭というか、バルサ材で作った15cmくらいの家と庭でした。完全に職人技でした。明らかに子供だけでは無理です。でも先生には怒られませんでした。先生には「夏休みの宿題ってそういうものだね」という暗黙の了解があったようです。助かりました。
私の今回の「傀儡氏」ははっきり言って失敗作です。あんな暗黒舞踊になったのですから。masamichiさんには、私の作を間違った例として取り掛かっていただきますよう願っております。
「傀儡氏」失敗で分かったことは、
1.下半身(脚)に重量を持たせること。
2.関節は糸だけではなくて、部分によっては蝶番も使った方が良い。
です。
完成した際は、またお教えくださればと思います。私もリベンジを果たしたく思います。傀儡氏・改を作りたいなと思います(現在、初代傀儡氏は、糸が切れてバラバラの状態です(T_T))
最後になりましたが、記事をお誉めくださいまして、ありがとうございました。今後も御愛顧の程、よろしくお願い申し上げます。
投稿: 桜濱 | 2007.10.25 17:20
桜濱さん
はじめまして。「傀儡氏」の誕生の様子、楽しく拝見しました。実は私も自作で操り人形を作ったことがあります!
といっても大人になってからではなく子供の時分(しかも夏休みの工作で)ですが。
きっかけはお祭りの夜店で売っていた鳥のマリオネット。頭と足の三方向しか動かせる部分はなく「傀儡氏」や「山猫(シャモン君)」と比べるとなんとも単純なヤツでしたが当時はこちらも単純、魅入ってしまいました。そして多くの子供がとる行動、つまりは駄々をこねて親にねだったのですが敢え無く玉砕・・・。
それならちょうど夏休みの課題もあることだし「作ってしまおう!」と思い立ち作りましたよ、果敢にも。そして出来た一号機の主な材料が糸!今考えると正気の沙汰では無いですね。
頭にはゴム製の野球ボール、胴体はトイレットペーパーの芯、手足はピンポン玉。それら「胴体」「頭」「手足」を繋ぐ糸もコントローラーに繋ぐ糸も同じ太さ、同じ色という暴挙。なにも動かさないときは辛うじて人型に見えましたが動き出したらただ浮遊するボールに筒・・・。
流石に不憫に思ったのか親が人形(老人ホームなどで作られたりする毛糸で編まれたやつです)を提供してくれて2号機を作成。この人形がまたデカイ。もともとお年寄りが抱いたりする為に親がボランティア作っていた代物なので全長60cm位。子供にはとても操作出来る様なサイズではありませんでした。しかし、まぁ見栄えはよいので2号機を提出。結果怒られました。先生曰く「お前が全て作ったのか!?」と「大部分は親に手伝ってもらっただろう!」と・・・。よく考えればごもっともなお怒り。重要な本体部分は「made in 親」なんですもの。
今回、桜濱さんの「傀儡氏」の記事を見て20年越しのリベンジに立ち向かおうと考えている所存です。
長々とコメント書いてしまい済みません。ついなつかしい思い出(フラッシュバック?)に包まれ書いてしまいました。記事大変面白かったです。それでは!
投稿: masamichi | 2007.10.22 04:12
>Reneさん
傀儡氏に生まれ変わるとは言っても、やはりバラされたくはないでしょうからねぇ。逃げたくもなるでしょう。結局、我が手にとっ捕まりましたが。
しかも、結果、あんな、暗黒舞踏しかできないあやつり人形にされてしまって…。傀儡氏に申し訳ないなぁという思いが少しだけあります。でも、発明王エジソンだって、電話機を発明したベルだって、失敗の繰り返しをしたものです。傀儡氏・改に期待しましょう。(傀儡氏を見捨てる…?(^^;)
あやつり人形は面白いですよ。「山猫」を購入しに、東京の「パペットハウス」さんに行ったときは、時を忘れて、店長さんのあやつる人形に魅入りました。いろんな種類があるんです。指人形、飾り向けあやつり人形、糸あやつり人形でも数万円の初級者モノから、数十万円もする専門家向けのものまで。コントローラーも、今回の記事の写真に載せたようなものだけじゃなくて、もっとなめらかな動きをさせやすい工夫がされているものもあったりして。
エアギターをするマリオネットは面白いですねぇ。ちょっとチャレンジしてみようかしらん。
ストリートパフォーマンスでは、あんまり、パペットはメジャーではありませんが、もし、見かけたらつい立ち止まって見るでしょうね。金山駅の南口なんかでやったら面白いかも(あれって許可が要るのでしょうか?)
投稿: 桜濱 | 2007.09.06 20:30
逃げる彼の後ろ姿が秀逸ですね。
そして「暗黒舞踏」にうっかり笑ってしまいました。向こうのブースにいる先輩に気づかれやしなかったかとドキドキです。(はてここはどこだ)
あやつり人形って、一体あると夢がふくらみますね。エアギターやらせてみたいなあ。
投稿: Rene | 2007.09.06 18:51
>みんたさん
自分ではそう思ってはいないのですが、最近よく、「桜濱さんは器用だよね」と言われます。むしろ「不器用」だと思っているくらいなので、そのような良い評価をいただくと、嬉しいとともに、驚きがあります。
たぶん、「器用」と言われるのは、「よく手作りをするよね」の意味なんじゃないかなと思うようになってきました。時間があるときは、今回のような工作をしますし(一時期は天然石アクセサリー作りにはまっていました)、お料理も嫌いじゃありません。だからなのでしょう。
自分の手で何かが生み出される過程は、大変であるとともに、面白いですよね。もちろん、文章を書くことも含まれます。うーん、やっぱり文章を書くのが、今のところ、一番楽しいかなぁ。
あやつり人形作りは、2年ほど温め続けていたネタだったのですが、温めすぎて腐ってしまった感があります(^^; 傀儡氏があれほど脱力系の動きしかできないとは…。自分でも思っていませんでした。
崎陽軒のCMはいくつかの動画サイトで検索したのですが、見付かりませんでした。公式サイトにもありませんでしたし…。気になりますっ! どんな脱力感なんでしょう? うーむ…???
ほんと、ゴマンエンで図画工作を請け負った人は、素敵な、楽しいモノを作って頂きたいですね。
投稿: 桜濱 | 2007.09.05 02:15
そう、もの作りは楽しいですよね。驚きの「ごまんえん!」は代行の方が自分で好きなものを作るための資金になると思っておきましょう。
あやつり人形は作るのも操り慣れるのもかなりの楽しい手間が要りそうで、読んでいても楽しかったです。崎陽軒の最近のCMに脱力系の顔をした操り人形がメインのシリーズがあります。自作の傀儡氏が動くのを見てそれを思い出しました。横浜月餅とそのCMを試していただきたいなあ…難しいですが。
さて、読ませていただいて意欲が出てきました。ほかの事でせわしくて途中になった細工物を仕上げていくことにいたします。
投稿: みんた | 2007.09.04 13:27