名古屋の「山」に登ってみたよ。(1)
「山に登る」。普通はこの短文に特別な意味はありません。見たままの意味です。でもそこに「名古屋の」と付けると特別な意味が生じる場合があります。さらに「名古屋にある『あの山』に登る」とまで書くと、この文章が通常の山登りを意味することは極めて少なくなります。この「山」は一般名詞から固有名詞へと変化を遂げているのです。
この『山』とは、名古屋でその名を響かせ、全国の奇食ファン&ネタ集め人の梁山泊となっている『喫茶マウンテン(以下「山」)』のことです。もうすでに『山』について解説、レポートしているページはそれこそ山とあり、喫茶店としての様子、メニューの詳細なレポートは偉大なる先輩登山者の手によるものにお譲りすることにします。検索結果へのリンクを貼っておきますので、基本情報(特にメニューや専門用語)はこちらでご確認ください。
私が『山』の存在を知ったのは、近所の食べ物屋さんを探しているときでした。越してきたばかりで近隣の情報に疎い私は、うろうろと近所を出歩いたり、ネットで情報を仕入れておりました。そんな中、たどり着いたのがこちらでした。[嗚呼!重食喫茶]。この表現は何? さらにそのリンク先を辿ると…。何?これは? さらにさらにgoogleでいくと…。何?何?何?これは!?
名古屋は独特の食文化がある。これは聞き及んでいたことでした。喫茶店が多い。これも聞き及んでいたことでした。それが合わさるとこんなことになるとは! 名古屋人にとって『山』は喫茶店としては邪道とされる向きもあるようですが、外からやってきた者としては『山』は名古屋の縮図の一端と見ざるを得ません。
行かねば。
調べてみると、家から極めて近い。徒歩20分。1.2kmほど。
行かねば。
と、思いつつなかなかその機会は訪れませんでした。単独登山に恐れをなしていたというのが本音です。食べかけの皿に白目を剥いて突っ伏している己の姿を想像してしまったのです。
名古屋に移ってきて、早一年。いつか登らねばということが、頭の片隅に常々見え隠れしていた私に絶好の機会が訪れました。このブログからリンクを張っている「on a day like today」のブログ人sasanotti氏が、所用で名古屋に来るというのです。sasanottiには以前から『山』の存在について伝えていて「いつか一緒に行こうね〜」と軽めに声を掛けておりました。彼は長らく乗り気でなかったようで、なかなか首を縦に振らなかったのですが、今回の名古屋行きでようやく決心が固まったらしく「登山付き合うよ」と言ってくれました。
よし、これで最悪の事態は回避されそうだ。いけるかも。でも、初登山二人組だ。これではまだ心細い。少しでも態勢を堅い方に向けなければなりません。もう一人。あと一人。心当たりがありました。Kくんです。大学のゼミの後輩である彼は、この春、また同じ学び舎に通うこととなり、先日名古屋に移ってきました。山登りをKくん歓迎会にしてしまおう。ですが、彼は村上春樹の『地球のはぐれ方』を読んでいて、『山』の知識を仕入れているのを知っていました。「そのうち『山』に登ろうね」と声を掛けてはいたものの、気乗りはしていないようでした。
「何とかして誘い出さねばならない。でも行き先が『山』だと知られると引かれる可能性がある」
私はKくんに電話をしました。
「あっ、桜濱ですが。Kくん、これから時間ありますか? sasanotti氏が名古屋に来ているので、一緒に食事でもどうかなと思って電話をしたのですが」
「時間は全く大丈夫です。ぜひ行きましょう」
「では、1時間後位に伺いますので」
『山』のことは伏せました。ごめんなさい、Kくん…。心は痛みましたが、遭難は避けたかったのです。
近くの駅でsasanotti氏と合流し、道々話し合います。
桜「何食べよう?」
S「甘口スパは行けるかな?」
桜「『山』だから、少なくとも一つは甘口を頼まないといけないかも」
S「どの甘口がいけそう?」
桜「抹茶小倉、いちご、バナナ、メロン、キウイ、おしるこ…だっけか? 僕は抹茶のつもりでいたんだけど。見た目のインパクトがあるし」
S「あーっ、あんこだめだー」
桜「じゃ、いちごかな。見た目のインパクトから行くと」
S「甘いんでしょ」
桜「うん、麺自体が甘いらしいね」
S「…」
桜「…」
S「…」
桜「…行ってから決めようか」
S「…そうだね」
などと、余り解決にならない会議をしつつ10数分。不幸な子羊Kくん宅に着きました。にこやかに迎えてくれたKくんの顔を見ると心がひどく痛みました。でも、知らせないわけには参りません。
K「すぐ、準備しますから」
桜「うん。部屋広いねーっ」
別の話題でワンクッションおいて、切り出します。
桜「ところで、今日は体調大丈夫?」
K「はい、大丈夫ですよ」
桜「体調…、大丈夫…?」
K「ええ、えっ? あっ? あーっ!?」
どうやら悟ってもらえたようです。
桜「これから登山だから…」
K「『マウンテン』か…。あー…。はぃ」
やっかいな奴と関わってしまったのは運命だと思って諦めてください。明らかにテンションの下がったKくんを連れ出し、今回の登山パーティの結成完了です。
初登山三人組が『山』で何が起きるのかを想像を膨らませつつ、アップダウンの激しい道を歩いていきます。
20分後、雨のふりそぼる中、あの看板が見えてきました。
力強い画風
マウンテン外観
外観からは方々で目にする壮絶な死闘のありさまを感じることはできません。
時間帯が食事時からやや外れていたためか、お客さん列をなしているということもありませんでした。
とうとう着いてしまった。覚悟を決め、ドアを開けて、『山』への一歩を踏み出します。
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