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2005.07.12

知識はあっても、現実的な行動がとれない人

 今は昔の話だ。大学寮で法律と儒教を教える清原善澄という者がいた。そいつは学問の才能は抜きん出ていて、昔の有名な博士達にも肩を並べるほどだといわれていた。年は七十過ぎで、重用もされていたんだが、家はひどく貧しくて、なにかと思い通りにならないことが多かったんだそうだ。

 ある日、そいつの家に強盗が入った。善澄はうまいこと立ち回って、床の板敷の下に逃げ込んだんだ。なので、強盗も善澄を見つけることができなかった。強盗は善澄を見つけ出すことは止めて、家の中で物を盗み取りはじめたんだ。たいしたものが無かったからなのか、善澄が逃げたことが癇に障ったのか、置いていたものをぶっ壊したり、踏みつけたりもしたらしいな。強盗はさんざん暴れまわった後、大声を出しながら、善澄の家から引き上げてった。

 その時だった。善澄は床下から飛び出して、強盗を追いかけて門まで出ていったんだよ。そしてこう叫んだんだ。
「こらーっ、おまえらっ! ツラを見せろ! 夜が空けたら検非違使の長官に訴えて、片っ端からとっ捕まえてもらうからなっ!」
 ひどく癪に障ったからなんだろうが、門を叩きながら言ったんだとよ。

 そうしたら、強盗はそれを聞いて、
「おい、聞いたか、お前ら。よし、引き返して奴を叩き殺すぞっ」
と言って、わらわらと善澄の家まで走って引き返してきたんだ。

 それを見た善澄、慌てたのなんの。ばたばたと家の中に逃げ帰って、また板敷の下に逃げ込もうとした。でも慌てていたんで、すっころんで縁側に額を打ち付けてしまい、すぐに入り込むことができなかったんだ。
 そこに強盗が追いついて、善澄を引っ張り出して、刀で頭をむちゃくちゃに叩き割ったんだとよ。その後、強盗はそのまま逃げてしまった。そうなったら、もうどうしようもないよな。

 「善澄は、学問の才能は立派なもんだったが、実際の場で役立つような頭を持っちゃいなかったんだな。こんな馬鹿げたことを言って死んでしまったよ」と、話を聞く人は皆、そんなふうに善澄のことを悪く言ったと語り継いでいるんだよ。

――――――――――

 「アカデミックくいだおれブログ」って言っておきながら、「アカデミック」部分が微少です。なので、少しばかり『今昔物語集』の分量を増やしておこうかと。

 お話は『今昔物語集』巻第二十九の第二十話「明法博士善澄、強盗に殺さるる語」です。悪行譚を集めた巻二十九の、殺人譚のブロックに収められています。殺人ですって。物騒で、あんまり気分の良い話ではないので、控えたいところではあるのですが、たまたま開いたのがここだったので。
 でも、殺人の要素を隠すと、なかなか面白いお話になります。「あ〜、いるよねー。こんな人」と思いませんか。知識はあって、頭が良いのはみんなが分かっているけど、実務を任せると上手くできない人。感情を抑えきれずに、言わなくてもいい時に、言わなくてもいい事を言ってしまう人。
 このお話は伏線も張られています。専門知識があっても、実際的な能力が欠けているので、お金に困る生活を送っているんでしょう。専門分野では重用されていても、身の回りのことになると目が行き届いていないんですね。
 最後の最後に、間の抜けたことをしでかしてしまうと、世間の評価もがた落ち。

 知識があって実務ができないのと、実務はこなせるが知識が欠けている、どっちが良いかしら?なんてことは言いません。知識があって実務が達者な人になりたいから。

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コメント

>まゆぞうさん
 まさか、善澄は強盗が戻ってくるとは思わなかったんでしょうねー。普通、「覚えてやがれ」等々の負け惜しみは戻ってこないことを前提にしてのたまいますから。
 善澄みたいな目にあうのが現実なのかもしれません。口は慎まねばと深く深く思わせてくれる説話です。

投稿: 桜濱 | 2005.07.16 03:37

負け惜しみで言ったばっかりに返り討ちされて
しまう。なんかマンガにありそうな展開ですね。
まあ殺されて気の毒といえばそうなんですが
妙に義澄は人間臭い人物ととらえてしまうのは
私だけでしょうか。

私は余計なことを言って失敗するクチなので
気をつけねば。

投稿: まゆぞう | 2005.07.14 17:09

>にわとりさん
 この場合は、世間の噂ということになると思います。
 では、その噂の元はどこにあったのかとなると、善澄を殺した強盗が自分の所業を話したのかもしれないですし、善澄に仕えていて一部始終を見ていた人が事件を話したのかもしれません(こんな人は本話には出てきませんが、想像はできます)。そもそも、善澄は死の直前にあんな事は言っていなくて、事件の噂が広まるあいだに、善澄の普段の暮らしを知っている人が、話に色を付けたとも考えられるでしょう。

 『今昔物語集』の編者は、伝承の元を気にしていた人だったようで、出典には叙述が無くても、編纂の段階で、誰から広まった話なのかを書き加えている場合が多々あります。
 ですが、本話ではそのような明確な叙述が見られません。なので、誰があのように話したのかは、想像をめぐらせるしかありません。それが『今昔物語集』をはじめとした説話集を読む楽しみでもあると考えています。

投稿: 桜濱 | 2005.07.12 19:13

善澄は殺されたんでしょ?
じゃあ最後のセリフは誰が言ったんだ?
強盗?

投稿: にわとり | 2005.07.12 13:22

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