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2005.05.02

餅で酒を造ったら蛇に変わったお話

 今は昔の事でございます。比叡山に一人の坊さんがおりました。山で修行をしていたのですが、ここにいつまでもいてもどうということもないと考えたので、山を降りて、故郷に帰ってしまったのです。

 故郷の摂津の国に戻った坊さんは、妻をめとり、前の経験を生かしてその郷で法事を執り行うようになったのです。郷の人々は、仏様やお経の供養をするときなどは、たいていはこの坊さんを呼んで、その供養の会の講師としておりました。
 この坊さんは知識が優れた者ではなかったのですが、それくらいのことは心得ておったようです。年の初めの豊作をお祈りする儀式などでも、いつもこの坊さんを式の講師に呼んでおりました。

 豊作を祈る儀式では餅が供えられ、式が終わるとそのたくさんの餅を坊さんが手にすることができたのです。ところが、たくさん餅を手に入れたのに、坊さんは人におすそ分けすることもなく、家に取り置いておりました。坊さんの妻は、

「このたくさんのお餅を、無駄に子供や供の者たちに食べさせるよりは、時間が経って堅くなった餅を集めて割り砕いて、お酒を造りたいわね」

と、思いつき、坊さんにそのことを話したところ、いい事を思いついたものだと賛成して、酒を造ることになりました。

 その後、しばらく経って、酒がそろそろ出来上がったころを見計らい、妻が酒を仕込んでおいた壺のふたを開けてみたところ、中でなにやらこそこそと動いているのが見えるのです。「変ね。何かしら?」と思ったけれど暗くてよく見えません。そこで灯りを持ってきて、壺の中を覗き込んで見たのです。
 すると、壺の中では大きなもの小さなものとりどりの蛇が壺一杯に溢れており、頭をもたげてうごめいているではありませんか。
 「うきゃー! 何よこれ!」
 恐れおののいた妻は、また壺に蓋をして、夫の坊さんの所へ逃げ出してしまいました。
 坊さんは妻の話を聞いたものの「不思議なことやな。見間違えじゃないのか」と思い、「俺が確かめてやる」と壺を見に行きました。恐る恐る坊さんも火を灯し、壺の中を覗き込んでみると、見間違いでもなんでもなく、実にたくさんの蛇がうごめいておったのです。それを見て坊さんの驚いたのなんの。あわてて逃げだしてしまいました。

 さて、この壺をどうしたものか。結局、壺ごと遠くに捨ててしまおうと、坊さんは壺にしっかりと蓋をして、壺を抱えて、遠くの広い野原の真ん中にこっそりと捨ててしまったのです。

 二、三日後、三人連れの男たちが例の野原を通りかかりました。「あの壺はなんだろう?」と一人の男が壺を見つけ、壺に近寄り、蓋を取り除き、中を覗き込んでしまったのです。すると壺の中からは、とっても上等な酒の匂いが立ち上りました。不思議に思ったその男は、あとの二人に「こんなものが入っていたぞ」と告げたところ、その二人も壺に近寄り、覗き込みました。そこにはまさしく壺一杯のお酒が入っておったのです。
 男たちは「これはどういうことなんだ!?」と不思議がっておりましたが、そのうち一人の男が言ったのです、「俺はこの酒を飲むぞ!」と。後の二人は、

 「野っぱらのど真ん中にこんな風に捨ててあるもんだぞ。きっと、ただ捨ててあるわけ無いだろうが。間違いなく訳あるだろ。おっそろしい。飲めねえよ」

と、止めたのです。
 ですが、飲むぞといった男は、そのように言うだけあって、大変な酒飲みだったので、酒が欲しくて我慢できません。

 「そんなら、お前たちは飲まねえんだよな。俺はどんなものが捨ててあったとしても、絶対に飲むぞ!死んでも構わねえ!」

 そう言うが早いか、酒飲みの男は普段から腰にぶら下げてある杯を取り出して、壺の酒を掬って飲んでしまったのです。するとその酒はたいへんに美味い酒でしたので、続けざまに三杯も飲んでしまいました。
 他の二人はそれを見て自分たちも「飲みたいぞっ!」という思いがわいてきました。彼らもたいそうな酒好きだったのですよ。

 「…なぁ、俺たちは今日こうして、三人一緒にいるよな。もし一人が死んだとしたら、そいつを見捨てることができると思うか? できるわけねえよなぁ。もし誰かに殺されるとしても、死ぬときは同じように一緒に死のう。…さぁ、俺たちも一緒に飲むぞっ!」

 二人はこんなことを言って、最初に飲みだした男と一緒に酒を飲み始めたのです。
 三人は差し向かって飲んでいたのですが、この世のものとは思えないほど美味い酒でしたので、「これは、ゆっくりと落ち着いて飲むことにしないか」ということになり、大きな壺に酒がたくさん入っていたのですが、担ぎ上げて家に持って帰り、数日の間、飲んでおりました。それでも、何かおかしなことが起こるということはありませんでした。

 壺の中に蛇を見た坊さんは、いくらかは道心を持っておりましたので、
「俺は欲深で、仏様のお供え物の餅を集めておいて、それを人に分けることなく、酒にしてしまった。その罪が深かったので、蛇に変わってしまったんだな」
と、反省して、恥ずかしく思っておりましたところ、しばらくして、
「どこそこに住む三人の男が、あの野っぱらで酒の壺を見つけて、家に持ち帰って、腹いっぱい飲んだらしい。すごい美味い酒だったらしいな」
なんていうことが噂になったのです。
 坊さんもその噂が耳に入り、
「あー、あれは蛇じゃなかったんだ。俺のやったことの罪が深かったから、俺たちの目にだけ蛇に見えたんだ」
と気付き、ますます恥ずかしく思い、嘆いたということです。

 このことを考えますと、仏様の物を盗み取ることは限りなく重い罪なのが分かるでしょう。はっきりと壺の中で蛇がうごめいて見えたのは、滅多に無い珍しいことでございます。ですから、そのような仏様の物は、無茶に欲張ることはせずに、人々におすそ分けをして、供のお坊さんたちにも食べさせるべきなのですね。

 このことは、壺の酒を飲んだ三人の男たちが話していたものです。また蛇を見た坊さんが話していたことも伝え聞いて、このようにお話しいたしたのでございますよ。

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 これは『今昔物語集』の第十九巻・二十一話「仏物の餅を以って、酒を造り、蛇を見る語」というお話を現代語に訳してみたものです。
 数日前からこのお話を材料にして、レポートを作っているのですが、なかなかうまく進みません。資料を見ながら考え込んでいても進みそうに無かったので、一度頭をリセットすればうまくいくかもなーと思い、原点に戻って元テキストを訳してみました。

 さて、これで今晩中にはいくらか進むでしょうか。夜食もコーヒーもある。徹夜態勢は整っています。
 よし、さっさとやっちまいましょう!

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