名古屋の「山」に登ってみたよ。(2)
やや光量の落とされた店内は、他の喫茶店との差を感じ取ることはできません。ごく普通に見えます。若い店員さんに人数を告げると、空いていると席について良いと言われます。
角の窓際の席を適当とみなし、そちらに向かうと…、
椅子が低い。
そして、
テーブルが小さい。
基本情報にあった通りなのですが、想像以上に小さかったです。4人がけの席ですが、テーブルの広さはせいぜい2人用です。肩を寄せ合い、小さなテーブルを囲みます。
先ほどの店員さんが持ってきたメニューを開き、再度会議を行います。それにしてもメニューが多い。小さいフォントでびっしりと書き込まれています。目が眩めくようです。
初登山3人組なのだから、それなりに予防線は張っておかなければなりません。「人数分注文する」というルールに則らなければならないが、全員が冒険をすることもないだろう。「冒険1+救い1+何か楽そうなもの1」くらいが無難かな。
とりあえず、『山』なのだから甘口スパは頼まなければ。でもどれにしようか。
桜「どの甘口にしようか」
S「うーん」
K「うーん」
桜「うーん」
…
桜「あんこはきついんでしょ?」
S「うん」
桜「じゃ、いちご、バナナ、キーウイ、メロンか」
S「バナナってどんなんだっけ」
桜「バナナとたしかチョコ、あとやっぱり生クリーム」
S「メロンは」
桜「緑で、メロンパンみたいに生クリームがかかっていたっけ」
S「…もう、どれでもいいんじゃない」
桜「…じゃ、見た目のインパクトがあるいちごで」
甘口スパ会議にはあまり係らなかったKくん。彼は甘いものと油っぽいものが苦手だ。明らかに『山』とは逆の嗜好です。やっぱり、ごめんなさい。Kくん。
K「じゃ、僕は『トマトピラフ』で」
基本情報で確認したような気もしますが、どのようなものか忘れました。響きはなんとなく救いメニューの雰囲気です。堅実です。
S「あー、それ僕には甘口よりつらいかもしれない」
そういえばsasanottiはトマト嫌いだったっけ。
桜「あと一品、どれにしようか。sasanottiはコーヒー好きだよね」
S「ストロング、ソフト、アメリカンはどう違うの」
桜「名前のままだったはず。その順番で薄くなるんじゃない。でもアメリカンでもかなり濃いとか書いてたよ…」
S「うーん…、じゃ、とりあえずソフトにしとくよ」
甘口いちごスパ。トマトピラフ。ソフトコーヒー。初登山らしい布陣です。
注文を済ませて、言葉少なに待っていると、焼き菓子とミニクラッカー、ミルクが到着しました。ソフトコーヒーについてくるものです。コーヒーを頼めば何かがついてくるというのは名古屋の他の喫茶店と同じです。そして間を置かずにソフトコーヒーがやってきました。
しっかりと味わうため、少し冷ましたのちsasanottiがマウンテンのロゴの入ったカップに口を付けます。
S「ちょっと濃いけど、あまり気にならないよ。うん、普通。飲める」
桜「ちょっと飲ませて。…ほんとだ、ちょっと濃いけど。飲めないほどじゃないね。僕はコーヒー余り飲まないから、全部飲むときついかもしれないけど」
S「僕は全然大丈夫。砂糖とミルク入れたらいつも飲んでるのと変わらないよ」
ソフトコーヒーは難なく征服です。
コーヒーを賞味、評価をしていると、Kくんのトマトピラフが運ばれてきました。見た目はちょっと変わっているものの、おいしそうです。くしぎりや輪切りのトマトが入ってはいませんでした。
K「多いっすね。じゃ、いただきます。…あー、普通においしいですね。どうぞ食べてみてください」
桜「では、少しいただきます。…もぐもぐ。あら、ほんとだ。おいしいわ。チキンライスにトマトベースのソースがかかっているのかな?」
S「あー、うまいね。普通だ」
名前で判断しましたが、これは無事救いメニューでした。これも征服できそうです。最後の難関「甘口いちごスパ」。さすがに登場も最後でした。
S「すごいね」
桜「さすがだね」
K「…」
まさに『山』最高峰メニューの一角を占めるだけの風貌です。麺のショッキングピンクが目を刺します。放っておくと熱々の麺の力により、生クリームが解けて、果物が煮えるのが分かっていたので、早々に登山に取り掛かります。店員さんに渡された三枚の取り皿に各自、見合った分量をすくい取ります。
Kくんは、甘口いちごスパを口にしたものの、反応はありません。自らのトマトピラフの食に戻りました。いちごスパ脱落したようです。甘党のsasanottiはいちご、生クリームを口にします。そこまでは行けたみたいです。ところが麺を口に運ぶと、
S「あー、これはすごいね。大丈夫。食べられる?」
かなりの甘党にもこの台詞を吐かせてしまう甘口いちごスパ。すごいぞ。
S「僕はこれはもういいよ。後は桜濱さん、任せた」
任せられました。甘党を自認する私は、この甘口いちごスパ…、
いけました。ほとんど問題なく。あまつさえおいしいと思いました。
桜「うん、いいよ。全く大丈夫。平気。ぱくぱくいけそう」
S「ほんとに?」
懐疑の目を向けるsasanottiではありましたが、私はピンクの甘い麺を皿に取り、すすりこみ、いちごをアクセントにして、麺を食べ、キウイをつつき、麺を噛みしめ、ぱくぱく、もぐもぐ。甘くていけるわー。
同伴者2人が見守る中…。
完食しました。ごちそうさまでした。
S「よく食べられたねー。大丈夫」
桜「うん、問題なし。全く平気」
最後の油っぽさと軽く煮えてしまったいちごにはややひっかかりましたが、ダウンするようなものでは全くありませんでした。
桜「後半、油が気になったけどね。あと生クリームがもうちょっと多かったほうが食べやすかったかも」
S「僕が生クリームだいぶ食べてしまったからねー」
桜「じゃ、単独登頂だとちょうどよかったのかなー」
甘口いちごスパを食べ終わった頃、Kくんはトマトピラフ8合目くらいでした。他の店の大盛り=『山』の普通盛りの威力を見せ付けています。それでもこちらは「普通のおいしさ」なのでKくんもぱくぱくいっています。
K「この福神漬けがいいですね。アクセントになって」
最後にトマトピラフも完食。
初登山三人パーティー、無事登頂成功しました。初にしては上々の成績でしょう。
お勘定を済ませて下山をすると、夕暮れの中、雨は上がっていました。30分間の冒険の成功を天が祝っているようでした。
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その晩、寝る前に私は空腹感を感じました。甘さが恋しくなっていました。拙宅に一泊することになったsasanottiに私はこう告げました。
「お腹が空いてきた。なんだか『山』の甘さが恋しくなってきたよ」
sasanottiは何も言いません。そして、
「どうかしてるよ。あきれて何もいえなかった」
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